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幕間Ⅶ
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「ルネ君とアリセル嬢の婚約が決まったとのことだ。おめでたい話じゃないか、なぁノクス」
軽やかな笑みを浮かべて、エリックは口を開いた。
すると、彼の腕の中の黒猫が尻尾を揺らし、「にゃっ」と小さく鳴いた。
しかし、エリックが呼びかけたのは黒猫のノクスではなく、目の前の青年のノクスであった。
ノクスは寝台で上体を起こし、度数の高い酒を煽りながら、父の声を聞き流す。
彼の右の額から左の顎へと斜めに走る深い傷は、幾重にも巻かれた包帯に覆われていた。
包帯は顔の半ばを隠し、露わになった片眼の鋭さを際立たせる。
「けれど不思議だね、囚われの身で、いつから統領の承認なくして縁組が成り立つようになったのか」
「……あんたは奴らに認められていないんだろう」
ノクスは短く返した。
片方の瞳をかすめるのは、皮肉げな煌めきだ。
だがエリックは怒るでもなく平然と、その眼差しを受け止める。
「まぁね、僕のことなんて、認めなくてもかまわないさ。けれど、民が定めた法だけは無視できないはずだ。立場がどうであれ、従うべきものは気分や思惑じゃない」
そこで一旦、言葉を途切り、エリックはゆるやかに口角を上げた。
黒猫の小さな頭を撫でながら告げる。
「認められない婚約を、いったいどうやって世に通すつもりか……。おおかた、娘の腹に子を宿させてしまえばいいとでも思ったんだろう。血がつながった瞬間に、それは法の外ではなくなるのだから」
エリックの言葉に対して、ノクスは反応を示さなかった。
グラスを持ち上げ、琥珀色の液体を喉に流し込む。
「それにしても、エルヴァン家の夫婦というのは、本当に悪趣味だね。ルネ君や自分の娘にまで教養娼婦をあてがい、無理やり閨の作法を覚えさせている。教育なんて言葉で飾っているけれど、実際にはただの虐待さ。けれど問題は、その娘自身がそれを虐待だと理解していないことだ。あれは、洗脳された子どもの典型的な反応だよ」
その時、扉が控えめに叩かれた。
「包帯を取り替えに参りました。失礼いたします」
間を置いて現れたのは、執事のバロンだった。背筋を伸ばしたまま恭しく一礼し、静かな声を落とす。
「ノクス様、どうかお加減もございます。飲酒はほどほどになさってくださいませ」
「……うるさい」
言い捨てるノクスの声は、どこか子どもめいた拗ね方を含んでいた。
唇を引き結びながらも、バロンの口元にはかすかな笑みが滲んでいた。
そのまま歩み寄り、寝台の脇の椅子に腰を下ろし、彼の上着に手をかけた。
布地を乱さぬよう注意深く脱がせていくと、包帯に覆われた肩と腹部が露わになった。
白布を解くたび、薬草の香りと鉄の匂いが入り混じった空気が漂う。
右肩には深い裂傷の痕が走り、肉が塞がりきらぬまま赤黒い線を残していた。
さらに腹部に手を伸ばし、慎重に布を外すと、刃が深く抉った痕が残っていた。
縫い合わせた糸は赤黒く腫れ、見る者の胸をざわつかせるほど生々しい。
「流石でございます」
その傷跡に、バロンは小さく頷き、感心を隠さず口にした。
「これほど大きく深い傷を負いながらも、臓腑をかすめず急所だけを外しておられるとは。常人には到底できぬ芸当です」
「感心するのも分かるけどね、バロン。こういう芸当ができるのは、ノクスが普通の人間じゃないからさ。正気の枠からはみ出してる。……そうでもなければ、こんな真似はできないよ」
褒めているのか、それとも皮肉なのか。
どちらともつかない言葉だったが、ノクスは反応を返さず、ただ無表情のままグラスを傾けるだけだった。
代わりにバロンが小さくため息を洩らし、主の軽口を咎めるように声を落とす。
「エリック様、どうか……あまりからかわれませぬよう」
エリックは取り繕うでもなく、ただ愉快そうに口角を上げていた。
「愛情表現なんだよ、僕なりのね」
「……エリック様の愛情表現は、なかなか分かりにくいです」
言いながらバロンは、柔らかな布を水に浸し、余分な湿り気を絞る。
そのまま腹部に当て、滲んだ血をそっと拭い取っていく。
布が肌をかすめるたびに、わずかな血が広がっていった。続けて薬草を煎じた薬液をしみ込ませた布を軽く押し当て、患部を整える。
