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Echo65:愛
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前国王の嫡子、ルネ・サントレールの血は、この国にとって尊いもの。
その血筋と結びつくことは、誰にとっても望ましい未来であり、安らぎを与える証だ。
だからこそ自分が彼と契りを交わすことは、周囲の人々を喜ばせるのだ。
何より、いつだって自分を一番に愛し、大切に育ててくれた両親の深い愛情に報いることになる。
その愛に応えるためなら、受け止めなければならない。
たとえ、心臓を握り潰されるような苦悶が込み上げても、ただ沈黙して、顔に出さないように微笑んでいればいい。そうすれば、皆が幸せでいられる。
自分だけが立ち止まって、これ以上、周囲を振り回す訳にはいかない。
ルネに覆いかぶさられたまま、アリセルは天井を凝視していた。
固い石の床は、背筋を通じて冷たさを刻み込む。
その冷気とは裏腹に、素肌には熱を帯びた掌が這ってゆく。
肩から鎖骨へ、そして胸元にかかる手は、衣服の布地をかき乱しながら熱を擦りつけてくる。
押し潰されるような重さも、耳元で乱れる息も、意識の外に追いやり、ただただ夢想する。
幸せだった、ついこの前までの日々を。
初めてルネが物を食べてくれたとき。話してくれたとき。笑ってくれたとき。
壊れた人形のようだった彼が、凄惨な過去を越えて人間らしさを取り戻していく姿を見守れたことは、かけがえのない、尊い一刻だった。
あの時、たしかに幸せだった。
だが今は違う。いくら手を伸ばしても、過去の彼も過去の自分も、もうここにはいない。
残されたのは、容赦なく押し寄せる現実だけだった。
性急に衣が引き開けられ、胸元がさらけ出された。
その肌の上で、ペンダントにしていた木の指輪が揺れ、露わになった。
アリセルの双眸が、ゆっくりと見開かれる。
ユーグが誕生日にくれた木の指輪。
この世界でたった一つの、誰にも代えられない贈り物。
必死に心を閉ざしていたのに、指輪が露わになった途端、堰が切れたように衝撃が押し寄せた。
「……ユーグッ……!」
アリセルの喉から、堪えきれない声が絞り出される。
その名を呼んだ瞬間、抑えていた涙がいっせいに溢れ、嗚咽となって胸の奥を揺さぶった。
夢想に逃げようとしても逃げ切れず、結局心の奥底に残っていたのはただ一人、ユーグへの想いだった。
ルネは呼吸を荒げたまま顔をあげ、今にも泣き出しそうな表情でアリセルを見つめる。
「……君が言ったじゃないか。ユーグは、もう死んだんだって……」
「やめてっ……! ユーグはきっと生きてる……。……死ぬ訳がない!」
「アリセル……、僕らは乗り越えなくてはならない。もう立ち止まる訳にはいかないんだ」
「嫌だ…。お願い、私を置いていかないで…ユーグッ……!」
嗚咽が喉を塞ぎ、呼吸とともに掠れた声がこぼれ落ちる。
胸元の木の指輪を握りしめて泣きじゃくるアリセルに、ルネは苦しげに奥歯を噛み締めた。
そのまま彼の掌は、下着を押し払って中心へと滑り込んだ。指先が逃げ場を与えぬように沈む。
痛みに似た衝撃が内側を走り、アリセルの喉から押し殺した声が洩れた。
肩が震え、木の指輪を握る手に力がこもる。
「……アリセル……ッ、僕は…君を愛しているんだ……」
耳元で落とされた掠れ声が、胸の奥に突き刺さる。
内部を抉るように指が動き、押し広げていった。
愛と呼ぶものが、なぜこんなにも痛みを伴うのか。なぜこんなに苦しいのか。気持ち悪いのか。
拒むほどに強引に蠢く指先が逃げ場を奪っていく。吐き気がこみ上げ、涙と嗚咽が交じり合い、視界がにじんだ。
『アリセル、愛しているわ』
『愛しているよ、この世界の何よりも』
唐突に両親の顔が浮かんだ。
母はいつも優しい声で「愛しているわ」と抱き寄せてくれた。父は大きな掌で髪を撫で、誇らしげに「お前は私の宝物だ」と言った。
幼い頃から、愛されていると思っていた。
けれど、その愛は決して自由を与えるものではなかった。
愛に報いようと思えば思う程、悲しませてはいけない、心配させてはいけないと 自分を押し殺してきた。
そうだ、思い出した。
愛は苦しいものだ。縛られるものだ。本心を封じ込め、笑顔を強いる呪いだ。
今、体の奥を侵す痛みと重なり、記憶が胸を締めつける。
