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第2章
最も軽い命
しおりを挟む夜の帳が下りる頃、決行の時は迫っていた。
少しでも隠密性と機動性を高めるためにと、全員が特殊な軽量化された鎧を身につけることになった。
一見すると革鎧のように薄く軽いが、特殊な素材と加工が施されており、その強度は重厚なプレートメイルと同等なのだと、着付けを手伝ってくれた騎士が誇らしげに説明してくれた。
ユリウスもまた、その鎧に袖を通した。
身体に吸い付くようにフィットし、動きを阻害しない。
一応、ユリウスも在学中は剣を握り、騎士科の連中と打ち合った一人だ。
十年のブランクはあるが、自分の身の回り程度のことなら、危険があっても何とか対処できそうだという感覚が掌に戻ってくる。
そして、出発の一時間前。
ユリウスは騎士団長室、つまりレオナルドがいる部屋へと呼び出された。
部屋に入ると、そこにはすでに鎧を身につけたレオナルドが立っていた。
黒を基調とした機能美あふれる鎧姿は、先日、敵国を打ち倒して英雄として国に凱旋したあの日の姿を彷彿とさせた。
勇ましく、圧倒的な存在感を放つその姿に、ユリウスは思わず見惚れた。
「ユーリ。……緊張しているか?」
レオナルドが、硬い表情で尋ねてきた。
「ああ、……もちろん」
ユリウスは努めて平静を装って答えた。
「カイエン様と、レオたち獅子騎士団、そしてこの国の未来がかかっている作戦だ。緊張しないわけがないだろう」
もっともな答えだ。
だが、レオナルドはその言葉を聞くと、ゆっくりと距離を詰めてきた。
威圧感すら感じる足取りに、ユリウスは後退りそうになるのを堪えた。
「……レオ?」
名を呼ぶと、レオナルドは至近距離で立ち止まり、黒曜石の瞳でユリウスの瞳孔を覗き込むようにじっと見つめてきた。
「ユーリ。君は、この作戦で死のうとしているのか?」
核心を突く問いかけだった。
ユリウスは思わぬ言葉に息を呑んだが、すぐにふう、と肩の力を抜いて答えた。
「……死のう、とはしていない。
だが、今から作戦に臨む人員の中で、誰よりも軽い『捨て駒』として行く覚悟は出来ている。……それだけだ」
誰もが認識している事実を、淡々と告げただけだった。
戦力としても、政治的な立場としても、ユリウスが一番価値の低い駒であることは明白だ。
それなのに、レオナルドの顔が苦痛に歪み、曇った。
「ユーリ。君は捨て駒じゃない」
「ああ…………まあ、それは私の意識の問題と、あと『客観的な事実』のことだ」
ユリウスは、レオナルドが責任を感じているのだと思い、宥めるように言葉を継いだ。
「貴方が私を、意図的に捨て駒として使おうとしている、と思っているわけではない。
ただ、状況がそうさせる場合があるというだけで――」
「君を守ると言っただろう」
レオナルドは、何故か引き下がらなかった。
頑ななまでに、ユリウスの自己犠牲を否定しようとする。
(……何のための会話なんだろう、これは)
ユリウスは内心で首を傾げた。
捨て駒扱いされていると思っている人間に死なれたら、後味が悪いし、目覚めが悪いということだろうか。
自分の良心のために、形式上の否定をしておきたいのだろうか。
(もう、これ以上惨めにはしてほしくない)
守る価値のない人間に「守る」と言うのは、優しさではなく残酷な仕打ちだ。
そう思い、ユリウスはこの無意味な問答を終わらせることにした。
「分かった。……カイエン様を、無事奪還しよう」
「…………」
それだけを言い、レオナルドの瞳から逃げるように視線を外した。
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