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1章 幽霊屋敷な事件
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街は家々が隙間なく並び、沢山の人でごった返している。連れている黒馬が歩くたびかっぽかっぽ良い音を立てるのは石畳だからだ。
ベルティーナの村は家は茂みに見え隠れする程度で、道は土を踏み固めただけだが、街は大分賑やかだ。
そんな中を歩くベルティーナとエルンストは道行く人の注目を浴びている。毎度のことだ。
ベルティーナはズボンを履いている。この国では女性はスカートを履けと言われるが、合理的で楽だからの一言で流してズボンを愛用している。そして赤い髪は結い上げずに後ろで一つに縛るだけの手抜き仕様。道行く人がびっくりする。
実は近年『なんだそれもアリか、こりゃ楽だ』と、この街の女性の間でズボンと雑な髪型が広まりだし、彼女は一部で英雄視されていたりするが、彼女の耳には入っていない。
目指す伯爵様のお屋敷に着き、エルンストが使用人らしき人に話すと一室に案内された。
壁紙やカーテンの織りの模様も、テーブルの彫刻まで手が込んでいて華やかだ。それでも煩くならずに調和しているのはセンスの良さか。この部屋だけで裕福さが分かる。
ここが応接室なのか、もっと業務的な部屋なのか、庶民のベルティーナには分からない。ベルティーナにとっては、とりあえず腰を据えて仕事の話ができる場所ならなんでもいい。
「これが当伯爵家で起こっている現象です」
きっちり髪をなでつけ、腰を折る仕草一つもぱきんと音がしそうに固そうで真っ直ぐな執事が、数枚の書類をテーブルに置いた。
ベルティーナはざっと目を通して眉間に皺を刻んだ。
「……成程、沢山あるんですね」
『棺の釘を打つような金槌の音』、演奏者のいない笛が鳴る『笛吹きのホール』、何度も水に濡れる『水浸しの廊下』、更には『謎の放火』。
馬や犬が謎の理由で死にかけたり、使用人や、はては伯爵のお嬢様まで体調不良……成程、この通りなら、お化け屋敷と恐れる人もいるかもしれない。
「悪霊のせいと噂が立ち、辞めたいという使用人も何人も出ている状況で、とりあえず休みをやっています。早急に解決できなければ、次の雇用先の紹介状を書いてやらなければならないでしょう」
「まだ辞めた人はいないのですか」
「使用人が辛くて逃げなければならないならば、屋敷の管理者側の恥ずべき力不足です。解決してやらねばなりません」
執事は真っ直ぐな姿勢で、ぱきんと音がしそうなほど真っ直ぐな視線で言った。
辞めたくて辞める者は、辞めざるを得ない者に比べ僅かだろう。この屋敷の管理者ーー貴族と使用人トップたる執事は、雇用者側としてまともなスタンスを持っているようだ。
ベルティーナは厳かに頷いた。
「では今から言う資料と説明者を集めて欲しいのですが」
あまりの膨大な資料に、執事のぱきんとした無表情は口元だけほんのちょっと引きつった。
見かねたエルンストが資料を運ぶのを手伝う傍ら、ベルティーナは紙に大量の箇条書きや計算式を並べ頭を掻きむしっていた。
◇◆◇◆◇◆
「部屋まで用意して貰えるとは思わなかった」
ベルティーナの立ち位置は微妙だ。屋敷の修繕のような出入り業者か、招かれた学者か。後者のように扱われることになったようだ。
「村から日帰りでできる仕事じゃないんだ、宿の提供は当然だろう。じゃ、俺は宿舎へ戻って明日朝また来るから」
「うう……こんな立派な家に私だけ泊まるのかぁ……。ていうかエルンスト、明日も私に付き合うの?送迎役は終わったのに?」
「犯罪の可能性の調査のためだな」
「犯罪なの?」
「可能性だ。これだけ怪しいことが起こってるならそれも想定せざるを得ないだろう。この屋敷への悪意でこういうことをしている者がいるなら、取り締まるのは俺達の管轄だ。屋敷側がベルティーナをここに泊めるのは、護衛や情報漏洩防止も兼ねてだろう」
「……多分、犯罪じゃない気がする」
「もう分かったのか」
「まだ分からない。調べるのに何日か掛かる」
「よし、俺からも執事に協力するよう頼んでおく」
ベルティーナは平民なので、相手や内容によっては協力を得辛いことがある。騎士の口添えがあると物事が進めやすくて有難い。
「頼りにしている。俺はざっくり言って脳筋だからな。腕力と料理は自信があるが計算はさっぱりだ」
「料理まで上手い脳筋は貴重だよ」
「いや脳筋は否定してくれ。自分で言うのはいいが、人に言われるのは凹む。……じゃあ、今晩は夜更かししないで眠れよ。よそ様の屋敷で昼夜逆転はできないからな」
「エルンストのオカン……じゃなくて、帰り道暗いから気をつけて。おやすみ」
エルンストも今日は遠乗りの往復をして疲れてると思い至り、慌てて労ってみる。エルンストは嬉しそうな笑顔を浮かべ頷いて、「おやすみ」と呟いた。
