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就職
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俺たちは第5騎士団の中央広場に整列して、騎士団長の号令と共に出発した。エカテール大森林は広大な森なので第1、2、4師団とは早い内に進行方向が別れ、第3師団だけの行軍となった。
第3師団だけでも5000の軍隊ではあるが、平原を歩いているとしばしば獣との戦闘になる。狙われるのは端の方の人なので俺は中々戦闘に加われないのがもどかしい。近くだからって隊列を乱して助けに行ったりしたら駄目なんだ。戦ってる人とその周囲の人に任せないと、その人のためにもならないしな。
「けど、やっぱり多いな」
「そうですね……」
すぐ後ろにいるパブロ君と会話する。
元々前世に比べたら断然動物が多いんだけど、それにしても数が増えている。進んでいるのは地平線まで見渡せる平原だ。俺の目にはわざわざ視力強化しなくても地平線まで途切れることなく動物がいるのが見える。しかもこの昼間に目が光っているのまで見えるのだから異常なのは間違いない。目が光っているのは魔力結晶化している証拠であり、動物の中でも強い個体ということになる。
前の方の隊列に巨大な猪が突進してきて悲鳴が上がっている。俺が行くまでもなく周囲の騎士が猪は退治しているが、まだ森林に到着してもいないのに怪我人が出ているのは結構ヤバいんじゃないだろうか。
「大森林まで3日はかかるのに大丈夫でしょうか?」
「うーん、この状況だと今討伐しておかないと皇都も危なかったな」
「たしかにそうかもしれません」
「いつだったか象に襲われて城壁が壊れた街もあったなあ」
「そんなことがあるんですか! まさか皇都も……」
「皇都の城壁なら丈夫だし防衛魔法もかかってるから余程のことじゃ崩れないよ。でもこの勢いだとありえなくもないよね」
城壁がただの石の壁で獣が突進するだけで簡単に崩れたりする地方都市と違い、皇都の城壁は魔法で作り上げた丈夫な鉱石でできている。そのため、魔物と言えど猪が突進したくらいじゃ壊れない。ただ、大軍で襲われるとなると話は別だ。モグラとか鳥とか猿みたいな壁を超えてくる動物もいる。
言ってる傍から俺の足元にモグラが出たので踏みつぶす。
「こいつも目が魔力結晶化してるな。回収したいけど荷物になっちゃうからな~」
「そ、そうですね」
もぐらを地面から引きずり出して見てみるとやはり目が輝いている。俺としては回収して貯金するなり、両親に仕送りするなりしたいが、行軍中に荷物を増やすのは推奨されない。特に今回はこれから森に行くわけで、食料ならともかく魔力結晶は荷物になるだけだ。獣にはこれから散々出会いそうだし。
俺が名残惜しそうにしているのを見てパブロ君も引いている。パブロ君は皇都の人だから元々お金持ちなんだろうな。
俺は行軍の邪魔にならないようモグラを遠くへ放り投げた。こうしておけば、周囲の獣も多少はそっちへ気を取られて俺たちが進みやすくなるだろう。
結局、普通は3日かかる距離を5日かかって到着した。獣が多すぎて思ったように進めなかったのだ。しかも夜は交代で見張りをしながらの行軍であるため、既に疲弊している騎士もいる。鍛え方が足りないと言われればその通りだ。そんな騎士たちは他の中隊長や大隊長に叱責されていたりする。
俺の中隊にはそういう人がいない様子なので助かった。もしいたら俺が叱らなきゃいけないところだった。そんなことになったらこれからの任務で気まずくなる。いつかはしなきゃいけないことなのは分かってるけど、初任務なのにそこまで気を使いたくない。
「みんなが優秀で助かるよ」
「ハハハ」
俺の隊は訓練の時も毎回先行部隊になってたから他の隊より過酷な状況に慣れているのかな。みんな周囲を見て苦笑いしている。俺としては行軍で疲れてしまう気持ちも分かるんだけどな。
俺たちはまず森から少し離れたところに拠点を作った。師団長はそこに残って情報収集や指揮を行うらしい。拠点の護衛として第1大隊が残り、他の9大隊は森に向かう。それぞれの大隊は場所を少しずつ離して別々の場所から森へ侵入することになる。
この世界の森にはあえて入る人が少ないので道ができていたりはしない。だから馬も進めないほど険しく狭い空間を進むことになる。正しく言うと馬だけなら入れるが馬に乗った人は木々や草に阻まれたりしてまともに進めない。森と言うかジャングルに近いイメージだ。
「頼んだぞ、レネ中隊長」
「はい、お任せください」
ナシオ大隊長に声をかけられ敬礼した。この国では左腕を後ろに回し右腕を胸の前に持ってきて掌を相手に見せるように掲げるのが敬礼の方法になる。ちょっとカッコいいので敬礼するのも楽しいし気合が入る。
俺は早速魔法で自分に身体強化を施し、俺の中隊のみんなにも自分の魔力でアンカーを付けた。これで誰かが隊列を離れてもすぐに分かる。それから探知魔法の距離を広げておく。森の奥から何かが突進してきても対処できるように備えるためだ。