痛まない訳でもないだろうに、ノクスは眉一つ動かさない。
バロンは淡々と動きながらも、その無言の忍耐に心の奥で息をのむ。
新しい布を当て、清潔な包帯を取り上げると、手際よく傷跡に巻きつけていく。均一な力で幾重にも重ね、ずれが生じぬよう慎重に調整する。
仕上げに結び目をきちんと折り込み、端を滑らかに整えると、ようやく手を止めた。
「これでよろしゅうございます。……処置のあいだ、お痛みはございませんでしたか?」
「そのための深酒だよ」
ノクスは唇の端にかすかな笑みを刻む。
悪びれもせず軽く言い放つ口調に、バロンは一瞬だけ眉を動かし、すぐに表情を戻した。
「……酒に頼られるのは、ご身分に似合いません。どうか、お体を労わっていただきたいものです」
バロンの声音は、窘めながらも柔らかで、長年仕えてきた者にしか出せぬ温かさが滲んでいる。
「心配性だな、バロン」
応えるノクスの声色は淡々としていた。そこに、エリックが愉快そうに口を挟む。
「まぁ、彼の深酒は、ただの嗜みじゃない。むしろ、自分の殻を削ってでも酔いに沈もうとしているんだ。壊れていく感覚を望んでいるんだよ」
ノクスは微動だにしない。
視線も表情も揺らがず、まるで何も届いていないかのように沈黙を保った。やがて、ほんのわずかに口元を歪める。
「好きに解釈すればいい」
二人のやり取りに、バロンは気付かれないように、そっと溜息を吐いた。
エリックとノクスの関係が歪みはじめたのは、いつの頃からだっただろうか。
仕えてきた彼には、その移ろいを間近で見てきた記憶があった。
幼い日のノクスは、父を心から慕っていた。
聡明で人を導く力を持ち、誰よりも正しく揺るがぬ存在として尊敬していたのだ。
その眼差しには憧れがあり、言葉には素直さがあった。
だが、母ロザリーの精神が壊れ始めた頃から、少年の心は変わっていった。
母が狂気と妄執に沈んでいくのを目の当たりにしながら、ノクスは次第に父への信頼を失っていった。
冷ややかに受け流し、何ひとつ動じぬエリックの姿は、幼い彼の目には無関心としか映らなかったのだ。愛する母を救おうとしないどころか、慈悲の一片すら見せない。
その時から、尊敬は静かな諦めへと変わっていった。
バロンはその変化をずっと見てきた。
憧れを込めて父を追っていた少年が、やがて口を閉ざし、期待を抱かなくなっていく過程を。
怒りをぶつけることもなく、ただ心を閉ざして距離を置くようになった姿を。
しかしエリックは、息子の感情など気にも留めていないようだった。
ノクスの諦観も拒絶も、取るに足らぬものとでも言うように受け流し、相変わらず軽やかな笑みを浮かべていた。
その温度差こそが、親子の絆を決定的に歪ませたのだと、バロンには思えてならなかった。
「さて……」
区切りをつけるように、エリックは呟いた。
腕に抱いていた黒猫をそっと地に下ろすと、陽を浴びた毛並みがきらりと光を返した。猫は足もとで身じろぎし、尾を一度だけゆるやかに振る。
「ノクスも充分な証拠を揃えてくれた事だし、そろそろ仕上げにかかるとしよう。僕はしばらく死人となるから、そのつもりで」
「それでは私は、エリック様は襲撃を受けて深手を負われ、ついに息を引き取られたと伝えて参りましょう。遺体をお見せできぬことを訝しむ声もございましょうが、あまりに損なわれ、目にかけるには忍びないと申せば、誰もそれ以上は求めますまい。……葬儀の支度も、整えておきます」
「面倒をかけるね、バロン」
「いえ、これも務めでございます。どうかご心安らかに。エリック様が死人でおられる間も、この国は揺るがせません」
バロンは胸に片手をあてがい頭を下げる。
かつてこの策を初めて聞かされたとき、成否を案じて、疑念を口にしたことがあった。
しかし、エリックは一度言い出したことを決して曲げない人間だ。
確固とした光を宿した瞳を見た瞬間、いかなる忠告も無意味だと悟ったのだった。
ならば残る道はひとつ。従い、支えること。
主人が死人を演じるのなら、その虚構を真実と信じさせるまで仕立て上げるのが自分の務め。
バロンは頭を垂れたまま目を閉じ、静かに息を整える。もはや心は定まり、迷いは残されていなかった。
エリックは視線をバロンからノクスに移す。
「ノクス、君の役目は分かっているね?」
「……ああ」
ノクスは頷く。
