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15-2.如月結衣の悩みについて(Hパート)
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「出張、ですか?」
そうそう、と彼は言う。一階の奥、事務所として使っている部屋。彼は自分の仕事机でメールを打ちながら、
「お役所からお呼びがかかって。姉妹都市を結んでいるイギリスの……なんて言ったかな、まぁどっかの都市の文化博、みたいなのを来年から開くらしい。で、それにうちのアンティークをリースしてほしいんだと」
そう言って口にした『お役所』はここから離れた、関東ですら無い都市だった。
「そんなところからお声がかかったのですね」
「ほら、この間伊崎と一緒にコスプレしてもらったあれで、うちの事を知ったみたい。たぶん、担当者がイベントに来てたんじゃないかな」
「日帰りは厳しいのでしょうか」
「朝からプレゼンして打ち合わせしてだから、ちょっと難しいかな。あと、前日早めに入って会場も見ときたいし。その日も遅くなったら泊まって帰るくらい」
「いつですか?」
「来週の月曜日。だから日曜の朝にはこっちを出る感じかな」
「三日会えないのですね」
「寂しい?」
「ーーそれを訊くのは意地が悪いと思います」
パソコンから顔を上げた彼は笑みを浮かべ「おいで」と言う。隣へと近づくと、彼は「ほら」と言って膝の上を叩いた。私はメイド服のロングスカートを膝の内側に折り、彼の太ももへ横向きに座った。彼は私の腰に手を回し、私もまた、彼の肩に手を回す。
「大丈夫だよ、浮気もしないし、早く終わったらその分早く帰ってくるから」
「別にそういう事を心配しているわけではないのです。ただ、単純に寂しいだけです」
「如月さんも、だいぶ可愛い事を言うようになったよね」
「可愛げがないのは自覚しています」
私は彼の額に頬を寄せる。体勢的に頭一つ分、彼は低いところにいるというのに、包まれている感じがするのは不思議だった。彼は私の首筋に唇を寄せ、スカートの下に手を潜り込ませてタイツ越しに脚を撫でる。
「まぁ、確かにどっちかって言うと可愛いより綺麗だけど」
「またそんな……。そういう事を言うのはあなたぐらいです」
「みんな思ってるよ。僕はたまたま、それを言える立場にいるだけで」
「もう」
彼の手が這い上がり、私の脚の付け根、股と太ももの境目をなぞる。「んっ」と声を漏らす私を、彼は楽しげに、もしくは、いたずらっ子の微笑みで見つめていた。
「お仕事中ですよ」
「止めとく?」
私は無言になり、不満のこもった目で彼を見つめる。彼はその視線を笑ってかわし、ショーツ越しに私の秘部を撫でる。指先でゆっくり、前から後ろへとなぞり、また同じ道を辿ってくる。私の体はそれだけでビクンと震え、彼の肩に回した手の力を強める。
「机の上、座ってみて」
「え、机、ですか?」
「いいから」
私はノートパソコンを押しのけ、机の端に腰を下ろす。彼は椅子から降りて膝を突き、私の脚をこじ開ける。
「あ、ちょっ」
「いや?」
彼は手の力を弱めて問いかける。私はその目を受け止められずにそっぽを向き、
「そういう訳ではないのですが」
と答えた。彼はロングスカートをたくし上げ、その裾を私に渡す。
「これ、咥えて」
「え、口で、ということですか?」
「もちろん」
私は唇を口の中に巻き込み、できるだけ唾液に濡れないようスカートの裾を咥える。彼は体を脚の間にねじ込ませて、顔を股に寄せ、太ももに吸い付く。
「ん……!」
くすぐったさと恥ずかしさと気持ち良さが同時に襲いかかる。彼の手が腰に巻き付いているせいで私は自由に身動きすることが出来ない。彼の口から逃げようと体を身動きさせても満足に動くことが出来ず、多少動いてもすぐに抱き寄せられる。
太ももに寄せられていた唇は少し脚の付け根へと近づいていく。秘部を包むショーツに近づいたとき、今度は反対の太ももに唇を寄せ、同じように脚の付け根へとにじりよっていく。
「ん、く……」
芋虫が体全体を曲げて進むように、彼は口の開閉の動きだけで私の脚の上を這ってくる。吐き出される息が肌の上を滑り、もどかしさばかりが積もっていく。彼の顔はスカートに隠れて見えず、視線で懇願することも出来ない。焦らさないで、とお願いしようにも裾を咥えたままではうまく話す事も出来なかった。
彼の口が秘部へ近づいてくる。傷を癒やそうとする動物みたいに、脚と腰の境目を丹念に舐めた彼は、ショーツに顔を寄せ、鼻先で割れ目を押さえた。
「つっ……!」
ビクン、と体が跳ねる。思わず閉じてしまった私の脚は、彼の手で再びこじ開けられた。そのまま彼はショーツのゴムに触れる。私は後ろに付いた腕に力を込め、腰を上げる。ショーツをあっという間に抜き去ってしまった。
「舐めるね」
独り言のように彼は言う。手の位置を私の太ももに、膝の裏が彼の肩で持ち上げられ半ば無理やり腰が上向きになる。まっすぐ後ろに手を突くのも辛くなり、私は肘をテーブルについてほとんど寝転がるように体を倒した。きっと秘部だけでなく、お尻も彼の目前に晒け出されたはずだ。陰毛に彼の吐息を感じた直後、もっと熱くて湿り気を帯びた感触が割れ目を撫でた。
「つ、あ、ん……! ううぅぅ……」
