40 / 78
第三十九話 乱戦
しおりを挟む
「لا أعلم لا أعلم!」
姿の見えない何者かが轟音と共に土飛沫を撒き散らし、木々に己が爪痕を残しながらこちらへと向かってきた。
各人が馬車から飛び降り、初めに俺が奴の突進を止めるべく前に出る。
この場所でコイツに会えてよかった。あと半日も探索を続けていたら、あの気配のないゴーレムのテリトリーに侵入してしまっていたかもしれないからな。
「では、手筈通り私は逃げさせていただきます」
あの魔物の狙いがオリビアであることがわかっているからか、カールは別段取り乱している様子もなく、予定通りこの場を離脱し始めた。
【四次元空間】から【アクワグラシェリア】を取り出し、自身に【リズスワデ・スマアベル】をかける。
見えない相手だ。視覚も必要ないだろう。
深呼吸と共に瞳を閉じて、迫り来る魔物の音に集中する。
「──っ!」
加減もなく魔力を乗せた会心の一振りは、硬い何かへ打ちつけられた。流石にあの巨体を弾き飛ばすとはいかないものの、奴の突進を食い止めることは出来た。
「عربي!」
流石に突進を止められるとは思わなかったのか、魔物から声が漏れる。
「魔物である貴方に懺悔など望みません。なので──今から殺しますが、恨まないで下さいね」
遅れて、背後から焼けるような熱気に襲われる。見なくても後ろで何が起きているのかがわかった。
「ブラウンさん!」
俺が咄嗟に回避をすると、背後から巨大な火の鳥が放たれた。
【アトラフェニクス】は行き場のないオリビアの激情を代弁するかのように周囲の木々に火をつけ、大地を焦がす。
あの大きさなら、姿が見えようと見えまいと関係はないだろう。
炎は荒々しく燃え広がるが、何処か悲しげにも見えた。
「عمل جيد!」
突然周囲に火の手が回り、取り乱す魔物が木々に体をぶつけながら暴れている。あの魔物はしっかり火が苦手なようだ。
奴が暴れる中、理由はわからないが奴の姿を消す能力が解け、巨大な焦茶色の大蛇が姿を表した。
「──!」
姿を見せた大蛇に向かってニコは駆け抜け、目印とばかりに奴の肌を切り刻む。恐らく、そこが堅い鱗に覆われた奴の脆い部分なのだろう。
「レオナ、拘束を──!」
「うん……!」
レオナが頷いたのを確認し、アメリアと合流する。ハルバードを構える彼女には、彼女が普段使うことのない多量の魔力が流れていた。
「アメリア!」
「もう少し……!」
魔力を練る彼女の手をとり、魔力のコントロールを手伝う。半竜人であるアメリアは人間とは比べ物にならない程の魔力を持っていたが、それ故にその魔力を扱う術を持っていなかった。
──だから、それを俺がコントロールする。今回使うのは、擬似吐息のような一撃だ。
アメリアが魔力を貯めている間に、彼女にも【リズスワデ・スマアベル】をかける。
この一撃を放った後は俺も暫く戦えなくなるため、念のために他のメンバーには【ロニギスメイシュ】をかけておいた。
「もうあんな悲劇は繰り返させない──!」
オリビアの【四重詠唱】によって放たれた【無数のスフィア】が、ニコによって付けられた傷跡を的確に抉り、一部の光球体は大蛇付近で炎を纏い、断続的な小爆発を引き起こす。
「──今っ!」
レオナが【エルロン・スフィア】に弱った蛇を閉じ込めた。
「──っ!」
【エルロン・スフィア】の中で蛇が暴れ回っているが、レオナも何とか奴を食い止めてくれている。
「衝撃に備えろ!」
そう叫ぶ俺の言葉を皮切りに、アメリアがハルバードを振るった。
視界は白一色に染まる。
遅れて鼓膜が破れるかのような爆音。
地面を抉りながら放たれた一撃は、確実に大蛇を捉えていた。
土煙が止み、軽い船酔いのような感覚に襲われる。
「──な⁉︎」
段々と煙が晴れる中、そこには倒れる大蛇の姿はなく、傷だらけになりながらもハルバードを構えて立ち塞がる、悪魔を模したゴーレムような魔物の姿が見えた。
──瞬間、ゴーレムが俺たちの元へと駆け出してくる。
「くそっ!」
なりふり構わず、三人の俺で特攻してくるゴーレムの相手をする。
吐きそうになりながらも、【四次元空間】から酔い止めを二つ取り出し、その片方をアメリアに手渡した。
「──ニコ!」
「わかってる……!」
ゴーレムに構うことなく、ニコは目で追うのがやっとの速度で真っ直ぐに大蛇の元へと駆ける。
俺が酔い止めの入った瓶を飲み干すのと、ニコが大蛇に斬りかかるのはほぼ同時だった。
「オリビアも、そっちは任せた!」
「──任されました!」
オリビアの周囲には既に無数の光球体が展開し、大蛇を睨む。
「行けるか?」
「勿論!」
まだ違和感は残るものの、酔い止めが効き始めたあたりで一度三人の俺は消し、アメリアと共にゴーレムの相手をする。
火が弱点だとわかっているからか、レオナも【炎の矢】で大蛇の目を潰しにかかっていた。
アメリアと交代で何度もゴーレムと打ち合う。
その最中、視界の端に映る黒い影に気がついた。
「──アメリア!」
「ルシェ──」
状況を理解するよりも早く、彼女を突き飛ばす。
その直後、俺のいる位置に突っ込んできた黒い大蛇と衝突し、そこで意識が途絶えた。
姿の見えない何者かが轟音と共に土飛沫を撒き散らし、木々に己が爪痕を残しながらこちらへと向かってきた。
各人が馬車から飛び降り、初めに俺が奴の突進を止めるべく前に出る。
