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第4章
思わぬ再会
しおりを挟むそれから、エリアスは民宿でヘレンの世話になりながら、毎日町の中を歩き回って仕事を探した。
だが、現実は厳しかった。
なかなか仕事は決まらない。
質素な服を着ていても、エリアスの身に染み付いた貴族特有の所作や言葉遣い、そして手入れされた美しい容姿は隠しきれない。
さらに、この辺りでは珍しいオメガであることまで、見る人が見れば分かってしまうようだ。
「悪いね、うちは間に合ってるよ」
「あんたみたいな貴族のオメガ、どうせ訳ありだろう? 奴隷のような扱いから逃げてきたのか、不義理をして追い出されたのか知らないが……トラブルはごめんだよ」
どこへ行っても、そんなふうに邪推され、断られてしまう。
貴族崩れのオメガなど、厄介ごとの種でしかないと思われているのだ。
仕事が見つからず、手持ちの金が減っていくことに焦りを感じたエリアスは、食事をさらに切り詰めようとした。
しかし、エリアスのそんな事情を察してくれたヘレンが、放っておかなかった。
「あんた、また食事を抜くつもりかい?ダメだよ、ほらこっちおいで!」
ヘレンは豪快に笑いながら、家族と取る食事の席にエリアスを呼んでくれた。
「作りすぎちまったから、手伝っておくれ」
そう言って、温かいスープやパンを分けてくれるのだ。
そのおかげで、本来ならもっと節約して体力を落としていたはずのエリアスは、十分な栄養を摂ることができ、医師の診断通り順調に体力を回復させていった。
そんな日々を繰り返していたある日のこと。
エリアスは、いつも良くしてくれるヘレンたちへのお礼にと、民宿に飾る花を買おうと思い立った。
仕事探しの合間に、通りで見かけた一軒の小さな花屋に立ち寄る。
カラン、とベルが鳴る。
「いらっしゃい」
出迎えてくれたのは、美しい白髪を上品にまとめた、初老の女性店主だった。
店の雰囲気と同じく、穏やかで優しそうな人だ。
「あの、民宿に飾るための花をいくつかいただきたいのです。……予算はこのくらいで」
エリアスがなけなしの小銭を提示すると、店主は嫌な顔一つせず、「お店に飾る用ね、分かったわ」微笑み、手際よく花を選び始めた。
店主が奥へ向かって声をかける。
「おーい、バケツの水替えをお願いできるかい?」
「うん、分かったよ」
奥から、もう一人の店員が出てきた。
その姿を見た瞬間、エリアスは「えっ!?」と小さく声を上げ、ビクリと身体を飛び上がらせた。
あまりにも、予想していなかった人物だったからだ。
出てきた店員は、店主とお揃いの緑のエプロンを身につけた、美しいブロンドの青年。
……弟の、ヨハンだった。
かつての実家で、宝石のように着飾っていた姿ではない。
ラフなシャツに動きやすいパンツ、そしてエプロン。
持っているバケツの重さに耐える腕や、水仕事で赤く荒れた指先は、社交界の華として、何一つ不自由なく蝶よ花よと育てられていた、あの時の弟とはまるで違っていた。
ヨハンもまた、客として立っているエリアスの姿を見て、目を見開き、持っていたバケツを取り落としそうになった。
「……兄さん?」
「……ヨハン、どうして……ここに?」
「兄さんこそ、何故ここにいるの?」
二人は呆然と見つめ合い、怪訝な顔で言葉を交わす。
その様子を見ていた店主が、花束を作りながら穏やかに尋ねた。
「ヨハン、お知り合いかい?」
ヨハンはハッと我に返り、店主に向き直った。
「……うん、おばあちゃん。……兄さんなんだ」
「おばあちゃん」と呼ばれた店主は、大きく驚くこともなく「そうかい」と優しく頷いた。
彼女は手際よく花を完璧にラッピングし終えると、それをエリアスに手渡した。
「はい、お待ちどうさま」
そして、ヨハンの肩をポンと叩いた。
「ヨハン。今、他にお客さんはいないから、少し席を外しても良いよ。久しぶりなんだろう? 話しておいで」
「……ありがとう」
ヨハンはそれに従い、「分かったよ」と頷いた。
そして、エプロンで濡れた手を拭うと、呆然と花を抱えたままのエリアスの腕を引き、店の外へと連れ出した。
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