Sランクギルドの主力メンバーやっていた少女が追放されたので、うちのパーティーに引き抜こうと思う

五月雨蛍

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第四十話 覚醒

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「──ルシェフ⁉︎」
「アメリアさん離れてっ!」
 レオナは声をかけるのと同時に、突風を起こしてアメリアを吹き飛ばした。

「──っ!」
「تحت الأفعى!」
 直後、先までアメリアのいた場所へ大口を開いた黒蛇が通り抜ける。

 あの黒蛇は多分、この三体の中で最も強力な個体だ。その上、ルシェフの傷も酷いが、彼なら大丈夫だという確信がレオナにはあった。
 前世ではこのくらいの窮地は何度でもあった。
 それ以上のものでさえ──。

 心配することがあるとすれば、戦闘後に彼の傷を癒すことができるのかどうかという点くらいだった。

「……」
 意識を失ったルシェフは、おもむろに立ち上がると【四次元空間】からダークレッドの剣を取り出す。

 フラつきながら歩き始めるも、ルシェフの目の焦点は定まってすらいなかった。

 既にルシェフの片腕は失われ、腹から溢れる血は止まる事を知らない。肋骨も数本折れていた。それでも彼が立っているのは、一重に二度とパーティーメンバーを殺させないという彼の信念からだった。

「聖剣、ダインスレイヴ……⁉︎」
 レオナがこの世界には本来存在し得ない聖剣の名を口にするのと同時に、血飛沫が飛び散った。

 ──アメリアを喰わんと追撃する黒蛇の首が落とされたことによって。

 剣はルシェフによって振るわれていた。レオナがそれを理解するよりも早く、再び彼の姿が消える。

 既に周囲は紅色の結界に覆われていたが、それに気づく者はいなかった。

「أريد أن أموت──‼︎」
「بجانب السكين!」
 二匹の魔物の悲鳴が同時にあがった。

 全員が突然の事態に呆然と立ち尽くす中、レオナだけは何が起きてたのかを理解した。

 【血の連鎖アナヴァイダヴル・スローター】。ルシェフが極度に使用を避けていた為、レオナも見る機会の少なかった【聖剣ダインスレイヴ】の能力だ。

「──」
 仕事を終えたと言わんばかりに、ルシェフはその場でバタリと倒れる。
 それに気づいたオリビアが彼に駆け寄った。

「ブラウンさん!ブラウンさん‼︎」
 オリビアは目一杯の涙を流しながらルシェフの肩を揺さぶる。

「レオナさん‼︎」
「──!」
 オリビアの声にレオナは我を取り戻し、【四次元空間】から【魔杖ラプシヌクル】の情報を元に作られた魔剣レプリカを取り出しながら、二人の元へと駆け寄る。

 もう出し惜しみをする余裕もない。今現状、傷を治す手段を持つのはレオナしかいなかった。
 左腕は欠損し、腹は抉られ血が止めどなく溢れている。骨も数本は折れてそうに見える。──これ程の傷を治すことはできないと理解していても、やるしかなかった。

「──カールを呼んでくる」
「わかった。こっちは私が見ておくから……」
 小さく頷いたニコが音もなく走り出す。カールは戦闘に巻き込まれないよう少し離れた場所で待機している。
 馬車には簡単な医療道具も揃えられているので、それで間に合うかはわからないが、無いよりはマシだとニコは判断していた。
 何より、彼女はその足を使うこと以外にこの場でできることがない事を理解していた。

「……」
 アメリアは不安げに三人を見つめる。半竜人である彼女にはこの傷が人間にとってどれほどのものなのかはわかっていなかったが、二人の取り乱し様から察せられる事は多かった。

 アメリアは周囲を見回すも、魔物の存在は確認できない。気配が読めない以上、目視で迫りくる魔物の存在を警戒する人員が必要だった。

「レオナさん!傷が……‼︎」
「今治してる……!」
 “泡沫の君”としての持てる知識と力の全てを使い、その上神器のレプリカさえ用いても、それでもルシェフの回復は見込めない。

 既に死んでいてもおかしくはないこの状態からの回復、──そんな奇跡を起こせる存在など、レオナの知る限り一人しかいなかった。

「ルシェフさん……‼︎」
 回復手段を持たないオリビアには、呼びかけることしかできない。
 またあの時と同じだ。何もできないまま、見ていることしかできない。
 大事な人を失うのは、もう嫌だった。

「──力を望みますか?」
 突然、声が聞こえた。

「──ぇ?」
 オリビアが潤む目で周囲を見回すも、声の主は見当たらない。

「力を望みますか?」
 再び同じ問いかけが聞こえてきた。
 似ていなくてもオリビアにはそれが自身の声であると確信できる。

 答えは決まっていた。オリビアが頷くのと同時に、彼女の知り得ない筈の記憶こうかいが流れ込んできた。

◇ ◇ ◇

「お待たせしました!」
 道の悪い森の中を、馬にほぼ全速力で駆け抜けさせて駆けつけてきたカールがそう叫ぶ。

「オリビア様──!」
 ろくに着地のことも考えず馬から飛び降りたカールは、転びそうになりながらも頭を押さえるオリビアに、ある一つの杖を手渡した。

「これは……?」
 受け取った杖を見たオリビアは、その杖から意志の様なものを感じた。この世界の武器が意思を持つなんてことはない事を知りながら。

 違う。これは誓いだ。オリビアは杖に意思を見たのではなく、自身が杖に立てた誓いの存在を思い出していた。

 武器に込められた熱量に当てられる。──彼女思考はさらに加速する。

 オリビアの脳内で前世の情景が目まぐるしく流れた。

 教会で過ごした幼少期の記憶が、あの日手を取ってくれた彼との記憶が、仲間との旅の記憶が、魔王軍との戦いの日々が、仲間の死が、そして最後には自分の死が。
 彼女が拒もうにも記憶は何度も、何度も再生される。

 ──力の使い方は、彼女自身のが覚えていた。

 オリビアはこの杖の存在を知っている。
 ──否、

「そこの方、治療を代わります」
「何言──」
 振り返ったレオナは目を見開く。視線の先にいるのはオリビアであったが、彼女の手に持っている物が問題だった。

 神器──ではない。ただ、それでも神器と遜色のない程の業物だ。何より、彼女の持つ杖は所謂攻撃魔法に特化した物ではなく、祈祷に特化したものだった。

「──オリビア、なの?」
 光属性の魔力。聖職者でも一部の人間にしか扱うことのできない魔力だ。普段のオリビアからは感じなかった魔力に、レオナの不安が募る。

「──?治療を代わります。魔法を解いて下さい」
 不安そうなレオナの視線など気にすることもなく、オリビアは淡々とした口調でそう告げた。
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