コインランドリー

コインランドリー

コインランドリー

深夜、住宅街の一角にあるコインランドリーには人影がなかった。ただ一つだけ回り続ける洗濯機の音が、静寂を切り裂くように響いている。

藤井翔太は、深夜のコインランドリーに来るのが好きだった。誰もいない静かな空間で、洗濯機が回る音を聞きながらぼんやりと時間を過ごすのが、彼にとって唯一の安らぎだった。

だが、その夜はいつもと違った。洗濯機が止まり、取り出そうとすると、中から一枚の古びた手紙が出てきた。

「誰のだろう？」
宛名も差出人もないその手紙を開くと、そこにはこう書かれていた。

「この手紙を見つけたあなたへ。これはあなたが忘れてしまった記憶です。」

翔太は混乱した。さらに読み進めると、そこには自分が全く覚えていないエピソードが綴られていた。幼い頃の秘密基地、初恋の女の子の笑顔、そして彼女との約束――「絶対に忘れないで」と。

「こんなこと、あったっけ……？」
心の奥底を探ろうとするが、思い出せない。それでも手紙に書かれた内容には奇妙な親近感があった。

ふと、彼の視界にもう一つの洗濯機が目に入る。それは「使用中」になっていたが、誰も取りに来る様子がない。半信半疑で開けてみると、また手紙が出てきた。

その夜、翔太はすべての洗濯機を開け、数十通の手紙を見つけた。そこには彼が忘れてきたはずの過去の記憶や、叶えられなかった夢、そして失われた人間関係が詰まっていた。

最後の手紙を開くと、そこにはこう書かれていた。

「この場所は、忘れた者たちの洗濯機。思い出を取り戻すか、再び忘れるかはあなた次第。」

翔太は深く息を吸い込み、すべての手紙をポケットに入れた。そして、夜明け前の街へと歩き出した。忘却のコインランドリーはもう静かに佇んでいるだけだった。

終わり