下から上へ、お尻の割れ目に触れる寸前の場所から、クリトリスまで。彼の舌先がゆっくりと這い、また同じ道を辿って戻っていく。そして割れ目にキスをして、舌先がねじ込まれた。膣の入り口を柔らかい舌が何度も往復し、快感で私の腰は飛び跳ねそうになる。力を込めた彼の手がそれを押さえつけ、私はどこにも逃げ場のないまま、彼の舌先による甘い快楽を受け続ける。
「うっ、く、んぅぅぅ……」
ふと彼が動きを止め、私の割れ目を覆うヒダを広げる。私の膣を凝視する彼の姿がありありと浮かんだ。
「ううん……」
私は首を振り、脚を閉じようとする。彼は笑みの混じった声で、
「綺麗だよ。色も、形も。ほら、こことかも」
そう言ってクリトリスを剥き、音を立てて吸い上げる。体が大きく震え、思わず「あ……!」と声が漏れた。その拍子に口元からスカートが離れ、彼を覆う。スカートをかぶった彼は頭のところだけ飛び出ていて、まるで小さな子供が私にいたずらしているようにも見えた。スカートの下で、彼はクリトリスを攻め立てる。はじめは吸い上げ、次に舐め、指の腹で撫で回した後は再び吸い上げる。そのうち、彼の空いていた手が膣の中に入って来る。指先が二本、もう私の愛液か彼の唾液かも分からないぬめりけの中をばた足で泳ぐみたく交互に動いている。
「あ、う、いや、だめ、あ、あ、あ、……」
私は自分の体重を支えきれなくなり、背中をつけて机に横になる。頭だけが机の端からはみ出て視界がぐるりと回転し、出入り口の扉が上下逆さに見えた。両手を伸ばしスカート越しに彼の頭を探り当て、欲望のままに私の膣に押し付ける。
「いく、いきそうです、もっともっと……」
彼の指先が早くなり、クリトリスを吸い上げも強くなっていく。膣の中で、指は奥の奥まで潜り込み私が一番感じる最奥の膣壁を押し続けている。きっとわざとに違いない水音を立て、皮を剥き無防備になったクリトリスに激しく吸い付く。脚を閉じる力が強くなり、彼の体を挟み込む。押さえることの出来ない声が部屋中に撒き散らされ、彼がたてる水音とあいまって仕事部屋が一層卑猥な空間へと変わっていく。
「いくいく、い、く」
セックスで迎えるのとはまたちがう絶頂。快楽の頂きを超えると体全体が硬直し、直後に背筋を走る痺れで体が魚のように跳ね回った。腰が何度も浮き、その度に彼が溢れた愛液を吸い取る。快楽の痙攣が去った後、体中には途方もない疲労感が残った。
スカートの揺れる感覚で彼が立ち上がったのが分かった。頑張って頭を上げそっちを見ると、口元を袖で拭う彼がいた。彼は私を見ると笑顔を浮かべ、覆いかぶさるように私を抱き寄せる。私もまた彼の背中に手を回すと、彼は「よいしょ」と言って私を抱き起こし、最初のように机に座らせた。
「気持ちよかった?」
「とても……」
「でも疲れたみたいだね」
「初めて、だったので。舐められてイッたのは」
彼は私の頭を撫でる。ふと気になり、私は彼の股間に手を伸ばす。ピンと張ったペニスがあった。
「まだ、こっちは大きいままです」
「バレた?」
「良ければ私が……」
お返しに口で、と思い机を降りようとする私を彼は押し留める。
「いいよ。如月さんはちょっと休んでて」
「いえ、でも」
彼は耳元で、いっそう声を潜めて、
「おもちゃにされて疲れたでしょ?」
おもちゃ。
その言葉に自分でも驚くほどに痺れてしまう。快楽とも喜びとも違うこの感情を何ていうのか、私には分からない。ただ彼がその言葉を発した途端に心の奥底から溢れた虐げられたいという気持ちは、紛れもなく自分自身の奥底に眠る願望だった。
「だから、よいしょっと」
「きゃっ、」
彼は私の体を横に向きに抱きかかえ、そのまま器用にドアノブも開けて部屋を出る。「歩けます、歩けますから」という私に、
「夢だったんだ、きれいな女の人をお姫様抱っこするの。だから、ね?」
私は顔を伏せ、「もう」と言ったまま彼に体重を預けた。
:::
深夜零時。
明るさを最小にしたスマホの中で日付が変わった。
私は隣で眠る彼を改めてじっと見つめる。寝息が規則的に続いている事、喉がツバを飲み込む動きをしない事を確認する。よし、寝ている。
彼に背を向け、画面の明かりがもれないよう体で隠しながらラインを開く。
伊崎さんには昼、ちょうど彼と離れて休憩していた時に連絡は取っていた。少し相談したい事があるので夜良いですか? 伊崎さんは、ちょっと周りうるさいかもだけどいいよ、と返してくれた。彼の言葉に甘えて昼に仮眠を取ったため、いつもは寝ているこの時間にも眠気は遠かった。
『おまたせしました。起きていますか』
私はじっと画面を見つめる。なんと私の気持ちを相談しようか、頭の中で文章を組み立てる。彼にめちゃくちゃにされたい、だけど彼は優しいからお願いしても私が望むような事はしないと思う。それを出来るだけオブラートにつつみ、遠わまりに、さり気なく……
スマホが震えた。
画面には着信か拒否かと出ている。
ラインの通知ではない。電話だ。
軽くパニックになる。振動を続けるスマホを握りしめ、私はベッドから飛び降り部屋を出る。扉を背にしゃがみ込み、口元を手で覆いながら、
「も、もしもし?」
「あ、結衣ちゃん? ごめんねごめんね遅くなって。んで、なんだっけ?」
いつもより声が高い。それに後ろが少し騒がしい。まだ仕事をしているのだろうか?
