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第4章
愛しき日々のその先へ(本編・完)
しおりを挟むエリアスがパタパタと屋敷の広い庭を駆け足で探していると、その姿を見つけたアンナが真っ青になって屋敷から飛んできた。
「奥様!走ってはいけません!転んでお怪我でもされたら、旦那様が泣いてしまいますよ!」
「あ、アンナ……ごめん。でも、二人が見つからないんだよ」
エリアスは息を切らしながら苦笑した。
「隠れんぼをしてるんだけど……屋敷も庭も広すぎて」
それを聞いたアンナは、やれやれと肩をすくめて笑った。
「あのお二人とも、3歳とは思えないくらいの場所に隠れますからねぇ。私もこないだ隠れんぼの相手をした時は、引き受けたことを後悔しましたよ……」
「ふふ、やっぱり? じゃあ、アンナも一緒に探してくれる?」
「ええ、もちろんです!」
愛娘のアニスと、愛息のルシフ。
二人は3歳にして、年齢とは思えないほどの目覚ましい成長を見せていた。
それは体格や運動能力だけではなく、知能や言葉の発達においても同様だった。
まだ幼いため第二性の検査はできないが、おそらく二人とも、優秀なアルファであるヴォルフの血を濃く継いでいるのではないかと、もっぱらの噂だ。
そんな二人に、本気の隠れんぼで出し抜かれているエリアスは、苦笑しながら再び庭の茂みや木陰を探し回った。
二人とも、ヴォルフに似て卑怯なズルは決してしない。
けれど、「見つけられる範囲で、大人が一番見つけにくい場所」を探し出す天才だ。
だからこそ、大人たちが懸命に探してへとへとになる羽目になる。
「うーん、ここにもいない……」
そうこうしているうちに日が暮れかけ、エリアスが屋敷の外れの方を探している時のことだった。
「――エリアス」
遠くから、愛しい人の呼ぶ声がした。
エリアスが声の方を向くと、夕日を背に、ヴォルフがゆっくりと歩いてくるのが見えた。
その両腕には、探していた二人の姿があった。
「あ……!」
アニスもルシフも、父親の逞しく大きな腕の中で、安心してぐっすりと眠っている。
「二人とも!どうしたんですか?ずっと隠れんぼをしていたのに見つからなくて……」
エリアスが駆け寄ると、ヴォルフは慈しむように腕の中の二人を見下ろし、穏やかに笑った。
「ああ。どうやら二人とも庭の奥の温室に隠れていたみたいなんだが……私が帰ってきた馬車の音に気づいて、飛び出してきたんだよ」
「ええっ、そうだったんですか……温室も何度も探したのになぁ……」
「私を見つけた途端に安心したのか、抱きついてそのまま寝てしまったよ」
貴族の当主として、ヴォルフは以前にも増して凛々しく、揺るぎない威厳を身に纏っている。
だが、父親として、そしてエリアスの夫としてのヴォルフは、どこまでも角が取れて穏やかで、優しい顔をしていた。
エリアスはふふ、と笑ってしまった。
エリアスやアンナがどれだけ探しても見つからない場所にじっと隠れてやり過ごしていたはずなのに、早く帰ってきた大好きな父親の姿を見た途端、嬉しくて自分から出てきてしまうなんて。
そして、その腕の中が世界で一番安全な場所だと知っているかのように、泥のように眠っているなんて。
優秀なアルファの片鱗を見せながらも、中身はまだまだ甘えん坊な子どもらしい双子の姿に、エリアスは頬を緩め、眠っている二人の頭を交互に撫でた。
ヴォルフ譲りの美しい銀髪のアニスは、女の子らしく髪が肩まで伸びて、ふわふわと風に揺れている。
目覚めている時は利発な顔つきで、大人顔負けの達者な口ぶりで周りを翻弄するが、眠っている時は天使のようにあどけない。
エリアスと同じ、さらさらの黒髪を持つルシフは、普段は大人しく、本を読むのが好きなタイプだ。けれど自分の意思ははっきりとしており、一度決めたら譲らない強さがある。それでも、姉であるアニスの言うことにはすんなりと従う優しい弟だ。
「……二人揃うと、手のつけられないいたずらっ子になってしまいますね」
探し続けて疲れた顔で、エリアスはふぅ、と息を吐いた。
ヴォルフは二人を軽々と抱えながらも、エリアスの顔を覗き込み、心配そうに眉を寄せた。
「エリアス、大丈夫か?顔が赤いよ、走り回ったんじゃないだろうな?」
「……大丈夫です」
エリアスはふにゃと笑って見せた。
「二人が無事だったから、疲れなんて吹き飛びました。ヴォルフも、いつもより早く会えて嬉しいです」
「そうか。……ならいいが」
ヴォルフはエリアスに並び、歩調を合わせて歩き出した。
二人は寄り添い合って、明かりの灯る屋敷へと戻る。
腕の中の愛しい我が子と、隣を歩く愛しい夫。
子どもたちと過ごす目まぐるしい日々の中、家族として成長していくこの時間は、エリアスにとって何よりも大切で、代え難い宝物だ。
ふと、夕日に照らされたヴォルフとエリアスの左手が光った。
それぞれの薬指には、お互いの瞳の色をした宝石が埋め込まれた結婚指輪が輝いている。
ヴォルフの指には、エリアスの瞳の色の宝石。
エリアスの指には、ヴォルフの瞳の色の宝石。
そしてその色は、指輪だけではない。
銀髪のアニスはエリアスと同じセピア色の瞳を、黒髪のルシフはヴォルフと同じアイスブルーの瞳を持って生まれた。
二人の愛の証は、確かに愛しい我が子たちへと受け継がれている。
(……幸せだなぁ)
エリアスは胸がいっぱいになり、双子を抱っこしているヴォルフの腕に手をかけ、体重を預けるように寄り添った。
ヴォルフもまた、愛おしそうにエリアスを見つめ返す。
「帰ろう、エリアス」
「はい、……ヴォルフ」
温かな風が吹き抜ける。
四人は一つの影になり、大切な我が家へと帰っていった。
(本編・完)
ここまでお読み頂きありがとうございます。
弟が主人公の、番外編に続きます。
残り10話です。
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