愛と呼ばれるものは、甘い響きを装いながら、いつだって自分を支配して蹂躙してきたのだ。
指が引き抜かれ、代わりに熱が迫った。
抵抗する間もなく、熱は彼女を貫き、体内へ侵入していく。
アリセルは背をのけぞらせる。
思わず口を開いたが、声は悲鳴にならず、ただ掠れた吐息が喉を焼いただけだった。
木の指輪を握る手に爪が食い込み、血が滲んでも、痛みを薄めることはできなかった。
昂ぶりが奥へ沈み込み、粘膜を押し広げて突き当たる。
短く荒い息ののちに引き抜かれ、再び押し戻された。
ためらいがちだった動きは次第に速さを増し、内部は容赦なく抉られた。
擦り上げられるたび鋭い灼熱が走り、裂けるような感覚が重なる。
奥を突かれる衝撃が腹の底まで響き、アリセルの体は反射的にのけぞった。
耳元で荒く掠れる吐息は次第に短く途切れ、律動は痙攣するように細かい震えを帯びはじめる。
腰の動きは速まりながらも不規則に乱れ、張りつめた力が全身へ広がっていくのが伝わった。
ルネの筋肉が強張り、熱に追い詰められるように動きは限界へと押し上げられていく。
やがて一際、深く押し込まれた刹那、彼の体は硬直した。
「……っ」
喉を詰まらせたような吐息と共に、白濁が注ぎ込まれる。
彼の全身は震え、荒い呼吸を吐きながらアリセルに覆いかぶさる。やがて沈み込んでいた昂ぶりが、ゆっくりと引き抜かれていった。
内部に残された熱がどろりと溢れ、合わせて鮮やかな血が滲み、腿を伝って石床へと滴る。
アリセルは片腕をゆっくりと持ち上げて、目元に乗せた。
『愛している』
耳の奥でその言葉が繰り返される。
ルネの声なのか、両親の声なのか、もう判別できない。
甘い響きが重なり、押し寄せ、頭の内を埋め尽くす。胸の奥は軋み、呼吸は浅く乱れた。掠れた嗚咽が洩れ、指先は震え、握りしめた指輪に血がにじむ。
それでも言葉は止まらない。
耳の内側で繰り返され、やがて頭蓋を揺らすほどに膨れ上がった。
『愛している』
『愛している』
『愛している』
その響きに圧し潰され、心の奥で何かが弾けた。
限界まで張りつめた糸が千切れるように、アリセルの唇から鋭い叫びが迸る。
押し潰された内側から突き破るように放たれた慟哭は、石室の冷えた空気を震わせ、幾重にも反響して消えていった。
その血筋と結びつくことは、誰にとっても望ましい未来であり、安らぎを与える証だ。
だからこそ自分が彼と契りを交わすことは、周囲の人々を喜ばせるのだ。
何より、いつだって自分を一番に愛し、大切に育ててくれた両親の深い愛情に報いることになる。
その愛に応えるためなら、受け止めなければならない。
たとえ、心臓を握り潰されるような苦悶が込み上げても、ただ沈黙して、顔に出さないように微笑んでいればいい。そうすれば、皆が幸せでいられる。
自分だけが立ち止まって、これ以上、周囲を振り回す訳にはいかない。
ルネに覆いかぶさられたまま、アリセルは天井を凝視していた。
固い石の床は、背筋を通じて冷たさを刻み込む。
その冷気とは裏腹に、素肌には熱を帯びた掌が這ってゆく。
肩から鎖骨へ、そして胸元にかかる手は、衣服の布地をかき乱しながら熱を擦りつけてくる。
押し潰されるような重さも、耳元で乱れる息も、意識の外に追いやり、ただただ夢想する。
幸せだった、ついこの前までの日々を。
初めてルネが物を食べてくれたとき。話してくれたとき。笑ってくれたとき。
壊れた人形のようだった彼が、凄惨な過去を越えて人間らしさを取り戻していく姿を見守れたことは、かけがえのない、尊い一刻だった。
あの時、たしかに幸せだった。
だが今は違う。いくら手を伸ばしても、過去の彼も過去の自分も、もうここにはいない。
残されたのは、容赦なく押し寄せる現実だけだった。
性急に衣が引き開けられ、胸元がさらけ出された。
その肌の上で、ペンダントにしていた木の指輪が揺れ、露わになった。
アリセルの双眸が、ゆっくりと見開かれる。
ユーグが誕生日にくれた木の指輪。
この世界でたった一つの、誰にも代えられない贈り物。
必死に心を閉ざしていたのに、指輪が露わになった途端、堰が切れたように衝撃が押し寄せた。
「……ユーグッ……!」
アリセルの喉から、堪えきれない声が絞り出される。
その名を呼んだ瞬間、抑えていた涙がいっせいに溢れ、嗚咽となって胸の奥を揺さぶった。
