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第3章
完璧なふたり
しおりを挟むついに、待ちに待った結婚式の朝がやってきた。
窓から差し込む陽光の中で、ヴォルフとエリアスは目覚め、どちらからともなく身を寄せ合って、甘い朝の時間を過ごしていた。
しかし、今日ばかりはそんな二人のイチャイチャを許さない人物がいた。
バンッ、と勢いよく扉が開く。
「奥様!お目覚めですか!?さあ、お支度をいたしますよ!」
いつもなら空気を読んで遠慮するアンナが、今日ばかりは満面の笑みと溢れる気合で部屋に飛び込んできたのだ。
「ふふ、アンナったら張り切っているね」
「仕方ないさ。今日は特別だからな」
ヴォルフとエリアスは顔を見合わせ、微笑み合った。
ヴォルフはエリアスを軽々と抱き上げると、支度のためにエリアスの自室へと運んでくれた。
部屋の中央には、すでに仕立て屋が仕上げた美しい水色の衣と、それに合わせた髪飾り、靴などが完璧に揃えられている。
ヴォルフはそれらを満足そうに眺め、エリアスをドレッサーの前の椅子に座らせた。
「……後で、これらを身につけた君を見るのがとても楽しみだよ」
ヴォルフはエリアスの額に口づけを落とすと、自分の支度をするために部屋を出て行った。
「さあ、エリアス様。世界で一番美しく仕上げますからね!」
アンナの手によって、魔法のような時間が始まった。
まずは、特注の水色の衣に袖を通す。
叙任式の時のようなカッチリとした正装とは違い、透き通るような最高級の水色のシルクで仕立てられたその衣は、ドレスともスーツとも違う、中性的で幻想的な仕上がりになっていた。
ふんわりとエリアスの華奢な身体のラインに寄り添い、動くたびに裾が水面のように揺らめく。
その裾には、ヴォルフの指示通りにアクアマリンやクリアな宝石が散りばめられており、歩くたびにキラキラと光を反射して輝いた。
「髪も、今日は少し遊ばせましょう」
伸びてきた艶やかな黒髪は、アンナの器用な手で柔らかなウェーブヘアにセットされた。
そこに、植物をモチーフにした繊細な細工の銀の髪飾りをあしらうと、黒髪に銀と水色が映え、まるで月の光を纏ったような神秘的な雰囲気が生まれた。
「まあ……必要ないくらいお美しいですが、今日は晴れの舞台ですからね」
アンナはうっとりと呟きながら、仕上げに薄く化粧を施してくれた。
目元を涼やかに整え、唇には淡い紅を引く。
一時は失われていた血色が鮮やかに戻り、陶器のような白い肌によく映えた。
「……できました。完璧です」
アンナの手際のおかげで、予定よりも早く支度が整った。
そのタイミングを見計らったかのように、ノックの音がしてヴォルフが入ってきた。
「エリアス、準備は……」
言葉が、途切れた。
ヴォルフもまた、エリアスの衣装に合わせて仕立てた、爽やかな水色のタキシードに身を包んでいた。
威圧感のある逞しい身体つきだが、明るい色合いがいつもよりも若々しく爽やかな印象を与えている。
さらに、トレードマークの銀髪をオールバックにして額を出しており、その精悍さと色気に、エリアスは一瞬で心臓が跳ねた。
「ヴォルフ……すごく、素敵です」
エリアスが頬を染めて見惚れていると、それ以上にヴォルフの方が挙動不審になっていた。
「あ、ああ……」
ヴォルフは目を見開き、エリアスの姿を凝視したまま動けなくなっていた。
デザインも布地も、全て自分で細かく指示したものだ。完成形は頭の中にあったはずだった。
だが、実際にその衣を纏ったエリアスは、想像を遥かに超えていた。
ふんわりとした水色の衣に包まれた姿は、この世のものとは思えないほど神聖で、儚く、そして美しかった。
「……ヴォルフ?」
「……すまない。あまりにも綺麗で、動揺している」
ヴォルフは大きな手で口元を覆い、本音を漏らした。
「本当に……心から、身内の式だけにしてよかったと確信したよ。こんな姿を他人に見せたら、独占欲で私がどうにかなってしまいそうだ」
その選択は間違っていなかったと、ヴォルフは真顔で頷いた。
ヴォルフはエリアスの元へ歩み寄ると、そっとその腰を抱き寄せた。
そして、ポケットから小さなケースを取り出す。
支度のために外していた、あの結婚指輪だ。
「……エリアス」
ヴォルフはエリアスの左手を取り、ヴォルフのアイスブルーの瞳と同じ色をした宝石が輝く指輪を、恭しく薬指にはめた。
「行こうか。……私だけの、愛しい人」
「はい……」
二人は寄り添い、部屋を出た。
このまま二人だけで馬車に乗り、教会へ行き、神の前で二人きりの誓いを立てるのだ。
長い試練を乗り越えた二人の、結婚式という特別な一日は、まだ始まったばかりだ。
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