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第2章
渇きと残り香⚠️
しおりを挟むヒートまで、あと三週間。
「七日間の休み」を確保するため、ヴォルフは宣言通り仕事漬けの日々を送ることになった。
朝、エリアスが目を覚ます頃には、すでに隣は空っぽだ。
シーツに触れると、微かな温もりと彼の匂いだけが残っている。
そして夜は、エリアスが待ちくたびれて眠ってしまってから帰宅し、翌朝にはまた出かけていく。
すれ違いの毎日。
エリアスは頭では理解していた。
これは二人のため、これから訪れるヒート期間を片時も離れずに過ごし、正式に番になるための準備なのだと。
その希望が、エリアスの孤独を支えていた。
けれど、理性と感情は別物だ。
広いベッドに一人で寝ていると、身を切られるような寂しさが襲ってくる。
「……ヴォルフ」
ある夜、エリアスはヴォルフの枕を抱きしめ、深く息を吸い込んだ。
森のような、深く落ち着くアルファの香り。
本人はいないのに、濃厚な気配だけがシーツや枕に染み付いている。
その匂いに包まれていると、寂しさと同時に、身体の奥が燻るように熱くなってくるのを感じた。
(……だめだ)
ヒートが近づいているせいもあるだろう。
ヴォルフの匂いを嗅ぐだけで、条件反射のように身体が反応してしまう。
はしたない、と思いながらも、疼きは収まるどころか増していくばかりだ。
エリアスはたまらず、ナイトウェアのズボンと下着だけを脱ぎ捨てた。
誰に見られるわけでもないのに、顔が熱い。
仰向けになり、ヴォルフにされる時と同じように両足を開く。
そして、震える手で自身の熱を持った部分を握り込んだ。
「ん、ぁ……っ」
ヴォルフに出会う前は、こんな風に欲求不満になって自らを慰めることなどなかった。
ヒート期間中に、薬が効かずに仕方なく「処理」として行うことはあっても、平時にこんな衝動に駆られるなんてあり得なかった。
それなのに今は、彼と離れて寂しいという感情と、彼が残していった匂いが引き金となって、どうしても我慢ができなくなってしまう。
上下に手を動かす。
けれど、足りない。
ヴォルフの大きくて温かい手とは違う、自分の細い指では、何の慰めにもならない。
「ぁ、うぅ……」
エリアスは涙目になりながら、手を後ろへと伸ばした。
すでに愛液で濡れきっている窄まりへ、中指を滑り込ませる。
くちゅ、と卑猥な水音が、静まり返った寝室に響いた。
「あっ、あぁ……ヴォルフ……っ」
前と後ろ、同時に刺激する。
自分で動かしているのに、脳裏に浮かぶのはヴォルフの顔だ。
彼の指ならもっと気持ちいいのに。彼ならもっと奥まで届くのに。
(……上手く、できない)
自分の指じゃ物足りない。
ヴォルフが欲しい。全部ヴォルフにやってほしい。
彼に愛され、甘やかされすぎたせいで、エリアスの身体は彼なしでは満足できないように作り変えられてしまっていた。
なんて我儘になってしまったのだろう。
「あ、いく、っ……!」
ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
快感のためというよりは、ただ昂った神経を鎮めるための「処理」。
エリアスはヴォルフの名前を呼びながら、懸命に指を動かし続け、なんとか射精を迎えた。
「はぁ、はぁ……っ」
絶頂の余韻が去った後に残るのは、どうしようもない虚しさだけだ。
ヴォルフがいれば、優しくキスをして、綺麗に拭って、抱きしめてくれるのに。
今は自分で後始末をして、濡れた身体を拭わなければならない。
エリアスは重い身体を起こして身なりを整え、再びナイトウェアを着た。
そして、逃げるようにベッドへ潜り込み、ヴォルフの匂いが染み付いた布団を頭まで被った。
(……会いたい)
ヴォルフに抱きしめられて眠りたい。
一秒でも早く、この時間が過ぎ去ってほしい。
エリアスは満たされない渇きを抱えたまま、愛しい人の夢を見ることを願って、強く目を閉じた。
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