ちなみに、探知魔法は子供の頃に見た風魔法の基本的なやつじゃなくて風と火の魔法を組み合わせたオリジナルだ。風の魔法で形を捕らえて火の魔法で温度を感知、それを可視化して視界に投影できているようにしている。と言っても、俺の頭の中で見えている映像に処理を加えているだけで、他の人には見えない。他の人に見せるにはまた違う魔法が必要で面倒なのだ。
「よーし、みんな! 出発するけど、もうすぐそこから物凄い数の獣がいるし、ちょっと待ってて」
「レネ隊長?!」
「俺がつついたらまた獣が溢れてくると思うし、出てきたやつはみんなの方で頼むよ」
「了解しました!」
俺は一先ず隊のみんなに声をかけて一人で先行した。探知してみると森に入ってすぐの場所からおびただしい数の獣がいてとてもじゃないが進める状況じゃなかったからだ。森の周囲は一先ずみんなで討伐したために獣の姿がなくなったように見える。が、森の中には依然として大量の獣が待っていた。
襲ってくる獣の種類はゲーム通り、猪、もぐら、赤い鳥、でっかいミミズ、それから虎だった。たぶん、もっと小さい獣もいるが大発生しているのがこの種類なんだろうと思う。俺としては行軍の妨げになりそうなのは空から来る鳥かなと思ったので、他の獣は蹴ったり避けたりしておいて弓で鳥を集中的に狙った。この鳥は赤い色をしているくせに水鉄砲を打ってくる地味に面倒な敵なのだ。
ちなみにこの弓は大人になって自分で購入した弓だ。矢も何度も使えるように特別丈夫な素材で作ってもらっている。矢には魔力を込めていて放った後で勝手に戻ってくるようにしてあるから、赤い鳥くらいなら貫通しUターンして戻ってきてくれる。魔法って本当に便利だ。
「とりあえずこんなもんか」
俺は100メートルくらい進んで、襲ってくる獣がいなくなったところで入口へ戻った。森から出て見るとやはり俺に刺激されて溢れた獣がみんなに討伐されたのだろう。多くの死骸が転がっている。
「ただいま。みんな平気か?」
「隊長! この数は尋常じゃありませんよ。隊長こそ平気だったんですか?」
「俺はこの通り平気だよ。獣の種類も情報通りだし、落ち着いて対処すれば大丈夫だ」
俺は弓を背中に背負って、今度は剣を抜いた。この剣もみんなが持ってる騎士団支給の剣ではなくて私物だ。実はあれから仲良くなったウージェン様が紹介してくれた有名な鍛冶屋さんに注文して作ってもらったものである。白く輝く剣身に赤い魔力結晶が散りばめられていてめちゃくちゃ格好いい。でも飾りじゃなくてちゃんと実用性がある剣だ。
ちなみに騎士団では私物の武器を持ち込むことも許可されている。もちろんそういう時はちゃんと申請することになっているから俺の武器も申請済みだ。
「それじゃ行くぞ。事前に言ったけど、前から来るやつは俺が止めるから、みんなは横とそれから空から来る赤い鳥に気を付けて。あと、俺は走るけど、みんなはペースを守って真っすぐ進むように」
「隊長はまた先行されるのですか」
「いや、前から来る奴を事前に止めるために走るだけで、処理したらみんなが見えるところまで戻ってくるから」
俺は自分の隊に説明をして、通信機に手を当てた。
「第31中隊、出発します」
『第7大隊ナシオ、了解』
『第32中隊、第31中隊に追従します』
『第33中隊、第32中隊に追従します』
『第34中隊、第32中隊に同行します』
『第35中隊、第33中隊に同行します』
通信機から大隊長と他の隊の中隊長の返答が聞こえてくる。第7大隊は500人程度の集団だからわざわざ通信機を使わなくても今は見えるんだけどな。まあ、森の中に入ったら見えなくなるし、通信機は必要だ。
入ってすぐのところは俺が掃除したので隊列を乱さずスムーズに進むことができた。木や背の高い草が生えており、俺が倒した獣も転がっているのでみんな歩きにくそうにはしている。
「一先ず、みんなで進むことはできそうだな」
最初に暴れたのが威嚇になったのか思ったよりもスムーズに森へ侵入できていた。掃除したと言っても100メートルほどの範囲なのですぐに獣とは遭遇するものの、一撃で沈められる範囲の強さであり進めないほどじゃない。後ろのみんなも隊列を組んで交代しながら戦っており、余裕がありそうだった。
そんな時、ナシオ大隊長から通信が入った。
『第7大隊ナシオから第31中隊へ、状況を報告しろ』
「第31中隊、問題ありません」
『本当に問題ないか』
「獣は多いですが問題なく進めます」
『他の大隊は撤退を始めているそうだが本当に大丈夫か』
「でしたらチャンスですね。この辺りは獣が少ないのかもしれません。我々だけでも深部へ向かいましょう」
『第31中隊、待て。確認するが本当に問題なく進めるか』
「第31中隊、問題ありません。今のところ怪我人もありません。この数の獣ですから森の奥に何かある可能性があります。進めるところまでは行って確かめるべきかと」
『分かった。だがこれ以上状況が悪くなるようであればすぐに報告しろ。そうなれば我々も一旦撤退する』
「第31中隊、了解しました。このまま進軍します」
