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第2章
信じる力
しおりを挟む「ヴォルフ……っ!」
居ても立ってもいられなくなったエリアスは、休憩時間の間だけでもヴォルフの元へ行きたくて、観覧室の扉へと駆け寄った。
傷ついた彼に一言でも声をかけたい。無事かどうかを確かめたい。
しかし、扉の前に立っていた王宮の騎士たちが、その行く手を阻んだ。
「お通しできません、エリアス殿」
「お願いです、一目だけでいいんです!彼に会わせて……!」
エリアスは必死に懇願したが、騎士は冷徹に首を横に振った。
「なりません。貴方様は今回の決闘における『賭けの対象』であり、厳重な保護対象です。逃亡防止のため、勝敗が決するまではこの部屋から一歩も出すなと厳命されております」
「逃げたりしません!私は……主人に会いたいだけなんです……っ」
涙ながらに訴えるが、規則は絶対だ。
エリアスの願いが叶うことはなく、無情にも席へ戻るように促された。
泣きながら窓際の席に戻り、エリアスは震える自分の身体を強く抱きしめた。
孤独と不安が、冷たい風のように心を吹き抜ける。
(勝てるのか……?)
先ほどの二回戦目、ヴォルフは明らかに消耗していた。
相手の持久戦に持ち込まれ、体力の大部分を削り取られてしまったはずだ。
それに対して、次に出てくるのはバンガルド家の最後の騎士。つまり、大将だ。
二戦を終えた満身創痍のヴォルフが、万全の状態で控えていた最強の敵に勝てる見込みがあるのだろうか。
悪い想像ばかりが頭をもたげ、心が折れそうになる。
(……いや、だめだ)
エリアスは首を振った。
ヴォルフを信じて待つこと。勝利を祈ること。
アルシード王子に言われた通り、それは今の自分にしかできない唯一の戦いだ。
(ヴォルフが怪我をしませんように。勝って、幸せな未来を一緒に歩みたい)
自分がヴォルフを一番に信じなくてどうする。
ヴォルフは、エリアスのために全てを賭けて、今あそこに立ってくれているのだ。
疑うことは、彼の覚悟への冒涜だ。
「……信じる」
エリアスは袖で乱暴に涙を拭った。
もう泣かない。しっかりとこの目で、彼の戦いを見届けるんだ。
そう決意し、祈るように両手を固く握りしめた。
そして無情にも、休憩終了の合図が鳴り響いた。
「第三回戦!両者、入場!!」
東のゲートから、バンガルド家の最後の騎士が現れた。
その姿を見た瞬間、会場がどよめいた。
想像していた通り、いや、それ以上だ。
身長2メートルはあるだろうか。ヴォルフよりも明らかに体格が良く、全身を黒光りする重装甲で固めた屈強な戦士。
歩くたびに地響きがしそうな威圧感は、まさに「動く城壁」だった。
(……っ)
あまりの体格差に、また涙が出そうになる。
けれど、エリアスは唇を噛み締めて堪えた。
続いて、西のゲートからヴォルフが現れる。
エリアスはガラスに顔を近づけ、その姿を目に焼き付けた。
連戦の疲労は極限に達しているはずだ。
それなのに、ヴォルフの足取りには微塵の迷いもなかった。
背筋を伸ばし、堂々と敵を見据えるその立ち振る舞い。
疲れを見せないその姿こそが、ヴォルフの「強さ」であり、エリアスへの「大丈夫だ」というメッセージのように感じられた。
二人が中央で対峙する。
空気さえも凍りつくような緊張感。
「始め!!」
王宮騎士団長の声が、運命の最終戦の幕を切って落とした。
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