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第2章
帰還と甘い予兆
しおりを挟む王宮での調書作成と身支度を終え、しばらくしてから二人は部屋を後にした。
エントランスには、アルシード王子が手配してくれた王宮の紋章入りの馬車が待機していた。
最高級の馬車に揺られ、護衛騎士たちに守られながら、ヴォルフとエリアスは懐かしい我が家へと向かった。
やがて車窓に見慣れたハルトマン邸の門が見えてくる。
馬車寄せに到着すると、屋敷の使用人たちが総出で出迎えてくれた。
「エリアス様……ッ!旦那様……ッ!」
馬車を降りた瞬間、アンナが顔をくしゃくしゃにして駆け寄ってきた。
以前、実父に連れ去られて帰還した時も泣いていたが、今回はそれ以上だ。
目が腫れるほど泣いたのだろう。それほどまでに、今回の事件は彼女を不安にさせてしまったのだ。
「ただいま、アンナ。……いつも心配させてすまないね」
エリアスが申し訳なさそうにアンナの手を握ると、彼女はぶんぶんと首を横に振った。
「いいえ、いいえ……っ!エリアス様がご無事で、何よりです……本当によかった……」
涙ながらに笑ってみせる忠実なメイドの姿に、エリアスの胸が温かくなる。
そして、その少し後ろに控えていた執事長のシュミットにも歩み寄った。
「シュミット。留守の間、屋敷を守ってくれてありがとう」
「……お帰りなさいませ。お二人がご無事で戻られたこと、このシュミット、生涯の喜びでございます」
当主であるヴォルフも不在の間、動揺する使用人たちをまとめ、屋敷を維持してくれていたのは彼だ。
シュミットは深く頭を下げ、安堵に声を震わせていた。
「さあ、お二人ともお疲れでしょう。夕食の時間まで、お部屋でゆっくりお休みください」
シュミットの配慮ある言葉に甘え、二人はヴォルフの寝室へと向かった。
扉を閉め、二人きりの空間に戻る。
馴染みのある家具、ヴォルフの香り。
エリアスはソファに腰を下ろし、ふぅ、と長く息を吐いた。
ようやく、帰ってきたのだ。
「紅茶を淹れよう」
ヴォルフが上着を脱ぎ、部屋に備え付けられたティーセットの前に立った。
使用人を呼ぶこともできるのに、彼は自らポットにお湯を注ぎ、手際よく茶葉を蒸らす。
巨大な商会の主であり、今や貴族社会の英雄となった男が、こうして甲斐甲斐しく紅茶を淹れてくれる姿は、なんだか新鮮でくすぐったい。
「ヴォルフ、そんなことしなくても……座っていてください。怪我をしているのに」
「いいんだ。……全部、私がやってあげたいんだよ」
ヴォルフは穏やかに微笑み、淹れたての紅茶をカップに注いでエリアスに差し出した。
立ち上る湯気と共に、芳醇な香りが広がる。
一口飲むと、温かい液体が緊張で強張っていた身体を内側から解きほぐしていくようだった。
「ほっとします……」
「そうか。これもどうぞ」
ヴォルフはさらに、砂糖とミルクをたっぷりと入れてかき混ぜてくれた。
甘く濃厚になったミルクティー。
それを飲みながら、二人はようやく肩の力を抜き、穏やかに笑い合うことができた。
「……ふふ、美味しい」
カップを両手で包み、エリアスは小さく息をついた。
昨日は抑制剤を飲んでいたおかげで落ち着いていたが、今日は朝から身体の奥が重く、なんだか熱っぽい。
倦怠感というよりは、甘くとろけるような怠さだ。
「ヴォルフ……なんだか、朝から若干身体が怠いんです」
「うん?」
「本当に……今日明日にでも、ヒートが来そうです」
エリアスが自身の予感を伝えると、ヴォルフは紅茶を一口飲み、カップを置いてエリアスの隣に座った。
そして、熱っぽい頬を大きな手で優しく撫でた。
「分かった。……ヒート期間は、本当に一時も離さないよ」
ヴォルフのアイスブルーの瞳が、情熱的な色を帯びてエリアスを見つめる。
「食事も、下の世話も、快感の処理も……エリアスの全てを、私がしてあげる」
「……っ」
その甘美な宣言に、エリアスはこくりと頷いた。
優しい味のミルクティーに癒されながらも、身体の反応は正直だ。
ただ頬を撫でられただけなのに、ヴォルフの体温と言葉に触発され、下腹部がキュンと疼いた気がした。
エリアスは頬を染め、期待と羞恥に潤んだ瞳で、愛する夫を見つめ返した。
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