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第2章
続いていく未来
しおりを挟む二人きりの部屋に、カチャリと食器の音が穏やかに響く。
テーブルには、ようやく体調が万全に戻ったエリアスのために、ヴォルフと同じメニューの豪奢な夕食が並べられていた。
肉厚なローストビーフに、彩り豊かな温野菜、そして濃厚なポタージュ。
ヒートによる不調が完全に過ぎ去り、食欲を取り戻したエリアスは、それらを目を輝かせて見つめた。
「さあ、あーん」
「……ん」
もちろん、自分の手でカトラリーを持つことは許されない。
ヴォルフが一口大に切り分けた肉をフォークに刺し、エリアスの口元へと運ぶ。
エリアスは雛鳥のように口を開け、それを素直に受け入れた。
噛みしめると、肉の旨味が口いっぱいに広がる。
食事の最初から最後まで、ヴォルフに甘やかされながら食べるこの時間も、もうすっかり馴染んでしまった。
咀嚼しながら、エリアスはふとカレンダーの日付を思い浮かべた。
「ヴォルフ。……明日が、7日目ですね」
「ああ、そうだな」
「……明日で、今回のヒート期間は終わりですね」
エリアスは噛みしめるように言った。
ヴォルフと一時も離れず、二人きりの世界で過ごした濃密な7日間。
この幸せな記憶を、細部まで決して忘れないようにしよう。エリアスは無意識にそう心に刻んでいた。
決してマイナスに考えているつもりはない。けれど、長く孤独だったエリアスには、幸せな時間ほど「これが最後かもしれない」「思い出にして大事にしまっておかなきゃ」と考えてしまう、悲しい癖が染み付いていたのだ。
日常に戻れば、また何かが変わってしまうかもしれないと、どこかで臆病になっている。
しかし、ヴォルフはそんなエリアスの思考を軽々と飛び越えていった。
「……君の全ての世話をさせてもらえる時間は、最高だったよ」
ヴォルフはエリアスの口元のソースをナプキンで拭いながら、楽しそうに続けた。
「次は、場所を変えてみるのもいいかもしれないな。番がヒート期間を快適に過ごせる、専用の宿があるらしいんだ。設備も充実していて、プライバシーも完璧だそうだ。……次のヒート期間は、そこに行くのもいいな」
「え……?」
「次」の話。
ヴォルフは当たり前のように、エリアスとの未来を思い描いている。
この至福の時間が一度きりの思い出作りなどではなく、これから先もずっと続いていく日常の一部なのだと、彼は疑いもしない様子で語っているのだ。
エリアスは、これからまた自分と過ごす時間のことを嬉しそうに話すヴォルフの横顔を見つめ、胸が熱くなった。
ああ、この人は本当に、私との未来を愛してくれている。
「……ふふ」
エリアスの表情が、ふにゃ、と柔らかく崩れた。
「ヴォルフとなら……どこでも、安心して過ごせます」
「エリアス……」
その全幅の信頼を寄せた言葉に、ヴォルフは嬉しそうに目を細め、力強く頷いた。
「ああ。私に任せてくれ」
頼もしい夫の言葉。
エリアスは改めて噛み締めた。
この至福の時間は、最後じゃない。
思い出にして鍵をかける必要なんてないのだ。
これからもヴォルフの番で、妻である限り、この幸せは続いていく。
(幸せだなぁ……)
エリアスはヴォルフに微笑みかけ、胸の奥から湧き上がる有り余る幸福感を、愛おしさと共に抱きしめた。
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