239 / 251
第4章
4つの瞳
しおりを挟むそれからまたしばらくして、医師は「別室で待機しておりますので、何か異変を感じましたらすぐにお呼びください」と言い残し、静かに退室していった。
入れ替わりで、赤ちゃんのお世話をフォローしてくれるベテランの看護師が入ってくる。
時間が経ち、麻酔のぼんやりとした感覚が少し抜けてきたのか、エリアスの意識も先程よりははっきりとしてきていた。
看護師は手際良く二人の赤ちゃんを柔らかいおくるみに包むと、器用に二人同時に抱き上げた。
「さあ、抱っこしてあげてください」
看護師はまず立っているヴォルフに視線を向けたが、ヴォルフは首を横に振った。
「いや……まずは、エリアスに抱かせてあげてほしい」
ヴォルフはエリアスの元へ歩み寄ると、負担がかからないようにゆっくりと抱き起こし、身体を支えるように背中や腰にふかふかのクッションを挟み込んだ。
「大丈夫か?苦しくないかい?」
「はい……ありがとう、ヴォルフ」
エリアスの体勢が安定したのを確認してから、看護師がそっと二人の赤ちゃんをエリアスの腕の中に下ろしてくれた。
生まれたばかりの双子はとても小さく、華奢なエリアスの腕の中でも、二人同時にすっぽりと収まった。
その重みと温かさを感じた瞬間、エリアスの視界が滲んだ。
「あ……」
腕の中の二人が、ふにゃ、とあくびをするように顔を歪め、そしてふと、ゆっくりと目を開けた。
「……!」
銀髪の女の子は、エリアスと同じ、温かみのあるセピア色の瞳。
黒髪の男の子は、ヴォルフと同じ、透き通るようなアイスブルーの瞳をしていた。
「ヴォルフ……ふふ、それぞれ私たちと、お揃いですね……」
エリアスは愛おしそうに呟きながら、ぼろぼろと涙をこぼした。
嬉しくて、先ほどまでの死ぬかもしれないと覚悟した怖かった気持ちも蘇って、いろんな感情で心がぐちゃぐちゃになる。
だが、一番強く胸を占めていたのは、我が子を無事に抱っこできたこと。
そして、生きて、愛する人の元に帰って来れたことへの圧倒的な喜びだった。
ヴォルフが、震える手でエリアスの髪を優しく撫でる。
そのアイスブルーの瞳には、エリアスと同じくらい、大粒の涙が光っていた。
「エリアス……本当に、ありがとう……」
ヴォルフは声を震わせた。
「信じていたよ。君なら、必ず帰ってきてくれると」
「……はい」
エリアスは微笑み、名残惜しそうに、けれど満足げに腕の中の宝物をヴォルフへと差し出した。
「ヴォルフ……抱いてあげてください。貴方の、子どもたちです」
ヴォルフは恐る恐る手を伸ばした。
エリアスとは対照的な太く逞しい腕で、壊れ物を扱うように慎重に、震えながら可愛い我が子を初めてその腕に抱いた。
ヴォルフの大きな腕の中にすっぽりと包まれた二人は、おとなしく、泣いたりもせずに、ふにゃふにゃと安心したように笑っている。
「……あぁ……」
あまりに小さく、可愛くて、愛しくて。
ヴォルフは顔をくしゃくしゃに歪め、さらに涙を流して泣いてしまった。
あの冷静沈着で完璧なヴォルフが、ただの父親として、愛に打ち震えている。
それを、エリアスはベッドの上から微笑ましく見つめた。
あまりにも幸せで、光に満ちていて。
エリアスは胸が詰まりそうで、ただ静かに、夫と子供たちの姿を目に焼き付けた。
50
あなたにおすすめの小説
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました
よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、
前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。
獣人が支配する貴族社会。
魔力こそが価値とされ、
「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、
レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。
そんな彼を拾ったのは、
辺境を治める獣人公爵アルト。
寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。
溺愛され、守られ、育てられる日々。
だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。
学院での出会い。
貴族社会に潜む差別と陰謀。
そして「番」という、深く重い絆。
レオンは学び、考え、
自分にしかできない魔法理論を武器に、
少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。
獣人と人族。
価値観も、立場も、すべてが違う二人が、
それでも選び合い、家族になるまでの物語。
溺愛×成長×異世界BL。
読後に残るのは、
「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。
抑制剤の効かない薬師オメガは森に隠れる。最強騎士団長に見つかり、聖なるフェロモンで理性を溶かされ、国を捨てた逃避行の果てに番となる
水凪しおん
BL
「この香りを嗅いだ瞬間、俺の本能は二つに引き裂かれた」
人里離れた森で暮らす薬師のエリアルは、抑制剤が効かない特異体質のオメガ。彼から放たれるフェロモンは万病を癒やす聖なる力を持つが、同時に理性を失わせる劇薬でもあった。
ある日、流行り病の特効薬を求めて森を訪れた最強の騎士団長・ジークフリートに見つかってしまう。エリアルの香りに強烈に反応しながらも、鋼の理性で耐え抜くジークフリート。
「俺が、貴方の剣となり盾となる」
国を救うための道具として狙われるエリアルを守るため、最強の騎士は地位も名誉も投げ捨て、国を敵に回す逃避行へと旅立つ。
シリアスから始まり、最後は辺境での幸せなスローライフへ。一途な騎士と健気な薬師の、運命のBLファンタジー。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*不定期連載です。
今からレンタルアルファシステムを利用します
夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。
◆完結済みです。ありがとうございました。
◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる