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第1章
熱に浮かされて
しおりを挟む湯気が立ち込める浴室で、エリアスはヴォルフの体温と温かいお湯に包まれ、心地よい安らぎに身を委ねていた。
しかし、その穏やかな時間は長くは続かなかった。
「……ん?」
水面下で、ヴォルフの手が動いた。
膝に乗せられたエリアスを支えていただけの大きな手が、悪戯っぽく、そしてねっとりとエリアスの腰を撫で始めたのだ。
指先が背骨をなぞり、そのまま下へと滑り落ちて、柔らかい臀部を揉みしだく。
お湯の抵抗と、ヴォルフの手の感触。
背中まで愛撫するように撫で回されるだけで、エリアスの身体の奥がじんわりと疼き、なんだかいやらしい気持ちになってしまう。
「……っ」
至近距離で見つめ合う体勢だ。
エリアスの息が僅かに弾み、頬が上気していく様を、ヴォルフは逃さず見つめている。
あまりの恥ずかしさに、エリアスが視線を逸らそうと顔を背けかけた時だった。
「エリアス」
ヴォルフが低く名を呼んだ。
顎を掴んで無理やり向かせるようなことはしない。
けれど、その声には抗えない引力があった。
「……こちらを向いて。目を逸らさないでくれ」
甘く、けれど命令めいた囁き。
そう言われて、エリアスは耳まで真っ赤になりながらも、逃げるのをやめて素直にヴォルフに向き直った。
そこにあったのは、揺らめくような情熱だった。
愛しげに細められたヴォルフのアイスブルーの瞳には、隠しきれない欲望の熱が宿っている。
獲物を狙う獣のような、けれど愛しい伴侶を渇望する切実な色。
(……ああ)
その熱は、他の誰でもない、自分に向けられたものだ。
そう自覚した瞬間、エリアスの身体の奥底からも、呼応するように熱いものが込み上げてきた。
心臓が早鐘を打ち、血液が沸騰するような感覚に陥る。
二人の顔が、磁石のように自然と引き寄せられた。
「ん……っ」
触れ合った唇から、吐息が漏れる。
どちらからともなく舌を絡ませ、深く、貪るように求め合う。
ちゃぷ、ちゃぷ、と揺れる湯の音なのか、それとも二人の唾液が濃厚に絡まり合う水音なのか、もう分からない。
湿った空間に響く艶めかしい音が、理性を溶かしていく。
視界がぐらりと揺れた。
頭がくらくらとして、意識が遠のきそうになる。
(……のぼせたのかな)
いや、違う。
エリアスは朦朧とする頭で悟った。
これは湯の熱のせいじゃない。
自分というオメガを全身全霊で求めてくる、愛しいアルファの熱に当てられたせいだと。
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