まだ森へ入って1時間も経っていない。にもかかわらず、どうやら獣が多すぎて撤退を始めている大隊があるようだ。ひょっとすると獣の分布に偏りがあるのかもしれない。その辺りは運だ。ゲームでも序盤から休みなくエンカウントすることもあればスムーズに進むこともあった。
俺たちの進行方向には処理できる程度の獣しかいない。これはチャンスだ。ナシオ大隊長は知らないだろうが森を進むと獣たちを活性化している巨大な魔力結晶が見つかる。それを破壊するのがゲーム最初のイベントの攻略条件なのだ。俺はなんとかしてそこまで行かなければならない。撤退の指示を出される前にそこまでたどり着いて結晶を破壊するのだ。
しかし、ナシオ大隊長は本当に優しくていい上司だ。彼は状況判断においては実に正確でどんな過酷な状況からも生還することで有名だ。今だって頻りに俺の隊の状況を確認して、少しでも危険があれば撤退すると言ってくれていた。戦って死ぬより生きて再挑戦する方が良いに決まっている。あの言い方だとまるでナシオ大隊長がビビっているようにすら聞こえるが、そうじゃない。俺が張り切って先走り過ぎて死ぬかもしれないって心配してくれているんだと思う。俺みたいな奴には多少大袈裟にきつく言わないと伝わらないと思ってあえてあんな言い方をしてくれているのだ。
ゲームの世界だからなのか、この世界って本当に良い人が多いんだよな。俺はあくまでクロス様のためにここにいるつもりだけど、こんなに良い人ばっかりだとますます頑張りたくなっちゃうよな。
俺は良い気分で、突進してきた猪を真っ二つにした。この剣はよく切れるし魔力も通りやすくて使いやすい。今は風をまとわせているので切った獲物の血と油で切れ味が悪くなることもない。買ってよかった。
「なんか急に獣が減ったな」
進んでいる内に前方からの獣が少なくなってきた。後ろの方ではみんなが戦っている音や声が聞こえるが前の方は探知にも獣が引っかからない。俺は剣を収めて弓に持ち替えた。前から来ないなら好都合だ。みんなの援護をしながら進める。
「一番多いところを抜けたのかな?」
「そう、でしょうか?」
余裕が出てきたのでパブロ君に話しかけた。緊張した面持ちで周囲を窺っている彼を振り向いた途端、その更に後ろの方で巨大ミミズが地面から出現した。俺はそれを矢で射って後方の騎士たちの援護をしつつ会話を続ける。
「ともかく、まだ撤退はしなくて良さそうだよな」
「俺にはなんとも」
「探知しても前の方には何にもいないんだ。他の大隊の方に集中してるのかもな」
「そうかもしれないですね」
結局、その日は撤退せず森の中で1泊することになった。全員木に登ってそこで寝ることになる。熟睡すると危ないので警戒しつつウトウトする感じだ。俺の場合、どうしても眠い時は他の方法で安全を確保して寝ることにしている。今日は部下のみんながいるからウトウトするだけで我慢だ。
次の日、日が昇り次第、補給隊から水と食料を貰ってすぐに出発した。夜の内にも獣の襲撃があり、みんな疲れ始めている。帰りのことも考えると今日の内に目的の魔力結晶を見つけたい。
ただ、問題はエカテール大森林の広さだ。ゲームでは最序盤のイベントなのでそれほど奥の方に行かなくても良かった。元のゲームがオープンワールドで森の雰囲気も現実と似ていて大体の場所は把握している。でもほら、ゲームの森の広さと現実の森の広さって縮尺が違うじゃん? 俺的にはこの辺かなって辺りに向かっているつもりでも、実際に上手くいっているとは限らない。
だから、木に登って上からの景色でも確認してはいる。見渡す限り森だけどな。なんとなく森の外周の形とかで分かるかと思って。
「隊長、どうですか?」
「別に変なものは見えないよ」
木から降りてくると森の状況を確認していたと勘違いしたのだろうパブロ君が声をかけてくる。森に入って2日目の行軍は初日より順調だ。襲ってくる獣は初日の勢い程じゃない。感覚的に森の奥の方が多そうに思うけど、実際は入り口付近の方がもっと獣が密集していた。前世とは違って人を襲う魔物だからだろうか。森の奥に潜むより、森から出て人を襲う方に特化しているのかもしれない。
『第7大隊ナシオから第31中隊へ、問題ないか』
「第31中隊、問題ありません」
2日目はナシオ大隊長からの連絡が密になった。返答するのもちょっと面倒なくらいだ。森に入って2日目だし、ここから撤退するとなっても簡単にはいかないから慎重になっているのだろう。やっぱり上に立つ人はこれくらいでなきゃいけないんだろうな。状況判断一つで部下が全滅する可能性もあるんだ。
俺は気を引き締めて、改めて広範囲を探知した。これで目標が引っかからなければ一度戻った方が良いかもしれないと思ったのだ。位置的にこれ以上深い場所にはないはずだから。
「! あった!」
「隊長?」
「全体! 進軍止め!」
俺はもう一度木に登って探知した場所を確認した。木の葉に阻まれて見えないけれど、探知しているから分かる。確実に『いる』と。
俺はすぐにナシオ大隊長へ報告した。
「第31中隊から第7大隊ナシオ大隊長へ、報告します」