「いえ、遅くなったのは私なので」
「あ、そうだっけ? あはははは。で、どうしたの? あいつに愛想がつきた?」
「そんな事は」
「んじゃエッチが下手くそとか? そういうの遠慮なく言ってね、私がガツンと言ってあげる」
「下手、では無くて、そのとてもやさしくしてもらってるのですが」
「あ、わかった~。優しすぎってやつでしょ、ね?」
思わず黙り込んでしまう。伊崎さんも少しトーンを落とし「あ、マジ?」と呟いた。
「その、あの、もっと激しくというか、め、めちゃくちゃというか……。や、優しい所も勿論好きなのですけど、物足りないとこがあって、それで、どうしたらいいかとご相談を」
ずっと考えていた迂遠な言い回しがことごとく崩れていく。スマホの先で、伊崎さんが「そんなのはさぁ」と一際大きく声を出す。ついでにゲップも吐く。
「結衣ちゃんキレイな顔とエッろい体持ってるんだから、誘えばいいのよ」
「さ、誘う?」
「そうそう、布の少ないさぁ、紐みたいなパンツ履いて、こうくねくねって体揺らして。そうだ! あいつがいつも見てるエロ動画を参考にすればいいじゃない」
「いやでもそれは」
「あ、パソコンのパスワード知ってる? パスワードは、」
そう言って伊崎さんはすらすらアルファベットと数字を言い連ねる。いけない事だとは思いつつ、その英数字を全力で脳に刻みつけてしまう。言い終えた直後、遠くから「美里ー」と伊崎さんを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、すみません、まだお仕事中でしたか?」
「仕事? あぁ仕事! もちろんもちろん、お勤め中ですよ。んで、どう? なんとかなりそう?」
「え、あ、はい。ちょっと、まぁ」
「んじゃがんばってね! 結果はちゃんと教えて」
ばいばいー、と一際テンション高く言って伊崎さんは電話を切る。私は、はぁ、と長く息を吐き出す。嵐のような会話だった。
誘えばいい。
私にできるだろうか? 思わず自分の胸を掴んで谷間を寄せてみる。人よりは大きい、という自負はあるけれど、考えてみれば彼がこの胸を、というより私の体をどこを魅力的に思っていてくれているのか、よく分からなかった。いつも褒めてくれるし、顔はある程度彼の好みなんだとは思う。だけど体は全体的に綺麗だと言ってくれることはあっても、具体的にどこ、という事は言われたことがない気がする。
考えたら考えるほど不安になってしまう。彼は優しいから、私が傷つかないようにお世辞を言ってくれるだけなのではないか。体を全体的に『キレイ』と言うにとどめているのは、彼にとっての魅力的な部位が乏しい、ということの裏返しなのではないだろうか。
ふと、つい今しがた刻みつけた彼のパソコンのパスワードを反復してしまう。以前、私が間違えてアダルト動画を流してからというもの、設定を変えてしまったのか、テレビではそれを見られなくなってしまった。それを真似できるかは別として、彼がどんな物に性的興奮を持って、お金を出しているのか、とても気になった。
「ーーよし」
私は一人頷き、彼のパソコンがある仕事部屋へと向かう。
:::
「美里、今あんたって仕事してるのー?」
「仕事中よ仕事中! なんだっけ、あれ、……えーっと。そうそう! 飲みニケーション!」
「おっさんじゃん!」
「あはははははは」
「お待たせしました~、えいひれと鳥の軟骨になります」
「あ、おにいさーん、黒霧のボトル一本追加で! あと彼女いる?」
:::
深夜の仕事部屋に入るのは考えてみれば初めてで、誰もいないと分かっているのについ息を潜めてしまう。彼の椅子に座り、パソコンを起動させる。暗闇に慣れていた目にディスプレイの明かりは眩しく、瞼を細めながら、伊崎さんから聞いたパスワードを一つ一つ入力していく。
エンターキーを押す。
画面に「ようこそ」と表示される。
いつものデスクトップ画面が現れた。
背徳感と好奇心で心臓がバクバク唸っている。私はChromeを開き、ブックマークを確認する。だけどそこに並ぶのは仕事関係のサイトばかりだった。登録していないのだろうか? いやでもテレビであれが映ったからには、必ずどこかにあるはず。履歴を探ったりローカルのフォルダを探ったりしながら十分ほど格闘した末、もしかしたらアカウントが違うのでは、と思いつく。ためしにChrome右上のアカウントアイコンを開くと、もう一つ、写真も設定されていないアカウントが現れた。切り替えて、もう一度ブックマークを開いてみる。
あった。
「R18」と名付けられたフォルダにいくつかのサイトが登録されている。試しに一番上のサイトをクリックしてみると、途端に画面が華やかな、というか、艷やかな色味に包まれる。
アダルト動画のホームページだった。
ページの上でバーナーが今日のセールを紹介している。ランキング上で微笑む裸の女性に目を奪われ、鼓動を早めた心臓を深呼吸で押さえつけながらマイページをクリック。「購入履歴」と書かれたページを表示する。
彼が買った動画の一覧が現れる。
私は唾液を飲み込み、ゆっくりスクロールしながらそれらを確認していく。意外、と言うべきか、なんと言うか、前半はメイド物やコスプレ物が多く、どれも一様に胸が大きく、黒い長髪のものばかりだった。後ろに行くにしたがってその統一感はばらけ、ぱっと見だけではどういう内容なのか分からなくなっていく。
最後まで見たところで、今度は一番下から購入日を見ていく。サイト自体はもう六年前から使っているみたいだけど、半分以上はこの数カ月で買ったものらしい。最近……つまり今年の中で一番古い日付は私がここに来て一月ほど経った頃で、その購入日辺りに何があったかは私自身よく覚えている。
私が酔っ払って彼にご奉仕をした日だ。
彼がメイド物の動画ばかり買いだしているのもそれからだ。
生唾を飲み込む。
女性の見た目がどことなく私に似ているのは考え過ぎだろうか?
