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第3章
幸せを分け合う
しおりを挟む二人がナイフを入れた巨大なウェディングケーキは、使用人たちの手によって、その場にいる全員に行き渡るよう丁寧に切り分けられた。
その中でも、一番上の段の、繊細な飴細工や飾りがふんだんに乗った特別な部分は、二つの皿に取り分けられ、ヴォルフの手元へと運ばれた。
「さあ、エリアス」
ヴォルフは二つ分のケーキが乗った皿を持ち、フォークで一口分をすくうと、エリアスの口元へと運んだ。
「ん……」
エリアスが口に含むと、甘酸っぱい香りが広がった。
想像以上に美味しい。
エリアスの衣装に合わせた美しい水色のクリームの中には、真っ赤な完熟苺がたっぷりとサンドされていた。
あの高級店で食べた時も、その芸術的な見た目と味に感動したが、皆で祝うこの場の雰囲気も相まって、期待以上の美味しさだった。
「美味しいです、ヴォルフ」
エリアスが頬を綻ばせると、ヴォルフも満足そうに頷き、自分の分のケーキを口に運んだ。
ふと周りを見渡すと、使用人たちも切り分けられたケーキを口いっぱいに頬張り、幸せそうな顔で笑い合っている。
「美味しいね!」
「こんなケーキ、初めて食べたよ」
そんな声が聞こえてくる。
同じものを皆で食べ、幸せを分け合うということが、想像以上に嬉しくて、エリアスの胸は温かいもので満たされた。
ケーキを食べ終わる頃には、外は完全に夜の闇に包まれていた。
広間の照明が少し落とされ、落ち着いた雰囲気に変わる。
テーブルに並ぶ料理も、食事メインのものから、チーズやナッツ、ドライフルーツといった、お酒に合う「おつまみ」に近いものへと切り替えられた。
それに合わせ、使用人たちもワインやリキュールなどを手に取り、会場はさながら大人の社交場のような空気に変化した。
「エリアス、君にはこれを」
ヴォルフが戻ってくると、片手にはロックグラスに入った琥珀色の液体、もう片方にはエリアス用のグラスを持っていた。
「先ほど乾杯の時に飲んだシャンパンだ。君はそれが気に入っていたようだから」
「ありがとうございます」
受け取ったグラスに口をつける。シュワシュワとした口当たりと、フルーティーな甘さ。
「……ん、やっぱり美味しいです。お酒は苦手というほどではありませんが、あまり飲んだことがなかったので……でもこれは、お酒じゃないみたいに飲みやすいです」
エリアスがジュースのようにちびちびと味わっていると、ヴォルフは「飲み過ぎには注意だよ」と笑いながら、自分のグラスを傾けた。
中身は度数の強いウィスキーだ。
ヴォルフはそれを氷のカランという音と共に、水のように難なく飲み干していく。お酒に強い男の姿に、エリアスは密かにときめいた。
会場の雰囲気も、アルコールが回るにつれて少しずつ変わっていく。
もちろん、主人の前で暴れるような不届き者はいないが、皆の頬は赤らみ、声のトーンが上がり、陽気な笑い声があちこちから聞こえてくる。
平和で、幸せな夜だ。
エリアスが心地よい喧騒の中で、甘いシャンパンを味わっていると、ふと、太ももに温かい感触があった。
「……っ!?」
隣に座るヴォルフの手が、エリアスの膝をゆっくりと撫で上げてきたのだ。
ビクッ!とエリアスの肩が跳ねる。
その手つきは、ただ置いているだけではなく、明らかに親指で内腿の際どいラインを探るような、いやらしい動きだった。
「ヴォ、ルフ……?」
エリアスが慌てて隣を見ると、ヴォルフは涼しい顔でグラスを傾けている。
見た目は普段と変わらず、顔色一つ変えていない。
だが、至近距離で漂ってくる濃厚なアルコールの匂いと、据わった瞳の奥にある熱量が、彼が実はかなり酔っていることを物語っていた。
「……」
エリアスは周りを伺った。
使用人たちは歓談に夢中で、こちらを見ていない。
……いや、もしかしたら、新婚の二人が気にせずイチャイチャできるように、あえて気にしていないフリをしてくれているのかもしれない。
(み、見られてない……よね?)
ヴォルフの手は止まらない。
衣の上からとはいえ、執拗に膝から太ももを這い回る指の動きに、エリアスの身体が微かに震える。
拒むこともできず、かといって声を上げるわけにもいかない。
エリアスは赤くなった顔を隠すように、引き続き美味しいお酒をちびちびと飲みながら、酔った夫による無言の愛撫に耐え続けるしかなかった。
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