『第7大隊ナシオ、聞こう』
「進行方向やや左前方に開けた場所を確認。そこに強力な個体を感知しました」
『対処可能なのか』
「第31中隊で先行し対処可能と判断します。その他はこの場で待機してください」
『第7大隊ナシオ、第31中隊の先行を許可する。その他はこの場で待機』
「第31中隊、了解しました」
他の中隊長の『待機します』という返答を聞いてから俺の隊は進軍を再開した。俺はみんなに弓へ持ち替えるよう命令してある。この先には例の魔力結晶があり、そしてそれを守る最初のラスボスと相見えることになるからだ。
「た、隊長……あれは?」
「虎だな」
「あんな巨大なの見たことがありませんが」
「猪じゃなくてよかったな。普通の矢が通る」
「で、ですね」
ラスボスの虎は魔力結晶が置いてある場所の手前の広場に陣取って人の通行を阻害している。奴を倒さないと魔力結晶が置いてあることすら分からない。ゲームの知識がなければあえて近づこうとも思わないほどでかい虎だ。この世界の虎は元々大きいけど、ラスボスにもなると更に数倍大きい。頭が大人の身長の2倍くらいの位置にある。
俺は隊のみんなを広場の手前の森の中で左右に展開させ、矢を射かけるように指示した。
「構え……撃て!」
声と身振りで命令し、矢が射かけられた一瞬後で俺も広場に飛び出す。虎が咆哮してびりびりと空気が震え、射かけられた矢が吹き飛んだ。
「隊長!!」
俺を呼ぶ声が聞こえた時、俺は既に口を開けた虎の眼前にいた。このために矢を射かけたのだ。このラスボスは咆哮した後で口の中を攻撃するのが一番ダメージを与えられる。俺は事前にありったけの魔力を込めておいた剣を口の中へ突き刺した。と言うか、ぶん投げた形に近い。でかすぎて、突き刺すと俺の手まで口の中に入ってしまう。間違っても食われるのは避けたかった。
「うお、意外と柔らかいな!」
ラスボスなので堅さを警戒していたのだが、俺の剣はなんなく虎の口内から後頭部へ突き抜けてその勢いのまま真っすぐ空中へ飛んでいく。俺は慌てて魔法を使い、剣を引き戻した。
一瞬のことだったので虎もすぐには倒れず、口を閉じて俺に向かって右前足を持ち上げるところまでは動いた。が、そのまま横へぶっ倒れてしまう。地面が軽く揺れた。
念のため、息を確認したところちゃんと死んでいた。序盤のラスボスだからこんなものだろう。気合を入れすぎたのかもしれない。
「おーい、もういいよー」
森の中で静かに見守っているみんなに向かって手を振った。みんなは恐る恐ると言った様子でゆっくり近づいてくる。その間に、ナシオ大隊長にも連絡を取り他の中隊にも広場へ来てもらった。
「これは……凄まじいな」
「ナシオ大隊長、実は奥に気になるものもあるんです」
「気になるもの?」
俺は虎の大きさに驚いているナシオ大隊長を広場の奥にある岩の前まで案内した。
「この岩がどうした?」
「見ててください」
一見ただの岩に偽装されているが、暫く見ていると違うことが分かる。ナシオ大隊長と岩を見つめて数秒、突然岩が震え中央から獣が飛び出してくる。
「な!?」
驚くナシオ大隊長に代わり俺がその獣を切って処理した。出てきたのはモグラだった。一定時間待つとまた岩が震えて違う獣が飛び出してくる。今度は赤い鳥だ。
「なんだこの岩は? 獣を生み出しているというのか?」
「恐らく特殊な魔道具か魔力結晶かと思われます。調査のため持ち帰るにしてもこのままでは危険なので一先ず壊そうかと思うのですが」
「そうだな……いや、待て。一旦、上に確認する」
ナシオ大隊長は一瞬混乱した様子を見せ、しかしすぐに冷静になって師団長に報告し始めた。そのままにしておけって言われたらどうしよう。ゲーム的には壊すのが通常の流れだし、獣が出てくる岩を運びながら森の中を進むのはさすがに嫌だ。
とか思っていたら、あっさり壊す許可が出たのでホッとした。
「レネ中隊長、やれるか?」
「はい」
許可を得て剣で岩を二つに割る。すると断面は綺麗な透明の結晶になっており、表面だけが岩に偽装されたものだと分かった。
「これは一体……」
「分かりませんが魔法省で調べてもらうのが良いのではないでしょうか」
「しかし、この大きさのものを持ち帰るとなると」
「俺が運びます」
俺は使い慣れた風の魔法で二つになった岩を持ち上げて見せた。
「レネ中隊長には帰りも先行してもらわなければならない。その状態で戦えるのか?」
「問題ありません」
「集中力が切れて上から岩が降ってくるなんて事態はごめんだぞ」
「ご心配でしたら俺だけ先に」
「いや、できるのならそれでいい。すぐに帰還しよう」
「了解しました」
と言うわけで、俺は二つの岩を木よりも高い位置に浮かせて運びながら行きと同じように隊を先行して帰還した。俺の隊は魔法が不得意な人が多いのでこれをやるとみんな驚いてくれる。ゲームでは職業を騎士にすると覚えられる魔法が少なくなった。この世界の騎士も魔法が不得意な人が多いのだろう。俺にチートはないが、魔法が得意なことだけは良かったと思っている。
