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狩人
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というわけで将来クロス様の騎士になることにした俺は、早速夕飯の時間にその旨を両親に相談した。正直言って大反対されると思っていたが、両親はあっさり理解してくれて好きなようにしなさいと言ってくれた。
「いいの?」
「おまえの人生だからな」
「応援してるよ」
ゲームの世界だからなのか、俺の両親が特別楽観的なのか、二人とも物凄くあっさりしていて拍子抜けしてしまう。この世界じゃ魔法のおかげで食うに困ることがほぼないし、唯一の息子がいなくなっても生活はしていけるから、挑戦だけしてみろってことなのかもしれない。
「でもさ、平民って貴族の騎士にはなれないじゃん? だから、とりあえずお城に就職して出世してから申し込んでみようと思うんだけど」
「そうなのか? 騎士様の事情なんか俺は知らんぞ」
「私も知らないよ。おまえは何で知ってるの?」
「えー、そうなの? 俺はなんとなくそうかなって」
父さんも母さんも夕飯を食べながら首を傾げている。そうか、俺はゲームの知識で知っているけど、普通の平民は貴族のことなんか知らないよな。こんな話をする俺は変な子供に見えたかもしれない。いや、でも普通に考えれば簡単に平民が貴族に雇ってもらえるわけないし、俺の言ってることはそう変なことじゃないはずだ。
「でさ、お城に就職したかったらどうすればいいの?」
「知らないよ、そんなこと」
「俺たちが知るわけないだろう。都に行ったこともないのに」
「そうだよなあ」
「とりあえずお金を貯めて、都に行ってみれば良いんじゃないのか? そうしたら城の兵士でもなんでも募集されてるだろう」
「父さんの言う通りだよ。この街にいたってお城のことは分からないからね」
「そっか、分かった」
この世界の両親の言うことはなんだか適当でのんびりしている。とりあえず行ってみろって一人息子を旅立たせる台詞としては豪快過ぎない? そういうところも好きだけど、情報源としては全然頼りにならない。ゲーム通り、自分でなんとかするしかないな。
「じゃあ、俺、明日から狩人の組合に入るよ」
「えっ大工じゃないのか?」
「お金貯めるだけなら大工でも良いけど、騎士になるには獣と戦えないと駄目じゃん」
「そうだねえ」
「いや、おまえ、まだ7歳じゃなかったか? その年齢で狩人組合には入れないと思うぞ」
「大丈夫だよ。俺、魔法が使えるし」
「レネなら大丈夫だよ、エルナンド」
「ルフィーナ……そりゃレネのことは信じてるが」
俺の両親は本当に優しい。今日に限らず、普段から俺なら大丈夫とか信じてるとか言ってくれるから、前世の日本の両親と比べるとかなり親馬鹿に見える。ちなみに、エルナンドが父さん、ルフィーナが母さんの名前だ。この世界、というかこの国では平民には苗字がなくて、自分の名前の後ろに父さんか母さんの名前をくっつけて名乗る。だから、俺の名前であるレネ・ルフィーナはルフィーナの息子のレネみたいな意味だ。別にレネ・エルナンドって名乗っても良いんだけど、もうレネ・ルフィーナで教会に登録してるから基本はそっちだ。
父さんは魔法が苦手で魔物とは戦えないタイプだから普段は大工をしている。だから父さんとしては同じ職場で俺の面倒を見るつもりだったんだろう。でも俺は騎士になるためのスキルを磨きたい。それは大工でもできるだろうけど魔物と戦う狩人の方がより向いている気がする。
本当は冒険者ギルドに登録したいところだ。この街は小さすぎてギルド支部がないんだよな。7歳じゃさすがに他の街に行ったりはできないから我慢している。もちろん魔法を使えば移動自体はできるけど、そもそも街の外に出る許可すら貰えない年齢だから仕方がない。
***
次の日、俺は狩人の組合に入るため、リーダーのアデマーさん家を訪ねた。ひょっとして父さんか母さんはついてくるかと思っていたけど、二人とも仕事に行くからって普通に送り出された。ほんと放任主義なんだよな。おかげで助かってるけど。昨夜なんか俺の年齢を確認してた癖に、適当すぎないか?
