月と雪と温泉と~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~

小西あまね

文字の大きさ
3 / 3

しおりを挟む
 空が端から赤い色を帯び、やがて紺色の空は淡い青へと変わっていく。
 影にしかみえなかったものが、木や岩の姿を現していく。
 紫の霧は朝日の中消えていった。

「シェイン~。霧見えなくなったけど、まだ居た方がいいの?」
「いや、もう帰ろう」
「よかった!体がちがち。シェインは辛くない?」
「平気だ」
 エディアルドはシェインが見上げる程大きくなったくせに、綺麗で無邪気な笑顔は子供の頃そのままだった。

 山小屋へ戻り朝食を食べたところでエディアルドが言った。
「はー、やっと落ち着いた。これで言える。昨日ここへ来たのはね、報告があったからなんだ」
「報告?」
「うん!僕、臣籍降嫁が決まりました!」
「……意味分からん」
 王族が王族以外と結婚し臣籍に降りるにしても、エディアルドは嫁にはなれないだろう。物理的に。
「あれ?婿?何て言うの?」
「私が知るか」

「結婚するにしても、シェインは魔術師としての仕事で一杯一杯だし、ぜひそれを生かしてほしいじゃない。
僕が王弟のままだとシェインを王弟の妻云々とか煩わせちゃうから、国一番の魔術師がその功績を認められて王族を婿に貰う形がいいだろうってことになって、やっと準備が整ったんだ」
「はぁ?!」

 知らないうちに途轍もなく話が進んでいる。どうしてそうなった。
「婚約は形だけだろう」
「僕はそのつもりなかったよ。もう健康だから縁云々も関係ないし」
「身分が違いすぎるだろう」
「いや、功績ある武人や宰相が王女様賜るとか、多くはないけどあるよ?」
「私はそんなつもりで魔術を極めた訳じゃない」
「知ってる」

 エディアルドはシェインの前に跪いて言った。
「好きです。やっと準備ができたので、結婚してもらえませんか」

 シェインの頭の中は真っ白だ。
 国一番の魔術師は、前代未聞に追い詰められた。
「周囲が、そう、周囲がだまっていないだろう」
「いや?だって準備したの姉さんだし」
 国王陛下ーー!
「貴族には、優れた魔術師が他国に行かないように王子でも与えて縛り付けとけって声もあるし」
 阿呆か。
「姉さんも僕もそんなつもりはないよ。良い人材は自ら居たくなるような良い待遇で招くものだ。結婚や忠義や抑圧の鎖で縛るものじゃない。
て言うか嫌な待遇なら一緒に他の国へ逃げちゃおう?姉さんもそれ見越しているから、虎視眈々と良い待遇用意してるよ?」
 今度会ったらブラコン陛下と呼んでやろうと思っていたが、賢君だった。ちっ。

「魔術師もトップになると権力や社交が関わってくるから、僕が盾になってあげられるよ。シェインはざっくり言って専門馬鹿だから、そういうの疎ましいでしょ」
 シェインは、ぐっ、と詰まる。
 エディや誰かを救うのは純粋に魔術の力量だから磨きがいがあるか、それ以外は正直どうでもいい。
 専門馬鹿の自覚はあるが人に言われたくない。

「ねぇ、そろそろ返事くれないと結構この姿勢辛いんだけど」
 エディアルドは跪いた足をぷるぷる震わせ、眉尻を下げて言う。
 あぁ、もう。
 魔術師はため息を一つ吐いて観念した。
「……はい」
「やった!」
 シェインは抱きついてくる大きな背中の後ろで、尻尾がブンブン振られているような幻視を見た。

 国一番と畏れられる最強魔術師に、溢れる愛情と輝く笑顔を注ぎ続けるこの王子は、シェインにとってもまた温泉だ。
 泉のようにこんこんと湧き出す力を、惜しみ無くシェインに与えてくれる。
 少々ネジが抜けていても、この湯治は代えがたいほど効くのだから、手放せそうにない。



☆☆☆☆☆☆☆☆
 読んでくださりありがとうございます。
 湖の氷が膨張と収縮によりひびが入る自然現象は「御神渡り(おみわたり)」を参考にしています。
 題はふんわりイメージです。優しい光で照らす月と冷たいけど柔らかい雪をちょっとキャラに重ねています。

