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第2章
最後の夜の願い⚠️
しおりを挟むちゅ、と湿った音を立てて、唇が重なる。
一度では終わらない。角度を変え、啄むように何度も繰り返され、そしてユリウスが拒絶も抵抗もしないことを確かめると、レオナルドのキスはさらに深く、濃厚なものへと変わった。
「んぁ……っ」
吐息と共に、甘い声が漏れてしまう。
絡み合う舌から伝わるレオナルドの唾液が、脳を痺れさせるほどに甘い。
十年ぶりに味わう、レオナルドのアルファフェロモンの味だ。
ルシエルの不快なそれを飲まされるたびに、脳内で誤魔化すために懸命に思い出そうとしては、十年という歳月の中で霞み、最近ではもう朧げになっていた、あの日々の記憶。
(…………そうだ、こんな味だった)
とろけるように甘くて、美味しくて……まるで、花の蜜みたいな。
ユリウスは思考を奪われ、それを夢中で味わうように、レオナルドの背中に手を回してキスに応えてしまった。
そして、その間に、自分の身体の奥底がカッと熱くなり、沸々とオメガとしての本能を取り戻している感覚を覚えた。
下腹部が疼き、血液が沸騰したように巡る。
怖い。このままだと、完全にヒート状態になってしまう。
理性が飛び、ただの獣になってしまうかもしれない。
そう思うのに、やめられない。離れたくない。もっと、もっと欲しい。
唇がわずかに離れ、銀の糸を引く。
キスしたままの至近距離で、レオナルドが熱っぽい瞳でユリウスを見つめ、低く囁いた。
「…………ユーリ。今夜は、このまま俺に任せてくれないか?……君が嫌がることは、絶対にしないから」
優しすぎる言葉だった。
ユリウスは泣き出しそうになった。
レオナルドにされて、ユリウスが嫌がることなんて、この世に何一つない。
何でもして欲しい。痛くても、辛くてもいい。貴方になら、殺されたって構わない。
愛してるから。大好きだから。お願い、離さないで。
そう言葉にしかけて、ユリウスは慌ててそれを喉の奥へと呑み込んだ。
こんな裏切り者の、薄汚れた愛玩具の「気持ち悪い本音」が、危うくレオナルドの耳を汚すところだった。
ユリウスは言葉の代わりに、小さく、そのまま頷いた。
このまま、レオナルドの計画に協力して、たとえカイエンが救出されたとしても。
その後にユリウスに待っているのは、ルシエルの愛妾として、第二王子派の中枢として断罪される「死」だ。
どう足掻いても、ハッピーエンドなどあり得ない。
……このまま死ぬのなら。
あの卒業式の前夜、どれだけ望んでも、乞い願っても与えられなかったものを――たとえ同情や情けでもいいから、与えて欲しかった。
冥土の土産に、たった一度の思い出が欲しい。
「…………レオ…………レオが、もし許してくださるのでしたら…………」
ユリウスの瞳から、ボロボロと大粒の涙が溢れ出した。
本当に欲しい気持ちが、決壊したダムのように溢れて止まらない。
レオナルドのことが、どうしようもないほど好きだ。
一度だけでいいから。情けをください。
「…………抱いて、ください。お願いします」
震える声で、そう乞うた。
それは、ユリウスの人生で初めて、自らの意志で望んだ、最初で最後の我儘だった。
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