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第四十四話 墓参り

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 セレイナの先導で、霊園の中を進む道すがら、緑に囲まれた墓標をなんとはなしに見やる。俺たちの間には、特にこれといった会話はない。

 セレイナからは少し嫌われているかもしれないという自覚もあったため、無理して世間話でもしようとは思わなかった。

 前世では彼女と長旅をしていたが、あの頃は色々あったからか、今となってはどんなことを話していたのかさえ、ろくに思い出すことさえできなかった。

「……良い天気、ですね」
 突然、先を歩くセレイナがそう切り出してくる。緊張からか、少し声が上ずっていた。普段何事も淡々とこなす彼女にしては珍しい。

「あぁ、そうだな」
「……」
 会話終了。彼女から伝わってきた緊張から、何か重要な話をさせるのかとも警戒したが、そういうわけでもないらしい。

 霊園の管理所で備えるための花を購入する。管理所にいた年配の婦人は、幼少期のオリビアとも面識があったようで、約十年越しとなるオリビアの来訪に、ほろりと涙していた。

 管理所を出た後はオリビアの父親が眠る墓標を目指す。管理者内で事前に墓標を清掃用するための道具を借り出してきていた。

「──あの時の誓いは守ってくれましたか?」
 先を行くセレイナの表情は見えないが、彼女が命懸けで立てた誓いだ。結果が気になるのも当然だろう。

「あぁ。誓い通りに魔王も倒したし、世界も救ったよ」
 セレイナの誓いには、彼女の祈り同様人間が行う祈り以上の効果があった。
 一時的ではあったものの、彼女の祈りがなくとも欠損部位は勝手に修復し、補助魔法無しでもそれがかけられた時以上の力を引き出せた。
 視界は普段より時間をゆっくり捉え、魔王が使っていた見ず知らずの魔法をさえ理解することができていた。

 魔王を倒した後も世界は一度滅亡の危機を迎えたが、セレイナの立てた誓い通り、俺は確かに世界を救い、救世の勇者になった。
 ただ、そこにはそんな世界を歩みたかったあの頃の仲間たちの姿はなく、世界に滅びをもたらしかねない神器の姿もなかった。

「それを聞いて安心しました。──ところで、あの日の約束は覚えていますか?」
 振り返ったセレイナが少し悲しげに見つめてくる。多分、馬車にいた時に俺が約束を忘れていることがバレてしまったのだろう。

「……」
 答えあぐねる俺を見て、セレイナは小さくため息を吐いた。

「──来るべき決戦が終わったら、また話をしましょう」
 セレイナは最後に寂しげに笑みを浮かべると、その表情を悲愴に歪める。
 最後まで自身よりも世界を優先してきたセレイナの望みを叶えたいと考えてはいたので、その約束とやらの内容を聞きたかったが、どうやら時間切れのようだ。

「──っ!」
「オリビア……」
「……大丈夫です」
 オリビアは涙を拭うと、悲しげな顔のまま笑って見せた。

「……やっと、ここに来れました」
 彼女の視線を追うと、一つの墓標が目に入った。そこにはダンティエス・フローリア──オリビアの父親である彼の名前が刻まれていた。

 オリビアと手分けをして簡単に墓標の清掃を行い、花を供える。

「……」
 二人で並び、ダンティエスさんの眠る墓標に祈りを捧げた。その時彼の安息を祈ると共に、今彼女が見舞われている件は必ずなんとかすることを約束した。

「──戻りましょうか」
 涙声のオリビアが心配になり彼女の顔を見ると、オリビアがいつもの表情のまま頬を濡らしていることに気づいた。

「──え?」
 俺の視線に気づいたオリビアは不思議そうに俺を見つめ返し、少し遅れて片手で自身の涙を拭う。
 どうやら、彼女自身泣いていた自覚がないようだった。

「すいません……こんなはずじゃ……」
 涙を隠そうとしてか目を拭うオリビアの行動とは裏腹に、彼女の顔を絶え間なく涙が伝う。
 今は亡き父親の前だ。心配をさせまいと涙を抑えていたのだろう。

「オリビア……」
 泣きじゃくるオリビアの頭をそっと撫でる。今の俺は彼女にセレイナの姿も見てしまっているため、それ以上のことはしなかった。彼女からは少し嫌われているかもしれないという自覚があったからな。

 オリビアが泣き止んだところで帰路に就く。その時オリビアとはまた飲む約束をしていた。

 アドルフとも合流し、ウィルの店に戻る。
 そのままアドルフの転移でアリオンに着いた後は、夕食の前にギルドで以前倒したスケルトン・ナイトの報酬を受け取りに行った。
 キャロルがギルドに興味を示していたこともあり、レオナに認識阻害の魔法をかけられたキャロルもギルドにお忍びでついて来ることに。

 報酬を受け取った際、スケルトン・ナイトの上位種の情報も売ろうとしたが、その情報に関してはキャロルが直接買い取ることで、話で落ち着いた。

「いらっしゃいませ、ようこそお越しくださいました!」
 アドルフの案内でキャロルの押さえていた店に入るなり、彼女の来店を待っていたであろうスタッフが総出で出迎えてくれた。

 一人のウェイターの案内で席に着く。横目に、シェフと見られる白の制服に身を包んだ数名のスタッフが厨房の方へと戻っていくのが見えた。

「──⁉︎ブラウンさん、サムシスの古代アンティークが……!」
 少し離れた棚にある幅広い種類の酒瓶を見ていたオリビアが、目ざとくも古代のワインを見つけた。
 古代のワインとは、特殊な事情で製造元が伏せられており、年代すらラベリングされてない種類ものを指す。絶対数が少なく、値段も一本で億に届くものが少なくない。

「オリビア、確かにさっき飲む約束はしたが……」
「私のことは気になさらないで下さい」
「ありがとうございます!」
 キャロルの存在があるから、我らが《饒舌の魔女ロカシティ・ウィッチ》様には今宵の演説ステージは遠慮していただきたかったが、それは叶わなそうだ。

 まぁ、今日に関してはオリビアにも酒が必要だとは思っていたし、キャロルが大丈夫だと言うのなら大丈夫なんだろう。
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