「7歳で狩人になれるわけないだろ……」
「でも、母さんは大丈夫だって言ってたよ」
「ルフィーナが? マジか」
玄関先でにこやかに俺を出迎えてくれたアデマーさんもさすがに呆れた様子だった。俺も嘘は吐いてない。俺がごり押ししたからでもあるけど、母さんは本当に『大丈夫』って言ってくれてたし。
それに俺は早くお金を貯めてできるだけ早い内に皇都へ行きたい。
「俺、魔法がちょっとだけ得意だし近いところにいる動物を狩るくらいならできるよ」
「馬鹿言っちゃいけねえ。7歳の子供を門の外に出せるかよ」
いや、勝手に出てるけどな。だいたい、魔法が使えたらこの街の近くにいる魔物はそんなに怖くないと思うんだ。そりゃ、攻撃するような魔法が不得意なら無理だけどさ。この街は始まりの街だから周囲の魔物も弱い。
ところで、この世界には魔物しかいないから前世でいうところの魔物のことを『動物』とか『獣』と呼ぶ。この世界で魔物って呼ぶのは滅多に出くわさないようなめちゃくちゃ強い魔力を持った動物だけだ。
「じゃあ、そうだな。城壁に登ってみろ。俺も今から行くところだから」
「やった!」
「喜ぶの早えよ。まだ登ってねえだろ」
アデマーさんも忙しいだろうに、俺の能力を見てくれるつもりらしい。一度家の中に戻ってから弓矢とか剣を携えて出てきた。
「言っとくが基本ができなきゃまず無理だからな」
「うん、分かってるよ」
道すがら困った子供に言い聞かせるみたいにしつこく念を押すアデマーさん。この街の人って本当に優しいんだよな。ここの法律では子供が働いちゃいけないってことはないんだけど、基本的に子供は働かなくて良いって言ってくれる。孤児も教会で引き取っているのを街ぐるみで支援している。それに俺みたいにやりたいことがある子供を抑えつけたりはしない。何をしててもわりと温かく見守ってくれる。
俺や他の子たちが文字を学んだり魔法を覚えられたのもそのおかげだ。
俺たちは城壁の門のあるところまで歩いていった。アデマーさんが上にいる見張りに交代の合図をしている。
「じゃ、先に登るね」
俺はアデマーさんの心配そうな顔を無視してさっさと城壁の上へ飛び上がった。今にもやっぱり止めようとか言い出しそうな雰囲気だったし。
身体強化でよじ登っても良いけど、どっちかというと風の魔法で飛び乗った方が簡単に登れる。この街の城壁には階段も梯子もない。基本的に登る時は魔法を使う。前世じゃ考えられないが、この世界ではそうした方が安全だからそうなってるらしい。登り口があると動物も登ってこれちゃうから、というのがその理由だ。
アデマーさんはよじ登るタイプみたいで俺より時間をかけて登ってきた。その間に城壁の外にいる獣を探す。きっとここから動物を仕留められたら合格、みたいなことだろうと思うから仕留めやすそうなやつを見繕っておきたい。
城壁の外には本当にたくさんの獣がいる。鹿とか猪とか兎とか、時々熊とかもいる。もちろん前世と違って、禍々しい角が生えていたり目がぎらついていたり口から衝撃波を出したりするやつだ。とりあえず、熊を狙うべきか。他のやつらはすばしっこいから、遠距離からなら熊が一番仕留めやすそうだと思う。
獲物を決めたところでアデマーさんが登ってきた。
「あー……しょうがねえ、ここから何か仕留めて見ろ」
苦虫を噛み潰したみたいな顔をして後ろ頭を掻きながらアデマーさんは言った。そんなに子供にはやらせたくないのかな。本当に優しいな。
「分かった。弓矢貸して」
彼の優しさは嬉しいけどそれに甘えるわけにもいかない。俺はすぐに返事をして右手を前に出した。遠距離の魔法は俺にはまだ難しい。水も火も出せるけど前に飛んでいかないし、風も遠くに飛ばすほど弱くなる。クロス様は大規模攻撃魔法をパカパカ打つようなとんでもなく凄い魔法使いになるけど、俺は違うみたいだ。
そういや、ゲームの主人公は職業によって覚えるスキルが変わっていた。ただ、いざ現実になってみるとステータスとか見られないんだよな。不便だ。
「俺のじゃ腕の長さが足りねえだろ」
「平気だよ」
「弓の弦ってのは結構硬いんだぞ」
「知ってるけど魔法使うし」
「ああ……」
アデマーさんの弓は西洋風の弓だけど、俺が持つと日本の弓道で使うようなでっかい弓みたいに見える。7歳だからな、俺。でも矢の長さの分だけ弓が引ければいいと思うし、腕力は魔力で強化すればいいから大丈夫だ。
