コインランドリー

三重蓮太

文字の大きさ
4 / 5

しおりを挟む


ある日、佐藤玲奈はいつものように電車で通勤していた。車内でスマートフォンを眺めながら、ふと外を見ると見慣れた街並みが薄く透明になりつつあるのに気づいた。

ビルの輪郭が曖昧になり、道路がかすかに透けて地下鉄のトンネルが見え始めている。玲奈は驚いて周囲を見回したが、ほかの乗客たちは誰も気に留めていない様子だ。

会社に着く頃には、街の透明度はさらに増していた。ビルの中の人々が働く姿が外から透けて見え、地面の下を行き交う配管や地下水路まで丸見えだった。

「これって、どういうこと?」
玲奈は恐る恐る同僚に聞いてみたが、彼女たちはキョトンとするばかりで、「何も変わったことなんてないよ」と言う。

その日を境に、玲奈の見る世界は日に日に透明になっていった。自宅の壁は薄膜のようになり、隣人の生活が筒抜けになったかと思えば、次の日には隣人自体が透明になった。

数週間後、玲奈の周囲には誰もいなくなった。街そのものが完全に透明化し、玲奈はまるで広大なガラスの上に立っているかのような感覚に襲われた。

「どうして私だけが残っているの?」
彼女は自分自身の手を見つめた。透明にはなっていないものの、肌の奥にある血管や筋肉がうっすらと見え始めている。

玲奈は恐怖に耐えきれず、インターネットで情報を探した。しかし、画面に映るSNSやニュースはどれも「世界は平和で正常だ」と繰り返すだけだった。

ある夜、完全な静寂の中で玲奈は不意に声を聞いた。

「あなたもそのうち透明になるよ。」

振り返ると、そこには誰もいなかった。ただ、その言葉はどこからか確かに聞こえた。

玲奈は覚悟を決めて、外に出た。透明になった街を歩きながら、かつての人々の生活の残骸が微かに感じられる。冷たい風が吹き抜ける中、彼女の体も徐々に透明化していった。

そして、ついに玲奈は完全に透明になった――だが、その瞬間、全ての景色が一変した。目の前には無限に広がる美しい世界が広がっていた。

透明になるとは、消えることではなく、新たな世界への扉を開くことだったのだ。

玲奈は微笑み、透明な世界を歩き始めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

まなの秘密日記

到冠
大衆娯楽
胸の大きな〇学生の一日を描いた物語です。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

コント文学『パンチラ』

岩崎史奇(コント文学作家)
大衆娯楽
春風が届けてくれたプレゼントはパンチラでした。

処理中です...