自分の役目を受け入れ、成し遂げること以外に思考の余地はないと告げるように、彼の姿は静かに揺るがぬものをまとっていた。
軽やかな笑みを浮かべて、エリックは口を開いた。
すると、彼の腕の中の黒猫が尻尾を揺らし、「にゃっ」と小さく鳴いた。
しかし、エリックが呼びかけたのは黒猫のノクスではなく、目の前の青年のノクスであった。
ノクスは寝台で上体を起こし、度数の高い酒を煽りながら、父の声を聞き流す。
彼の右の額から左の顎へと斜めに走る深い傷は、幾重にも巻かれた包帯に覆われていた。
包帯は顔の半ばを隠し、露わになった片眼の鋭さを際立たせる。
「けれど不思議だね、囚われの身で、いつから統領の承認なくして縁組が成り立つようになったのか」
「……あんたは奴らに認められていないんだろう」
ノクスは短く返した。
片方の瞳をかすめるのは、皮肉げな煌めきだ。
だがエリックは怒るでもなく平然と、その眼差しを受け止める。
「まぁね、僕のことなんて、認めなくてもかまわないさ。けれど、民が定めた法だけは無視できないはずだ。立場がどうであれ、従うべきものは気分や思惑じゃない」
そこで一旦、言葉を途切り、エリックはゆるやかに口角を上げた。
黒猫の小さな頭を撫でながら告げる。
「認められない婚約を、いったいどうやって世に通すつもりか……。おおかた、娘の腹に子を宿させてしまえばいいとでも思ったんだろう。血がつながった瞬間に、それは法の外ではなくなるのだから」
エリックの言葉に対して、ノクスは反応を示さなかった。
グラスを持ち上げ、琥珀色の液体を喉に流し込む。
「それにしても、エルヴァン家の夫婦というのは、本当に悪趣味だね。ルネ君や自分の娘にまで教養娼婦をあてがい、無理やり閨の作法を覚えさせている。教育なんて言葉で飾っているけれど、実際にはただの虐待さ。けれど問題は、その娘自身がそれを虐待だと理解していないことだ。あれは、洗脳された子どもの典型的な反応だよ」
その時、扉が控えめに叩かれた。
「包帯を取り替えに参りました。失礼いたします」
間を置いて現れたのは、執事のバロンだった。背筋を伸ばしたまま恭しく一礼し、静かな声を落とす。
「ノクス様、どうかお加減もございます。飲酒はほどほどになさってくださいませ」
「……うるさい」
言い捨てるノクスの声は、どこか子どもめいた拗ね方を含んでいた。
唇を引き結びながらも、バロンの口元にはかすかな笑みが滲んでいた。
そのまま歩み寄り、寝台の脇の椅子に腰を下ろし、彼の上着に手をかけた。
布地を乱さぬよう注意深く脱がせていくと、包帯に覆われた肩と腹部が露わになった。
白布を解くたび、薬草の香りと鉄の匂いが入り混じった空気が漂う。
右肩には深い裂傷の痕が走り、肉が塞がりきらぬまま赤黒い線を残していた。
さらに腹部に手を伸ばし、慎重に布を外すと、刃が深く抉った痕が残っていた。
縫い合わせた糸は赤黒く腫れ、見る者の胸をざわつかせるほど生々しい。
「流石でございます」
その傷跡に、バロンは小さく頷き、感心を隠さず口にした。
「これほど大きく深い傷を負いながらも、臓腑をかすめず急所だけを外しておられるとは。常人には到底できぬ芸当です」
「感心するのも分かるけどね、バロン。こういう芸当ができるのは、ノクスが普通の人間じゃないからさ。正気の枠からはみ出してる。……そうでもなければ、こんな真似はできないよ」
褒めているのか、それとも皮肉なのか。
どちらともつかない言葉だったが、ノクスは反応を返さず、ただ無表情のままグラスを傾けるだけだった。
代わりにバロンが小さくため息を洩らし、主の軽口を咎めるように声を落とす。
「エリック様、どうか……あまりからかわれませぬよう」
エリックは取り繕うでもなく、ただ愉快そうに口角を上げていた。
「愛情表現なんだよ、僕なりのね」
「……エリック様の愛情表現は、なかなか分かりにくいです」
言いながらバロンは、柔らかな布を水に浸し、余分な湿り気を絞る。
そのまま腹部に当て、滲んだ血をそっと拭い取っていく。
布が肌をかすめるたびに、わずかな血が広がっていった。続けて薬草を煎じた薬液をしみ込ませた布を軽く押し当て、患部を整える。
痛まない訳でもないだろうに、ノクスは眉一つ動かさない。
バロンは淡々と動きながらも、その無言の忍耐に心の奥で息をのむ。
