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第3章
安息の湯浴み
しおりを挟む退院して一週間。エリアスの身体は、退院直後よりはずいぶんと自由に動かせるようになったが、それでもまだ万全とは言えなかった。
明日の結婚式も、基本的にはエリアスの身体に負担がかからない範囲で執り行う予定だ。
教会での誓いは二人きりだし、その後の屋敷での食事会も、気心の知れた身内しかいない。
エリアスが気を遣って無理をしてしまうような相手は一人もいないのが、今の状況ではありがたかった。
「さあ、行こうか」
部屋での夕食を終えると、ヴォルフはエリアスを軽々と抱き上げ、慣れた足取りで湯殿へと向かった。
浴室に入り、ヴォルフがエリアスのシャツのボタンを外していく。
はらりと布が落ち、昨夜ヴォルフ自身がたっぷりと刻み込んだ噛み跡やキスマークが露わになる。
「……ん」
ヴォルフは、その赤く残る愛の痕跡を確かめるように、唇で一つ一つなぞり、熱い息を吹きかけてきた。
「……ヴォルフ、くすぐったいです」
「少しでも、この肌に触れていたいと言っただろう?」
ヴォルフはそう囁くが、こんな風に愛撫されては、エリアスの身体が反応してしまう。
(だめだ、思い出してしまう……)
あの叙任式の前夜もそうだった。
身体を磨き上げてもらうはずが、腰を撫でられ、甘く攻められ、結局はいやらしい気分にさせられて……。
あの時の快感と高揚を思い出しそうになり、エリアスはぶんぶんと頭を振って思考を断ち切った。
そもそも、今のエリアスの身体はまだ回復しきっていない。
傷は塞がったとはいえ、激しい運動は禁物だ。
それを分かっているからこそ、お互いにギリギリのところで我慢しているのだ。
我慢しているからこそ、「あれもしたい」「これもしたい」と欲が出てしまうのは仕方がないことだが、明日は大事な日だ。
ここで理性を手放して無理をするわけにはいかない。
エリアスが必死に理性を保とうと身を固くしている間も、ヴォルフはエリアスの肌の感触を慈しむように、流れるような手つきで楽しんでいた。
そして、一通り愛でて満足したのか、ヴォルフは自身もさっと服を脱ぎ捨て、互いに一糸纏わぬ姿になった。
「よし、洗おうか」
ヴォルフはエリアスを再び抱き上げると、洗い場に用意された椅子に座らせた。
「身体に負担がないように、あまり時間をかけずにやるよ」
そう宣言すると、ヴォルフは手際よくスポンジを泡立てた。
前回の「磨き上げ」の時と同様、足の爪先から丁寧に磨き、身体を優しく洗い、そして髪には指を通して頭皮をマッサージするように洗ってくれる。
その手つきは、どこまでも優しく、慈しみに満ちていた。
温かいお湯と、心地よいリズム、そしてヴォルフの大きな手に包まれている安心感。
次第に、エリアスのまぶたが重くなってきた。
「……んぅ……」
とろとろとした眠気が押し寄せ、船を漕ぎ始める。
そんなエリアスの様子に気づいたヴォルフは、泡を流しながら優しく声をかけた。
「気持ちいいかい?……無理に起きていなくていい。寝てしまってもいいよ」
「でも……」
「全部私がやっておくから。安心しておやすみ」
耳元で響く低く甘い声。
その絶対的な包容力に、エリアスの抗う気力は霧散した。
「……はい」
エリアスはこくりと頷くと、ヴォルフに全てを委ね、その温かい手のひらに包まれたまま、深い眠りへと落ちていった。
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