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Echo19:声
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幽閉塔に向かう途中、話題の流れで、つい口にしてしまった。
母が紹介したいと言っていた、教育係の女性のこと。
デイジー・マレ嬢という美しくて、気立ての良い女性の話を。それを聞いた途端、ユーグは吹き出した。
「……ああ、ごめん」
肩を震わせながら、片手で目元を押さえている。
何かが可笑しくてたまらないらしい。唖然としながら彼を見ていたアリセルだが、段々と腹立たしくなってきた。
「なんで笑うのよ」
頬を膨らませ、肘で彼の脇腹を軽く小突く。ユーグはようやく息を整え、にやりと口角を上げた。
「いや、ミーシャさんの心配も、もっともだと思ってさ」
「心配って?」
「俺みたいに素性もはっきりしない男に、大事な一人娘を持っていかれたら困るって思ってるんだろ。箱入り娘が孕まされる前に、気立ての良いご令嬢を紹介して丸く収めようってわけ。健気な親心ってやつだよ」
「言い方……」
孕ませる、との言葉にアリセルは片眉をつりあげた。
非難がましい目でユーグを見つめたまま、言葉を続ける。
「でも、ユーグのことなら、ちゃんと知ってるよ。前は都に住んでて、ご両親はもう……亡くなられてるって」
「……他は?」
「他は……、ユーグは器用で物知りで、私のこと助けてくれて、手伝ってくれて、遊んでくれて……。それにルネ様にも優しくて、大事な友達だもの。あ、セロリと料理が苦手で、女性に少しだらしないのも知ってる!」
「今の流れで最後のはいらなくないか?」
ユーグは間髪入れずに突っ込んでから、頭の後ろで手を組んだ。
「お前のところの、エルヴァン家ってのは由緒ある血筋だ。そんな家の娘が、俺みたいな下層の人間と顔を並べることすら、本来は許されないはずなんだよ」
「ふぅん……」
「なんだよ。そのひとごとみたいな反応」
苦笑するユーグに、アリセルは軽く肩を竦めてみせた。
「だって今は違うもの。身分なんて、そんなのほとんど関係ないよ。王政だって終わって、昔みたいな決まりごとも、どんどん消えてきてる。だから誰が誰と一緒にいたって、別におかしくなんかないと思う」
「けれど、お前の両親はそうは考えていないんじゃないか?」
「……そんなことは…ないと、思うけど……」
ユーグの指摘に、歯切れが悪くなってしまったのは、思い当たる節があったからだ。
両親は身分や家柄を誇るようなことは、決して口にはしない。
だが、時折ふとした拍子に、名誉や立場を意識しているような気配がにじむのだ。
アリセル自身も、幼い頃から整った服を与えられ、季節の果物や温かな料理を、磨かれた銀器で食べてきた。家の中は質素ではあるが、決して貧しくはない。
そうした暮らしが、ごく当たり前のものとして日々を包んでいた。
「ま、そのうちお前にも縁談の話がきて、身分の釣り合う男と結婚させられるんだろ」
「あ! だから私がこの前、ユーグにお昼作ってるって知ったとき、お父様は変な顔したのね」
ふと、先日ユーグが「娘さんに毎回昼飯作ってもらっている」と告げた時、父の表情が変わったことを思い出す。その時は理由が分からなかったが、唐突に合点がいった。
「お父様は心配しすぎなのよ。だって私とユーグは友達なんだから……」
アリセルは言う。
語尾が段々と消え入るようになってしまったのは、言葉がうまく出てこなかったからだ。
これ以上、踏み込めば何かを壊してしまいそうで、得体の知れない恐怖がわいてくる。
胸にたゆとう靄を払おうと、アリセルは吐息をつきユーグの顔を見る。
「ユーグは恋人いないの?」
「恋人がいたら家に女なんて連れ込まない」
「なるほど! ……いや、なるほど、でいいのかな?」
自分でも何に納得したのか分からないが、ぽむっと手を打ってから、アリセルは首を傾げた。
