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第1章
愛の痕跡
しおりを挟むとろとろに蕩かされた激しい情事の後、ヴォルフはぐったりとして力が入らないエリアスを軽々と抱き上げ、浴室へと運んでくれた。
大きな鏡の前を通った時、ふと自分の姿が目に入り、エリアスはカッと顔を熱くした。
「あ……」
白い肌の至る所に――首筋、鎖骨、胸、そして内腿にまで――ヴォルフがつけた赤いキスマークや噛み痕が、花びらのように散らばっていたからだ。
全身が香油で艶めき、愛された証拠がありありと残っている。
なんて乱れた姿だろう。けれど、その痛々しくも見える痕跡が、ヴォルフからの独占欲の証だと思うと、恥ずかしさ以上に胸の奥が甘く疼いた。
「……綺麗だ、エリアス」
ヴォルフも鏡越しにその姿を見つめ、満足げに喉を鳴らした。
そして、洗い場へエリアスを下ろし、再び温かいタオルと新しいお湯で身体を洗い始めた。
「今日はもう、無理はさせないよ。……絶対に」
ヴォルフは自分に言い聞かせるように、何度もそう呟いていた。
互いに全裸で、エリアスの身体は香油で艶めき、自身がつけた痕跡で彩られている。
さらに、中は先ほどの情事でとろとろに解されている状態だ。
そうしたのは自分であるという事実を目の当たりにするたび、ヴォルフの息が荒くなり、再び昂りそうになるのを必死に理性で抑え込んでいるのが分かった。
(……我慢してくれているんだ)
その葛藤すらも、自分への愛おしさゆえだと思うと嬉しかった。
ヴォルフは震える手つきながらも丁寧に香油を洗い流し、エリアスを抱き上げたまま、温かいお湯の張られたバスタブへと浸かった。
「ふぁ……」
お湯の温かさが芯まで染み渡り、エリアスからは自然と安堵の息が漏れた。
さすがに今夜は疲労の極致だった。
ヴォルフの膝の上に抱っこされたまま、ゆらゆらと揺れるお湯のリズムに身を任せていると、強烈な睡魔が襲ってくる。
「眠いか?」
「はい……ヴォルフが温かくて、気持ちよくて……」
エリアスの瞼が重力に逆らえずに落ちてくる。
本気で、このまま眠ってしまいそうだ。
ヴォルフはエリアスの頭を自身の肩口に預けさせ、濡れた背中を優しく撫でた。
「このまま眠っていいよ。身体が温まったら、私がベッドまで運んであげるから」
「でも……重い、ですし……」
「君ひとり運ぶくらい、なんでもない。私に任せて、夢の続きにお行き」
その頼もしい言葉と、湯気越しに香る愛しいアルファの匂い。
すべてに包まれ、安心しきってしまったエリアスは、申し訳ないという理性を手放し、素直にその誘いに甘えることにした。
「……ありがとうございます、ヴォルフ……」
意識が深淵へと沈んでいく直前。
頬に、温かく柔らかい感触が触れた気がした。
愛しむような優しいキス。
(……幸せだ)
エリアスはその幸福な余韻を胸に抱きながら、湯の中で深い眠りへと落ちていった。
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