それではまた、どこかでお会いしましょう。

スイ

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 私と湊斗の仲はその件でより一層、修復できないほどに離れて行きました。前にも増して二人の会話が減り、顔を合わす事すらほとんど無くなりました。たまに会うことがあってもお互いに視線も合わせません。

 私と距離が広がるほどに、湊斗は配信者としての地位を確かな物にしていきました。視聴者数は伸び、配信者同士でコラボする機会も多くなりました。SNSでも、沢山のファンと絡むようになっていました。

 その内、湊斗は休みの日は必ずどこかへ出掛けるようになりました。配信者としての仕事だけで無く、単純に誰かと会っていた日も多かったと思います。朝方、もしくは夜遅く帰ったときは決まって、脱ぎ捨てられた湊斗の服からは甘い香水の香りが漂ってきました。

 離婚を切り出されたのは、年が明けてからでした。

 湊斗の分が既に記入された離婚届を渡された時、身勝手な話ですが、私は泣きそうになりました。そうやって湊斗を突き放したのも、誰かと関係を持たざるを得ない状況に追い込んだのも私だというのに。何か口にしたらそれこそ涙が溢れてしまいそうだったので、私は無言で自分の名前を書き、判子を押しました。

「慰謝料だけど、」

 と言って湊斗は嫌に格式張った書類を出そうとしました。だけど私は首を横に振りました。

「もう、貰ってる」

 ようやくそれだけ絞り出し、できる限りの笑顔を浮かべて、私は右の脇腹を押さえました。湊斗の肝臓がある位置です。

 湊斗はそれでも、私が引っ越す日に半ば無理矢理、百万円の束をいくつか渡してきました。湊斗らしい生真面目さだと思います。

 :::

 最後の夜の事だけ、きちんと伝えないといけません。

 私が湊斗と一緒の家で過ごす最後の夜。すっかり別々の部屋で寝ることが習慣になっていたけれど、その日は、湊斗が私の隣に布団を持ってきました。

「どうしたの?」

 と聞いても「いや」としか答えてくれません。そのまま私たちは、まるで仲の良い夫婦のように、二人並んで寝ました。その内、隣の布団からもぞもぞと聞こえてきて、同時に、湊斗の心が伝わってきました。それは久しぶりのことでした。この所は、同じ家に暮らしていてもすれ違ってばかりだったので、湊斗のモヤモヤが伝わる事もありませんでした。

 湊斗は、私とセックスをしたがっているようでした。

 彼の悶々とした気持ちが伝わってきて、だけど次に感じたのは、悲しみでした。彼は私と体を重ねたいと思うのと同じくらい、現状を悲しんでいるようでした。

 だから、私は湊斗の布団に潜り込みました。湊斗は驚いたようでしたが、それでも何を言うまでも無く私を受け入れました。私は湊斗のズボンを脱がし、彼のを舐めました。大きく膨張したタイミングでコンドームを探して夜闇の中をさまよい、薬が入っている引き出しに最後の一つを見つけました。布団に戻ったときには既にちょっと萎えていて、私は手でしごき、コンドームをつけ、湊斗に跨がりました。

 久しぶりなせいかあまり濡れておらず、気持ちいいよりも痛いが先に来ました。それでも湊斗の固さを中で感じていると徐々に濡れ、声を抑えるほどの快感が湧き上がってきました。

 そうやってお互いの体をぶつけていると、不意に、湊斗が考えている事が流れ込んできました。それは、私が初めて湊斗の職場に来た日の記憶でした。なれない制服に身を包み、みっともないほどに肩を上げて皆の前で挨拶する私の姿です。それから走馬灯のように景色は流れます。ただの同僚だった頃から、飲み会を通じて付き合い始めた頃、お互いの家に行き来し、ゲームをして、たまに美味しいものを食べに行く。母さんが死んで呆然とする私と、実家で子供のように泣く私。結婚式と、その後もあまり代わり映えの無い、幸せな毎日。月日は流れ、湊斗の記憶は病院で私を置いて帰った日に辿り着きます。

 あの日、湊斗は大学病院から出た後、歩きながらボロボロと泣いていました。空しさの涙でした。自分が今まで愛した相手が、生きるのに積極的で無いことを知った空しさです。自分が生きていたいと当たり前に思うように、私は生きていたいと思っていません。あの時の湊斗はまだ、私と一緒に生きたいと思ってくれていたのです。あの怒りは、湊斗が最後に発した私へのSOSでした。私はそうとは知らず、ただ曖昧に流してしまいました。湊斗に胸にはぽっかりと空洞が残りました。自分のしてきた事は何だったのか、どこで間違えたのか、どうすれば良かったのか、何もかもが分からないという、そういう空しさで出来た空洞です。

 我慢していた涙がこみ上げて、だけどかろうじて耐えました。そのまま腰を振って湊斗を射精させました。コンドームをゴミ箱に入れ、萎んだのについていたのを舐めとり、自分の布団に戻りました。そのまま一言でも言葉を交わしたら、泣いてしまいそうでした。

 その夜はもう、湊斗の心は伝わってきませんでした。私の胸に湊斗の空しさが尾を引いて、それもそのうち眠気と共に消えていきました。
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