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第4章
旅立ちと第二の故郷
しおりを挟む温かく賑やかな昼食を終え、ほっと一息ついた頃。
ヴォルフがエリアスの顔を覗き込み、気遣わしげに尋ねた。
「エリアス。このまま屋敷に帰るとなると、馬車での長旅になるが……身体はもう大丈夫かい?辛ければ、ここで少し休んでからにしようか」
「いいえ、大丈夫ですよ」
エリアスは首を横に振り、力強く答えた。
「この街で暮らしている間に、歩行にも支障はないくらい元気になりましたから。馬車の揺れくらい、もうへっちゃらです」
エリアスが笑顔で答えると、ヴォルフは安心したように目を細めた。
そのまま、エリアスは間借りしていた二階の部屋へ行き、荷造りを始めた。
といっても、ハルトマン家を出た時のまま、荷物はほとんどない。この街で買った数着の安価な服と、実家から持ってきた結納金の残りを鞄に詰めるだけで、準備はあっという間に終わった。
荷物の軽さは変わらないが、来た時と比べて、心は驚くほど満たされ、軽やかだった。
荷物を持って一階へ降り、玄関へ向かう。
出ていく時、ジョセヌとヨハンが順番にエリアスを強く抱きしめてくれた。
「エリアス。ここは都心からは遠いだろうけど……あんたの『実家』だと思っていいからね」
ジョセヌのふくよかで温かい腕が、エリアスの背中を包み込む。
「ヨハンもいるし、私もいる。何かあってもなくても、いつでも帰っておいで」
「……はい、おばあちゃん」
続いて、ヨハンが抱きついてきた。
「兄さん。……たくさん悩んで、苦しんだ分、もっともっと幸せになってね」
ヨハンはエリアスの肩に額を押し付け、誓うように言った。
「僕も、絶対に幸せになるよ。約束だ」
「うん……約束だよ、ヨハン」
二人の言葉に、エリアスの目から涙が溢れた。
生まれた家は、エリアスを愛してくれなかった。ヨハンのことさえも、道具としてしか見ていなかった。
けれど今、心から「実家」だと思える温かい家と家族ができた。
それが何よりも嬉しく、心強かった。エリアスは涙を拭い、大きく何度も頷いた。
ヴォルフはエリアスの肩を抱き寄せると、ジョセヌとヨハンに向かって、再び貴族の礼儀に則り、恭しく深々と頭を下げた。
「……妻を救っていただき、本当にありがとうございました。改めて、必ずお礼に参ります」
「やれやれ、堅苦しいのは無しだと言ったのにねえ」
ジョセヌは呆れたように笑ったが、その目は優しかった。
形式的な礼儀ではなく、エリアスの恩人、つまりヴォルフ自身の恩人として、最大限の礼を尽くしたいという彼の誠実さが伝わったのだろう。ジョセヌは笑顔でそれを受け入れた。
そして、二人に見送られ、家の前に待機していたハルトマン家の紋章が入った立派な馬車へと向かった。
「さあ、エリアス」
ヴォルフが扉を開け、優しく手を差し出してエスコートしてくれる。
エリアスはその手を取り、先に馬車へと乗り込んだ。
続いてヴォルフも乗り込み、向かいの席ではなく、当たり前のように、いつものようにエリアスの隣に腰を下ろした。
ピタリと寄り添う体温と、ヴォルフの香り。
それが今、何よりも心地よい。
「……行こうか」
馬車が動き出す。
窓の外で手を振るジョセヌとヨハンに、エリアスも見えなくなるまで手を振り返した。
エリアスは、自分を受け入れ、癒やしてくれた第二の故郷となった町を、愛する人と共に後にした。
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