私は再び一番上までページを戻す。そして一番最近買った動画の情報ページを開く。小さく表示されていたパッケージが大きく映る。
女性は上下に分かれたメイド服を着ていて、下はお尻が見えるほどのミニスカート、上は肩と首周りだけを覆っているだけだ。胸を覆う布地は無く、代わりに胸の大きさの割に面積の少ないビキニを着ている。首と手首には黒革のベルトがつけられ、どちらもチェーンが伸び、こちらに潤んだ瞳を向けている。購入日は今日の午後になっている。私が寝ていた時間だ。きっと彼はこの動画を見て、あのパンパンに張り詰めたペニスから精液を出したのだろう。私は嫉妬に近い感情を抱いてしまう。わざわざお金を出して動画を買わなくても、私を使えばいいのに。
ふと、私は扉の方を見る。耳を澄まし、物音に全神経を集中させる。風の音も聞こえない静かな夜だ。私はパソコンのマスターボリュームをゼロにし、そこからマウスホイール二つ分だけ音量を上げる。
再生ボタンを押す。
画面上にプレイヤーが現れる。黒い再生画面の上に『途中から再生しますか?』という質問。私は少し悩み、再生時間を見つめながら『はい』と答えた。
画面にパッケージのメイド服を着た女性が映し出される。女性は膝立ちになり、谷間に男性のペニスを挟んで胸を上下させている。ローションを垂らしているのか卑猥な水音が響き、時折画面の方ーーご主人様を乞うように見つめている。首には犬につけるようなシルバーのチェーンが伸び、それは床に垂れ落ちた後、ご主人様の手に握られている。
行為も佳境なのか、女性の動きはかなり激しくなっている。胸だけと言うより、体全体を上下に揺らして、ひたすらご主人様に向かって従順な言葉を呟いている。気持ちいいですか? おちんちん、固くなっています。いつでも私のお胸に出してください。ご主人様のお精子でたくさん汚してください。
知らず知らず背筋が伸びる。私はこの椅子に座って同じ動画を見る彼の姿を想像する。その時の彼の頭に、ちゃんと私はいただろうか? いたに決まっている、と思う私の気持ちは半ば対抗心から生まれた願望で、目の前の女性が卑猥な言葉を吐き、従順に奉仕をしている姿を見ているとなぜだか泣き出したくなった。同時に秘部までも濡れてくるのが分かって、私の感情も欲望も何もかもがまとめて吹き出している。
無性に彼の香りがかぎたくなった。
周囲を見渡し、テーブルの隅にいつ何を拭いたかも分からないハンドタオルが無造作に置かれていた。私はそれを手に取り、鼻いっぱいに吸い込む。微かに残った彼の匂いが肺いっぱいに広がって、少しだけ心が落ち着く。画面を見ると、ご主人様が鎖を引っ張って「もっと」と命じていた。女性は熱い吐息を吐き出しながら「かしこまりました……」と言い、更に激しく胸を上下に動かしている。
私は背もたれに体を深く預ける。脚をだらしなく広げ、彼の指を思い出しながら割れ目に沈み込ませる。人差し指と中指を深く根本まで差し込み、愛液の中を泳ぐようにばたつかさせる。私の指では奥まで届かず、それがもどかしい。
どこに出してほしい?
