転生した俺が貴方の犬になるまで

ぶたこ

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狩人

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 狩人組合に入ってからは毎日のように城壁に狩りをしに行った。交代で見張りをしている大人たちと違って、その人数に数えられていない子供の俺は自由だ。だから別に毎日来る必要はないってみんなが言うんだけど、俺は行きたくて行ってるもんだからそんなことを言われても困る。俺には前世の記憶があるだけでチートもない平民だから、クロス様の騎士になるためにはむちゃくちゃ頑張らないといけない。
 一先ず、最初は弓矢の練習をして、慣れてきたら剣の練習もするつもりだ。弓だけじゃ騎士にはなれないだろうし。
 と言っても、この街にはそういうのを教えてくれそうな人がいない。戦闘に関して知ってそうなのは狩人組合の人か町長さんのところの兵士くらいだ。それも人数は少ないし、前世のように決まった型や流派があったり師範がいたりとかいうことはなくみんな我流っぽい。アデマーさんに弓矢の使い方を教えてもらおうとしたら、

「もうできてる。それ以上何が知りたいんだ?」

とか言われた。
 俺としては正しい構え方とか狙い方とか矢を射る時のコツとか、そういうのを聞きたかったんだがなんかアデマーさんはそんな感じじゃなかった。ゲームでも基本は実戦で覚えていく感じだったもんな。そんなこと言ったらどのゲームも基本的にはそうだろうけど、前世の常識から考えると我流でやるのは不安しかない。
 ただ、先生がいないものは仕方がないのでやはり自分で何とかするしかないのだろう。

 自分で精いっぱい考えた結果、俺は一日のルーティンを作った。朝起きてまずは柔軟をする。身体が柔らかいと怪我をしにくいって野球選手が言ってたし、柔軟は大切な気がする。子供だからかすぐに180度開脚できるようになった。前屈もぴったりできるし、背中にも手が届く。でも続けることが大事だって分かってるからこれからもさぼらずにやるつもりだ。
 で、柔軟が終わったら走り込みをする。体力は絶対に大事だ。それだけは魔力を使わずにやることにしている。走る距離は息が切れてもう駄目だって思うところまで。子供のころから無理したら背が伸びなくなるって前世では言ってたからもっと大人の身体になるまではほどほどにしようと思っている。
 その後は城壁に行って、弓矢と魔法の練習をする。魔力も体力と同じで使えば使うほど鍛えられて増えていくらしいので全力で消費する。今まではそこまで意識してなかったので魔力が底をつくことなんてなかったが、今は毎日へとへとになって魔法が使えなくなるまで頑張っている。ちなみに魔力が0になったからと言ってめまいや頭痛が起きたりはしない。体力と同じで減ると疲れて魔法が使いにくくなるだけだ。
 弓矢はアデマーさんに使ってないものを譲ってもらった。バランスを考えて、右手でも左手でも矢を射ることができるようにするつもりだ。
 昼になったら見張りの人に獲った獲物を回収してもらう。普通は狩った人が自分で回収するものだけど、俺は外に出られないから代わりにしてもらっている。風の魔法で運ぼうと思ったら重いものはまだ難しかった。
 昼飯を食べたら、その後は町長さんの家か教会に行く。本を読んで勉強するためだ。この街ではみんな優しいけど、町長さんもその例に漏れず大変優しい。俺みたいな他人の子供でも平気で家に上げてくれて、貴重な本を好きなだけ読ませてくれる。前世と違って本は高級品だから子供は触らせてもらえなくてもおかしくないのに、タダで読ませてくれるからマジで感謝している。お礼に狩った獲物の一部は町長さんにあげているし、教会にも寄付している。
 そして夕方になったらまた走り込みと柔軟をして終了だ。体を休めることも大事だから暗くなったらなるべく早く寝る。

 前世じゃ運動はできない方で嫌いだったから、こんなにストイックに努力することなんてなかった。正直に言うと今でもルーティンの中じゃ本を読んでいるのが一番好きだし楽しい。ただこの体は前世よりは運動神経が良いので、走ったりするのもつまらなくはない。どっちかと言うと楽しいと言える。
 それに全ては推しのためだからな。推しのためだと思うとどんなことも辛くない。むしろ辛ければ辛いほど愛を試されているようで頑張りたくなる。頑張っている過程が楽しく思えてくる。不思議だよな。

