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晴空

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一章

1話 怪盗〜Phantom Thief〜

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『約束だよ? これから誰がどんな職業に就いたとしても、僕たちは仲間だ!!』





 1967年。

「警部。周囲は完全に包囲しました。奴は文字通り袋の鼠です」
「…………そうか。引き続き警戒を怠るな。我らが一体何回奴に逃げられたかは分かってるな?」
「も、もちろんです!! 今日こそ捕まえてみましょう! し、しかし警部彼が盗んでいるのは毎回…………」
「言うな。我々にも仕事がある」

 地下1階地上2階のレンガ作りの美術館を青色制服の警察官が総勢10名で囲む。その美術館の中に1人の白髪はくはつ黒ズボン白半袖の上に黒カーディガンを着こなす男がいる。そのカーディガンの間には首から紐で胸までに下げられた黒色の宝石が見える。ちなみに彼は今、ラーメンを食べている。

「チッ、仕事の前に急に食べたくなって急遽ったから麺伸びてやがる。麺伸びたラーメンなんてマグロのねぇ鉄火巻きだぜ」

 仕事中に呑気に盗んだラーメンを食べているこの男。19歳。白髪はくはつ。職業《怪盗》。名をシーファ・トムフン。
 シーファはラーメンの器を宝物が収納されていた場所に寄贈する。

(宝物は…………コレで良かったんだよな?)

 手に持つ緑色の宝石と反対の手で彼は免許証のような大きさのカードを見る。このカード名前は、《ジョブカード》。表面は身分証のように自分の写真に住所、そして職業が記載されている。その裏面には、が記載されている。この世界にいる《神》とやらが職業とその仕事内容をにひとりひとり与えているらしい。それを遂行しないとなんちゃら。

(とりあえず宝石はコレで良さそうだ。あとは…………逃げるだけだぜ)






 怪盗と泥棒の最大の違いはその盗み方にある。泥棒は無理矢理にでも力ずくで盗むが、怪盗は紳士的に華麗に鮮やかに盗む。
 つまり《怪盗》という職業を与えられた彼は紳士的に盗み、見惚れるような逃亡をする。はずなのだが。

 その時美術館の外で怪盗シーファを捕らえるために構えていた警察官たちは聞いた。内側から大きな衝撃を受けて破壊された扉の音を。

「け、警部ッッ!!!!」
「分かっておる!! 全員構えろ!!!」

 反対側を担当していた警察官までもがその扉のところへ駆け付ける。片手には警棒を構えてだ。つまり警棒持ち10人対怪盗の構図が一瞬で出来上がった。

「怪盗シーファ・トムフン!!! 今日こそは貴様を檻へとぶち込んでやる!!」
「よぉ、警部のおっちゃん。俺だってこんなのやりたくてやってるわけじゃねぇけどさ。…………でも仕事だから我慢してくれ」

 シーファは10名の警察官に怯えて美術館の中に戻ったり他の方向へ走ることもなく、ただ目の前一点突破をはかる。
 真っ直ぐ突っ込んでくるシーファに対して警察官たちは警棒を彼目掛けて躊躇なく振り下ろす。しかしそれを彼はバレリーナもびっくりするほどの恐るべき優雅さで回避する。のではなく、

「邪魔だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 一言そう叫んで、警棒を拳で受けて怯む警察官の腹に蹴りをお見舞いする。その速度に強度は一度受ければ起き上がることのできないほどのものだ。
 あっという間に彼はこの戦場を蹂躙する。
 最後に倒れた警部がシーファに震えた声を出す。

「し、シーファ・トムフン…………。貴様、ほ、本当に《怪盗》か????」

 その言葉を受けて彼は逃げる足を止めて振り返らずに言う。

「これが俺のだ。…………人を華麗にブン殴って盗み出す。な? 紳士だろ?」

 顔は見えないが笑みを浮かべてるであろうシーファはその場から走り出す。その姿を見て警察官たちは叫ぶ。

「「「「どこがだよッッ!!!!」」」」



 これは紳士的に盗めない青年シーファ・トムフンが、世界一の怪盗になるお話。








 気づけば隣町にまたシーファは逃亡していた。

(相変わらずこの街はちっちぇし、その、貧乏だな)