動画のご主人様が問いかける。私がその言葉を彼の言葉に置き換えているように、彼もまた、動画の女性を私に重ねながら見ていてほしい。私に首輪と卑猥な言葉、それに従順さを試すための奉仕の機会を与えてほしい。ご主人様の問いかけに、メイドは答える。
お好きなところにかけてください。
動きが激しくなる。胸の両側から手を力強く押し付け、ご主人様のペニスをより激しくしごきあげる。大きな胸にペニスの殆どは埋まり、上下するたびにその先端が胸から飛び出ている。私は空いている手でクリトリスをいじる。皮を剥き、指でこねくり回す。腰が震え、口が寂しくパジャマの袖を噛んだ。
いく。
とご主人様が言う。女性の頭を押さえつけ、その顔に向けて真っ白い精子を何度も何度も放出する。私はそれを見ながら指先の動きを強めた。絶頂は思いの外にすぐに来て、だけどそれは微かな丘を登ってすぐに去っていった。体がぴくんと震え、背筋を痺れが走り、ただそれだけ。指を引き抜くと愛液でべっとりと濡れていた。
体を起こし、動画を見る。すでに画面は移り変わり、ベッドの上で、先程とは違うメイド服を着た女性がマッサージをしていた。私は動画のスクロールバーを再生し始めた時の時間に戻し、プレイヤーを閉じる。履歴を消して、クロームのアカウントも元に戻し、パソコンも落とす。スマホを見るとすでに一時を回っていた。
流石に寝ないと。
そう思ってはいるけれど、頭の中にはちょっとした彼への不満が未だに渦巻いている。どうしてこの動画のようなことをしてくれないのだろう。私がいるのにこんなのを買わなくたって。
誘えばいいのよ。
ーー
私はスマホでブラウザを開き、検索ワードを打ち込んだ。
そうそう、と彼は言う。一階の奥、事務所として使っている部屋。彼は自分の仕事机でメールを打ちながら、
「お役所からお呼びがかかって。姉妹都市を結んでいるイギリスの……なんて言ったかな、まぁどっかの都市の文化博、みたいなのを来年から開くらしい。で、それにうちのアンティークをリースしてほしいんだと」
そう言って口にした『お役所』はここから離れた、関東ですら無い都市だった。
「そんなところからお声がかかったのですね」
「ほら、この間伊崎と一緒にコスプレしてもらったあれで、うちの事を知ったみたい。たぶん、担当者がイベントに来てたんじゃないかな」
「日帰りは厳しいのでしょうか」
「朝からプレゼンして打ち合わせしてだから、ちょっと難しいかな。あと、前日早めに入って会場も見ときたいし。その日も遅くなったら泊まって帰るくらい」
「いつですか?」
「来週の月曜日。だから日曜の朝にはこっちを出る感じかな」
「三日会えないのですね」
「寂しい?」
「ーーそれを訊くのは意地が悪いと思います」
パソコンから顔を上げた彼は笑みを浮かべ「おいで」と言う。隣へと近づくと、彼は「ほら」と言って膝の上を叩いた。私はメイド服のロングスカートを膝の内側に折り、彼の太ももへ横向きに座った。彼は私の腰に手を回し、私もまた、彼の肩に手を回す。
「大丈夫だよ、浮気もしないし、早く終わったらその分早く帰ってくるから」
「別にそういう事を心配しているわけではないのです。ただ、単純に寂しいだけです」
「如月さんも、だいぶ可愛い事を言うようになったよね」
「可愛げがないのは自覚しています」
私は彼の額に頬を寄せる。体勢的に頭一つ分、彼は低いところにいるというのに、包まれている感じがするのは不思議だった。彼は私の首筋に唇を寄せ、スカートの下に手を潜り込ませてタイツ越しに脚を撫でる。
「まぁ、確かにどっちかって言うと可愛いより綺麗だけど」
「またそんな……。そういう事を言うのはあなたぐらいです」
「みんな思ってるよ。僕はたまたま、それを言える立場にいるだけで」
「もう」
彼の手が這い上がり、私の脚の付け根、股と太ももの境目をなぞる。「んっ」と声を漏らす私を、彼は楽しげに、もしくは、いたずらっ子の微笑みで見つめていた。
「お仕事中ですよ」
「止めとく?」
私は無言になり、不満のこもった目で彼を見つめる。彼はその視線を笑ってかわし、ショーツ越しに私の秘部を撫でる。指先でゆっくり、前から後ろへとなぞり、また同じ道を辿ってくる。私の体はそれだけでビクンと震え、彼の肩に回した手の力を強める。
「机の上、座ってみて」
「え、机、ですか?」
「いいから」
私はノートパソコンを押しのけ、机の端に腰を下ろす。彼は椅子から降りて膝を突き、私の脚をこじ開ける。
「あ、ちょっ」
「いや?」
彼は手の力を弱めて問いかける。私はその目を受け止められずにそっぽを向き、
「そういう訳ではないのですが」
と答えた。彼はロングスカートをたくし上げ、その裾を私に渡す。
「これ、咥えて」
「え、口で、ということですか?」
「もちろん」
私は唇を口の中に巻き込み、できるだけ唾液に濡れないようスカートの裾を咥える。彼は体を脚の間にねじ込ませて、顔を股に寄せ、太ももに吸い付く。
「ん……!」