行きと同じように帰還にも2日かかった。ただ、報告を聞いた師団長が迎えを寄こしてくれたので行きよりは楽に帰還することができた。本当にこの世界の上司には恵まれていると思った。
第3師団だけでも5000の軍隊ではあるが、平原を歩いているとしばしば獣との戦闘になる。狙われるのは端の方の人なので俺は中々戦闘に加われないのがもどかしい。近くだからって隊列を乱して助けに行ったりしたら駄目なんだ。戦ってる人とその周囲の人に任せないと、その人のためにもならないしな。
「けど、やっぱり多いな」
「そうですね……」
すぐ後ろにいるパブロ君と会話する。
元々前世に比べたら断然動物が多いんだけど、それにしても数が増えている。進んでいるのは地平線まで見渡せる平原だ。俺の目にはわざわざ視力強化しなくても地平線まで途切れることなく動物がいるのが見える。しかもこの昼間に目が光っているのまで見えるのだから異常なのは間違いない。目が光っているのは魔力結晶化している証拠であり、動物の中でも強い個体ということになる。
前の方の隊列に巨大な猪が突進してきて悲鳴が上がっている。俺が行くまでもなく周囲の騎士が猪は退治しているが、まだ森林に到着してもいないのに怪我人が出ているのは結構ヤバいんじゃないだろうか。
「大森林まで3日はかかるのに大丈夫でしょうか?」
「うーん、この状況だと今討伐しておかないと皇都も危なかったな」
「たしかにそうかもしれません」
「いつだったか象に襲われて城壁が壊れた街もあったなあ」
「そんなことがあるんですか! まさか皇都も……」
「皇都の城壁なら丈夫だし防衛魔法もかかってるから余程のことじゃ崩れないよ。でもこの勢いだとありえなくもないよね」
城壁がただの石の壁で獣が突進するだけで簡単に崩れたりする地方都市と違い、皇都の城壁は魔法で作り上げた丈夫な鉱石でできている。そのため、魔物と言えど猪が突進したくらいじゃ壊れない。ただ、大軍で襲われるとなると話は別だ。モグラとか鳥とか猿みたいな壁を超えてくる動物もいる。
言ってる傍から俺の足元にモグラが出たので踏みつぶす。
「こいつも目が魔力結晶化してるな。回収したいけど荷物になっちゃうからな~」
「そ、そうですね」
もぐらを地面から引きずり出して見てみるとやはり目が輝いている。俺としては回収して貯金するなり、両親に仕送りするなりしたいが、行軍中に荷物を増やすのは推奨されない。特に今回はこれから森に行くわけで、食料ならともかく魔力結晶は荷物になるだけだ。獣にはこれから散々出会いそうだし。
俺が名残惜しそうにしているのを見てパブロ君も引いている。パブロ君は皇都の人だから元々お金持ちなんだろうな。
俺は行軍の邪魔にならないようモグラを遠くへ放り投げた。こうしておけば、周囲の獣も多少はそっちへ気を取られて俺たちが進みやすくなるだろう。
結局、普通は3日かかる距離を5日かかって到着した。獣が多すぎて思ったように進めなかったのだ。しかも夜は交代で見張りをしながらの行軍であるため、既に疲弊している騎士もいる。鍛え方が足りないと言われればその通りだ。そんな騎士たちは他の中隊長や大隊長に叱責されていたりする。
俺の中隊にはそういう人がいない様子なので助かった。もしいたら俺が叱らなきゃいけないところだった。そんなことになったらこれからの任務で気まずくなる。いつかはしなきゃいけないことなのは分かってるけど、初任務なのにそこまで気を使いたくない。
「みんなが優秀で助かるよ」
「ハハハ」
俺の隊は訓練の時も毎回先行部隊になってたから他の隊より過酷な状況に慣れているのかな。みんな周囲を見て苦笑いしている。俺としては行軍で疲れてしまう気持ちも分かるんだけどな。
俺たちはまず森から少し離れたところに拠点を作った。師団長はそこに残って情報収集や指揮を行うらしい。拠点の護衛として第1大隊が残り、他の9大隊は森に向かう。それぞれの大隊は場所を少しずつ離して別々の場所から森へ侵入することになる。
この世界の森にはあえて入る人が少ないので道ができていたりはしない。だから馬も進めないほど険しく狭い空間を進むことになる。正しく言うと馬だけなら入れるが馬に乗った人は木々や草に阻まれたりしてまともに進めない。森と言うかジャングルに近いイメージだ。
「頼んだぞ、レネ中隊長」
「はい、お任せください」
ナシオ大隊長に声をかけられ敬礼した。この国では左腕を後ろに回し右腕を胸の前に持ってきて掌を相手に見せるように掲げるのが敬礼の方法になる。ちょっとカッコいいので敬礼するのも楽しいし気合が入る。
俺は早速魔法で自分に身体強化を施し、俺の中隊のみんなにも自分の魔力でアンカーを付けた。これで誰かが隊列を離れてもすぐに分かる。それから探知魔法の距離を広げておく。森の奥から何かが突進してきても対処できるように備えるためだ。
ちなみに、探知魔法は子供の頃に見た風魔法の基本的なやつじゃなくて風と火の魔法を組み合わせたオリジナルだ。風の魔法で形を捕らえて火の魔法で温度を感知、それを可視化して視界に投影できているようにしている。と言っても、俺の頭の中で見えている映像に処理を加えているだけで、他の人には見えない。他の人に見せるにはまた違う魔法が必要で面倒なのだ。