 そもそもここら辺はいわゆる田舎であるので、街の小さい大きいなんて他の地方から見ればどんぐりの背比べだろうが、それでも小さいものは小さいのだ。
 街の外観は相変わらず貧相そのもので、浮浪者がいるのは当たり前。ここに住む人たちの服装は白い布であるはずなのに黒ずみ、所々破れている。
 どこから見てもマイナスな要素しかないところだが、ここまで小さい街だといわゆる政府の人間はいないため、シーファのようなは身を隠しやすい。
 そんな中彼は街を歩き進めて、小さい中でもまだデカくマシな住居に入る。

「よぉ村長。まだ死んでねぇか?」
「…………ゴホゴホ。なんじゃいきなりじゃのシーファ」

 部屋の奥から襖を開けて顔を見てきた寝転んだジジイはこの小さな街の村長だ。
 まだ死なねえなこれは。と彼は思うとポッケに入れていた緑色の宝石を床に置く。

「…………なんじゃそれは…………」
「さっき仕事でってきたものだ。これで《王》への貢ぎ物の足しにでもしやがれ。どうせ足らねぇんだろ? こんな小さな街じゃ」
「ゴホゴホ…………痛いところをつくの。じゃが実際そうじゃ。しかしもう貢ぎ物は渡しに行ってしまったからの。あとで若いのにでもこれを持っていかそ」

 衝ッッッッ!!!!!! ジジイが言葉を言い終わる瞬間だった。肌が焦げるような感覚に見舞われた刹那に、朽ちた木ではあるがしっかりと住民を守ってきた住宅が一瞬で半壊した。

「…………なっ。なんなんだよコレぇ!!!!!!!!!」

 目の前に押し寄せるのは家の瓦礫の濁流。その中には今の衝撃で破壊されたの姿もあった。

「クソ野郎ォォォォォォォ!!!!!!」

 シーファは飛ばされたジジイをすぐに回収すると、持ち前の身体能力を活かして流れてくる瓦礫を殴って払い除け、落ちてくる人間には手を出さずに回避しながらその場を乗り切る。
 
 何が起こった。なんでコイツらは死んだ。誰がやった。そんな疑問を何十何百と頭で考えては否定を繰り返し、村長を担ぐ怪盗は唯一建物の瓦礫が無い場所へと向かった。
 そこは爆発の中心地。この小さな街の唯一の憩いの場である広場だ。
 だが場所なんてどうでもいい。気になるのはそこに立つが背中から生えている天使。

「テメェは…………」
「…………ほう。あの爆発中生き残ったのか。悪運の強い奴だ」
ROTAローターだと」

 ROTAローター。それはあくまで通称であり、正式名称は《Rest Of The Angel》。その意味は《天使の休息》。世界に一つしかない《神》に仕える直轄組織だ。業務内容は、粛清。《神》によって与えられた《ジョブカード》に映し出される仕事をこなさない者、危険思想を持っている者。そして、

「どうやら《王》への貢ぎ物がこの街は滞っているらしいな。貢ぎ物は他の何よりも重要であるはずだが、どうやらそれが為されないようだ。そのため粛清として、この街を地図から消しに来た」

 世界最強の権力に戦闘力を持つ天使はこちらに体を向ける。天使の彼はシーファが血が出るほど拳を強く握り、体を震わせていたことに気付いたか。

「ロォォォタァァァァァァ!!!!!!」

 踏みつけていた瓦礫を砕くほどの力で踏み込むと、シーファは血で赤くなった拳を握り直して、目の前の天使に拳を振るう。
 が。しかし。その拳は呆気なく天使に止められる。

「何の真似だ貴様。貴様はこの街の住人では無いはず。なのに何故、天使を殴るなどという罪を重ねた!!」
「…………るせぇ」
「は?」
「うるさぇよクソ天使!! 俺はな! ROTAローターも悪党までも職業として定める《神》が死ぬほど大っ嫌いなんだよ!!!」
「な、何を言うか!! 今の言葉は不敬罪だぞ!!! それに貴様だって散々『怪盗》として盗みを働いてきただろ!!」