新しい布を当て、清潔な包帯を取り上げると、手際よく傷跡に巻きつけていく。均一な力で幾重にも重ね、ずれが生じぬよう慎重に調整する。
仕上げに結び目をきちんと折り込み、端を滑らかに整えると、ようやく手を止めた。
「これでよろしゅうございます。……処置のあいだ、お痛みはございませんでしたか?」
「そのための深酒だよ」
ノクスは唇の端にかすかな笑みを刻む。
悪びれもせず軽く言い放つ口調に、バロンは一瞬だけ眉を動かし、すぐに表情を戻した。
「……酒に頼られるのは、ご身分に似合いません。どうか、お体を労わっていただきたいものです」
バロンの声音は、窘めながらも柔らかで、長年仕えてきた者にしか出せぬ温かさが滲んでいる。
「心配性だな、バロン」
応えるノクスの声色は淡々としていた。そこに、エリックが愉快そうに口を挟む。
「まぁ、彼の深酒は、ただの嗜みじゃない。むしろ、自分の殻を削ってでも酔いに沈もうとしているんだ。壊れていく感覚を望んでいるんだよ」
ノクスは微動だにしない。
視線も表情も揺らがず、まるで何も届いていないかのように沈黙を保った。やがて、ほんのわずかに口元を歪める。
「好きに解釈すればいい」
二人のやり取りに、バロンは気付かれないように、そっと溜息を吐いた。
エリックとノクスの関係が歪みはじめたのは、いつの頃からだっただろうか。
仕えてきた彼には、その移ろいを間近で見てきた記憶があった。
幼い日のノクスは、父を心から慕っていた。
聡明で人を導く力を持ち、誰よりも正しく揺るがぬ存在として尊敬していたのだ。
その眼差しには憧れがあり、言葉には素直さがあった。
だが、母ロザリーの精神が壊れ始めた頃から、少年の心は変わっていった。
母が狂気と妄執に沈んでいくのを目の当たりにしながら、ノクスは次第に父への信頼を失っていった。
冷ややかに受け流し、何ひとつ動じぬエリックの姿は、幼い彼の目には無関心としか映らなかったのだ。愛する母を救おうとしないどころか、慈悲の一片すら見せない。
その時から、尊敬は静かな諦めへと変わっていった。
バロンはその変化をずっと見てきた。
憧れを込めて父を追っていた少年が、やがて口を閉ざし、期待を抱かなくなっていく過程を。
怒りをぶつけることもなく、ただ心を閉ざして距離を置くようになった姿を。
しかしエリックは、息子の感情など気にも留めていないようだった。
ノクスの諦観も拒絶も、取るに足らぬものとでも言うように受け流し、相変わらず軽やかな笑みを浮かべていた。
その温度差こそが、親子の絆を決定的に歪ませたのだと、バロンには思えてならなかった。
「さて……」
区切りをつけるように、エリックは呟いた。
腕に抱いていた黒猫をそっと地に下ろすと、陽を浴びた毛並みがきらりと光を返した。猫は足もとで身じろぎし、尾を一度だけゆるやかに振る。
「ノクスも充分な証拠を揃えてくれた事だし、そろそろ仕上げにかかるとしよう。僕はしばらく死人となるから、そのつもりで」
「それでは私は、エリック様は襲撃を受けて深手を負われ、ついに息を引き取られたと伝えて参りましょう。遺体をお見せできぬことを訝しむ声もございましょうが、あまりに損なわれ、目にかけるには忍びないと申せば、誰もそれ以上は求めますまい。……葬儀の支度も、整えておきます」
「面倒をかけるね、バロン」
「いえ、これも務めでございます。どうかご心安らかに。エリック様が死人でおられる間も、この国は揺るがせません」
バロンは胸に片手をあてがい頭を下げる。
かつてこの策を初めて聞かされたとき、成否を案じて、疑念を口にしたことがあった。
しかし、エリックは一度言い出したことを決して曲げない人間だ。
確固とした光を宿した瞳を見た瞬間、いかなる忠告も無意味だと悟ったのだった。
ならば残る道はひとつ。従い、支えること。
主人が死人を演じるのなら、その虚構を真実と信じさせるまで仕立て上げるのが自分の務め。
バロンは頭を垂れたまま目を閉じ、静かに息を整える。もはや心は定まり、迷いは残されていなかった。
エリックは視線をバロンからノクスに移す。
「ノクス、君の役目は分かっているね?」
「……ああ」
ノクスは頷く。
自分の役目を受け入れ、成し遂げること以外に思考の余地はないと告げるように、彼の姿は静かに揺るがぬものをまとっていた。
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