勢いあまって落ちたら嫌だから、足を前後に開いて魔力で城壁に固定した。そして、全身の筋肉を魔力で強化し、借りた矢を弓につがえて引いてみる。
「矢の持ち方、これであってる?」
「あってるが……おまえ、どこで習ったんだ?」
「お祭りとか町長さん家の兵士の人が訓練してるの見られるじゃん」
「なるほどな」
よし、できそうだ。後は矢にも魔力を流して、と。
「じゃ、行くよー」
一応宣言して、俺は矢を放った。狙いはさっき目を付けておいた熊さんだ。林から出てきてうろうろしてるやつの首をめがけて。初めてだったし、放つ時にちょっとぶれた気もしたけど、矢は狙い通りスコーンと熊さんに突き刺さった。
風の通り道を作っておいたから当たって当たり前だ。風で攻撃できるほど強い遠距離魔法は使えないけど、風を吹かせるだけなら簡単にできる。この魔法は洗濯物を乾かすときに使う、みんな使ってるやつだ。だから7歳の俺が使えても全然変じゃない。ほんと魔法って便利だよな。
「……やるな。でもおまえ、熊は矢一本くらいじゃ死なねえんだぞ?」
「そうなの? 首に刺したから息ができなくなって死ぬんだと思った」
アデマーさんの言う通り、熊さんは怒り狂って俺たちのいる城壁の下ら辺に突撃してきた。が、城壁にぶつかった途端、ふらついて呻き声と共にぶっ倒れる。
二人で暫く様子を見たが熊が起き上がってくることはなかった。アデマーさんは溜息を吐いた。
「あー、そうな。上手いこと当たりゃあそういうこともある」
「あの熊、死んだのかな?」
「たぶんな。ただな、レネ。今回は運が良かっただけだ。熊は普通は一撃じゃ死なねえ。城壁の上からならともかく、対面してる時に一撃で仕留めようなんて考えるなよ」
「うん、覚えとく」
この世界の熊は魔力を持ってるし、息ができないとか関係ないのかもな。今回はビギナーズラックであの熊は弱ってたのかもしれない。林から出てきてたし、ひょっとして森の奥にいる強い熊に追われてたとか、そういうことかな。
今回上手くいったからって前世と同じだと思っちゃ駄目だ。前世の知識がある分、無意識に同じだと思い込んで逆に危ないよな。アデマーさんの言うことはよく聞いておこう。
ともあれ、俺はアデマーさんから合格を貰った。外へ出るのは駄目だけど、城壁の上からなら狩りをしても良いって。今までは隠蔽魔法でこっそり城壁に登ってたんだよな。これからは堂々と登れるんだ。
「いいの?」
「おまえの人生だからな」
「応援してるよ」
ゲームの世界だからなのか、俺の両親が特別楽観的なのか、二人とも物凄くあっさりしていて拍子抜けしてしまう。この世界じゃ魔法のおかげで食うに困ることがほぼないし、唯一の息子がいなくなっても生活はしていけるから、挑戦だけしてみろってことなのかもしれない。
「でもさ、平民って貴族の騎士にはなれないじゃん? だから、とりあえずお城に就職して出世してから申し込んでみようと思うんだけど」
「そうなのか? 騎士様の事情なんか俺は知らんぞ」
「私も知らないよ。おまえは何で知ってるの?」
「えー、そうなの? 俺はなんとなくそうかなって」
父さんも母さんも夕飯を食べながら首を傾げている。そうか、俺はゲームの知識で知っているけど、普通の平民は貴族のことなんか知らないよな。こんな話をする俺は変な子供に見えたかもしれない。いや、でも普通に考えれば簡単に平民が貴族に雇ってもらえるわけないし、俺の言ってることはそう変なことじゃないはずだ。
「でさ、お城に就職したかったらどうすればいいの?」
「知らないよ、そんなこと」
「俺たちが知るわけないだろう。都に行ったこともないのに」
「そうだよなあ」
「とりあえずお金を貯めて、都に行ってみれば良いんじゃないのか? そうしたら城の兵士でもなんでも募集されてるだろう」
「父さんの言う通りだよ。この街にいたってお城のことは分からないからね」
「そっか、分かった」
この世界の両親の言うことはなんだか適当でのんびりしている。とりあえず行ってみろって一人息子を旅立たせる台詞としては豪快過ぎない? そういうところも好きだけど、情報源としては全然頼りにならない。ゲーム通り、自分でなんとかするしかないな。
「じゃあ、俺、明日から狩人の組合に入るよ」
「えっ大工じゃないのか?」
「お金貯めるだけなら大工でも良いけど、騎士になるには獣と戦えないと駄目じゃん」
