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第1章
愛の色を纏って
しおりを挟む幸せな日々が続く中、再びヴォルフの元に王宮主催の夜会の招待状が届いた。
書斎でそれを広げたヴォルフは、真剣な眼差しでエリアスに向き直った。
「エリアス。今度の夜会も、夫婦で出席したいと思っている」
「はい、もちろんです」
「だが、約束する」
ヴォルフはエリアスの手を強く握りしめた。
「前のように、君を一人にすることは絶対にしない。挨拶回りも、休憩も、一秒たりとも君から離れない。君のことは、私が必ず守るから」
その言葉には、かつてエリアスを危険な目に遭わせてしまったことへの深い悔恨と、二度と繰り返さないという固い決意が滲んでいた。
エリアスは胸が温かくなり、微笑んで頷いた。
「信じています、ヴォルフ。貴方がそばにいてくださるなら、私は何も怖くありません」
「ありがとう。……それから」
ヴォルフの瞳に、いつもの熱っぽい色が宿る。
「今回も、君が着るものは頭の先から足の先まで、全て私に任せてくれないか?」
以前なら、「自分のような見栄えの悪い妻を、少しでもマシにするためだろう」と卑屈に捉えていた申し出だ。
けれど今は違う。
これがヴォルフなりの愛情表現であり、周囲に対して「私のものだ」と主張したい独占欲の表れだと理解している。
愛されているという実感が、エリアスを素直にさせた。
「ふふ、はい。また素敵に仕立ててくださるのを楽しみにしています」
エリアスは嬉しそうに頷き、そして少しだけ頬を染めて、ある願いを口にした。
「では……一つだけ、お願いしてもいいですか?」
「何でも言ってくれ」
「今度は……ヴォルフとお揃いの色を、使ってください」
「――え?」
ヴォルフが目を丸くする。
「前のように、貴方の瞳の色を私が身につけるだけじゃなく……二人で並んだ時に、一目で夫婦だと分かるような、ヴォルフと揃いの色を纏いたいんです」
それは、エリアスなりの独占欲であり、ヴォルフの隣に立つことへの誇りの表れだった。
その言葉を聞いた瞬間、ヴォルフの表情がぱあっと輝いた。
心底嬉しそうに目尻を下げ、愛おしさに耐えきれないといった様子でエリアスを引き寄せる。
「……エリアス、君は本当に可愛いな」
チュッ、と額にキスが落とされる。
「ああ、任せてくれ。誰が見ても私たちが愛し合う夫婦だと分かるような、最高の衣装を用意するよ」
そして夜会の前日。
アンナが大きな箱を抱えて、満面の笑みで部屋に入ってきた。
「エリアス様!旦那様からの衣装が届きましたよ!今回もとっても素敵です!」
箱が開けられ、中身が披露される。
エリアスはそれを見て、驚きに息を呑んだ。
「これは……」
前回のような、夜空を思わせる深い色のベルベットではない。
そこにあったのは、シルクのような光沢を持つ、淡いシルバーグレーの生地に、繊細な金糸の刺繍が施された衣装だった。
明るく、華やかで、それでいて品がある。
ヴォルフの銀髪と並べば、間違いなく美しい調和を見せる色合いだ。
「綺麗な色……でも、私に似合うだろうか」
エリアスは少し不安になった。
実家にいた頃から、目立たないように、影に溶け込むようにと、黒や茶色の暗い色ばかりを選んで着てきた。
こんなに明るい色を身につけたことなど、一度もない。
光の中に引きずり出されるようで、少し怖じ気づいてしまう。
しかし、アンナは自信満々に言った。
「何を仰いますか!エリアス様の黒髪と切れ長の瞳には、こういう淡いお色が凄く映えるんです。旦那様は、エリアス様の魅力を誰よりも分かっていらっしゃいますよ」
アンナの言葉に、エリアスは衣装の生地にそっと触れた。
ヴォルフが選んでくれた、光の色。
「もう隠れなくていい」「堂々と隣にいていい」と言ってくれているようだ。
「……そうだね。ヴォルフが選んでくれたんだもの」
エリアスは迷いを捨て、その衣装を受け取った。
そして、ついに夜会当日を迎える。
窓から差し込む陽光が、新しい門出を祝福しているかのように眩しかった。
エリアスは鏡の前で深く息を吸い込み、愛する夫と共に立つ舞台へと心を整えた。
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