くすぐったさと恥ずかしさと気持ち良さが同時に襲いかかる。彼の手が腰に巻き付いているせいで私は自由に身動きすることが出来ない。彼の口から逃げようと体を身動きさせても満足に動くことが出来ず、多少動いてもすぐに抱き寄せられる。
太ももに寄せられていた唇は少し脚の付け根へと近づいていく。秘部を包むショーツに近づいたとき、今度は反対の太ももに唇を寄せ、同じように脚の付け根へとにじりよっていく。
「ん、く……」
芋虫が体全体を曲げて進むように、彼は口の開閉の動きだけで私の脚の上を這ってくる。吐き出される息が肌の上を滑り、もどかしさばかりが積もっていく。彼の顔はスカートに隠れて見えず、視線で懇願することも出来ない。焦らさないで、とお願いしようにも裾を咥えたままではうまく話す事も出来なかった。
彼の口が秘部へ近づいてくる。傷を癒やそうとする動物みたいに、脚と腰の境目を丹念に舐めた彼は、ショーツに顔を寄せ、鼻先で割れ目を押さえた。
「つっ……!」
ビクン、と体が跳ねる。思わず閉じてしまった私の脚は、彼の手で再びこじ開けられた。そのまま彼はショーツのゴムに触れる。私は後ろに付いた腕に力を込め、腰を上げる。ショーツをあっという間に抜き去ってしまった。
「舐めるね」
独り言のように彼は言う。手の位置を私の太ももに、膝の裏が彼の肩で持ち上げられ半ば無理やり腰が上向きになる。まっすぐ後ろに手を突くのも辛くなり、私は肘をテーブルについてほとんど寝転がるように体を倒した。きっと秘部だけでなく、お尻も彼の目前に晒け出されたはずだ。陰毛に彼の吐息を感じた直後、もっと熱くて湿り気を帯びた感触が割れ目を撫でた。
「つ、あ、ん……! ううぅぅ……」
下から上へ、お尻の割れ目に触れる寸前の場所から、クリトリスまで。彼の舌先がゆっくりと這い、また同じ道を辿って戻っていく。そして割れ目にキスをして、舌先がねじ込まれた。膣の入り口を柔らかい舌が何度も往復し、快感で私の腰は飛び跳ねそうになる。力を込めた彼の手がそれを押さえつけ、私はどこにも逃げ場のないまま、彼の舌先による甘い快楽を受け続ける。
「うっ、く、んぅぅぅ……」
ふと彼が動きを止め、私の割れ目を覆うヒダを広げる。私の膣を凝視する彼の姿がありありと浮かんだ。
「ううん……」
私は首を振り、脚を閉じようとする。彼は笑みの混じった声で、
「綺麗だよ。色も、形も。ほら、こことかも」
そう言ってクリトリスを剥き、音を立てて吸い上げる。体が大きく震え、思わず「あ……!」と声が漏れた。その拍子に口元からスカートが離れ、彼を覆う。スカートをかぶった彼は頭のところだけ飛び出ていて、まるで小さな子供が私にいたずらしているようにも見えた。スカートの下で、彼はクリトリスを攻め立てる。はじめは吸い上げ、次に舐め、指の腹で撫で回した後は再び吸い上げる。そのうち、彼の空いていた手が膣の中に入って来る。指先が二本、もう私の愛液か彼の唾液かも分からないぬめりけの中をばた足で泳ぐみたく交互に動いている。
「あ、う、いや、だめ、あ、あ、あ、……」
私は自分の体重を支えきれなくなり、背中をつけて机に横になる。頭だけが机の端からはみ出て視界がぐるりと回転し、出入り口の扉が上下逆さに見えた。両手を伸ばしスカート越しに彼の頭を探り当て、欲望のままに私の膣に押し付ける。
「いく、いきそうです、もっともっと……」
彼の指先が早くなり、クリトリスを吸い上げも強くなっていく。膣の中で、指は奥の奥まで潜り込み私が一番感じる最奥の膣壁を押し続けている。きっとわざとに違いない水音を立て、皮を剥き無防備になったクリトリスに激しく吸い付く。脚を閉じる力が強くなり、彼の体を挟み込む。押さえることの出来ない声が部屋中に撒き散らされ、彼がたてる水音とあいまって仕事部屋が一層卑猥な空間へと変わっていく。
「いくいく、い、く」
セックスで迎えるのとはまたちがう絶頂。快楽の頂きを超えると体全体が硬直し、直後に背筋を走る痺れで体が魚のように跳ね回った。腰が何度も浮き、その度に彼が溢れた愛液を吸い取る。快楽の痙攣が去った後、体中には途方もない疲労感が残った。
スカートの揺れる感覚で彼が立ち上がったのが分かった。頑張って頭を上げそっちを見ると、口元を袖で拭う彼がいた。彼は私を見ると笑顔を浮かべ、覆いかぶさるように私を抱き寄せる。私もまた彼の背中に手を回すと、彼は「よいしょ」と言って私を抱き起こし、最初のように机に座らせた。
「気持ちよかった?」
「とても……」
「でも疲れたみたいだね」
「初めて、だったので。舐められてイッたのは」
彼は私の頭を撫でる。ふと気になり、私は彼の股間に手を伸ばす。ピンと張ったペニスがあった。
「まだ、こっちは大きいままです」
「バレた?」
「良ければ私が……」
お返しに口で、と思い机を降りようとする私を彼は押し留める。
「いいよ。如月さんはちょっと休んでて」
「いえ、でも」
彼は耳元で、いっそう声を潜めて、
「おもちゃにされて疲れたでしょ?」
おもちゃ。
その言葉に自分でも驚くほどに痺れてしまう。快楽とも喜びとも違うこの感情を何ていうのか、私には分からない。ただ彼がその言葉を発した途端に心の奥底から溢れた虐げられたいという気持ちは、紛れもなく自分自身の奥底に眠る願望だった。
