銀色の商人と贋作の妻

真大(mahiro)

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第3章

優しい隠し事

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全てを出し尽くしたエリアスの意識は、ろうそくの火がふっと消えるように途切れ、そのまま深い気絶に近い眠りへと落ちていった。

ヴォルフはその汗と涙で濡れた前髪を優しく撫で上げると、まずは手足を拘束しているベルトに手を伸ばした。
カチャリ、と金具を外し、自由になった手足をベッドへと下ろす。

「……お疲れ様」

ヴォルフはエリアスの手首や足首を優しくマッサージし、長時間固定されていたことによる血行不良や強張りをほぐしていく。

そして、ベルトが当たっていた箇所に傷や痕が残っていないか、念入りに確認した。
さすがは最高級の毛皮を使った特注品だ。エリアスの白く美しい肌には、赤い痕一つ残っていなかった。
安堵の息をつくと、ヴォルフはエリアスを軽々と抱き上げた。

尿や潮、二人の愛液や精液でぐしょ濡れになったシーツの上から、汚れないようにエリアスを移動させる。
部屋のソファに寝かせると、洗面器に汲んだお湯と柔らかい布を用意し、汚れてしまった身体を丁寧に拭き清めていく。

「……ふふ」

先ほど自身の手で磨き上げたばかりの肌は、指が吸い付くほど滑らかで、ただ拭くだけのつもりが、ついつい愛でるように撫でてしまう。

時間をかけて愛妻の身体をピカピカに拭き上げると、新しいシルクのナイトウェアを着せ、湯冷めしないように温かい毛布を肩までかけてやった。
そこまでして、ヴォルフはようやく自分自身の身体をささっと雑に拭い、エリアスとお揃いのナイトウェアを身に纏った。

身支度を整えたヴォルフはベッドへと戻る。
惨劇の跡が残るシーツを手際よく剥がすと、それを洗濯籠ではなく、破棄するための大きな袋へと無造作に放り込んだ。
そして、新しい清潔なシーツと布団をセットする。
全ての片付けを終えるまで、そう時間はかからなかった。

「よし……」

ヴォルフはソファへ戻り、すやすやと眠っているエリアスを再び抱き上げると、整えられたばかりのベッドへと優しく寝かせた。

部屋の明かりを落とし、ヴォルフもエリアスの隣へと滑り込む。
温かい身体をこれ以上ないほど密着させて抱きすくめると、眠っているエリアスが無意識にヴォルフの体温を求め、猫のように擦り寄ってきた。

「っ……」

その愛らしい仕草に、胸が締め付けられる。
愛しすぎて、このまま強く抱きしめて窒息させてしまいたくなる衝動に駆られたが、慌てて力を緩めた。

(……まさか私が、ここまで他人に執着するようになるとはな)

かつての自分からは想像もできない。
エリアスのためなら、どんな面倒なことでも――下の世話でさえも、喜んでやってあげたいと思ってしまう。
その独占欲と愛は、日に日に天井知らずで増していくばかりだ。

エリアスはそんな重たい愛さえも受け入れてくれているが、決してその身を傷つけるような真似だけはしないと、ヴォルフは改めて自身の胸に固く誓った。
ふと、先ほどの情事を思い返す。
理性のタガが外れ、排泄のコントロールさえ失って乱れ狂ったエリアスの痴態。
ヴォルフは暗闇の中で、思い出し笑いのように破顔した。

(……あれは最高だったが、言わないでおいてやろう)

最終的に漏らしてしまった事実を、エリアスが思い出さない限りは、墓場まで持っていく秘密にしようと決めた。

もし知らされれば、ただでさえ羞恥心の強いエリアスだ、真っ青になって自己嫌悪に陥るに違いない。それは可哀想だ。
もし自分で思い出してしまった時には、きっと泣いてしまうだろうが、その時は全力で「愛おしかった」と慰めてやればいい。

「おやすみ、私の愛しい人」

ヴォルフはエリアスの額にキスを落とす。
愛しい人の体温と、残り香を肺いっぱいに吸い込みながら、満ち足りた幸福感の中で、ヴォルフもまた深い夢の中へと落ちていった。
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