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第2章
捨て駒の役割
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そう言ってレオナルドが差し出してきたのは、動きやすさを重視した活動衣だった。
一見シンプルだが、急所となる部分は上質な革で補強されており、軽量ながらも防具としての機能を備えていることが見て取れる。
おそらく、鎧の中に着込むタイプのものだろう。
これから死地へと赴くユリウスには、少しでも長く生きて役割を全うするために必要なものだ。
ユリウスはありがたく受け取り、それに着替えた。
鏡に映る自分は、ルシエルの愛玩具ではなく、一人の戦士のような格好をしていた。
中身は空っぽの捨て駒だとしても、外見だけは彼らの仲間に見えた。
着替えを済ませ、そのままレオナルドと共に再び獅子騎士団の本拠地にある作戦室へと向かうと、広い部屋にはすでに二十名の騎士団員たちが集結していた。
彼らは一斉にこちらを見たが、あの部屋に迎えに来てくれた騎士もそうだったように、誰一人としてユリウスへ侮蔑の目を向ける者はいなかった。
敵の情婦がノコノコと現れたというのに、彼らの眼差しは静かで、どこか厳粛ですらある。
(……ああ、そうか)
ユリウスは勝手に納得した。
きっと彼らも理解しているのだろう。
これから作戦のために犠牲になり、死んでいく哀れな駒なのだと。死に行く者へのせめてもの敬意なのだと。
全員が揃うと、レオナルドが作戦について話し始めた。
「作戦はシンプルだ。我々獅子騎士団の強みである少数精鋭の機動性、そして一人一人の戦闘力の高さを生かし、王宮の地下牢を強襲する」
レオナルドが地図を指し示す。
警備の薄いルートを通り、なるべく戦闘を避けつつ最短で地下牢へ到達し、カイエンを救出して離脱する。
その説明の中で、ユリウスはいつ自分が命を捧げるタイミングがあるのか、いつ「囮になれ」と言われるのかと身構えて待っていた。
だが、レオナルドが口にした役割は、予想もしないものだった。
「……ユーリ。君には、カイエンがもし奪還を拒んだ時の、説得役としてついてきて欲しい」
「……え?」
ユリウスは思わず聞き返した。
拒む、とはどういうことだ?
ユリウスはどこか、助けに行けばカイエンが手放しで喜び、奪還に応じることは当たり前だと思っていた。
「カイエンが投獄されて十年だ。
光も届かない地下で、日の目を浴びていない彼が今、どういう精神状態にあるか、我々には分からない」
レオナルドの声が重く響く。
「……助けに来たと言っても、罠だと疑うかもしれない。あるいは、すでに心を閉ざし、生きる気力を失っているかもしれない。
即座に応じられる状態か分からないんだ」
その言葉に、ユリウスは震えた。
言われてみればそうだ。ユリウスも、カイエンが投獄されてから一度もその姿を見ていない。
何度もルシエルに「一目だけでいいから会わせて欲しい」と懇願したが、その願いだけは頑なに却下され続けてきた。
十年もの間、深い闇の中で、王族としての最低限の扱いは受けているとしても、いつ訪れるかも分からない裁判の結果――死か、解放かを待ち続けてきたカイエン。
彼の心は今、どうなっているのだろう。
ユリウスの頭に浮かぶのは、十年前の輝かしい姿のままだ。
それ以外の姿を想像すらできていなかったことに、ユリウスは己の想像力の欠如と愚かさを痛感した。
レオナルドの言いたいことは理解できた。
かつての側近であり、友であったユリウスの言葉なら、届くかもしれないということだ。
「……分かった。カイエン様を無事奪還し、ここへ連れ帰れるよう……この命を捧げる」
ユリウスは静かに、けれど強く答えた。
それは、説得を成功させ、その後の脱出で危険が及んだ時には、誰よりも軽い捨て駒として我が身を差し出す覚悟があるという意味だった。
レオナルドがどこまでユリウスの言葉の裏にある意図を汲んだのかは分からない。
だが、レオナルドはユリウスを見つめ、低く、はっきりとした声で言った。
「ユーリ。……君は、俺が守る」
揺るぎない宣言だった。
だが、ユリウスはその言葉を、そのまま文字通りには受け取らなかった。
これから死地に赴く道具に対し、不安がらせないように言ってくれた言葉。
誰よりも軽い捨て駒としてのユリウスへの、最後の情けとしての優しさだと理解したからだ。
「……はい」
ユリウスは、ただ短く頷いた。
こうして、作戦の全容は決まった。
決行は、今夜だ。
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