「だから、よいしょっと」
「きゃっ、」
彼は私の体を横に向きに抱きかかえ、そのまま器用にドアノブも開けて部屋を出る。「歩けます、歩けますから」という私に、
「夢だったんだ、きれいな女の人をお姫様抱っこするの。だから、ね?」
私は顔を伏せ、「もう」と言ったまま彼に体重を預けた。
:::
深夜零時。
明るさを最小にしたスマホの中で日付が変わった。
私は隣で眠る彼を改めてじっと見つめる。寝息が規則的に続いている事、喉がツバを飲み込む動きをしない事を確認する。よし、寝ている。
彼に背を向け、画面の明かりがもれないよう体で隠しながらラインを開く。
伊崎さんには昼、ちょうど彼と離れて休憩していた時に連絡は取っていた。少し相談したい事があるので夜良いですか? 伊崎さんは、ちょっと周りうるさいかもだけどいいよ、と返してくれた。彼の言葉に甘えて昼に仮眠を取ったため、いつもは寝ているこの時間にも眠気は遠かった。
『おまたせしました。起きていますか』
私はじっと画面を見つめる。なんと私の気持ちを相談しようか、頭の中で文章を組み立てる。彼にめちゃくちゃにされたい、だけど彼は優しいからお願いしても私が望むような事はしないと思う。それを出来るだけオブラートにつつみ、遠わまりに、さり気なく……
スマホが震えた。
画面には着信か拒否かと出ている。
ラインの通知ではない。電話だ。
軽くパニックになる。振動を続けるスマホを握りしめ、私はベッドから飛び降り部屋を出る。扉を背にしゃがみ込み、口元を手で覆いながら、
「も、もしもし?」
「あ、結衣ちゃん? ごめんねごめんね遅くなって。んで、なんだっけ?」
いつもより声が高い。それに後ろが少し騒がしい。まだ仕事をしているのだろうか?
「いえ、遅くなったのは私なので」
「あ、そうだっけ? あはははは。で、どうしたの? あいつに愛想がつきた?」
「そんな事は」
「んじゃエッチが下手くそとか? そういうの遠慮なく言ってね、私がガツンと言ってあげる」
「下手、では無くて、そのとてもやさしくしてもらってるのですが」
「あ、わかった~。優しすぎってやつでしょ、ね?」
思わず黙り込んでしまう。伊崎さんも少しトーンを落とし「あ、マジ?」と呟いた。
「その、あの、もっと激しくというか、め、めちゃくちゃというか……。や、優しい所も勿論好きなのですけど、物足りないとこがあって、それで、どうしたらいいかとご相談を」
ずっと考えていた迂遠な言い回しがことごとく崩れていく。スマホの先で、伊崎さんが「そんなのはさぁ」と一際大きく声を出す。ついでにゲップも吐く。
「結衣ちゃんキレイな顔とエッろい体持ってるんだから、誘えばいいのよ」
「さ、誘う?」
「そうそう、布の少ないさぁ、紐みたいなパンツ履いて、こうくねくねって体揺らして。そうだ! あいつがいつも見てるエロ動画を参考にすればいいじゃない」
「いやでもそれは」
「あ、パソコンのパスワード知ってる? パスワードは、」
そう言って伊崎さんはすらすらアルファベットと数字を言い連ねる。いけない事だとは思いつつ、その英数字を全力で脳に刻みつけてしまう。言い終えた直後、遠くから「美里ー」と伊崎さんを呼ぶ声が聞こえた。
「あ、すみません、まだお仕事中でしたか?」
「仕事? あぁ仕事! もちろんもちろん、お勤め中ですよ。んで、どう? なんとかなりそう?」
「え、あ、はい。ちょっと、まぁ」
「んじゃがんばってね! 結果はちゃんと教えて」
ばいばいー、と一際テンション高く言って伊崎さんは電話を切る。私は、はぁ、と長く息を吐き出す。嵐のような会話だった。
誘えばいい。
私にできるだろうか? 思わず自分の胸を掴んで谷間を寄せてみる。人よりは大きい、という自負はあるけれど、考えてみれば彼がこの胸を、というより私の体をどこを魅力的に思っていてくれているのか、よく分からなかった。いつも褒めてくれるし、顔はある程度彼の好みなんだとは思う。だけど体は全体的に綺麗だと言ってくれることはあっても、具体的にどこ、という事は言われたことがない気がする。
考えたら考えるほど不安になってしまう。彼は優しいから、私が傷つかないようにお世辞を言ってくれるだけなのではないか。体を全体的に『キレイ』と言うにとどめているのは、彼にとっての魅力的な部位が乏しい、ということの裏返しなのではないだろうか。
ふと、つい今しがた刻みつけた彼のパソコンのパスワードを反復してしまう。以前、私が間違えてアダルト動画を流してからというもの、設定を変えてしまったのか、テレビではそれを見られなくなってしまった。それを真似できるかは別として、彼がどんな物に性的興奮を持って、お金を出しているのか、とても気になった。
「ーーよし」
私は一人頷き、彼のパソコンがある仕事部屋へと向かう。
:::
「美里、今あんたって仕事してるのー?」
「仕事中よ仕事中! なんだっけ、あれ、……えーっと。そうそう! 飲みニケーション!」
