銀色の商人と贋作の妻

真大(mahiro)

文字の大きさ
62 / 251
第2章

渇きと残り香⚠️

しおりを挟む

ヒートまで、あと三週間。
「七日間の休み」を確保するため、ヴォルフは宣言通り仕事漬けの日々を送ることになった。

朝、エリアスが目を覚ます頃には、すでに隣は空っぽだ。
シーツに触れると、微かな温もりと彼の匂いだけが残っている。
そして夜は、エリアスが待ちくたびれて眠ってしまってから帰宅し、翌朝にはまた出かけていく。

すれ違いの毎日。
エリアスは頭では理解していた。
これは二人のため、これから訪れるヒート期間を片時も離れずに過ごし、正式に番になるための準備なのだと。
その希望が、エリアスの孤独を支えていた。

けれど、理性と感情は別物だ。
広いベッドに一人で寝ていると、身を切られるような寂しさが襲ってくる。

「……ヴォルフ」

ある夜、エリアスはヴォルフの枕を抱きしめ、深く息を吸い込んだ。
森のような、深く落ち着くアルファの香り。
本人はいないのに、濃厚な気配だけがシーツや枕に染み付いている。
その匂いに包まれていると、寂しさと同時に、身体の奥が燻るように熱くなってくるのを感じた。

(……だめだ)

ヒートが近づいているせいもあるだろう。
ヴォルフの匂いを嗅ぐだけで、条件反射のように身体が反応してしまう。
はしたない、と思いながらも、疼きは収まるどころか増していくばかりだ。

エリアスはたまらず、ナイトウェアのズボンと下着だけを脱ぎ捨てた。
誰に見られるわけでもないのに、顔が熱い。
仰向けになり、ヴォルフにされる時と同じように両足を開く。
そして、震える手で自身の熱を持った部分を握り込んだ。

「ん、ぁ……っ」

ヴォルフに出会う前は、こんな風に欲求不満になって自らを慰めることなどなかった。
ヒート期間中に、薬が効かずに仕方なく「処理」として行うことはあっても、平時にこんな衝動に駆られるなんてあり得なかった。
それなのに今は、彼と離れて寂しいという感情と、彼が残していった匂いが引き金となって、どうしても我慢ができなくなってしまう。

上下に手を動かす。
けれど、足りない。
ヴォルフの大きくて温かい手とは違う、自分の細い指では、何の慰めにもならない。

「ぁ、うぅ……」

エリアスは涙目になりながら、手を後ろへと伸ばした。
すでに愛液で濡れきっている窄まりへ、中指を滑り込ませる。
くちゅ、と卑猥な水音が、静まり返った寝室に響いた。

「あっ、あぁ……ヴォルフ……っ」

前と後ろ、同時に刺激する。
自分で動かしているのに、脳裏に浮かぶのはヴォルフの顔だ。
彼の指ならもっと気持ちいいのに。彼ならもっと奥まで届くのに。

(……上手く、できない)

自分の指じゃ物足りない。
ヴォルフが欲しい。全部ヴォルフにやってほしい。
彼に愛され、甘やかされすぎたせいで、エリアスの身体は彼なしでは満足できないように作り変えられてしまっていた。
なんて我儘になってしまったのだろう。

「あ、いく、っ……!」

ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
快感のためというよりは、ただ昂った神経を鎮めるための「処理」。
エリアスはヴォルフの名前を呼びながら、懸命に指を動かし続け、なんとか射精を迎えた。

「はぁ、はぁ……っ」

絶頂の余韻が去った後に残るのは、どうしようもない虚しさだけだ。
ヴォルフがいれば、優しくキスをして、綺麗に拭って、抱きしめてくれるのに。
今は自分で後始末をして、濡れた身体を拭わなければならない。

エリアスは重い身体を起こして身なりを整え、再びナイトウェアを着た。
そして、逃げるようにベッドへ潜り込み、ヴォルフの匂いが染み付いた布団を頭まで被った。

(……会いたい)

ヴォルフに抱きしめられて眠りたい。
一秒でも早く、この時間が過ぎ去ってほしい。

エリアスは満たされない渇きを抱えたまま、愛しい人の夢を見ることを願って、強く目を閉じた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

抑制剤の効かない薬師オメガは森に隠れる。最強騎士団長に見つかり、聖なるフェロモンで理性を溶かされ、国を捨てた逃避行の果てに番となる

水凪しおん
BL
「この香りを嗅いだ瞬間、俺の本能は二つに引き裂かれた」 人里離れた森で暮らす薬師のエリアルは、抑制剤が効かない特異体質のオメガ。彼から放たれるフェロモンは万病を癒やす聖なる力を持つが、同時に理性を失わせる劇薬でもあった。 ある日、流行り病の特効薬を求めて森を訪れた最強の騎士団長・ジークフリートに見つかってしまう。エリアルの香りに強烈に反応しながらも、鋼の理性で耐え抜くジークフリート。 「俺が、貴方の剣となり盾となる」 国を救うための道具として狙われるエリアルを守るため、最強の騎士は地位も名誉も投げ捨て、国を敵に回す逃避行へと旅立つ。 シリアスから始まり、最後は辺境での幸せなスローライフへ。一途な騎士と健気な薬師の、運命のBLファンタジー。

【完結】重ねた手

ivy
BL
とても短いお話です。

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

今からレンタルアルファシステムを利用します

夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。 ◆完結済みです。ありがとうございました。 ◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!

処理中です...