 殴ッッ!!! と天使の拳がシーファの懐に炸裂する。

「ガバァ!! あ、ああそうさ!! 俺は《怪盗》として盗みをやってきた!! 悪を肯定する気はねぇが、それでも考えて盗んできた!! アホみたいにぼったくりをするラーメン屋に民衆から取り上げた宝石を展示する美術館。そういうクズみてぇなところからしか俺はってねぇ!! 信じろとは言わねぇさ。だがこれだけは言う。俺は犯罪が死ぬほど嫌いだ!!!」
「な、何を言って…………」
「犯罪は死ぬほど嫌いだ!! だが職業は《怪盗》を与えられた。いったい何の皮肉だ! 何度も職業を放棄しようとしたさ! しかしそれじゃ俺の望みは達成されねぇ!!」
「…………貴様は何を望んだ」
「親の仇」
「……………………な」
「《神》に殺された俺の親のために、俺は、たとえ悪党であろうと《怪盗》として生きることを決めた!! 何の目的かは知らねぇが、悪党として定められた俺が、《怪盗》の俺が、《神》とかいう偽善正義をこの世から盗み出す!!! そして最後に神をブン殴る!! それが俺の復讐だ!!!」

 シーファは揺れる体を叩き起こし、その言葉とともに天使を殴る。拳に感触が伝わり、砂利の音を立てながら天使は何メートルも飛ばされる。

「ふ、ふははは!!! こういうことか!! 犯罪嫌いに育った少年は《神》おそらくだが実際には俺たちROTAローターに親を殺された。そして《神》への復讐心を持ちながら成長を遂げるも、与えられた職業は悪党《怪盗》。ふははは!! なかなかに波瀾万丈な人生だな!! 良い良いぞ!! 《神》への脅威てして貴様をここでROTAローターの名の下に処刑とする」

 天使は埃を払うと、腰に刺していた白銀の剣をゆっくりと抜く。そして白色の羽をはばたかせてシーファ目掛けて一直線に飛ぶ。

「「ヴォォォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!!!」」

 怪盗の拳と天使の剣が交差する。とシーファ・トムフンは考えていた。だが現実は違った。

「勝負あったな」

 天使の剣はシーファの首から下がる黒色宝石を貫通して、彼の胸を貫いていた。

「復讐とは大層なものだが、現実を見ろ。世界最強戦力に、ただの田舎の怪盗が勝てると自惚れるな」

 赤黒い血で染まった剣を抜いて滴る血を一瞥した天使は鞘にそれを収める。

「呆気なかったな。あとは貴様だな、村長」










(…………俺は…………こんな所で死ぬのか…………? まだ何もしてねぇ。《神》どころか天使にすら何もできねぇのか…………。あの時誓ったじゃねぇか!! 全てが始まった15歳の時に!! あれから4年たった。19になった!! 力をつけるために4年間必死に生きた!! なのに。もう終わりかよ…………)

『まだ諦める時ではないぞ、青年。君には私の悲願を叶えてもらわなければならないのだから。力を貸そう。19歳に成長したのだから』




 村長を始末するために天使が怪盗から目を離した瞬間であった。
 気ッッッッ!!!!!! 目を離したその人物から、体が一瞬動かなくなるほどの真っ黒なオーラが感じ取れた。
 急いで目を怪盗に向けると、シーファ・トムフンは立ち上がっていた。

「はは、そうこなくてはな!!! 悪党ォォォ!!!!」

 手に持っていた黒色の宝石が真っ黒な光を放ったのはその瞬間であった。
 反射的に目を閉じ再び開けると、目の前のシーファの格好が変わっていた。黒カーディガンのはずなのに黒マントになっているし、中に着ていたはずの白Tシャツは黒色に変わっていた。そして何よりも。その手には宝石ではなく真っ黒な拳銃が握られていた。

「な、何だその格好h」

 撃ッッッッ!!!!! 発射音と同時に鋭い重い痛みを感じると内臓からドス黒い血が流れていた。

「グボァ!!! な、何を…………」
「お前の命…………いただくぜ」

 引き金にかけられた指が引かれた。





 訂正。これは《怪盗》シーファ・トムフンが世界一の怪盗になるお話ではない。


 これは。犯罪を憎み。《神》に親が殺され。《神》に悪党の職業を与えられた青年による。復讐のお話だ。神をブン殴る、そんなお話だ。
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