夢想に逃げようとしても逃げ切れず、結局心の奥底に残っていたのはただ一人、ユーグへの想いだった。
ルネは呼吸を荒げたまま顔をあげ、今にも泣き出しそうな表情でアリセルを見つめる。
「……君が言ったじゃないか。ユーグは、もう死んだんだって……」
「やめてっ……! ユーグはきっと生きてる……。……死ぬ訳がない!」
「アリセル……、僕らは乗り越えなくてはならない。もう立ち止まる訳にはいかないんだ」
「嫌だ…。お願い、私を置いていかないで…ユーグッ……!」
嗚咽が喉を塞ぎ、呼吸とともに掠れた声がこぼれ落ちる。
胸元の木の指輪を握りしめて泣きじゃくるアリセルに、ルネは苦しげに奥歯を噛み締めた。
そのまま彼の掌は、下着を押し払って中心へと滑り込んだ。指先が逃げ場を与えぬように沈む。
痛みに似た衝撃が内側を走り、アリセルの喉から押し殺した声が洩れた。
肩が震え、木の指輪を握る手に力がこもる。
「……アリセル……ッ、僕は…君を愛しているんだ……」
耳元で落とされた掠れ声が、胸の奥に突き刺さる。
内部を抉るように指が動き、押し広げていった。
愛と呼ぶものが、なぜこんなにも痛みを伴うのか。なぜこんなに苦しいのか。気持ち悪いのか。
拒むほどに強引に蠢く指先が逃げ場を奪っていく。吐き気がこみ上げ、涙と嗚咽が交じり合い、視界がにじんだ。
『アリセル、愛しているわ』
『愛しているよ、この世界の何よりも』
唐突に両親の顔が浮かんだ。
母はいつも優しい声で「愛しているわ」と抱き寄せてくれた。父は大きな掌で髪を撫で、誇らしげに「お前は私の宝物だ」と言った。
幼い頃から、愛されていると思っていた。
けれど、その愛は決して自由を与えるものではなかった。
愛に報いようと思えば思う程、悲しませてはいけない、心配させてはいけないと 自分を押し殺してきた。
そうだ、思い出した。
愛は苦しいものだ。縛られるものだ。本心を封じ込め、笑顔を強いる呪いだ。
今、体の奥を侵す痛みと重なり、記憶が胸を締めつける。
愛と呼ばれるものは、甘い響きを装いながら、いつだって自分を支配して蹂躙してきたのだ。
指が引き抜かれ、代わりに熱が迫った。
抵抗する間もなく、熱は彼女を貫き、体内へ侵入していく。
アリセルは背をのけぞらせる。
思わず口を開いたが、声は悲鳴にならず、ただ掠れた吐息が喉を焼いただけだった。
木の指輪を握る手に爪が食い込み、血が滲んでも、痛みを薄めることはできなかった。
昂ぶりが奥へ沈み込み、粘膜を押し広げて突き当たる。
短く荒い息ののちに引き抜かれ、再び押し戻された。
ためらいがちだった動きは次第に速さを増し、内部は容赦なく抉られた。
擦り上げられるたび鋭い灼熱が走り、裂けるような感覚が重なる。
奥を突かれる衝撃が腹の底まで響き、アリセルの体は反射的にのけぞった。
耳元で荒く掠れる吐息は次第に短く途切れ、律動は痙攣するように細かい震えを帯びはじめる。
腰の動きは速まりながらも不規則に乱れ、張りつめた力が全身へ広がっていくのが伝わった。
ルネの筋肉が強張り、熱に追い詰められるように動きは限界へと押し上げられていく。
やがて一際、深く押し込まれた刹那、彼の体は硬直した。
「……っ」
喉を詰まらせたような吐息と共に、白濁が注ぎ込まれる。
彼の全身は震え、荒い呼吸を吐きながらアリセルに覆いかぶさる。やがて沈み込んでいた昂ぶりが、ゆっくりと引き抜かれていった。
内部に残された熱がどろりと溢れ、合わせて鮮やかな血が滲み、腿を伝って石床へと滴る。
アリセルは片腕をゆっくりと持ち上げて、目元に乗せた。
『愛している』
耳の奥でその言葉が繰り返される。
ルネの声なのか、両親の声なのか、もう判別できない。
甘い響きが重なり、押し寄せ、頭の内を埋め尽くす。胸の奥は軋み、呼吸は浅く乱れた。掠れた嗚咽が洩れ、指先は震え、握りしめた指輪に血がにじむ。
それでも言葉は止まらない。
耳の内側で繰り返され、やがて頭蓋を揺らすほどに膨れ上がった。
『愛している』
『愛している』
『愛している』
その響きに圧し潰され、心の奥で何かが弾けた。
限界まで張りつめた糸が千切れるように、アリセルの唇から鋭い叫びが迸る。
押し潰された内側から突き破るように放たれた慟哭は、石室の冷えた空気を震わせ、幾重にも反響して消えていった。
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