銀色の商人と贋作の妻

真大(mahiro)

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第1章

幸福な日課⚠️

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それから数日後。
心身ともにすっかり回復したエリアスは、朝の玄関で、名残惜しそうに何度も振り返るヴォルフを見送った。

「行ってきます、エリアス。……ああ、離れがたい」
「ふふ、早く行かないと遅れますよ。行ってらっしゃい、ヴォルフ」

背中を押すように送り出し、馬車が見えなくなるまで手を振る。
以前なら、一人になると安堵と共に自室へ引きこもっていたが、今は違う。
エリアスは踵を返すと、執事長であるシュミットの元へと向かった。

「シュミット。少し、相談があるんだ」
「はい、何でございましょう」

エリアスは背筋を伸ばし、真っ直ぐにシュミットを見つめた。

「今まで、家のことには深入りしないようにしていたけれど……今後は、ヴォルフの妻として、この家の財政や領地の運営のことを知りたいんだ。私にも、手伝わせてくれないか」

その申し出に、シュミットは目を丸くし、次いで皺くちゃになるほどの満面の笑みを浮かべた。

「なんと……!お待ちしておりました、エリアス様。旦那様もきっとお喜びになります」
「ありがとう。私にできることは少ないかもしれないが、少しでも彼の助けになりたいんだ」

その日から、エリアスの新しい日課が始まった。
シュミットは嬉々として、ハルトマン家の家計簿や領地の運営資料、過去の取引記録などを書斎に運び込んできた。

「まずは、こちらの帳簿からご説明いたします」

数字の羅列や専門用語が並ぶ書類。
普通なら敬遠したくなるような内容だが、実家の書庫で難解な歴史書や古文書を読み漁っていたエリアスにとって、文字を追い、知識を吸収することは苦ではなかった。
それに、シュミットの教え方は非常に丁寧で分かりやすい。

「なるほど……この地域の特産品をこちらの販路に回しているのか」
「左様でございます。流石はエリアス様、理解がお早い」

エリアスは水を得た魚のように知識を吸収していった。
ヴォルフが商売で築き上げた財産をどう守り、どう領民のために使っているのか。それを知ることは、ヴォルフという人間の生き様を深く知ることでもあった。

そして、夜。
ヴォルフが帰宅し、二人で摂る夕食の時間が、エリアスにとって一番の楽しみになった。

「ヴォルフ、聞いてください。今日、シュミットに領地の灌漑工事の資料を見せてもらったんです」
「ほう?」
「貴方が数年前に投資したあの水路のおかげで、今年の収穫量が倍増しているそうですね。素晴らしい判断だと思いました」

瞳を輝かせてその日学んだことを話すエリアスを、ヴォルフは蕩けるような甘い眼差しで見つめていた。

「君が私の仕事に興味を持ってくれるのは嬉しいよ。……だが」

ヴォルフは不意にフォークを置き、わざとらしく溜息をついた。

「君の話の中に、シュミットの名前が出すぎる」
「え?」
「昼間はずっと彼と一緒なのだろう?君が私よりもシュミットと一緒にいる時間の方が多いのが、どうにも恨めしく思えてくるな」

少し拗ねたように唇を尖らせる夫。
その嫉妬があまりにも可愛らしくて、エリアスは思わず吹き出してしまった。

「ふふっ、何を言っているんですか。私は勉強しているだけですよ」
「分かっているが、焼き餅は焼けるんだ」

ヴォルフはテーブルの下でエリアスの足を軽くつつき、悪戯っぽく笑った。

「食事を終えたら、私の部屋に来て埋め合わせをしてくれ。……たっぷりとね」

そんなやり取りを経て、食後は真っ直ぐヴォルフの部屋に向かうのが、二人の日課となった。

「ヴォルフ……っ」

扉が閉まるや否や、抱き寄せられ、甘い口づけが降ってくる。
昼間の「勉強熱心な妻」から、「愛される伴侶」へと戻る時間。

「今日は疲れていないか?」
「大丈夫です。……貴方に触れてもらった方が、元気が出ます」

エリアスの身体を気遣って、ただ抱きしめ合って眠るだけの日もある。
けれど、密着して肌を合わせているうちに、互いの熱に浮かされ、結局は情熱的な夜を過ごしてしまうことがほとんどだった。

「愛しているよ、エリアス……」
「私も……愛しています、ヴォルフ」

何度も愛を囁かれ、身体の奥深くまで満たされる。
快感と共に、自分がここにいていいのだという確かな充足感が込み上げてくる。
愛されていることを全身で感じられるこの時間。

エリアスの心も身体も、かつてないほど豊かに満たされ、幸せな色に染まっていった。
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