ユーグはおかしそうに、口元を綻ばせる。
「でもユーグ、かっこいいしモテるでしょう? それなのに、なんで恋人いないの?」
「別に、理由はないけど」
「モテるってところは否定しないんだね」
「事実だし」
しれっと答えるが、嫌味にならないのがユーグだ。
事実を述べているだけという、どこまでも淡々とした気負いのなさがあった。
「まぁ、紹介されるのが“気立てのいい美人”って言うなら、断る理由もないよな。そんな子、そう簡単に見つかるもんでもないし」
「……ばぁか」
気が付けばそんな言葉が口をついて出た。
なぜ面白くないのか自分でもよく分からないが、どこか拗ねたような気分だけが胸の奥に残っていた。
幽閉塔の前に来た所で、アリセルは小さく頭を振る。
気持ちを切り替えようと軽く頭を振ってから、扉に手をかけた。
☆
螺旋階段を上りきり、重い鉄扉の前に立つ。
軋む音とともに扉が開かれ、牢の奥へと続く石造りの床に、二人分の足音が落ちた。
「ルネ様、おはようござ──」
言いかけたところで、アリセルは、はっとして言葉を止めた。
視線の先、小さな窓辺には、片手を伸ばすルネの姿があった。彼の掌の上では、一羽の小鳥が砕かれたクッキーの欠片をついばんでいた。以前、一緒にクッキーをあげたあの幼い小鳥だ。アリセルは、思わず息を止めた。
ルネは動かない。
まるで呼吸さえ控えているように、気配を消して小鳥を見つめている。アリセルはちらとユーグを見上げた。彼の横顔にはただ、穏やかな沈黙があった。
やがて小鳥は、くるりと首を傾けてルネを見たかと思うと、ぱっと翼を広げて窓の外へ飛び立っていった。羽ばたきの音がかすかに残り、塔の中にまた静寂が戻る。
「素敵なお友達ができましたね、ルネ様」
アリセルが声をかけると、ルネはゆるやかに振り返った。
その顔に、ふわりとした微かな笑みが浮かぶのを見て、アリセルの唇にも自然と綻ぶ。そのまま膝をつき、籠の中身を確かめようと身をかがめると、ユーグが前に出た。
「ルネ、今日は包帯を替えような。傷の具合はどうだ?」
ユーグがルネをその場に座らせると、アリセルは籠の中から消毒薬や包帯、清潔な布などを取り出した。そしてルネの服の袖を肘までたくし上げる。
彼は怯えることなく、ただ静かに信頼の眼差しを向け、なすがままに身を委ねていた。
包帯の端をたぐり、ゆっくりと巻きを解いていく。乾いた布が肌から離れ、治りかけの傷があらわになった。瘡蓋はところどころ剥がれかけており、痣はまだ赤黒く残っている。アリセルは消毒薬の瓶の栓を外し、傷の周囲をなでるように拭っていく。
「沁みませんか……?」
返事はない。だがルネは顔を背けることなく、手当てされる様子をじっと見つめていた。
次にアリセルは小さな木箱を開け、カレンデュラの油を溶かし込んだ蜂蝋の軟膏を指先にとった。
乾きかけた肌を和らげ、新しい皮膚を守るために、それを傷のまわりにのせていく。
最後にユーグが、清潔な布を折り重ねて傷にあてると、肌を締めつけすぎず、ずれないように注意しながら、包帯を手際よく巻いていった。
「終わりっ。次はお身体ですね」
アリセルが顔を上げてそう告げると、ルネは小さく頷いた。
そのまま黙って動くかと思われたそのとき、不意に微かな声が空気を揺らした。
「……アリセル……ユーグ、ありがとう……」
それは、かすれた音だった。
長い間、使われていなかった声帯が、ようやく空気を震わせたような、か細く途切れがちな響き。
けれど、ルネの唇が動き、そこから音が紡がれた。
アリセルは呼吸すら忘れてルネを見つめた。
今、彼は確かに言葉を――自分の名前を、ユーグの名を、感謝の言葉を、口にした。
喜びとも驚きともつかぬものが押し寄せ、心を満たしていく。彼の声を、ようやく聞くことができた。その事実の重みが、アリセルの中に静かに落ちていった。
ルネはわずかに俯き、恥ずかしそうに目を伏せた。