「そうだねえ」
「いや、おまえ、まだ7歳じゃなかったか? その年齢で狩人組合には入れないと思うぞ」
「大丈夫だよ。俺、魔法が使えるし」
「レネなら大丈夫だよ、エルナンド」
「ルフィーナ……そりゃレネのことは信じてるが」
俺の両親は本当に優しい。今日に限らず、普段から俺なら大丈夫とか信じてるとか言ってくれるから、前世の日本の両親と比べるとかなり親馬鹿に見える。ちなみに、エルナンドが父さん、ルフィーナが母さんの名前だ。この世界、というかこの国では平民には苗字がなくて、自分の名前の後ろに父さんか母さんの名前をくっつけて名乗る。だから、俺の名前であるレネ・ルフィーナはルフィーナの息子のレネみたいな意味だ。別にレネ・エルナンドって名乗っても良いんだけど、もうレネ・ルフィーナで教会に登録してるから基本はそっちだ。
父さんは魔法が苦手で魔物とは戦えないタイプだから普段は大工をしている。だから父さんとしては同じ職場で俺の面倒を見るつもりだったんだろう。でも俺は騎士になるためのスキルを磨きたい。それは大工でもできるだろうけど魔物と戦う狩人の方がより向いている気がする。
本当は冒険者ギルドに登録したいところだ。この街は小さすぎてギルド支部がないんだよな。7歳じゃさすがに他の街に行ったりはできないから我慢している。もちろん魔法を使えば移動自体はできるけど、そもそも街の外に出る許可すら貰えない年齢だから仕方がない。
***
次の日、俺は狩人の組合に入るため、リーダーのアデマーさん家を訪ねた。ひょっとして父さんか母さんはついてくるかと思っていたけど、二人とも仕事に行くからって普通に送り出された。ほんと放任主義なんだよな。おかげで助かってるけど。昨夜なんか俺の年齢を確認してた癖に、適当すぎないか?
「7歳で狩人になれるわけないだろ……」
「でも、母さんは大丈夫だって言ってたよ」
「ルフィーナが? マジか」
玄関先でにこやかに俺を出迎えてくれたアデマーさんもさすがに呆れた様子だった。俺も嘘は吐いてない。俺がごり押ししたからでもあるけど、母さんは本当に『大丈夫』って言ってくれてたし。
それに俺は早くお金を貯めてできるだけ早い内に皇都へ行きたい。
「俺、魔法がちょっとだけ得意だし近いところにいる動物を狩るくらいならできるよ」
「馬鹿言っちゃいけねえ。7歳の子供を門の外に出せるかよ」
いや、勝手に出てるけどな。だいたい、魔法が使えたらこの街の近くにいる魔物はそんなに怖くないと思うんだ。そりゃ、攻撃するような魔法が不得意なら無理だけどさ。この街は始まりの街だから周囲の魔物も弱い。
ところで、この世界には魔物しかいないから前世でいうところの魔物のことを『動物』とか『獣』と呼ぶ。この世界で魔物って呼ぶのは滅多に出くわさないようなめちゃくちゃ強い魔力を持った動物だけだ。
「じゃあ、そうだな。城壁に登ってみろ。俺も今から行くところだから」
「やった!」
「喜ぶの早えよ。まだ登ってねえだろ」
アデマーさんも忙しいだろうに、俺の能力を見てくれるつもりらしい。一度家の中に戻ってから弓矢とか剣を携えて出てきた。
「言っとくが基本ができなきゃまず無理だからな」
「うん、分かってるよ」
道すがら困った子供に言い聞かせるみたいにしつこく念を押すアデマーさん。この街の人って本当に優しいんだよな。ここの法律では子供が働いちゃいけないってことはないんだけど、基本的に子供は働かなくて良いって言ってくれる。孤児も教会で引き取っているのを街ぐるみで支援している。それに俺みたいにやりたいことがある子供を抑えつけたりはしない。何をしててもわりと温かく見守ってくれる。
俺や他の子たちが文字を学んだり魔法を覚えられたのもそのおかげだ。
俺たちは城壁の門のあるところまで歩いていった。アデマーさんが上にいる見張りに交代の合図をしている。
「じゃ、先に登るね」
俺はアデマーさんの心配そうな顔を無視してさっさと城壁の上へ飛び上がった。今にもやっぱり止めようとか言い出しそうな雰囲気だったし。
身体強化でよじ登っても良いけど、どっちかというと風の魔法で飛び乗った方が簡単に登れる。この街の城壁には階段も梯子もない。基本的に登る時は魔法を使う。前世じゃ考えられないが、この世界ではそうした方が安全だからそうなってるらしい。登り口があると動物も登ってこれちゃうから、というのがその理由だ。