「よーし、みんな! 出発するけど、もうすぐそこから物凄い数の獣がいるし、ちょっと待ってて」
「レネ隊長?!」
「俺がつついたらまた獣が溢れてくると思うし、出てきたやつはみんなの方で頼むよ」
「了解しました!」
俺は一先ず隊のみんなに声をかけて一人で先行した。探知してみると森に入ってすぐの場所からおびただしい数の獣がいてとてもじゃないが進める状況じゃなかったからだ。森の周囲は一先ずみんなで討伐したために獣の姿がなくなったように見える。が、森の中には依然として大量の獣が待っていた。
襲ってくる獣の種類はゲーム通り、猪、もぐら、赤い鳥、でっかいミミズ、それから虎だった。たぶん、もっと小さい獣もいるが大発生しているのがこの種類なんだろうと思う。俺としては行軍の妨げになりそうなのは空から来る鳥かなと思ったので、他の獣は蹴ったり避けたりしておいて弓で鳥を集中的に狙った。この鳥は赤い色をしているくせに水鉄砲を打ってくる地味に面倒な敵なのだ。
ちなみにこの弓は大人になって自分で購入した弓だ。矢も何度も使えるように特別丈夫な素材で作ってもらっている。矢には魔力を込めていて放った後で勝手に戻ってくるようにしてあるから、赤い鳥くらいなら貫通しUターンして戻ってきてくれる。魔法って本当に便利だ。
「とりあえずこんなもんか」
俺は100メートルくらい進んで、襲ってくる獣がいなくなったところで入口へ戻った。森から出て見るとやはり俺に刺激されて溢れた獣がみんなに討伐されたのだろう。多くの死骸が転がっている。
「ただいま。みんな平気か?」
「隊長! この数は尋常じゃありませんよ。隊長こそ平気だったんですか?」
「俺はこの通り平気だよ。獣の種類も情報通りだし、落ち着いて対処すれば大丈夫だ」
俺は弓を背中に背負って、今度は剣を抜いた。この剣もみんなが持ってる騎士団支給の剣ではなくて私物だ。実はあれから仲良くなったウージェン様が紹介してくれた有名な鍛冶屋さんに注文して作ってもらったものである。白く輝く剣身に赤い魔力結晶が散りばめられていてめちゃくちゃ格好いい。でも飾りじゃなくてちゃんと実用性がある剣だ。
ちなみに騎士団では私物の武器を持ち込むことも許可されている。もちろんそういう時はちゃんと申請することになっているから俺の武器も申請済みだ。
「それじゃ行くぞ。事前に言ったけど、前から来るやつは俺が止めるから、みんなは横とそれから空から来る赤い鳥に気を付けて。あと、俺は走るけど、みんなはペースを守って真っすぐ進むように」
「隊長はまた先行されるのですか」
「いや、前から来る奴を事前に止めるために走るだけで、処理したらみんなが見えるところまで戻ってくるから」
俺は自分の隊に説明をして、通信機に手を当てた。
「第31中隊、出発します」
『第7大隊ナシオ、了解』
『第32中隊、第31中隊に追従します』
『第33中隊、第32中隊に追従します』
『第34中隊、第32中隊に同行します』
『第35中隊、第33中隊に同行します』
通信機から大隊長と他の隊の中隊長の返答が聞こえてくる。第7大隊は500人程度の集団だからわざわざ通信機を使わなくても今は見えるんだけどな。まあ、森の中に入ったら見えなくなるし、通信機は必要だ。
入ってすぐのところは俺が掃除したので隊列を乱さずスムーズに進むことができた。木や背の高い草が生えており、俺が倒した獣も転がっているのでみんな歩きにくそうにはしている。
「一先ず、みんなで進むことはできそうだな」
最初に暴れたのが威嚇になったのか思ったよりもスムーズに森へ侵入できていた。掃除したと言っても100メートルほどの範囲なのですぐに獣とは遭遇するものの、一撃で沈められる範囲の強さであり進めないほどじゃない。後ろのみんなも隊列を組んで交代しながら戦っており、余裕がありそうだった。
そんな時、ナシオ大隊長から通信が入った。
『第7大隊ナシオから第31中隊へ、状況を報告しろ』
「第31中隊、問題ありません」
『本当に問題ないか』
「獣は多いですが問題なく進めます」
『他の大隊は撤退を始めているそうだが本当に大丈夫か』
「でしたらチャンスですね。この辺りは獣が少ないのかもしれません。我々だけでも深部へ向かいましょう」
『第31中隊、待て。確認するが本当に問題なく進めるか』
「第31中隊、問題ありません。今のところ怪我人もありません。この数の獣ですから森の奥に何かある可能性があります。進めるところまでは行って確かめるべきかと」
『分かった。だがこれ以上状況が悪くなるようであればすぐに報告しろ。そうなれば我々も一旦撤退する』
「第31中隊、了解しました。このまま進軍します」
まだ森へ入って1時間も経っていない。にもかかわらず、どうやら獣が多すぎて撤退を始めている大隊があるようだ。ひょっとすると獣の分布に偏りがあるのかもしれない。その辺りは運だ。ゲームでも序盤から休みなくエンカウントすることもあればスムーズに進むこともあった。
