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第4章
銀と黒の宝物
しおりを挟むヴォルフが廊下の椅子に座り、祈るように待ち続けていると、やがて永遠にも感じられた3時間ほどが経過した頃、静かに部屋の扉が開いた。
現れた医師は、血に濡れていた手術着から、清潔な白衣に着替えている。
その落ち着いた様子に、ヴォルフは安堵で肩の力が抜けるのを感じた。
「……お待たせいたしました、ハルトマン卿」
医師は穏やかに微笑んだ。
「奥様が目を覚まされました。中へどうぞ」
「……ああ」
ヴォルフは震える足に力を込め、立ち上がった。
大きく深呼吸をして、息を呑みながら部屋の中へと足を踏み入れる。
部屋の中は、温かく静かな空気に満ちていた。
ベッドの上には、帝王切開の手術を終え、ぐったりと横たわるエリアスの姿があった。
そして、そのベッドのすぐ隣には、ヴォルフが吟味して選んだ、二つのベビーベッドが並んで置かれている。
ヴォルフが歩み寄ると、エリアスと目が合った。
麻酔の影響が残っているのか、その瞳はまだとろんと微睡んでおり、ぼんやりとしている。意識はあるようだが、まだ言葉を発する気力はないようだ。
ヴォルフはエリアスの枕元に膝をつき、汗ばんだ額や頬を、壊れ物を扱うように優しく撫でた。
「……お疲れさま、エリアス。……本当に、ありがとう」
ヴォルフの震える声に、エリアスはゆっくりと瞬きをして応えた。
ヴォルフは一度エリアスから離れ、静かにベビーベッドへと近づいた。
そこには、清潔な白い産着に包まれた、二つの小さな命がすやすやと眠っていた。
「……!」
右のベッドには、ヴォルフと同じ、月光のような銀髪の赤ちゃん。
左のベッドには、エリアスと同じ、艶やかな黒髪の赤ちゃん。
瞼を閉じているため瞳の色までは分からないが、それぞれが母と父の要素を色濃く受け継いでいるのが見て取れた。
後ろに控えていた医師が、嬉しそうに告げた。
「銀髪の方が女の子、黒髪の方が男の子ですよ」
「……そうか」
ヴォルフは、愛おしさに胸が張り裂けそうになりながら、その寝顔を見つめた。
今すぐにでも抱き上げ、頬ずりしたい衝動に駆られる。
けれど、ヴォルフは手を伸ばさなかった。
この子たちに最初に触れるのは、自らの腹を痛め、命懸けで産んでくれたエリアスであってほしいと思ったからだ。
ヴォルフはただ、身じろぎするだけで愛らしい二人の天使を、涙を堪えて見守った。
感動に打ち震えたまま、ヴォルフは涙ぐみ、再びエリアスの元へと戻った。
そして、ぼんやりとしたままのエリアスの耳元で、報告するように優しく囁いた。
「……二人とも、元気だよ。男の子と、女の子だ」
ヴォルフはエリアスの手を握り、頬に押し当てた。
「すごく可愛い……。私の髪と、君の髪を受け継いでいるよ」
「……」
「本当に、よく頑張った……。君ならやり遂げると……君を信じてよかった」
ヴォルフの目から、堪えきれなくなった涙がこぼれ落ち、エリアスの頬を濡らす。
その温かさを感じたのか、エリアスはふにゃりと目を細め、わずかに口元を緩めて、ゆっくりと頷いてみせた。
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