「クロス様に早く会いたいな」

 次に会うのはいつになることやら。クロス様はいつでも俺の胸の中にいるけど、推しのグッズなんてものはないから寂しい。あのメダル、どさくさに紛れて貰っとけばよかった。

***

 そんな生活をして1か月、ある日アデマーさんが俺を隣町に連れて行ってくれることになった。

「おまえが獲った獲物の素材も随分溜まったようだから、そろそろ金に換えたいだろう?」
「俺も一緒に行っていいの?」
「おまえが獲ったんだからおまえが売れ」
「うん!」

 隣町は割と近いところにある。近いと言っても馬車で数時間はかかるところにあるが、城壁の上からは見えるくらいの位置にある。ただし外には獣がいるのでそう簡単に行き来したりはしない。獣を蹴散らすことのできる強い人は別としても、この街に強い人は少ないのでそう頻繁に留守にするわけにはいかない。それに俺たちの街は冒険者ギルドもない小さい街なのでわざわざ訪れる人もいないのだ。

「アデマーさんの売り物ってそんだけなの?」
「ああ、おまえは……ずいぶん多いな」
「毛皮と角がかさばっちゃって。肉は頑張って乾燥させたからそんなに場所を取らないけど」

 アデマーさんが用意してくれたのは軽トラくらいの大きさの馬車だった。彼の荷物は木箱一箱分くらいなのに、俺はそれ以外のスペースを全部占領するくらいの大荷物だ。1か月分の獲物だから仕方がない。毛皮や角、それから風の魔法でかっちかちに乾燥させた干し肉、あとは使えそうな骨とか、それに魔力結晶化した目玉や爪だ。魔力結晶は魔道具の素材になるから他の物より高額で取引されるらしい。

「外へ出る前に注意しとく。俺の指示には絶対に従えよ」
「うん。大丈夫だよ」
「隣町までは止まらずに駆け抜けるが必ず獣が襲ってくる」
「荷物が落ちでも拾っちゃ駄目なんだろ?」
「ああ。馬車の操縦はフェリペに任せて、俺とお前は獣の相手をする。隣町に付くまでずっとだ。おまえは疲れたら休んでもいいが、基本的には休まず戦い続けなきゃならねえ。それと何か事故があった場合、俺やフェリペのことは気にするな。隣町でもこっちでもどっちでもいいから近い方に逃げろ、全力でな」
「事故って例えば?」
「馬車が壊れたり獣の攻撃で横転したり、俺が怪我を負って戦えなくなったり、色々だ」
「うーん、できるかな?」
「おまえなら一人で逃げるくらいはできるだろ。できないってんなら連れて行かないぞ。おまえのことはルフィーナやエルナンドから責任をもって預かってんだから」
「それはできるけど、アデマーさんたちのこと見捨てられないよ、たぶん」
「そういう甘い考えは捨てろ。俺も腕には自信があるし、滅多なことじゃそんな事故は起こらないが、絶対に起こらないってわけじゃない。もしもの時はおまえの命が一番大事なんだ。絶対に逃げると約束しろ」
「……分かったよ」

 アデマーさんの言うことは分かる。そんなリスクを負ってまで俺を隣町へ連れて行ってくれるのだから言うことを聞くべきだ。ただ俺はこの人のことを見捨てられる自信が全然ない。前世ではそんな経験はしたことがなかったから。

「じゃあ、そんなことにならなかったら良いんだよな!」
「絶対はないって言ったろ」
「危険を減らせばいいんだろ?」
「どうやって?」
「俺、特訓したからこのくらいの重さなら浮かせられるよ」

 1か月全力で魔法の練習をした俺は風の力で重い物も運べるようになっていた。その力で馬車をちょっとだけ地面から浮かせて馬に引いてもらえば馬車が壊れるリスクは少なくなりそうだし、もし壊れても浮かせてるから大丈夫だ。そんなことができるなら自分で全部運べばいいと思うかもしれないがそれは違う。浮かせるだけと浮かせて運ぶのとを比べたら浮かせるだけの方が断然楽だ。集中力も少なくて済むし、移動中戦いながら進むことを考えると馬に引いてもらった方が確実に良い。
 俺は早速馬車の荷台の方を少しだけ浮かせて見せた。

