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第2章
至福の守護者
しおりを挟むエリアスがふと目を覚ました時、窓の外はすでに漆黒の闇に包まれ、夜が深まっていた。
身体を動かそうとすると、温かい拘束感に包まれていることに気づく。
「……起きたかい、エリアス」
頭上から優しい声が降り注いだ。
ヴォルフはエリアスを抱きしめたまま眠っていたようで、エリアスの目覚めと共に自身も目を覚まし、大きな手でエリアスの背中をゆっくりと撫でてくれた。
「ん……ヴォルフ……」
身体を確認する。
先ほどまで理性を焼き尽くしていた激しいヒートの波は、今は嘘のように引いていた。
嵐が過ぎ去った後の海岸のように、静かで、心地よい倦怠感だけが残っている。
エリアスはほっと安堵の息を吐いた。
ふと、気絶する直前の記憶が蘇る。
「抜かないで」「離れないで」と、子供のように泣きじゃくり、ヴォルフに縋り付いた自分の姿。
(……なんて、恥ずかしいことを)
理性が戻った今、その記憶はあまりに強烈だった。
エリアスが羞恥に顔を赤くし、口篭もっていると、ヴォルフはエリアスが何かを言う前に、耳元でくすりと笑って囁いた。
「可愛かったよ、エリアス」
「っ、わ、笑わないでください……恥ずかしいです」
「ふふ、ごめん。でも、もっと君は感情をぶつけてくれてもいいんだよ。私は、どんな君も受け止めるから」
ヴォルフは愛おしそうにエリアスの髪にキスをし、優しく背中を撫で続けた。
その温かさと許容に、エリアスの羞恥心は甘い安心感へと変わり、甘えるようにヴォルフの胸板に身を寄せた。
「……喉が渇いただろう」
ヴォルフは抱きしめたまま腕を伸ばし、枕元に置いてあった新しいゼリー飲料を手に取った。
「ほら、少しでも飲んで」
キャップを開け、エリアスの口元へ差し出す。
エリアスはヴォルフに支えられながら、冷たいゼリーを少しずつ喉に流し込んだ。
水分と糖分が染み渡り、少しずつ思考がはっきりしてくる。
飲み終わると、エリアスはヴォルフを見上げて言った。
「ヴォルフも……食事を、摂ってください」
「私は大丈夫だよ」
「だめです。ずっと私のことばかり優先して……私がまともな間に、ヴォルフもちゃんと休息と栄養を摂ってください」
ヴォルフの顔には疲労の色は見えないが、タフなアルファとはいえ、長時間の情事と看病で消耗しているはずだ。
エリアスが真剣な眼差しで訴えると、ヴォルフは観念したように頷いた。
「分かった。君の言う通りにするよ」
ヴォルフはベッドから起き上がると、エリアスを抱っこしたまま立ち上がり、部屋のテーブルへと移動した。
そこには、いつでもつまめるようにとサンドイッチや果物などの軽食が用意されていた。
ヴォルフは椅子に座り、当然のようにエリアスを膝に乗せたまま、片手でサンドイッチを摘んで食べ始めた。
「……」
エリアスは、ヴォルフが食事をする様子をじっと見つめた。
彼がしっかりと栄養を摂っているか、確認したかったのだ。
「どうした?そんなに見つめて」
「あ……いえ、美味しそうに食べているな、と……」
「ふふ、ちゃんと食べているよ」
ヴォルフはエリアスの視線の意図を察して笑った。
「分かってますが……私のことばかりで、心配で……」
エリアスが眉を下げると、ヴォルフは食事の手を止め、エリアスの頬を包み込んだ。
「エリアス。……君のお世話をしている時間は、私にとって至福なんだ」
「至福、ですか?」
「ああ。君が私を必要としてくれて、私がそれを満たす。これ以上の喜びはないよ。だから、君を優先するのは当然のことなんだ」
迷いのない言葉と共に、ヴォルフはエリアスの頬に優しいキスを落とした。
その絶対的な愛情に、エリアスの胸が熱くなる。
この人は、本当にどこまでも自分を大切にしてくれる。
「……ありがとうございます、ヴォルフ」
ヴォルフが食事を終えた後も、二人はベッドには戻らず、ソファに移動した。
ヴォルフの膝の上にエリアスが座り、大きな身体に包み込まれる。
次の波が来るまでの束の間の休息。
二人は眠気が訪れるまで、他愛のない話をしながら、甘く穏やかな時間を過ごした。
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