ベルティーナは部屋の窓からエルンストを見送り、ついでに空を見上げた。
今夜は雲って星がよく見えない。観測しようにも望遠鏡は村だ。昼夜逆転する甲斐がないので、眠るしかなさそうだ。
ベルティーナの村は家は茂みに見え隠れする程度で、道は土を踏み固めただけだが、街は大分賑やかだ。
そんな中を歩くベルティーナとエルンストは道行く人の注目を浴びている。毎度のことだ。
ベルティーナはズボンを履いている。この国では女性はスカートを履けと言われるが、合理的で楽だからの一言で流してズボンを愛用している。そして赤い髪は結い上げずに後ろで一つに縛るだけの手抜き仕様。道行く人がびっくりする。
実は近年『なんだそれもアリか、こりゃ楽だ』と、この街の女性の間でズボンと雑な髪型が広まりだし、彼女は一部で英雄視されていたりするが、彼女の耳には入っていない。
目指す伯爵様のお屋敷に着き、エルンストが使用人らしき人に話すと一室に案内された。
壁紙やカーテンの織りの模様も、テーブルの彫刻まで手が込んでいて華やかだ。それでも煩くならずに調和しているのはセンスの良さか。この部屋だけで裕福さが分かる。
ここが応接室なのか、もっと業務的な部屋なのか、庶民のベルティーナには分からない。ベルティーナにとっては、とりあえず腰を据えて仕事の話ができる場所ならなんでもいい。
「これが当伯爵家で起こっている現象です」
きっちり髪をなでつけ、腰を折る仕草一つもぱきんと音がしそうに固そうで真っ直ぐな執事が、数枚の書類をテーブルに置いた。
ベルティーナはざっと目を通して眉間に皺を刻んだ。
「……成程、沢山あるんですね」
『棺の釘を打つような金槌の音』、演奏者のいない笛が鳴る『笛吹きのホール』、何度も水に濡れる『水浸しの廊下』、更には『謎の放火』。
馬や犬が謎の理由で死にかけたり、使用人や、はては伯爵のお嬢様まで体調不良……成程、この通りなら、お化け屋敷と恐れる人もいるかもしれない。
「悪霊のせいと噂が立ち、辞めたいという使用人も何人も出ている状況で、とりあえず休みをやっています。早急に解決できなければ、次の雇用先の紹介状を書いてやらなければならないでしょう」
「まだ辞めた人はいないのですか」
「使用人が辛くて逃げなければならないならば、屋敷の管理者側の恥ずべき力不足です。解決してやらねばなりません」
執事は真っ直ぐな姿勢で、ぱきんと音がしそうなほど真っ直ぐな視線で言った。
辞めたくて辞める者は、辞めざるを得ない者に比べ僅かだろう。この屋敷の管理者ーー貴族と使用人トップたる執事は、雇用者側としてまともなスタンスを持っているようだ。
ベルティーナは厳かに頷いた。
「では今から言う資料と説明者を集めて欲しいのですが」
あまりの膨大な資料に、執事のぱきんとした無表情は口元だけほんのちょっと引きつった。
見かねたエルンストが資料を運ぶのを手伝う傍ら、ベルティーナは紙に大量の箇条書きや計算式を並べ頭を掻きむしっていた。
◇◆◇◆◇◆
「部屋まで用意して貰えるとは思わなかった」
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「うう……こんな立派な家に私だけ泊まるのかぁ……。ていうかエルンスト、明日も私に付き合うの?送迎役は終わったのに?」
「犯罪の可能性の調査のためだな」
「犯罪なの?」
「可能性だ。これだけ怪しいことが起こってるならそれも想定せざるを得ないだろう。この屋敷への悪意でこういうことをしている者がいるなら、取り締まるのは俺達の管轄だ。屋敷側がベルティーナをここに泊めるのは、護衛や情報漏洩防止も兼ねてだろう」
「……多分、犯罪じゃない気がする」
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「まだ分からない。調べるのに何日か掛かる」
「よし、俺からも執事に協力するよう頼んでおく」
ベルティーナは平民なので、相手や内容によっては協力を得辛いことがある。騎士の口添えがあると物事が進めやすくて有難い。
「頼りにしている。俺はざっくり言って脳筋だからな。腕力と料理は自信があるが計算はさっぱりだ」
「料理まで上手い脳筋は貴重だよ」
「いや脳筋は否定してくれ。自分で言うのはいいが、人に言われるのは凹む。……じゃあ、今晩は夜更かししないで眠れよ。よそ様の屋敷で昼夜逆転はできないからな」
「エルンストのオカン……じゃなくて、帰り道暗いから気をつけて。おやすみ」
エルンストも今日は遠乗りの往復をして疲れてると思い至り、慌てて労ってみる。エルンストは嬉しそうな笑顔を浮かべ頷いて、「おやすみ」と呟いた。
ベルティーナは部屋の窓からエルンストを見送り、ついでに空を見上げた。
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