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第四章 Bay City Blues (ベイシティ ブルース)
30. 販売用生体材料
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予想通り、船首側の乗員区画にはそれなりの数の乗員が居た。
俺はこの貨物船レベドレアに侵入してからすでに八人の乗員を打ち倒していた。
全員、殺してはいない。AEXSSの補助動力を借りて殴り飛ばして昏倒させるか、麻酔弾(TQB:TranQuilizer Bullet)モードのSMGで昏睡させていた。
TQB弾は麻酔弾である上に、発射初速が遅く、宇宙船内で使用しても滅多に壁を貫通しないので気を使わずに撃ちまくれる。
この貨物船に突入する前に全員で確認している。
可能な限り、殺さず無力化すること。
殺せば無用の恨みを買う。
俺達はすでにジャキョセクションに身元を特定されている事を考えれば、殺しは後々の報復に繋がることは想像に難くない。
ただでさえすでにジャキョセクションにはそれなりに目を付けられ、パイニエのバペッソという名のヤクザからは追われる身になっているのだ。これ以上恨みを買う様な事をしても、安心して眠れなくなるだけで何も良いことはない。
バペッソは仕方がなかった。と言うよりも、恨みを買っても構わなかった。
ブラソンの数少ない同胞の友人であるバディオイの娘エイフェを売り飛ばした奴らだ。時間が許すなら、アデールやニュクスと共にレジーナの保てる全戦力を叩き付けて壊滅に追い込んでも構わないとさえ思っていた。
しかし他の組織や人間は違う。障害になったからと言って見境無しに殺しまくっていれば、そのうち銀河中敵だらけになってしまう。
これでも俺はあちこちの個人や団体から仕事を受けて金を稼いでいる運び屋なのだ。銀河中敵だらけになってしまったなら、金を稼ぐことさえできなくなる。
銀河中敵だらけであちこちで指名手配されるなど、それでは海賊と全く変わりない。
俺は海賊ではない。一応、真っ当な船乗りのつもりなのだ。
最近妙なレッテルを貼られてしまっているようだが。
幾つ目かの個人の船室を開け、お楽しみ中だったベッドの上の男女に数発のTQBを放ってから、一応部屋の中を確認する。
この部屋にも目標である独立量子通信ユニットは無かった。
いや、そもそも俺が向かう船首方向では、たぶん空振りに終わるであろうことは侵入前から分かっていた。
そのような普段は置いておくだけで一度しか使わない様なユニットを導入するのであれば、搬入が楽な貨物室か、邪魔にならないように船尾側の普段使わない部屋にするだろう。
コクピットに近い船首側の船室は、大概の場合乗員が個室として占拠している。
だから船首側を調査すると云うことは、乗員にはやたらと出くわす割には肝心の当たりを引く可能性は薄い損な役どころと云えた。
その道のプロであるアデールはともかく、格闘の経験がほとんどないルナや、武官だとは言っても見た目が幼女であるニュクスにこの役回りをやらせる気には成れなかった。
工場出しそのままのボディのルナに比べて身体を強化しいじり倒しているニュクスであれば、多分格闘も上手くこなすことができ、俺が心配するような事は何も無いのかも知れなかった。
それでもやはり、敵が多いと分かっている所にわざわざニュクスを割り当てる気にはなれなかった。
ニュクスの身体は、機械知性体的には「コンパクトボディ」なのかも知れなかったが、俺達人にとって見ればやはり、保護すべき対象である幼女なのだ。
部屋を出たところで、ルナが襲われ、乗員が火薬式のハンドガンを発砲したと連絡があった。
ルナが無事ならとりあえずは安心だが、やはりまだ単独行動は荷が重かったのだろうか。
もしかしたら、ルナは相手を殺してしまったかも知れない。ルナの安全の方が遙かに優先度が高いので、もしそうであれば、それはそれで仕方のないことだろう。
続いてアデールから計画変更が知らされる。
火薬臭が船内に充満した後は、貨物室を拠点として立てこもり、乗員を打ち倒すつもりのようだ。
侵入開始前にとりあえず十五分として切っておいた終了までの時間も、これでほとんど意味がなくなった。
いずれにしても、船内に火薬臭が充満するまでものの数分しかない。
船員たちが何らかの異常に気付いて行動を起こした後は、相手の不意を突くのは難しくなるだろう。
後数分で稼げるだけ稼がなければならない。
ドアを開け、人がいればTQB弾で撃ち、目標物が存在しないことを確認し、そしてまたドアを閉める。
前方にコクピットのドアが見えてくる。
コクピットまで、あと左右に船室が二つずつ残すのみだ。
火薬が発火した独特な匂いが鼻を突いた。
「マサシ、左手前の船室の乗員に動きがあります。右手前も動きました。右奥の船室の乗員も動きました。出てきます。」
左手前の船室のドアが開く。
開いた瞬間、SMGを三連射。
ドアの向こうに男が倒れる。
同時に、反対側のドアも開く。
「おい! 何が起こっがふっ!」
男はドアを開けるなり叫び始めたが、TQB弾を叩き込まれて黙り、床に崩れ落ちた。
生体を不必要に傷つけないために弾丸の初速が遅いとは云え、TQB弾が当たれば衝撃と痛みで呼吸ができなくなる。その痛みと衝撃から回復する前に薬剤が効いてきて昏倒する。
開いたドアから右手前の部屋の中に入り、ドアが開いた壁の陰に身を隠す。
ドアが開く音がして、重い足音が聞こえた。
「何が起こっている! 報告しろ!」
淡いグレーのツナギに身を包んだ男が、大声で叫びながら大股で通路を歩いていく。
俺が身を隠している部屋の前を通り船尾側に二歩歩いたところで、TQBの三連射を受けて昏倒した。
通路に横たわる男の身体を片づけている余裕はない。
いずれにしても、先ほどの大声で異常事態の発生には完全に気付かれただろう。
あと一部屋と、コクピットに何人居るか、だ。
「緊急。マサシ、本船が接岸しているジャキョ327ピアに武装集団が接近しています。LAS10機が特殊ビークルに分乗。あと一分で到着。武装はSMG中心です。乗員の拉致もしくは殺害、および本船を占拠が目的と思われます。」
来たか。
ジャキョシティからレジーナに戻る際に、全く何も障害がないのはおかしいとは思っていたのだ。
「ブラソン、頼む。とりあえず足止めするだけでいい。レジーナ、準備でき次第出航。フドブシュステーションから最短で離脱。ニュクス、船尾方向クリアの後、コクピットに向かってきてくれ。掃除の確認だ。アデールとルナは貨物室の確保を継続。ノバグはレジーナ出航のサポート。」
「ブラソン、諒解。ゲートで迎え撃つ。」
「ニュクス、諒解じゃ。もう少しで上段貨物室内の探索が終わる。」
「ノバグ、諒解致しました。」
「レジーナ、諒解です。出航可能まで二分。」
「ルナ、諒解です。」
「アデール、諒解した。貨物室内の探索終了後、ルナと共に継続して貨物室を確保。」
「マサシ、コクピットから四人出てきます。左奥の部屋にもう一人居ますが、動きません。」
レジーナの警告。
左奥は寝ているか?
コクピットの四人は、完全に通路に出さなければならない。
コクピットのような幾らでも隠れ場所があるところで銃撃戦などやりたいとも思わない。
「貨物室にて目的の独立量子通信局を発見した。ナノボットによる解析に入る。
「あと、オマケも見つけた。マサシ、これはどうすればいい?」
アデールが何か言っているが、こっちはそれどころじゃない。
コクピットから出てきた四人は、船内通路に出てすぐ十五mほど先の通路中央に倒れている男の身体を見ている。
何事かあったと警戒して、なかなかこちらに来ない。
「アデール、後にしてくれ。ちょいと取り込み中だ。」
「諒解。」
金属を破砕する甲高い破壊音が聞こえ、続けてドアが乱暴に蹴り破られる音、何か口論する声が聞こえた。
多分、左奥の部屋のドアがロックされていたので、コクピットから出てきた四人組が不審に思い、ロックを撃ち抜いてドアを蹴り破ったのだろう。
部屋の持ち主は寝入りばなを叩き起こされたかどうかして、四人組と口論になっているのだと思われた。
SMGを構えてドアの脇の壁に貼り付いてしゃがむ。
部屋の外の廊下を、数人が足音を忍ばせて歩く雰囲気が伝わってくる。
ドアが開け放しの入口の床に、中を伺おうとする男の影が落ちる。
男が構えた銃の先がドアの開口部を越えて中に入ってくる。まだだ。
急に男が部屋の中に入ってきて、銃を構えた。
男の肩から首筋にかけて三発。
男が昏倒する。
ドアまで前進して、半分身を曝して通路を確認する。
部屋の真ん前に一人。
こいつも三連射を打ち込む。
着弾の衝撃で通路の向こうの壁に張り付く。
半身をドア開口部から出し、右を確認する。
こちら側の壁に張り付いて一人、少し後ろを向こうの壁にもう一人。
こちらの壁の男に三連射。
すぐに部屋に引っ込む。
俺が消えた後を弾丸が追いかけてきて壁に黒い穴を穿つ。
このバカ野郎、通常の弾丸を使っていやがる。さっさと潰す方が安全だ。
男がトリガーを戻した一瞬の隙を突いて、もう一度部屋から腕を突き出して短くバースト。
部屋の中にまた引っ込んだ俺の耳に、男の身体が床の上に倒れ込む重い音が聞こえた。
後は左奥の部屋に一人。
部屋から通路の顔を出すが、そこには動かなくなった四人が転がっているだけだった。
部屋の入り口に伸びている男の身体を跨いで、通路に出る。
「マサシ、貨物船レベドレアに接近する部隊を確認しました。全員LASを着用して10人が二台のビークルに分乗しています。到着まであと二分。」