だがその顔には、怯えの色はなく、ただ、初めて言葉を口にしたことへの照れと、どこか戸惑ったような静けさが漂っていた。
母が紹介したいと言っていた、教育係の女性のこと。
デイジー・マレ嬢という美しくて、気立ての良い女性の話を。それを聞いた途端、ユーグは吹き出した。
「……ああ、ごめん」
肩を震わせながら、片手で目元を押さえている。
何かが可笑しくてたまらないらしい。唖然としながら彼を見ていたアリセルだが、段々と腹立たしくなってきた。
「なんで笑うのよ」
頬を膨らませ、肘で彼の脇腹を軽く小突く。ユーグはようやく息を整え、にやりと口角を上げた。
「いや、ミーシャさんの心配も、もっともだと思ってさ」
「心配って?」
「俺みたいに素性もはっきりしない男に、大事な一人娘を持っていかれたら困るって思ってるんだろ。箱入り娘が孕まされる前に、気立ての良いご令嬢を紹介して丸く収めようってわけ。健気な親心ってやつだよ」
「言い方……」
孕ませる、との言葉にアリセルは片眉をつりあげた。
非難がましい目でユーグを見つめたまま、言葉を続ける。
「でも、ユーグのことなら、ちゃんと知ってるよ。前は都に住んでて、ご両親はもう……亡くなられてるって」
「……他は?」
「他は……、ユーグは器用で物知りで、私のこと助けてくれて、手伝ってくれて、遊んでくれて……。それにルネ様にも優しくて、大事な友達だもの。あ、セロリと料理が苦手で、女性に少しだらしないのも知ってる!」
「今の流れで最後のはいらなくないか?」
ユーグは間髪入れずに突っ込んでから、頭の後ろで手を組んだ。
「お前のところの、エルヴァン家ってのは由緒ある血筋だ。そんな家の娘が、俺みたいな下層の人間と顔を並べることすら、本来は許されないはずなんだよ」
「ふぅん……」
「なんだよ。そのひとごとみたいな反応」
苦笑するユーグに、アリセルは軽く肩を竦めてみせた。
「だって今は違うもの。身分なんて、そんなのほとんど関係ないよ。王政だって終わって、昔みたいな決まりごとも、どんどん消えてきてる。だから誰が誰と一緒にいたって、別におかしくなんかないと思う」
「けれど、お前の両親はそうは考えていないんじゃないか?」
「……そんなことは…ないと、思うけど……」
ユーグの指摘に、歯切れが悪くなってしまったのは、思い当たる節があったからだ。
両親は身分や家柄を誇るようなことは、決して口にはしない。
だが、時折ふとした拍子に、名誉や立場を意識しているような気配がにじむのだ。
アリセル自身も、幼い頃から整った服を与えられ、季節の果物や温かな料理を、磨かれた銀器で食べてきた。家の中は質素ではあるが、決して貧しくはない。
そうした暮らしが、ごく当たり前のものとして日々を包んでいた。
「ま、そのうちお前にも縁談の話がきて、身分の釣り合う男と結婚させられるんだろ」
「あ! だから私がこの前、ユーグにお昼作ってるって知ったとき、お父様は変な顔したのね」
ふと、先日ユーグが「娘さんに毎回昼飯作ってもらっている」と告げた時、父の表情が変わったことを思い出す。その時は理由が分からなかったが、唐突に合点がいった。
「お父様は心配しすぎなのよ。だって私とユーグは友達なんだから……」
アリセルは言う。
語尾が段々と消え入るようになってしまったのは、言葉がうまく出てこなかったからだ。
これ以上、踏み込めば何かを壊してしまいそうで、得体の知れない恐怖がわいてくる。
胸にたゆとう靄を払おうと、アリセルは吐息をつきユーグの顔を見る。
「ユーグは恋人いないの?」
「恋人がいたら家に女なんて連れ込まない」
「なるほど! ……いや、なるほど、でいいのかな?」
自分でも何に納得したのか分からないが、ぽむっと手を打ってから、アリセルは首を傾げた。
ユーグはおかしそうに、口元を綻ばせる。
「でもユーグ、かっこいいしモテるでしょう? それなのに、なんで恋人いないの?」
「別に、理由はないけど」
「モテるってところは否定しないんだね」