この場所でコイツに会えてよかった。あと半日も探索を続けていたら、あの気配のないゴーレムのテリトリーに侵入してしまっていたかもしれないからな。
「では、手筈通り私は逃げさせていただきます」
あの魔物の狙いがオリビアであることがわかっているからか、カールは別段取り乱している様子もなく、予定通りこの場を離脱し始めた。
【四次元空間】から【アクワグラシェリア】を取り出し、自身に【リズスワデ・スマアベル】をかける。
見えない相手だ。視覚も必要ないだろう。
深呼吸と共に瞳を閉じて、迫り来る魔物の音に集中する。
「──っ!」
加減もなく魔力を乗せた会心の一振りは、硬い何かへ打ちつけられた。流石にあの巨体を弾き飛ばすとはいかないものの、奴の突進を食い止めることは出来た。
「عربي!」
流石に突進を止められるとは思わなかったのか、魔物から声が漏れる。
「魔物である貴方に懺悔など望みません。なので──今から殺しますが、恨まないで下さいね」
遅れて、背後から焼けるような熱気に襲われる。見なくても後ろで何が起きているのかがわかった。
「ブラウンさん!」
俺が咄嗟に回避をすると、背後から巨大な火の鳥が放たれた。
【アトラフェニクス】は行き場のないオリビアの激情を代弁するかのように周囲の木々に火をつけ、大地を焦がす。
あの大きさなら、姿が見えようと見えまいと関係はないだろう。
炎は荒々しく燃え広がるが、何処か悲しげにも見えた。
「عمل جيد!」
突然周囲に火の手が回り、取り乱す魔物が木々に体をぶつけながら暴れている。あの魔物はしっかり火が苦手なようだ。
奴が暴れる中、理由はわからないが奴の姿を消す能力が解け、巨大な焦茶色の大蛇が姿を表した。
「──!」
姿を見せた大蛇に向かってニコは駆け抜け、目印とばかりに奴の肌を切り刻む。恐らく、そこが堅い鱗に覆われた奴の脆い部分なのだろう。
「レオナ、拘束を──!」
「うん……!」
レオナが頷いたのを確認し、アメリアと合流する。ハルバードを構える彼女には、彼女が普段使うことのない多量の魔力が流れていた。
「アメリア!」
「もう少し……!」
魔力を練る彼女の手をとり、魔力のコントロールを手伝う。半竜人であるアメリアは人間とは比べ物にならない程の魔力を持っていたが、それ故にその魔力を扱う術を持っていなかった。
──だから、それを俺がコントロールする。今回使うのは、擬似吐息のような一撃だ。
アメリアが魔力を貯めている間に、彼女にも【リズスワデ・スマアベル】をかける。
この一撃を放った後は俺も暫く戦えなくなるため、念のために他のメンバーには【ロニギスメイシュ】をかけておいた。
「もうあんな悲劇は繰り返させない──!」
オリビアの【四重詠唱】によって放たれた【無数のスフィア】が、ニコによって付けられた傷跡を的確に抉り、一部の光球体は大蛇付近で炎を纏い、断続的な小爆発を引き起こす。
「──今っ!」
レオナが【エルロン・スフィア】に弱った蛇を閉じ込めた。
「──っ!」
【エルロン・スフィア】の中で蛇が暴れ回っているが、レオナも何とか奴を食い止めてくれている。
「衝撃に備えろ!」
そう叫ぶ俺の言葉を皮切りに、アメリアがハルバードを振るった。
視界は白一色に染まる。
遅れて鼓膜が破れるかのような爆音。
地面を抉りながら放たれた一撃は、確実に大蛇を捉えていた。
土煙が止み、軽い船酔いのような感覚に襲われる。
「──な⁉︎」
段々と煙が晴れる中、そこには倒れる大蛇の姿はなく、傷だらけになりながらもハルバードを構えて立ち塞がる、悪魔を模したゴーレムような魔物の姿が見えた。
──瞬間、ゴーレムが俺たちの元へと駆け出してくる。
「くそっ!」
なりふり構わず、三人の俺で特攻してくるゴーレムの相手をする。
吐きそうになりながらも、【四次元空間】から酔い止めを二つ取り出し、その片方をアメリアに手渡した。
「──ニコ!」
「わかってる……!」
ゴーレムに構うことなく、ニコは目で追うのがやっとの速度で真っ直ぐに大蛇の元へと駆ける。
俺が酔い止めの入った瓶を飲み干すのと、ニコが大蛇に斬りかかるのはほぼ同時だった。
「オリビアも、そっちは任せた!」
「──任されました!」
オリビアの周囲には既に無数の光球体が展開し、大蛇を睨む。
「行けるか?」
「勿論!」
まだ違和感は残るものの、酔い止めが効き始めたあたりで一度三人の俺は消し、アメリアと共にゴーレムの相手をする。
火が弱点だとわかっているからか、レオナも【炎の矢】で大蛇の目を潰しにかかっていた。
アメリアと交代で何度もゴーレムと打ち合う。
その最中、視界の端に映る黒い影に気がついた。
「──アメリア!」
「ルシェ──」
状況を理解するよりも早く、彼女を突き飛ばす。
その直後、俺のいる位置に突っ込んできた黒い大蛇と衝突し、そこで意識が途絶えた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
《完結》「パパはいますか?」ある日、夫に似た子供が訪ねて来た。
ヴァンドール
恋愛
嫁いですぐに夫は戦地に赴いた。すると突然一人の男の子が訪ねて来た「パパはいますか?」
その子供の顔は戦地に行った夫にそっくりだった。
ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで魔物の大陸を生き抜いていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる