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第四章 Bay City Blues (ベイシティ ブルース)
53. 小家屋突入戦
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俺達は別荘から1kmほど離れた所で一旦立ち止まり、アデールと共に装備の相互確認と、突入方法の摺り合わせを行っている。
「済まないな。中の状態は掴めていない。屋内にはカメラが殆ど無い。必要ないからだと思うが、ハッキング対策かも知れん。」
つまり、別送内部の様子と、ハファルレアが囚われている状態が掴めない、と言う事だ。
「別荘内にはアクセスポイントが五箇所存在します。シグナル強度から推測して、ハファルレアは二階の北側の部屋の中央部分にいるものと思われます。
「同じ二階の南側の部屋には、別送を占拠している集団のリーダーと思われる人物が居ます。動きはありませんが、仲間達と頻繁に通信しています。起きているようです。」
と、ノバグ。
「通信の内容を読み取れるか?」
アデールが俺のジェネレータユニットの固定を確認しながら言う。
「主に定時連絡です。あとは、部下が寝ない様に時々話しかけているようです。話の内容は、最近持ち帰った娼婦や飲み屋の女性店員に関する下ネタが殆どです。」
気が緩んでいる、という訳でも無いだろう。夜明け前にも関わらず、部下達が全員起きて見張りに立っている事がそれを示している。
一番眠くなる時間帯に、部下達が一番食いつきそうな話をしているだけに違いない。アデールも同意見の様だ。
アデールが手を止めて考え込む。
「思ったよりまともな部隊だ。多分、傭兵団だろう。面倒だな。夜明け前に襲撃すれば、確実に全員を相手にする羽目になる。」
少し前にそのアデール本人が隠密行動だと言っていた様な気がするのだが、なぜ襲撃する話になっているのだ。
「こっそり行って、こっそり入って、こっそり奪ってくるのは駄目か?」
「トラップだらけだ。上空のプローブからでは、屋内のトラップまでは判別出来ない。ブラソン達では、ネット非接続のトラップはやはり探知できない。
「ハファルレアは部屋の中央にいると言ったな。多分、ソファかベッドに寝かされているのだろう。部屋に入ったところで一つ、ソファに近づいたところで二つ目、ハファルレアの身体を持ち上げたところで三つ目、と云う罠だろう。さらにハファルレアの身体自体にも何か仕掛けてあるかも知れん。こっそり入って、これだけの罠を解除して、こっそり連れ出すのは、無理だ。」
確かにそれは、聞いただけでも随分難しそうだ。
そこでふと、少し前の事を思い出した。
「ナノボットを投入してトラップを無効化するのはどうだ?」
ダバノ・ビラソ商会ビルに侵入した時、ナノボットで部屋のトラップを無効化した。同じ事が出来ないだろうか。
「成る程。ナノマシントースターはこっちで既に無効化してある。ネットワークに繋がっていないナノマシントースターはあり得ない。侵入を検知した時に警報を発する必要がある。」
ブラソンが俺の発言に応じる。
「携帯通信端末を一緒に置いてやればニュクスもコントロールできるだろう。それで行こう。」
アデールが同意した。
その後、アデールの発案の流れを確認してから、彼女は俺の元を離れていった。
地面に置いたナノボットブロックから白い煙が立ち上り、見る間に携帯端末が一つ出来上がる。
もういい加減見慣れてはいるのだが、しかし何度見てもまるで魔法か手品を見ている様だ。
同時にその脇に黒い箱が現れる。
「この箱は?」
「電磁波を吸収する材質で出来ておる。ナノマシンを動作させるより先に見つけられては敵わぬからのう。その箱の中にナノマシンブロックと携帯端末を置いてくりゃれ。」
箱を空けると、それぞれに合わせた大きさの凹みがあった。ナノボットブロックと、今できたばかりの携帯端末をそこにセットして、箱を閉じた。持ち運びが便利な様に、ご丁寧に箱には取っ手まで付いている。
「アデールだ。皆、準備は良いか?」
しばらくして、所定の位置に到達したらしいアデールから確認が来た。
「レジーナ、準備完了です。」
「ニュクス、いつでも良いぞ。」
「マサシ、OK。」
「ブラソンだ。いつでも行けるぞ。」
「全員準備できているな。レジーナ、ホールショットだ。」
「諒解。ホールショット。レールガン射出。完了。着弾は19秒後・・・5、4、3、2、1、着弾。」
レジーナの声と共に俺の後方で爆音がし、白く輝く様な爆発の後に爆炎が立ち上る。
これに気付かないバカはいないだろう。
「連中、蜂の巣をつついたみたいになってるぜ。反応が早いな。アデールの言う通り、これはヤクザじゃ無い、訓練された傭兵団だ。」
「間違いない。私が見えてもいない筈なのに、こちら側に一小隊丸ごと振ってきた。接近して引きつける。マサシ、行動開始だ。」
「諒解。」
ニュクスが合成したナノボット入りの黒い箱を持って動き始める。
連中の意識はアデールの方に向いている。
光学迷彩とステルスで、俺の存在は連中に検知される事は無いはずだが、不用意に木の枝を曲げたり、下生えを倒したりしない様に気をつけなければならない。幾ら光学迷彩がかかっていようとも、下生えを踏み倒せば、そこに何かがいる事が分かってしまう。
引き続きニュクスの引いた緑のラインに沿って移動する。藪や茂みなどは、赤いラインのギリギリまで使って最大限避ける。
焦っている為か、効率悪く移動してしまい随分時間を食ってしまったと思っていたが、実のところ五分もかからずに別荘のすぐ脇まで到達した。
「マサシだ。別荘に到達した。」
誰からも返事は無い。だが、皆俺の居場所は分かっているはずだ。
別荘の反対側から散発的に銃撃音が聞こえる。こちら側からはなにも聞こえない。
別荘は二階建てで、二階部分をぐるりと取り巻く様に歩道の様なベランダが設けられている。
ベランダの各所に箱状のものが設置されているが、これがセンサー類や固定レーザー銃だろう。
そしてLASを着用した傭兵達も、このベランダの上に散って見張りをしている。
幾らステルスが掛かっていても、この状態でハファルレアの囚われている部屋に近付くのは厳しい。
「ニュクス、一階部分に設置では駄目か?」
「不可能では無いが、ちぃと厳しいのう。ナノマシンの目標到達数が相当減ってしもうて、トラップ解除に倍近い時間が掛かるぞえ。お勧めできぬのう。」
ナノボットは雲の様に集まって移動する。当然、エアコンなどの強い空気の流れの影響を受ける。ある程度以上の強風であれば、到達することさえ不可能になる。
即ち、無風状態であればともかく、普通は移動距離が長ければ長いほど到達数は減少する。到達数が半分になれば、処理時間は倍になる。
「ハファルレアがいる部屋の真下の部屋の天井に取り付けるのではどうだ?」
「止めておけ。真下と真上は敵も想定しているだろう。一階の部屋と屋根の上は却下だ。まさか見張りが立っているベランダに堂々と設置するとは思わないから、有効なんだ。」
会話を聞いていたらしいアデールが俺の案に異を唱えた。
どうやら、どうやっても見張りの傭兵達が立っているベランダによじ登らなければならないようだ。
「諒解だ。見張りの隙を突いて二階ベランダに登る。」
見張りの位置は、上空のプローブからリアルタイムで送られてくる。
一小隊四人の見張りは、建物の反対側でアデールに対応している。残りは別の一小隊。四人。
北側に一人、南側に一人で、西側になる今俺がいる側には二人の見張りが立っている。
それほど大きくは無い建物なので、見張りは歩き回りはしないが、それでも時々位置を変える。
二人の見張りがそれぞれ反対方向に動いた時、AEXSSの脚力を使って飛び上がる。
着地で大きな音を立てる訳にはいかない。
ベランダの手摺りを軽く掴んで、極力ふわりとベランダの上に降り立つ。
それでも小さな音を立ててしまったか、着地の振動が伝わったか。
二人の内、南側の見張りがこちらを振り返る。
一応、光学迷彩、センサーリダクション、ステルス全てが掛かっているのだが、それでも真っ直ぐこちらを見られているというのは、気分の良い物では無い。
動けば光学迷彩特有の僅かな揺らぎが発生する。
バレそうな時は、じっと動かずにいるのが一番良い。
見張りの傭兵はしばらくこちらの方を見ていたが、じきに視線を外して俺とは反対側に移動した。
軽い安堵の息を一つ吐き、目標マーカーが示す部屋の前に移動する。
部屋には、ベランダに向けて張り出すように出窓が設けてあった。
まさにお誂え向きの隠し場所と言ったその出窓の下側、ベランダに立つ見張りたちからは、出窓の陰になって見難い場所に俺はナノボットタブの入った例の黒い箱を取り付けた。