アデマーさんはよじ登るタイプみたいで俺より時間をかけて登ってきた。その間に城壁の外にいる獣を探す。きっとここから動物を仕留められたら合格、みたいなことだろうと思うから仕留めやすそうなやつを見繕っておきたい。
城壁の外には本当にたくさんの獣がいる。鹿とか猪とか兎とか、時々熊とかもいる。もちろん前世と違って、禍々しい角が生えていたり目がぎらついていたり口から衝撃波を出したりするやつだ。とりあえず、熊を狙うべきか。他のやつらはすばしっこいから、遠距離からなら熊が一番仕留めやすそうだと思う。
獲物を決めたところでアデマーさんが登ってきた。
「あー……しょうがねえ、ここから何か仕留めて見ろ」
苦虫を噛み潰したみたいな顔をして後ろ頭を掻きながらアデマーさんは言った。そんなに子供にはやらせたくないのかな。本当に優しいな。
「分かった。弓矢貸して」
彼の優しさは嬉しいけどそれに甘えるわけにもいかない。俺はすぐに返事をして右手を前に出した。遠距離の魔法は俺にはまだ難しい。水も火も出せるけど前に飛んでいかないし、風も遠くに飛ばすほど弱くなる。クロス様は大規模攻撃魔法をパカパカ打つようなとんでもなく凄い魔法使いになるけど、俺は違うみたいだ。
そういや、ゲームの主人公は職業によって覚えるスキルが変わっていた。ただ、いざ現実になってみるとステータスとか見られないんだよな。不便だ。
「俺のじゃ腕の長さが足りねえだろ」
「平気だよ」
「弓の弦ってのは結構硬いんだぞ」
「知ってるけど魔法使うし」
「ああ……」
アデマーさんの弓は西洋風の弓だけど、俺が持つと日本の弓道で使うようなでっかい弓みたいに見える。7歳だからな、俺。でも矢の長さの分だけ弓が引ければいいと思うし、腕力は魔力で強化すればいいから大丈夫だ。
勢いあまって落ちたら嫌だから、足を前後に開いて魔力で城壁に固定した。そして、全身の筋肉を魔力で強化し、借りた矢を弓につがえて引いてみる。
「矢の持ち方、これであってる?」
「あってるが……おまえ、どこで習ったんだ?」
「お祭りとか町長さん家の兵士の人が訓練してるの見られるじゃん」
「なるほどな」
よし、できそうだ。後は矢にも魔力を流して、と。
「じゃ、行くよー」
一応宣言して、俺は矢を放った。狙いはさっき目を付けておいた熊さんだ。林から出てきてうろうろしてるやつの首をめがけて。初めてだったし、放つ時にちょっとぶれた気もしたけど、矢は狙い通りスコーンと熊さんに突き刺さった。
風の通り道を作っておいたから当たって当たり前だ。風で攻撃できるほど強い遠距離魔法は使えないけど、風を吹かせるだけなら簡単にできる。この魔法は洗濯物を乾かすときに使う、みんな使ってるやつだ。だから7歳の俺が使えても全然変じゃない。ほんと魔法って便利だよな。
「……やるな。でもおまえ、熊は矢一本くらいじゃ死なねえんだぞ?」
「そうなの? 首に刺したから息ができなくなって死ぬんだと思った」
アデマーさんの言う通り、熊さんは怒り狂って俺たちのいる城壁の下ら辺に突撃してきた。が、城壁にぶつかった途端、ふらついて呻き声と共にぶっ倒れる。
二人で暫く様子を見たが熊が起き上がってくることはなかった。アデマーさんは溜息を吐いた。
「あー、そうな。上手いこと当たりゃあそういうこともある」
「あの熊、死んだのかな?」
「たぶんな。ただな、レネ。今回は運が良かっただけだ。熊は普通は一撃じゃ死なねえ。城壁の上からならともかく、対面してる時に一撃で仕留めようなんて考えるなよ」
「うん、覚えとく」
この世界の熊は魔力を持ってるし、息ができないとか関係ないのかもな。今回はビギナーズラックであの熊は弱ってたのかもしれない。林から出てきてたし、ひょっとして森の奥にいる強い熊に追われてたとか、そういうことかな。
今回上手くいったからって前世と同じだと思っちゃ駄目だ。前世の知識がある分、無意識に同じだと思い込んで逆に危ないよな。アデマーさんの言うことはよく聞いておこう。
ともあれ、俺はアデマーさんから合格を貰った。外へ出るのは駄目だけど、城壁の上からなら狩りをしても良いって。今までは隠蔽魔法でこっそり城壁に登ってたんだよな。これからは堂々と登れるんだ。
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