俺たちの進行方向には処理できる程度の獣しかいない。これはチャンスだ。ナシオ大隊長は知らないだろうが森を進むと獣たちを活性化している巨大な魔力結晶が見つかる。それを破壊するのがゲーム最初のイベントの攻略条件なのだ。俺はなんとかしてそこまで行かなければならない。撤退の指示を出される前にそこまでたどり着いて結晶を破壊するのだ。
しかし、ナシオ大隊長は本当に優しくていい上司だ。彼は状況判断においては実に正確でどんな過酷な状況からも生還することで有名だ。今だって頻りに俺の隊の状況を確認して、少しでも危険があれば撤退すると言ってくれていた。戦って死ぬより生きて再挑戦する方が良いに決まっている。あの言い方だとまるでナシオ大隊長がビビっているようにすら聞こえるが、そうじゃない。俺が張り切って先走り過ぎて死ぬかもしれないって心配してくれているんだと思う。俺みたいな奴には多少大袈裟にきつく言わないと伝わらないと思ってあえてあんな言い方をしてくれているのだ。
ゲームの世界だからなのか、この世界って本当に良い人が多いんだよな。俺はあくまでクロス様のためにここにいるつもりだけど、こんなに良い人ばっかりだとますます頑張りたくなっちゃうよな。
俺は良い気分で、突進してきた猪を真っ二つにした。この剣はよく切れるし魔力も通りやすくて使いやすい。今は風をまとわせているので切った獲物の血と油で切れ味が悪くなることもない。買ってよかった。
「なんか急に獣が減ったな」
進んでいる内に前方からの獣が少なくなってきた。後ろの方ではみんなが戦っている音や声が聞こえるが前の方は探知にも獣が引っかからない。俺は剣を収めて弓に持ち替えた。前から来ないなら好都合だ。みんなの援護をしながら進める。
「一番多いところを抜けたのかな?」
「そう、でしょうか?」
余裕が出てきたのでパブロ君に話しかけた。緊張した面持ちで周囲を窺っている彼を振り向いた途端、その更に後ろの方で巨大ミミズが地面から出現した。俺はそれを矢で射って後方の騎士たちの援護をしつつ会話を続ける。
「ともかく、まだ撤退はしなくて良さそうだよな」
「俺にはなんとも」
「探知しても前の方には何にもいないんだ。他の大隊の方に集中してるのかもな」
「そうかもしれないですね」
結局、その日は撤退せず森の中で1泊することになった。全員木に登ってそこで寝ることになる。熟睡すると危ないので警戒しつつウトウトする感じだ。俺の場合、どうしても眠い時は他の方法で安全を確保して寝ることにしている。今日は部下のみんながいるからウトウトするだけで我慢だ。
次の日、日が昇り次第、補給隊から水と食料を貰ってすぐに出発した。夜の内にも獣の襲撃があり、みんな疲れ始めている。帰りのことも考えると今日の内に目的の魔力結晶を見つけたい。
ただ、問題はエカテール大森林の広さだ。ゲームでは最序盤のイベントなのでそれほど奥の方に行かなくても良かった。元のゲームがオープンワールドで森の雰囲気も現実と似ていて大体の場所は把握している。でもほら、ゲームの森の広さと現実の森の広さって縮尺が違うじゃん? 俺的にはこの辺かなって辺りに向かっているつもりでも、実際に上手くいっているとは限らない。
だから、木に登って上からの景色でも確認してはいる。見渡す限り森だけどな。なんとなく森の外周の形とかで分かるかと思って。
「隊長、どうですか?」
「別に変なものは見えないよ」
木から降りてくると森の状況を確認していたと勘違いしたのだろうパブロ君が声をかけてくる。森に入って2日目の行軍は初日より順調だ。襲ってくる獣は初日の勢い程じゃない。感覚的に森の奥の方が多そうに思うけど、実際は入り口付近の方がもっと獣が密集していた。前世とは違って人を襲う魔物だからだろうか。森の奥に潜むより、森から出て人を襲う方に特化しているのかもしれない。
『第7大隊ナシオから第31中隊へ、問題ないか』
「第31中隊、問題ありません」
2日目はナシオ大隊長からの連絡が密になった。返答するのもちょっと面倒なくらいだ。森に入って2日目だし、ここから撤退するとなっても簡単にはいかないから慎重になっているのだろう。やっぱり上に立つ人はこれくらいでなきゃいけないんだろうな。状況判断一つで部下が全滅する可能性もあるんだ。
俺は気を引き締めて、改めて広範囲を探知した。これで目標が引っかからなければ一度戻った方が良いかもしれないと思ったのだ。位置的にこれ以上深い場所にはないはずだから。
「! あった!」
「隊長?」
「全体! 進軍止め!」
俺はもう一度木に登って探知した場所を確認した。木の葉に阻まれて見えないけれど、探知しているから分かる。確実に『いる』と。
俺はすぐにナシオ大隊長へ報告した。
「第31中隊から第7大隊ナシオ大隊長へ、報告します」
『第7大隊ナシオ、聞こう』
「進行方向やや左前方に開けた場所を確認。そこに強力な個体を感知しました」
『対処可能なのか』
「第31中隊で先行し対処可能と判断します。その他はこの場で待機してください」
