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第1章
決意の茶会
しおりを挟むヴォルフに愛され、心身ともに満たされた日々を過ごす中、ついに予定していた茶会の日がやってきた。
鏡の前に立ったエリアスは、ヴォルフが用意してくれた衣装に袖を通した。
今回身につけるのは、夜会のような重厚なベルベットではなく、昼間の茶会に相応しい、軽やかで上質な絹の衣装だ。
色は澄んだ水色。
華美な装飾は極力抑え、シンプルだが仕立ての良さが際立つデザインだ。
商人の目利きで選ばれた最高級の生地と、貴族社会のTPOをわきまえた品格のある装い。
「うん、いい色だ。エリアスの透き通るような白い肌には、この色がよく映える」
数日前、衣装合わせをした時にヴォルフが満足そうに言っていた言葉を思い出す。
仕上げに、胸元へあの青い宝石のブローチをつけた。
これが、エリアスを守る最強の盾だ。
エリアスはアンナと一人の従者を連れて、馬車に乗り込んだ。
車窓の景色が流れていく中、向かいに座るアンナはいつになくそわそわとしていた。
「ふふ、アンナ。楽しそうだね」
「はい!私、エリアス様とこうしてお出かけするのは初めてですから!」
アンナは頬を紅潮させ、少女のように目を輝かせている。
しかし、すぐに真剣な表情に戻り、身を乗り出した。
「エリアス様。向こうで何か嫌なことがあったら、すぐに私に言ってくださいね。私が盾になりますから!」
拳を握りしめて力説する彼女に、エリアスは思わず苦笑した。
今朝、仕事に出かける前のヴォルフも、全く同じことを言っていたからだ。
『エリアス。もし誰かに不躾なことを言われたり、不快な思いをしたら、すぐに私に言うんだぞ。即刻迎えに行って、その家ごと潰してやるから』
眉を下げて心配する夫と、頼もしいメイド。
二人とも過保護すぎる。
けれど、その愛の重さが、今のエリアスには何よりも心強かった。
「ありがとう、アンナ。心強いよ」
やがて馬車は、会場となる男爵家の屋敷に到着した。
車窓から見えたその屋敷は、ヴォルフのハルトマン邸に比べれば規模は小さく、経済的な差は明らかだった。
だが、建物の意匠や庭木の配置には年季が入っており、古くからの伝統を感じさせる。
貴族社会において、「金」は力だが、それ以上に「階級」と「歴史」が重んじられる。
かつてエリアスの実家が、貧しくとも公爵家として踏ん反り返っていたように。
新興貴族であるヴォルフが、この世界で本当に認められるには、こうした歴史ある家々との繋がりが不可欠なのだ。
馬車を降りると、すでにエントランスには多くの客が集まっていた。
茶会に参加するのは、主に貴族の奥方たちだ。
性別は女性が多く、属性はオメガ、ベータ、アルファと様々だが、やはり「夫を支える妻」という立場の女性が圧倒的多数を占めている。
エリアスのように、男性のオメガが茶会に参加することは珍しい。
色とりどりのドレスで着飾った美しい女性たちが、談笑しながら屋敷の中へと吸い込まれていく。
華やかで、そしてどこか排他的な空気が漂うその波に、エリアスも足を踏み入れた。
(……大丈夫)
周囲からの視線を感じる。
「珍しいわね」「男性のオメガよ」「あれが噂の……」という囁きが聞こえてくるようだ。
緊張で掌に汗が滲む。
けれど、胸元のブローチにそっと触れると、ヴォルフの体温を感じる気がした。
エリアスは一つ深呼吸をして、背筋を伸ばした。
ヴォルフのために、味方を作るのだ。
その決意を胸に、エリアスは男爵家の広間へと進んでいった。
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