こっちにも兵隊を回して来やがったか。
タイミング的にも、この船から救援養成があったとは思えない。
最初からこちらの動きを読んでいたか、もしくはモニタしていやがったに違いなかった。
左の部屋から下着姿の男が飛び出してきて、こちらに向けて火薬式のハンドガンを発砲する。
左胸に軽い抵抗を感じつつ、無視して右手でSMGをバースト発射。
男は床の上に転がった。
これで今確認している乗員はすべて始末した。
「レジーナ、俺の周辺にIDの反応は?」
「ありません。コクピット内も無人です。この辺りはさすがにネットワーク障害はありませんので、大丈夫です。」
「諒解。ノバグ、ゲートに繋がっているエアロックを閉鎖。パスコードを変更。絶対開けるな。ほかに船外から侵入しようとする動きは?」
「アデールが使用したもの以外に、周辺のエアロックの動作は確認できておりません。」
「よし、引き続きピアと船外からの侵入を警戒。
「アデール、コピーの進捗状況はどうだ?」
「あと一分。」
「ニュクス、状況は?」
「エンジンルームに到達したぞえ。上段貨物室内クリアじゃ。そちらに向かう。」
「諒解。掃除し切れていないかも知れないから、十分気をつけろ。」
「諒解じゃ。」
「レジーナ・メンシスⅡ、離岸します。加速最大。フドブシュステーションから300万kmにて待機します。」
「レジーナ、そちらに被害は?」
「ありませんとも。」
「俺が疲れた。」
と、ブラソン。
「たまには運動するとな、身体に良いらしいぜ。」
「俺は頭脳労働者なんだ。」
「いつも思うんだが、それって脳ミソ筋肉みたいに聞こえるよな。」
「あー、じゃれ合っているところ悪いんだが。報告が二つある。」
と、アデールが割り込んできた。
二つ? 作業終了の報告ではないのか?
「一つ目。独立量子通信局端末の物理的コピーが終了した。データはレジーナに送ってある。ノバグ、解析をよろしく頼む。
「二つ目。貨物室に疑わしいコンテナが四つある。電子タグは『生鮮食料品』とかになっているが、コンテナの表面に『販売用生体材料』とか、いかにも怪しげなペイント書きがしてある。
「貨物室のO2/CO2収支が合っていないとノバグも指摘していたしな。多分、当たりのコンテナを引っ張ってしまったようだぞ。マサシ、どうする?」
つまり、この船もまたエイフェと同じ様な子供達を四人乗せていた、ということか。
「レジーナ、フドブシュステーション近傍の船舶航行状況を確認。貨物船レベドレアに接近するものがあれば報告。
「ノバグ、貨物船レベドレア船内を再スキャン。まだ寝てないヤツがいるか再チェック。
「ニュクス、主通路の貨物室リフト前で待機してくれ。それと睡眠ガスの入った容器を造れるか? 船内に流して連中がしばらく起きてこないようにしたい。
「ルナ、貨物室を出て、ニュクスと合流。合流した後にコクピットに来てくれ。
「アデール、済まないが見張りを頼む。そのコンテナを確実に確保だ。」
「周辺に、レベドレアに接近を試みる船舶はありません。」
「レベドレア内に、起きて活動していると思われるIDはありません。」
「容器に入れるのは面倒じゃのう。作りながらに作った端から流してしもうた方が量の制御も楽じゃ。」
「OK、それならそれでも良い。要は適量流せれば良いんだ。」
「ルナ、ニュクスと合流します。」
「アデール、このまま貨物室にてコンテナを確保する。」
量子通信端末をコピーしたならすぐに撤収するつもりだったが、どうやらそういうわけにも行かないようだった。
人が入って生命維持できる大きさの貨物用コンテナを四つ、ステーション内を移動させていればさすがに手間も時間もかかり、間違いなく襲撃を受ける。幾ら俺達でも守り切れはしないだろう。
ジャキョセクションに全く知られずに行動したかったが、レジーナもレベドレアも陸上部隊の襲撃を受けたということは、ジャキョセクション側に俺達が何をしているかすでに知られてしまっているのは明らかだ。
レベドレアから、ランデブーする海賊船のIDを抜けたとしても、海賊側はジャキョセクションから知らせを受けて警戒しているだろう。
つまり、この一連の作戦はすでに失敗しているのだった。
ならば、次善の策として、目の前に転がっているコンテナは放置せず、手が届き救える命だけでも救いたい。
そのコンテナの配送予定や、レベドレアのシステムから未だ何か吸い出せる有用な情報があるかも知れない。
幸い、レジーナはすでにジャキョセクションの手が届かないところまで待避している。
幾つかの物理的な問題を同時に解決できる解決策を取ろうか。
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