『第7大隊ナシオ、第31中隊の先行を許可する。その他はこの場で待機』
「第31中隊、了解しました」
他の中隊長の『待機します』という返答を聞いてから俺の隊は進軍を再開した。俺はみんなに弓へ持ち替えるよう命令してある。この先には例の魔力結晶があり、そしてそれを守る最初のラスボスと相見えることになるからだ。
「た、隊長……あれは?」
「虎だな」
「あんな巨大なの見たことがありませんが」
「猪じゃなくてよかったな。普通の矢が通る」
「で、ですね」
ラスボスの虎は魔力結晶が置いてある場所の手前の広場に陣取って人の通行を阻害している。奴を倒さないと魔力結晶が置いてあることすら分からない。ゲームの知識がなければあえて近づこうとも思わないほどでかい虎だ。この世界の虎は元々大きいけど、ラスボスにもなると更に数倍大きい。頭が大人の身長の2倍くらいの位置にある。
俺は隊のみんなを広場の手前の森の中で左右に展開させ、矢を射かけるように指示した。
「構え……撃て!」
声と身振りで命令し、矢が射かけられた一瞬後で俺も広場に飛び出す。虎が咆哮してびりびりと空気が震え、射かけられた矢が吹き飛んだ。
「隊長!!」
俺を呼ぶ声が聞こえた時、俺は既に口を開けた虎の眼前にいた。このために矢を射かけたのだ。このラスボスは咆哮した後で口の中を攻撃するのが一番ダメージを与えられる。俺は事前にありったけの魔力を込めておいた剣を口の中へ突き刺した。と言うか、ぶん投げた形に近い。でかすぎて、突き刺すと俺の手まで口の中に入ってしまう。間違っても食われるのは避けたかった。
「うお、意外と柔らかいな!」
ラスボスなので堅さを警戒していたのだが、俺の剣はなんなく虎の口内から後頭部へ突き抜けてその勢いのまま真っすぐ空中へ飛んでいく。俺は慌てて魔法を使い、剣を引き戻した。
一瞬のことだったので虎もすぐには倒れず、口を閉じて俺に向かって右前足を持ち上げるところまでは動いた。が、そのまま横へぶっ倒れてしまう。地面が軽く揺れた。
念のため、息を確認したところちゃんと死んでいた。序盤のラスボスだからこんなものだろう。気合を入れすぎたのかもしれない。
「おーい、もういいよー」
森の中で静かに見守っているみんなに向かって手を振った。みんなは恐る恐ると言った様子でゆっくり近づいてくる。その間に、ナシオ大隊長にも連絡を取り他の中隊にも広場へ来てもらった。
「これは……凄まじいな」
「ナシオ大隊長、実は奥に気になるものもあるんです」
「気になるもの?」
俺は虎の大きさに驚いているナシオ大隊長を広場の奥にある岩の前まで案内した。
「この岩がどうした?」
「見ててください」
一見ただの岩に偽装されているが、暫く見ていると違うことが分かる。ナシオ大隊長と岩を見つめて数秒、突然岩が震え中央から獣が飛び出してくる。
「な!?」
驚くナシオ大隊長に代わり俺がその獣を切って処理した。出てきたのはモグラだった。一定時間待つとまた岩が震えて違う獣が飛び出してくる。今度は赤い鳥だ。
「なんだこの岩は? 獣を生み出しているというのか?」
「恐らく特殊な魔道具か魔力結晶かと思われます。調査のため持ち帰るにしてもこのままでは危険なので一先ず壊そうかと思うのですが」
「そうだな……いや、待て。一旦、上に確認する」
ナシオ大隊長は一瞬混乱した様子を見せ、しかしすぐに冷静になって師団長に報告し始めた。そのままにしておけって言われたらどうしよう。ゲーム的には壊すのが通常の流れだし、獣が出てくる岩を運びながら森の中を進むのはさすがに嫌だ。
とか思っていたら、あっさり壊す許可が出たのでホッとした。
「レネ中隊長、やれるか?」
「はい」
許可を得て剣で岩を二つに割る。すると断面は綺麗な透明の結晶になっており、表面だけが岩に偽装されたものだと分かった。
「これは一体……」
「分かりませんが魔法省で調べてもらうのが良いのではないでしょうか」
「しかし、この大きさのものを持ち帰るとなると」
「俺が運びます」
俺は使い慣れた風の魔法で二つになった岩を持ち上げて見せた。
「レネ中隊長には帰りも先行してもらわなければならない。その状態で戦えるのか?」
「問題ありません」
「集中力が切れて上から岩が降ってくるなんて事態はごめんだぞ」
「ご心配でしたら俺だけ先に」
「いや、できるのならそれでいい。すぐに帰還しよう」
「了解しました」
と言うわけで、俺は二つの岩を木よりも高い位置に浮かせて運びながら行きと同じように隊を先行して帰還した。俺の隊は魔法が不得意な人が多いのでこれをやるとみんな驚いてくれる。ゲームでは職業を騎士にすると覚えられる魔法が少なくなった。この世界の騎士も魔法が不得意な人が多いのだろう。俺にチートはないが、魔法が得意なことだけは良かったと思っている。
行きと同じように帰還にも2日かかった。ただ、報告を聞いた師団長が迎えを寄こしてくれたので行きよりは楽に帰還することができた。本当にこの世界の上司には恵まれていると思った。
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