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第2章
消耗の罠
しおりを挟む一回戦目の興奮が冷めやらぬまま、しばらくの休憩を挟んで、二回戦目の開始が告げられた。
東のゲートから、バンガルド家の二人目の騎士が現れる。
先ほどの騎士よりもさらに大柄で、筋肉の塊のような屈強な男だ。
身につけている鎧も、一回戦目のものより装飾が施され、強度が高そうな立派なものに見える。
エリアスの心臓が、早鐘を打つように激しく脈打ち始めた。
「次は、誰が出るんだろう」
ハルトマン家のゲートに視線が集まる。
まだ出てきていない騎士がいるはずだ。
そう思って見守っていると、代表者が姿を現すよりも先に、会場が大きくざわついた。
どよめきと、困惑の声。
何事かと目を凝らすと、砂煙の向こうから歩いてきたのは――。
「……ヴォルフ?」
一回戦目に出てきた、あの鈍色の鎧。
ヴォルフだった。
彼は兜を脱ぐこともなく、当然のように二戦目のフィールドに立ったのだ。
エリアスは息を呑んだ。
一回戦目に出てきたのは、余興でも威嚇でもない。
彼は、三回とも全て自ら戦う気なのだ。
(無茶だ……っ)
どれだけヴォルフが強いからと言っても、相手はバンガルド家が抱える選りすぐりの騎士たちだ。
休憩があるとはいえ、重い鎧を着て、命のやり取りを三回連続で行うなど、正気の沙汰ではない。
アルシード王子が言っていた通り、「自分の手で取り戻したい」というヴォルフの凄まじい決意と執念が伝わってきた。
「う、ぅ……」
先ほどの安堵の涙とは違う、熱い涙が溢れてきた。
泣いていては見逃してしまうかもしれないのに、涙が止まらない。
ヴォルフが傷つくのが怖い。
この先どうなってしまうのかが怖い。
けれど、そこまでして自分を愛してくれていることが嬉しくて、同時にそんな無茶をさせてしまっていることが辛くて。
様々な感情が嵐のように押し寄せ、エリアスの胸を引き裂いた。
それでも、エリアスは涙を拭い、ガラスに張り付くようにして二回戦目を見守った。
「始め!!」
開始の合図と共に、二人が動く。
しかし、今回の戦いは前回とは違った。
バンガルド家の騎士は、一回戦目の瞬殺劇を見ていたせいか、極めて慎重だった。
決して無理に攻め込まず、ヴォルフの出方を伺い、剣を合わせてはすぐに距離を取る。
ガキンッ、ガキンッ!
重い金属音が響くたびに、エリアスの身がすくむ。
ヴォルフは兜で顔が見えないため、どんな表情をしているのか分からない。
だが、明らかに一回戦目よりも決着がつくまでに時間がかかっている。
(……わざとだ)
エリアスは察した。
バンガルド卿は、ヴォルフが三回戦目まで出てくることを予想していたのではないか。
だからこそ、この二回戦目の騎士には「勝つこと」よりも「時間を稼ぎ、ヴォルフを消耗させること」を命じたのかもしれない。
そう思うと、時間が経てば経つほどハラハラと焦燥感が募った。
騎士は防戦一方で時間を稼ぎながらも、やはりヴォルフの剣圧に押され、かなり消耗しているように見えた。
だが、それは連戦しているヴォルフも同じだ。
顔は見えないが、剣を振るう速度がわずかに落ち、肩で息をしているのが動きから伝わってくる。
「そこまで!!」
長く続いた攻防の末、王宮騎士団長が割って入った。
決着がつかないまま、試合が止められる。
「時間制限だ」
どうやら決闘の儀には、一試合ごとの制限時間があるらしい。エリアスはそこまで知らなかったが、両名ともそれに従い、剣を引いた。
引き分けとなるのか。それなら、まだ望みはある。
そう思った直後、審判団との協議を終えた騎士団長が無情な宣告を下した。
「時間切れにより、判定に移る! ……攻撃の有効打、および残存体力により……二回戦目は、バンガルド家の勝利とする!!」
「え……?」
エリアスは耳を疑った。
判定?
戦っている間は互角に見えた。ヴォルフだって有効打を与えていたはずだ。
しかし、一回戦目も戦った疲労が見えるヴォルフに対し、守りに徹して余力を残したように見せた騎士の方が「優勢」と判断されたのだ。
(そんな、不利な……っ)
理不尽だと思ったが、そもそも決闘において、当主一人が全ての試合に出るという選択自体が常識外れであり、圧倒的に不利なのだ。
それを承知で挑んだのはヴォルフ自身。
(これも全て、消耗戦に持ち込んだバンガルド卿の策略だ)
一勝一敗。
これで勝負は振出しに戻った。
だが、ヴォルフの体力は確実に削られている。
次は最後の三回戦。そこで全てが決まる。
「三回戦目の開始まで、二十分間の休息を取る!」
先ほどよりも長い休憩時間が告げられた。
それはヴォルフにとっての回復の時間であると同時に、疲労がどっと押し寄せてくる魔の時間でもある。
エリアスは針の筵に座らされたような心地で、ただひたすらにヴォルフの無事と勝利を祈り続けた。
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