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第2章
予期せぬ口づけ
しおりを挟む「湯浴みの準備が整いました」
ハニスにそう呼ばれ、案内されて浴室へ入ると、そこには立派な猫足の浴槽に、湯気が立つほどたっぷりの温かいお湯が用意されていた。
ユリウスは衣服に手をかけ、一瞬、動きを止めた。
昨夜もルシエルに貪られたばかりだ。
服の下には、情事の痕跡――噛み跡や鬱血した痣――がそこかしこに残っている。
それを他人に見られることを躊躇ったのだ。
だが、所詮は使用人だ。
レオナルドの部下のメイドが、薄汚れた愛玩具の肌の状態など、いちいち主人のレオナルドに報告することもないだろう。
そう思い直し、ユリウスは衣服を脱ぎ捨てた。
鏡に映る自分の身体を見る。白磁のような肌に散らばる、赤黒い斑点や噛み跡。
改めて直視すると、吐き気がするほど汚らわしく、気持ち悪い身体だと思った。
浴槽に浸かり、ハニスに身体を預ける。彼女はスポンジを使い、優しく、丁寧に肌を洗ってくれた。
王宮でも、ルシエルのお気に入りであるユリウスの身体は、毎日メイドたちの手によって懇切丁寧に磨き上げられていた。
だが、それはあくまで「王代理が使う道具」の手入れであり、夜の行為の準備に過ぎなかった。
けれど今夜は、誰かに貪られるために磨かれているのではない。
ただ汚れを落とし、疲れを癒すためだけに洗われている。
その温かな事実が、張り詰めていたユリウスの神経を少しだけ緩ませ、安心させた。
湯浴みが終わり、ふかふかのバスローブを着せてもらうと、ユリウスは再び主寝室へと案内された。
扉が開く。
すると、そこにはレオナルドがいた。ソファに腰掛け、ユリウスの帰りを待っていたのだ。
ドキ、と心臓が大きく跳ねる。
動揺していることを知られたくなくて、ユリウスは努めて冷静な声を装った。
「…………お帰りでしたか。
あの、ここに一時的に通されたということは、まだ何かお話があるのでしょうか。でしたら、早く済ませて……」
きっと、続きの用事を済ませるために、ユリウスが戻ってくるのを待っていたのだろう。
話が終われば、どこか別の――身の丈に合った部屋か牢屋へ連れて行かれるはずだ。
そう自然な答えに辿り着き、言葉を紡いだユリウスに対し、レオナルドは静かに首を横に振った。
「いや。ユーリには、ここで寝てもらう」
「……はい?」
意味が分からず、ユリウスは目を瞬かせた。
主人の寝室に、捕虜同然の自分が?
すぐに一つの可能性に行き着く。
監視だ。目を離せば逃げると思われているのかもしれない。
「…………私は、逃げたりしません。
もし監視のためだとしたら、何か鎖にでも繋いでいただいても構いませんので……」
ユリウスが何をされても受け入れる覚悟でそう提案すると、
「ユーリ」
ユリウスの言葉を遮り、レオナルドがゆっくりと近づいてきた。
その威圧感に、ユリウスは身を強張らせた。
ああ、やはり縛られるのか。もしかしたら、首輪でもつけられるのかもしれない。
ユリウスには分からない目的のためには、手元に置いておく必要があるのだろう。
しかも、ユリウスはカイエン救出の計画についても聞いてしまった。
絶対に逃してはいけない重要参考人だ。
拘束されるのは当然だ。
ユリウスは抵抗の意思がないことを示すように、ぎゅっと目を瞑り、差し出されるであろう枷を待った。
ふと、レオナルドの気配が目の前で立ち止まった。
そして。
ちゅ。
と、湿った音がして、唇に温かく柔らかい何かを感じた。
「……え?」
何が起きたのか分からず、ユリウスは恐る恐る目を開けた。
すると、至近距離にレオナルドの顔があった。
身長差が十センチほどあるため、少し身を屈めたレオナルドの整った顔が、目の前にある。
「な、に……」
声を上げようとしたユリウスの唇を、再びレオナルドが塞いだ。
今度は、先ほどよりも深く、吸い付くように。
(――キス、されている?)
その事実に、ユリウスの思考は停止し、目が回るほど混乱した。
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