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第4章
溢れ出た本音
しおりを挟む二人はそのまま、言葉もなく静かに泣きながら、互いの体温を分け合うように寄り添い続けた。
いつの間にか時間は過ぎ、夜の帳が上がり始める。
月明かりだけで薄暗かった部屋に、白々とした朝の光が差し込み、二人の輪郭を浮かび上がらせていく。
ヴォルフはゆっくりと身体を起こすと、エリアスの身体を狭いベッドに横たえ、自らもその横に滑り込むようにして寝転がった。
必然的に、枕の上で顔を見つめ合う形になる。
ずっと抱きしめ合っていたため見ることが出来なかったヴォルフの顔が、朝の光の中ではっきりと見えた。
いつも完璧で美しいヴォルフが、今は目を赤くし、酷く泣き腫らした顔をしている。
きっと、エリアスも同じような顔をしているのだろう。
その人間らしい弱さを愛おしく思い、エリアスはそっとヴォルフの頬に触れ、親指で涙の痕を撫でた。
そして、ついに。
エリアスはようやく、喉の奥につかえていた本当の言葉を発することができた。
「……ヴォルフ」
掠れた声が、静寂に響く。
「私は……貴方が私を愛し続けてくれると信じながらも、……貴方が別の人を抱いて、子どもを作るその未来を想像して……その未来に、自分がいてはいけないと思いました」
それは、彼を拒絶するために用意していた嘘ではない。
エリアスの魂から絞り出した、紛れもない本音だった。
「簡単に諦めたのではありません。……貴方のことも、ハルトマン家のことも、心から愛していますから」
「ああ……分かっている」
ヴォルフはエリアスの手に自分の手を重ね、静かに頷いた。
「でも……ヴォルフが私を愛するがために、その手で掴んだ爵位を捨てたり……何かを犠牲にすることは、耐えられませんでした。……貴方を、愛しているからこそ……貴方の築いたものを壊したくなかった」
エリアスは静かに、けれど切々と告げていく。
ヴォルフは見つめ合ったまま、問い詰めることも、遮ることもせず、ただ全ての言葉を受け止めるように聞いてくれている。
「今、追いかけてきてくれたこと……それが貴方の我儘だとは思いません。私の覚悟を無駄にしている……そうでは、ありません……ッ」
言いながら、枯れたはずの涙がまたじわりと溢れてくる。
でも、これだけは言わないといけない。
「だ、だって……今、こんなにも私は……っ」
エリアスは顔を歪め、素直な気持ちをついに口にした。
「貴方が追いかけてきてくれて……見つけてくれて、……嬉しいから……ッ!」
ヴォルフのアイスブルーの瞳が、驚いたように大きく見開かれる。
そして次の瞬間、くしゃりと顔を綻ばせると、
「……エリアス」
それ以上はもう言わなくていい、全て伝わっていると言うように、顔を寄せてエリアスの唇を塞いだ。
触れるだけの、優しいキス。
何もかもを包み込み、許し、溶かしていくようなキスだった。
これまで一人、眠れずに過ごした長く冷たい闇を癒やすような熱が、唇から身体の芯へと広がっていく。
愛する人の優しいキスに、エリアスは安堵して目を閉じた。
エリアスの選択と苦悩を受け入れ、それでも追いかけてきてくれたヴォルフ。
そして、そのヴォルフの愛を受け入れ、再会を喜んでしまった自分を許したエリアス。
二人の間に、もう言葉は必要なかった。
キスを終えると、どちらからともなく額を合わせ、抱きしめ合った。
張り詰めていた緊張の糸が完全に切れ、二人はそのまま、限界が来て気絶するように深い眠りへと落ちていった。
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