連載中の「異世界でワーホリ~旅行ガイドブックを作りたい~」もよろしくお願いします。
しおりを挟む
感想 4

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

セライア(seraia)

追記
王子。。。ほんわかしながらも外堀埋め切って登場するところはさすが王族😅
求婚の言葉に、「医師から(子作りの)許可もらったからもう待たない」という副音声が重なって聞こえたのは気のせい❓
背後でぶん回してたのは仔犬の尻尾じゃなく成狼の尻尾でしょ😏

2020.03.31 小西あまね

調子に乗りすぎると魔術師の雷が落ちる⚡
この先もこのカップルは(端から見る分には)楽しいボケツッコミを続けていくのでしょう。
狼のふさふさしっぽは至福です✨

解除
セライア(seraia)

王子の効果でほんわかした空気感の中、二人の想いで雪がやんわり溶けていく・・・そんな感じで、癒やされました😌

2020.03.31 小西あまね

雪がやんわり溶けていく…素敵な光景です。
温かな感想ありがとうございます!

解除
penpen
2020.02.04 penpen

その誤字を見て、報告しなきゃ(;・∀・)という気持ちが沸いたので読んだという経緯があるのですが(´・ω・`)誤字もたまには役に立つのでは?( 〃▽〃)
感想書き忘れてました(*ノ▽ノ)
天然王子というより、執着王子だと思うのです(о´∀`о)ヤンデレにならずにすんで良かったですヽ( ̄▽ ̄)ノ一歩間違えばヤンデレですもんね(*ノ▽ノ)

2020.02.04 小西あまね

情けない出会いの切欠でしたが(^^;)、読んで頂けて嬉しいです。
囲い込むより囲われに行く押し掛け婿。これならヒロインも安全?

解除

あなたにおすすめの小説

【完結】余命半年の元聖女ですが、最期くらい騎士団長に恋をしてもいいですか?

金森しのぶ
恋愛
神の声を聞く奇跡を失い、命の灯が消えかけた元・聖女エルフィア。 余命半年の宣告を受け、静かに神殿を去った彼女が望んだのは、誰にも知られず、人のために最後の時間を使うこと――。 しかし運命は、彼女を再び戦場へと導く。 かつて命を賭して彼女を守った騎士団長、レオン・アルヴァースとの再会。 偽名で身を隠しながら、彼のそばで治療師見習いとして働く日々。 笑顔と優しさ、そして少しずつ重なる想い。 だけど彼女には、もう未来がない。 「これは、人生で最初で最後の恋でした。――でもそれは、永遠になりました。」 静かな余生を願った元聖女と、彼女を愛した騎士団長が紡ぐ、切なくて、温かくて、泣ける恋物語。 余命×再会×片恋から始まる、ほっこりじんわり異世界ラブストーリー。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

冷酷騎士様の「愛さない」は一分も持たなかった件

水月
恋愛
「君を愛するつもりはない」 結婚初夜、帝国最強の冷酷騎士ヴォルフラム・ツヴァルト公爵はそう言い放った。 出来損ないと蔑まれ、姉の代わりの生贄として政略結婚に差し出されたリーリア・ミラベルにとって、それはむしろ救いだった。 愛を期待されないのなら、失望させることもない。 契約妻として静かに役目を果たそうとしたリーリアは、緩んだ軍服のボタンを自らの銀髪と微弱な強化魔法で直す。 ただ「役に立ちたい」という一心だった。 ――その瞬間。 冷酷騎士の情緒が崩壊した。 「君は、自分の価値を分かっていない」 開始一分で愛さない宣言は撤回。 無自覚に自己評価が低い妻に、激重独占欲を発症した最強騎士が爆誕する。 以後、 寝室は強制統合 常時抱っこ移動 一秒ごとに更新される溺愛 妻を傷つける者には容赦なし宣言 甘さ過多、独占欲過剰、愛情暴走中。 さらにはリーリアを取り戻そうとする実家の横槍まで入り――? 自己評価ゼロの健気令嬢と愛が一分も我慢できなかった最強騎士。 溺愛が止まらない、契約結婚から始まる甘すぎる逆転ラブコメ

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

カリスタは王命を受け入れる

真朱マロ
恋愛
第三王子の不始末で、馬に変えられた騎士との婚姻を命じられた公爵令嬢カリスタは、それを受け入れるのだった。 やがて真実の愛へと変わっていく二人の、はじまりの物語。 別サイトにも重複登校中

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。