「ほら、これなら馬も楽だし車が壊れる心配も減るだろ?」
「移動中は獣の相手をしなきゃならないんだぞ?」
「浮かせるだけだから平気だよ。走るのは馬に任せるし」
「……ああ。たしかにこれなら壊れないかもな。でも群れに出くわしたり強い獣が出たらやっぱり事故は起こるぞ」
「近づく前に仕留めたら良いじゃん」
「火を噴いたり閃光弾を吐いてくるような奴が出たらどうするんだ」
「そんな魔物が出たらさすがに無理かもだけど……この辺にそんなやついるの?」
「いないな」

 アデマーさんは諦めたみたいに溜息を吐いたので、俺は嬉しくなって笑った。甘い考えでいちゃいけないことは分かるけど、アデマーさんを見捨てた俺はクロス様の騎士になれないと思うから。だから、絶対に見捨てない。逃げる時は一緒に逃げるって決めた。

「ハハハ、エルナンドの息子は本当に面白いな」

 御者のフェリペさんは俺たちの会話を聞いて笑った。アデマーさんは父さんより年上の40代くらいのおじさんだけど、フェリペさんはもっと若くて20台後半から30代くらいの青年だ。今回は御者だけどこの人も狩人組合の手練れらしい。時々見張りもしていて、話したことはあんまりないけど顔見知りだ。

「それじゃ、行くぞ」
「俺、屋根に乗っていい? そこなら全方位見えるし、馬車を浮かせやすいから」
「分かった。何かあったらすぐに報告するんだぞ。俺はフェリペの隣で前方を見張る」
「うん」

 俺は弓と矢筒を持って馬車の荷台の屋根に上がった。足はいつものように魔力で固定する。矢にも事前に魔力を流して回収できるようにしておいた。途中で矢がなくなると困るからな。

 そんな感じで臨戦態勢で街を出た俺たちは小一時間で隣町についた。

「……数時間かかるんじゃなかったの?」
「いや、普段はそれくらいかかるぞ」
「レネが馬車を浮かせてくれたおかげで荷が軽かったんだろうな」

 どうやら荷物が軽くなった分早く着いたということらしい。スピードが普段より出ていたせいで近づいてくる獣も少なく、前方の獣をアデマーさんが処理するくらいで俺は全然やることがなかった。そもそも後ろから追いかけてきたり横から飛び出してくる動物は少ないらしい。それでもいないことはなかったので数匹くらいは俺の矢で防いだけどな。

「ま、いっか。それで、どこに売りに行くの?」
「今日は市場の方で露店を出す」
「今日はってことはいつもは違うのか?」
「こういうものを取り扱ってる店に直接売りに行くこともあるし、ここの商業組合に売りに行くこともある」
「けど、最近じゃ俺たちの狩人組合は舐められててな。売る時も足元を見られるんだ」
「へー」
「この街以外で市場がある程大きい街って言やあ、馬車でも数日はかかる距離にしかないからな」
「それに、俺たちの街で獲れるようなものはこの街でも獲れる。仕方ねえことだ」
「同じ街でも市場で売ればもっと高く買ってもらえるかもしれないってこと?」
「そういうことだ。ま、売れ残る可能性の方が高いし賭けみたいなもんだけどな」
「レネはまだ小さいのに賢いな~」
「えへへ」

 フェリペさんが俺の頭を撫でてくれる。前世も含めると俺の方が断然年上なので申し訳ない気分だ。でもこの世界で7歳なのは本当だからな。嘘は吐いてない。
 隣町はレオンと言って平原の中にあり、巨大な城壁で円形に取り囲まれている。前世のファンタジーなゲームやアニメでよく出てきたようなイメージだ。門は大きくて5階建てのビルくらいありそうだし、城壁はもっと高い。そこに兵士が立って街に入る人の検閲をしている。
 俺たちはアデマーさんの身分証明書で入ることができた。アデマーさんは俺たちの街の狩人組合のリーダーなので町長さんから身分証明書を貰っているらしい。みんながそんな証明書を持っているわけじゃないので、お金を払えば身分証明がなくても入ることはできる。ただ、この世界は旅行をするのも大変なので街の行き来をする人間は大抵がそういう特別な証明書を持っているそうだ。
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