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第2章
2人だけの聖域
しおりを挟む予兆は、刻一刻と確信へと変わっていった。
時間の経過とともに、エリアスの身体は鉛を詰め込まれたように重く、怠くなっていった。
指先一つ動かすのも億劫で、夕食はヴォルフに頼んで部屋まで運んでもらい、ベッドの上で彼に口元まで運んでもらってようやく少しだけ胃に収めた。
「……ごちそうさま。少し、落ち着いたかい?」
「はい……ありがとう、ございます……」
ヴォルフが口元をナプキンで優しく拭ってくれる。
ほっとしたのも束の間、ヴォルフはエリアスを軽々と横抱きに抱き上げた。
「さあ、行こうか」
「え……? どこへ……?」
もう寝る支度は済んでいるはずなのに。
熱に浮かされた頭でぼんやりと考えていると、ヴォルフは寝室の奥にある、普段は使われていない扉を開けた。
そこは、エリアスが一度も入ったことのない、広大な部屋だった。
「ここは……」
ヴォルフの寝室よりもさらに広い空間。
部屋の奥はガラス張りになっており、そこには大きな猫足のバスタブやシャワーといった水回りの設備が完備されている。
手前には洗面台や、豪奢なソファ。
そして部屋の中央には、天蓋付きの巨大なベッドが鎮座していた。
よく見れば、そのベッドに敷かれたシーツは、いつものコットンやシルクとは違い、とろりとした艶を放つ特殊な素材で、防水性がありそうなものだった。
ヴォルフはエリアスをそのベッドへ、壊れ物を扱うようにそっと下ろした。
「ここは、君とのヒート期間を完全に二人きりで過ごすために用意した部屋だよ」
ヴォルフはエリアスの髪を梳きながら、愛おしげに部屋を見渡した。
「ここで、生活の全てが完結できる。湯浴みの場も、水場も……食事も、排泄も全て」
その言葉の意味を理解し、エリアスは背筋が震えた。
つまり、この部屋から一歩も出る必要がないということだ。
「ヒート中の乱れた君を誰にも見せずに……私と君だけで、全て出来るようにね」
「ヴォルフ……」
「さあ、始めようか」
ヴォルフがエリアスに覆い被さり、逃げ場を塞ぐようにして唇を重ねた。
触れるだけのキスではない。
舌を深く差し込み、絡め取り、互いの唾液を交換し合う濃厚な口づけ。
「んっ、ぁ……ふぅ……っ」
アルファの唾液が体内に取り込まれるたび、スイッチが入ったように身体の奥が熱く疼き始めた。
予兆だけだった感覚が、爆発的な熱量を持って本物のヒートへと変貌していく。
目の前がチカチカと明滅し、思考が白い靄に包まれて定まらない。
理性というタガが外れ、残るのは「目の前の愛しい男を求めてやまない」という強烈な本能だけ。
(……ほしい)
エリアスは熱い吐息を漏らしながら、ヴォルフの首に自ら腕を回した。
もっと、もっと。
一時も離さないで。
乱れた自分を見てほしい。
理性が壊れるくらい、奥まで愛し尽くしてほしい。
「……はぁ、ヴォルフ……っ」
エリアスは潤んだ瞳で見上げ、衝動のままに懇願した。
「早く……欲しい、です……っ」
その言葉を聞いた瞬間、ヴォルフの瞳孔が開いた。
エリアスから立ち昇る濃厚なフェロモンに煽られ、その端正な顔が欲情に歪む。
「……ああ」
ヴォルフは低く唸るように頷くと、理性の糸を断ち切り、エリアスの全てを喰らい尽くすように、さらに深く、激しくキスをした。
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