銀色の商人と贋作の妻

真大(mahiro)

文字の大きさ
76 / 251
第2章

消耗の罠

しおりを挟む

一回戦目の興奮が冷めやらぬまま、しばらくの休憩を挟んで、二回戦目の開始が告げられた。
東のゲートから、バンガルド家の二人目の騎士が現れる。

先ほどの騎士よりもさらに大柄で、筋肉の塊のような屈強な男だ。
身につけている鎧も、一回戦目のものより装飾が施され、強度が高そうな立派なものに見える。
エリアスの心臓が、早鐘を打つように激しく脈打ち始めた。

「次は、誰が出るんだろう」

ハルトマン家のゲートに視線が集まる。
まだ出てきていない騎士がいるはずだ。
そう思って見守っていると、代表者が姿を現すよりも先に、会場が大きくざわついた。

どよめきと、困惑の声。
何事かと目を凝らすと、砂煙の向こうから歩いてきたのは――。

「……ヴォルフ?」

一回戦目に出てきた、あの鈍色の鎧。
ヴォルフだった。
彼は兜を脱ぐこともなく、当然のように二戦目のフィールドに立ったのだ。

エリアスは息を呑んだ。
一回戦目に出てきたのは、余興でも威嚇でもない。
彼は、三回とも全て自ら戦う気なのだ。

(無茶だ……っ)

どれだけヴォルフが強いからと言っても、相手はバンガルド家が抱える選りすぐりの騎士たちだ。
休憩があるとはいえ、重い鎧を着て、命のやり取りを三回連続で行うなど、正気の沙汰ではない。

アルシード王子が言っていた通り、「自分の手で取り戻したい」というヴォルフの凄まじい決意と執念が伝わってきた。

「う、ぅ……」

先ほどの安堵の涙とは違う、熱い涙が溢れてきた。
泣いていては見逃してしまうかもしれないのに、涙が止まらない。

ヴォルフが傷つくのが怖い。
この先どうなってしまうのかが怖い。
けれど、そこまでして自分を愛してくれていることが嬉しくて、同時にそんな無茶をさせてしまっていることが辛くて。

様々な感情が嵐のように押し寄せ、エリアスの胸を引き裂いた。
それでも、エリアスは涙を拭い、ガラスに張り付くようにして二回戦目を見守った。

「始め!!」

開始の合図と共に、二人が動く。
しかし、今回の戦いは前回とは違った。

バンガルド家の騎士は、一回戦目の瞬殺劇を見ていたせいか、極めて慎重だった。
決して無理に攻め込まず、ヴォルフの出方を伺い、剣を合わせてはすぐに距離を取る。

ガキンッ、ガキンッ!

重い金属音が響くたびに、エリアスの身がすくむ。
ヴォルフは兜で顔が見えないため、どんな表情をしているのか分からない。
だが、明らかに一回戦目よりも決着がつくまでに時間がかかっている。

(……わざとだ)

エリアスは察した。
バンガルド卿は、ヴォルフが三回戦目まで出てくることを予想していたのではないか。
だからこそ、この二回戦目の騎士には「勝つこと」よりも「時間を稼ぎ、ヴォルフを消耗させること」を命じたのかもしれない。

そう思うと、時間が経てば経つほどハラハラと焦燥感が募った。
騎士は防戦一方で時間を稼ぎながらも、やはりヴォルフの剣圧に押され、かなり消耗しているように見えた。

だが、それは連戦しているヴォルフも同じだ。
顔は見えないが、剣を振るう速度がわずかに落ち、肩で息をしているのが動きから伝わってくる。

「そこまで!!」

長く続いた攻防の末、王宮騎士団長が割って入った。
決着がつかないまま、試合が止められる。

「時間制限だ」

どうやら決闘の儀には、一試合ごとの制限時間があるらしい。エリアスはそこまで知らなかったが、両名ともそれに従い、剣を引いた。

引き分けとなるのか。それなら、まだ望みはある。
そう思った直後、審判団との協議を終えた騎士団長が無情な宣告を下した。

「時間切れにより、判定に移る! ……攻撃の有効打、および残存体力により……二回戦目は、バンガルド家の勝利とする!!」
「え……?」

エリアスは耳を疑った。

判定?
戦っている間は互角に見えた。ヴォルフだって有効打を与えていたはずだ。
しかし、一回戦目も戦った疲労が見えるヴォルフに対し、守りに徹して余力を残したように見せた騎士の方が「優勢」と判断されたのだ。

(そんな、不利な……っ)

理不尽だと思ったが、そもそも決闘において、当主一人が全ての試合に出るという選択自体が常識外れであり、圧倒的に不利なのだ。

それを承知で挑んだのはヴォルフ自身。

(これも全て、消耗戦に持ち込んだバンガルド卿の策略だ)

一勝一敗。
これで勝負は振出しに戻った。
だが、ヴォルフの体力は確実に削られている。
次は最後の三回戦。そこで全てが決まる。

「三回戦目の開始まで、二十分間の休息を取る!」

先ほどよりも長い休憩時間が告げられた。
それはヴォルフにとっての回復の時間であると同時に、疲労がどっと押し寄せてくる魔の時間でもある。

エリアスは針の筵に座らされたような心地で、ただひたすらにヴォルフの無事と勝利を祈り続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

【完結】重ねた手

ivy
BL
とても短いお話です。

抑制剤の効かない薬師オメガは森に隠れる。最強騎士団長に見つかり、聖なるフェロモンで理性を溶かされ、国を捨てた逃避行の果てに番となる

水凪しおん
BL
「この香りを嗅いだ瞬間、俺の本能は二つに引き裂かれた」 人里離れた森で暮らす薬師のエリアルは、抑制剤が効かない特異体質のオメガ。彼から放たれるフェロモンは万病を癒やす聖なる力を持つが、同時に理性を失わせる劇薬でもあった。 ある日、流行り病の特効薬を求めて森を訪れた最強の騎士団長・ジークフリートに見つかってしまう。エリアルの香りに強烈に反応しながらも、鋼の理性で耐え抜くジークフリート。 「俺が、貴方の剣となり盾となる」 国を救うための道具として狙われるエリアルを守るため、最強の騎士は地位も名誉も投げ捨て、国を敵に回す逃避行へと旅立つ。 シリアスから始まり、最後は辺境での幸せなスローライフへ。一途な騎士と健気な薬師の、運命のBLファンタジー。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

僕の事を嫌いな騎士の一途すぎる最愛は…

BL
記憶喪失の中目覚めると、知らない騎士の家で寝ていた。だけど騎士は受けを酷く嫌っているらしい。 騎士×???

そばにいられるだけで十分だから僕の気持ちに気付かないでいて

千環
BL
大学生の先輩×後輩。両片想い。 本編完結済みで、番外編をのんびり更新します。

今からレンタルアルファシステムを利用します

夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。 ◆完結済みです。ありがとうございました。 ◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!

処理中です...