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第4章
命懸けの選択
しおりを挟む安定期に入ってから、エリアスは医師の指示に従い、少しずつ身体を動かすようにしていた。
安産のためには、ある程度の体力をつけ、筋肉を動かすことが必要だと言われたからだ。
だが、双子を宿したエリアスのお腹は、すでに臨月を迎える前から恐ろしいほどの大きさになっていた。
当然、一人で出歩くことなど決してできない。
アンナかシュミット、あるいはヴォルフに付き添ってもらい、支えられながら庭を少し散歩するだけに留めていたが、それでも巨大な重りを抱えて歩くのは、数分だけでも息が切れるほどの大仕事だった。
そんな重苦しくも愛おしい日々の中、ついに「いつ産まれてもおかしくない」と言われていた時期がやってきた。
ヴォルフはこの期間のために、文字通り死ぬ気で仕事を前倒しにし、すべてのスケジュールを調整して、仕事を完全にストップしていた。
「何かあった時、すぐに駆けつけられない場所にいては意味がない」
そう言って、片時も離れず、ずっとそばにいてくれた。
そしてついに、その日がやってきた。
下腹部を襲う激痛と共に破水し、エリアスは産科医の指示のもと、屋敷の一室に設けられた清潔な分娩室へと運ばれた。
「うっ、ぐぅ……ッ!!」
波のように押し寄せては引いていく陣痛は、想像を絶する凄まじさだった。
腰が砕けそうな痛みと、内側から引き裂かれるような感覚に、脂汗が滲み、勝手に涙が溢れ出る。
「はぁ、はぁ、うぅ……ッ」
衛生上の理由から、少し距離を取って見守るヴォルフの姿が目に入る。
彼は蒼白な顔で、拳を握りしめ、今すぐ代わってあげたいと願うような、悲痛な表情をしていた。
その顔を見て、エリアスはハッとした。
(……そうだ、これは私にしか出来ないことだ)
ヴォルフは今まで、エリアスをあらゆる苦痛から守ってくれた。けれど、この痛みと、子どもを産み落とすという試練だけは、彼には代われない。
ヴォルフの子どもを無事に産んで、そして必ず生きて、彼の元へ帰る。
そう覚悟を改めて決めてからは、エリアスは襲い来る激痛に悲鳴を上げそうになりながらも、なんとか歯を食いしばって耐え続けた。
だが、やはり華奢なエリアスの身体と、大きすぎるお腹から双子を自然分娩で産むのは、あまりに困難だった。
時間が経過してもお産は進まず、エリアスの体力だけが削られていく。
そして、無理に産もうといきんだ拍子に、大量の出血が見られた。
「……ッ、出血量が増えている。これ以上は母体が持たない」
産科医はその状況を見て、瞬時に判断を下した。
「帝王切開に切り替えます!至急、準備を!」
医師の鋭い声が響き渡る。
メスを入れて腹を切り、直接子どもを取り出す緊急手術だ。
そのため、感染症のリスクを避けるべく、ヴォルフを含む付き添いの人間は皆、部屋の外へと出されることになった。
「エリアス……ッ!」
ヴォルフが叫ぶが、看護師たちに促され、後ろ髪を引かれる思いで部屋を出て行く。
バタン、と扉が閉まり、エリアスは医師たちと残された。
産科医がエリアスの元へ駆け寄り、マスク越しに真剣な目で問いかける。
「麻酔を使います。すぐに取り出しますからね、頑張れますか?」
エリアスは医師と目を合わせ、力強く頷いた。
「……はい……お願いします……ッ」
どれだけ痛くても、辛くても、耐えてみせる。
お腹を切ることへの恐怖よりも、この子たちを守りたいという思いが勝った。
エリアスはゆっくりと目を閉じた。
薄れゆく意識の中で、祈りを捧げる。
(神様、お願いです)
どうか、赤ちゃんと無事に会えますように。
そして、扉の向こうで待つ、愛する人の元へ生きて帰れますように。
「始めます」
医師の声を聞きながら、エリアスは強く、強く願い続けた。
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