「事実だし」
しれっと答えるが、嫌味にならないのがユーグだ。
事実を述べているだけという、どこまでも淡々とした気負いのなさがあった。
「まぁ、紹介されるのが“気立てのいい美人”って言うなら、断る理由もないよな。そんな子、そう簡単に見つかるもんでもないし」
「……ばぁか」
気が付けばそんな言葉が口をついて出た。
なぜ面白くないのか自分でもよく分からないが、どこか拗ねたような気分だけが胸の奥に残っていた。
幽閉塔の前に来た所で、アリセルは小さく頭を振る。
気持ちを切り替えようと軽く頭を振ってから、扉に手をかけた。
☆
螺旋階段を上りきり、重い鉄扉の前に立つ。
軋む音とともに扉が開かれ、牢の奥へと続く石造りの床に、二人分の足音が落ちた。
「ルネ様、おはようござ──」
言いかけたところで、アリセルは、はっとして言葉を止めた。
視線の先、小さな窓辺には、片手を伸ばすルネの姿があった。彼の掌の上では、一羽の小鳥が砕かれたクッキーの欠片をついばんでいた。以前、一緒にクッキーをあげたあの幼い小鳥だ。アリセルは、思わず息を止めた。
ルネは動かない。
まるで呼吸さえ控えているように、気配を消して小鳥を見つめている。アリセルはちらとユーグを見上げた。彼の横顔にはただ、穏やかな沈黙があった。
やがて小鳥は、くるりと首を傾けてルネを見たかと思うと、ぱっと翼を広げて窓の外へ飛び立っていった。羽ばたきの音がかすかに残り、塔の中にまた静寂が戻る。
「素敵なお友達ができましたね、ルネ様」
アリセルが声をかけると、ルネはゆるやかに振り返った。
その顔に、ふわりとした微かな笑みが浮かぶのを見て、アリセルの唇にも自然と綻ぶ。そのまま膝をつき、籠の中身を確かめようと身をかがめると、ユーグが前に出た。
「ルネ、今日は包帯を替えような。傷の具合はどうだ?」
ユーグがルネをその場に座らせると、アリセルは籠の中から消毒薬や包帯、清潔な布などを取り出した。そしてルネの服の袖を肘までたくし上げる。
彼は怯えることなく、ただ静かに信頼の眼差しを向け、なすがままに身を委ねていた。
包帯の端をたぐり、ゆっくりと巻きを解いていく。乾いた布が肌から離れ、治りかけの傷があらわになった。瘡蓋はところどころ剥がれかけており、痣はまだ赤黒く残っている。アリセルは消毒薬の瓶の栓を外し、傷の周囲をなでるように拭っていく。
「沁みませんか……?」
返事はない。だがルネは顔を背けることなく、手当てされる様子をじっと見つめていた。
次にアリセルは小さな木箱を開け、カレンデュラの油を溶かし込んだ蜂蝋の軟膏を指先にとった。
乾きかけた肌を和らげ、新しい皮膚を守るために、それを傷のまわりにのせていく。
最後にユーグが、清潔な布を折り重ねて傷にあてると、肌を締めつけすぎず、ずれないように注意しながら、包帯を手際よく巻いていった。
「終わりっ。次はお身体ですね」
アリセルが顔を上げてそう告げると、ルネは小さく頷いた。
そのまま黙って動くかと思われたそのとき、不意に微かな声が空気を揺らした。
「……アリセル……ユーグ、ありがとう……」
それは、かすれた音だった。
長い間、使われていなかった声帯が、ようやく空気を震わせたような、か細く途切れがちな響き。
けれど、ルネの唇が動き、そこから音が紡がれた。
アリセルは呼吸すら忘れてルネを見つめた。
今、彼は確かに言葉を――自分の名前を、ユーグの名を、感謝の言葉を、口にした。
喜びとも驚きともつかぬものが押し寄せ、心を満たしていく。彼の声を、ようやく聞くことができた。その事実の重みが、アリセルの中に静かに落ちていった。
ルネはわずかに俯き、恥ずかしそうに目を伏せた。
だがその顔には、怯えの色はなく、ただ、初めて言葉を口にしたことへの照れと、どこか戸惑ったような静けさが漂っていた。
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