「こちらマサシ。例の部屋の出窓の外に取り付けた。ニュクス、頼む。」
「諒解じゃ。五分ほどかかるでの。適当に時間を潰してくりゃれや?」
どうやら、今か今かとしびれを切らしていたようだ。設置を報告すれば、すぐにニュクスからの返答があった。
出窓のすぐ脇の壁に張り付く。
わざわざ壁から数十cmのところを歩く奴は居ない。ここならばたまたま通りかかった見張りが俺の身体にぶつかって気付かれる、などと言うこともないだろう。
とはいえ、敵の目の前でずっと動かないで居るのは、なかなかに神経の削れる経験だった。
見えないとは分かっていても、見張りがこちらを向いて歩いてくる時、思わず息を止めて身体を強ばらせてしまうくらいに緊張する。
永遠とも思えるような五分間が、俺の神経を削りながらゆっくりと流れていく。
「出来上がり、じゃ。罠だらけじゃったの。ご丁寧にソファの中には核地雷と大量の単分子ワイヤまで仕込み居りよったわ。全て溶かして置いたが、まだなんぞ残っておるやも知れぬ。相手は随分徹底的な性格である様じゃ。十分に気を付けてくりゃれ。」
ニュクスが呆れたように言う。
どうやらアデールが言っていたように、何重もの罠が仕掛けられていたらしい。罠を仕掛けたのは徹底的というか、随分陰湿な性格の奴のようだった。
「マサシ、こちら側の四人は任せろ。そちら側の四人は自分で潰せ。カウントダウン、任せる。」
と、アデール。
俺は両脇のホルスターからSMGを引き抜き両手に持った。弾種徹甲。両手をゆっくりと広げ、見張りの二人が近付いてくるのを待つ。
「カウントダウン。5、4、3、2、1、GO!」
見張りが射線に入ったところで、両手のSMGの引き金を絞り、握りっぱなしにする。
SMGだが、相手もLASだ。大量の弾を叩き込まれれば、無事では済まない。
分速1200発もの大量の弾を叩き込まれた見張りは、壊れた操り人形が踊っているかのようにベランダの上で撥ね、吹き飛ばされて下に落ちていっった。
左手のSMGを右脇のホルスターに戻しながら、右手のSMGから残り少ないチョコバーをイジェクトする。
左手はそのまま左腿のポケットに入ったチョコバーを一本取り出し、右手のSMGに装填する。
暇な時間を見つけてはアデールに散々訓練させられた動きだ。今なら目を瞑っていても流れるように一連の動きを行える。
右手、北側に向けてベランダの上を走る。
ベランダの北西の角に到達するのと、北側を見張っていた見張りが顔を出すのがほぼ同時だった。
右膝を立てた体勢で懐に滑り込み。殆どゼロ距離でSMGを叩き込む。
見張りは血飛沫をまき散らしながら二つに折れて吹き飛び、下に落ちていった。
そのまま角を曲がり、まだチョコバーが十分残っている右手のSMGを一度ホルスターに戻す。
東側の四人はアデールに任せてある。
奴になら任せて大丈夫だろうし、こちらも気にしている余裕はない。
右脇のSMGを再び抜きつつ、右手でチョコバーを取り出し、弾をリロードする。
空いた右手は、左脇からロングナイフを引き抜く。
東側の角をちらりと見やって誰もいないのを確認してから、角を西側に再び曲がる。
南側の見張りが、こちらに向けてライフルを構えている。
が、見張りには俺が完全に見えては居ない。
銃口が俺を捕らえていない。
しかし距離がある。俺が持っているのは短射程のSMGだ。
右手の甲に銃床を乗せ、引き金を引き絞って南の見張りにチョコバー一本分の弾を全て叩き込む。
たったの6秒で120発全弾を打ち尽くすが、その前に見張りの身体は吹き飛んで階下に消えていた。
「マサシ、西側クリア。壁を切り取って突入する。」
「諒解。こちらもあと一人だ。」
ナイフを床に置いて、落ち着いて左手のSMGのチョコバーをリロードし、ホルスターに戻す。
再び手にしたナイフで、出窓を丸く切り取る。
切り取られた強化ガラスと窓枠が落ちてきて、ベランダの上に散乱する。
部屋の中を覗き込むと、薬で眠らされているのか、部屋の中央に置かれた大型のソファに白い服を着た女が一人、肘掛けにもたれ掛かる様にして横たわっているのが見える。
「目標確認。突入する。」
十分な大きさのある丸い切り取りから部屋の中に飛び込んだ。
足が部屋の床に着いた、と思った次の瞬間、視野が暗転した。
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