「おっさんじゃん!」
「あはははははは」
「お待たせしました~、えいひれと鳥の軟骨になります」
「あ、おにいさーん、黒霧のボトル一本追加で! あと彼女いる?」
:::
深夜の仕事部屋に入るのは考えてみれば初めてで、誰もいないと分かっているのについ息を潜めてしまう。彼の椅子に座り、パソコンを起動させる。暗闇に慣れていた目にディスプレイの明かりは眩しく、瞼を細めながら、伊崎さんから聞いたパスワードを一つ一つ入力していく。
エンターキーを押す。
画面に「ようこそ」と表示される。
いつものデスクトップ画面が現れた。
背徳感と好奇心で心臓がバクバク唸っている。私はChromeを開き、ブックマークを確認する。だけどそこに並ぶのは仕事関係のサイトばかりだった。登録していないのだろうか? いやでもテレビであれが映ったからには、必ずどこかにあるはず。履歴を探ったりローカルのフォルダを探ったりしながら十分ほど格闘した末、もしかしたらアカウントが違うのでは、と思いつく。ためしにChrome右上のアカウントアイコンを開くと、もう一つ、写真も設定されていないアカウントが現れた。切り替えて、もう一度ブックマークを開いてみる。
あった。
「R18」と名付けられたフォルダにいくつかのサイトが登録されている。試しに一番上のサイトをクリックしてみると、途端に画面が華やかな、というか、艷やかな色味に包まれる。
アダルト動画のホームページだった。
ページの上でバーナーが今日のセールを紹介している。ランキング上で微笑む裸の女性に目を奪われ、鼓動を早めた心臓を深呼吸で押さえつけながらマイページをクリック。「購入履歴」と書かれたページを表示する。
彼が買った動画の一覧が現れる。
私は唾液を飲み込み、ゆっくりスクロールしながらそれらを確認していく。意外、と言うべきか、なんと言うか、前半はメイド物やコスプレ物が多く、どれも一様に胸が大きく、黒い長髪のものばかりだった。後ろに行くにしたがってその統一感はばらけ、ぱっと見だけではどういう内容なのか分からなくなっていく。
最後まで見たところで、今度は一番下から購入日を見ていく。サイト自体はもう六年前から使っているみたいだけど、半分以上はこの数カ月で買ったものらしい。最近……つまり今年の中で一番古い日付は私がここに来て一月ほど経った頃で、その購入日辺りに何があったかは私自身よく覚えている。
私が酔っ払って彼にご奉仕をした日だ。
彼がメイド物の動画ばかり買いだしているのもそれからだ。
生唾を飲み込む。
女性の見た目がどことなく私に似ているのは考え過ぎだろうか?
私は再び一番上までページを戻す。そして一番最近買った動画の情報ページを開く。小さく表示されていたパッケージが大きく映る。
女性は上下に分かれたメイド服を着ていて、下はお尻が見えるほどのミニスカート、上は肩と首周りだけを覆っているだけだ。胸を覆う布地は無く、代わりに胸の大きさの割に面積の少ないビキニを着ている。首と手首には黒革のベルトがつけられ、どちらもチェーンが伸び、こちらに潤んだ瞳を向けている。購入日は今日の午後になっている。私が寝ていた時間だ。きっと彼はこの動画を見て、あのパンパンに張り詰めたペニスから精液を出したのだろう。私は嫉妬に近い感情を抱いてしまう。わざわざお金を出して動画を買わなくても、私を使えばいいのに。
ふと、私は扉の方を見る。耳を澄まし、物音に全神経を集中させる。風の音も聞こえない静かな夜だ。私はパソコンのマスターボリュームをゼロにし、そこからマウスホイール二つ分だけ音量を上げる。
再生ボタンを押す。
画面上にプレイヤーが現れる。黒い再生画面の上に『途中から再生しますか?』という質問。私は少し悩み、再生時間を見つめながら『はい』と答えた。
画面にパッケージのメイド服を着た女性が映し出される。女性は膝立ちになり、谷間に男性のペニスを挟んで胸を上下させている。ローションを垂らしているのか卑猥な水音が響き、時折画面の方ーーご主人様を乞うように見つめている。首には犬につけるようなシルバーのチェーンが伸び、それは床に垂れ落ちた後、ご主人様の手に握られている。
行為も佳境なのか、女性の動きはかなり激しくなっている。胸だけと言うより、体全体を上下に揺らして、ひたすらご主人様に向かって従順な言葉を呟いている。気持ちいいですか? おちんちん、固くなっています。いつでも私のお胸に出してください。ご主人様のお精子でたくさん汚してください。
知らず知らず背筋が伸びる。私はこの椅子に座って同じ動画を見る彼の姿を想像する。その時の彼の頭に、ちゃんと私はいただろうか? いたに決まっている、と思う私の気持ちは半ば対抗心から生まれた願望で、目の前の女性が卑猥な言葉を吐き、従順に奉仕をしている姿を見ているとなぜだか泣き出したくなった。同時に秘部までも濡れてくるのが分かって、私の感情も欲望も何もかもがまとめて吹き出している。
無性に彼の香りがかぎたくなった。
周囲を見渡し、テーブルの隅にいつ何を拭いたかも分からないハンドタオルが無造作に置かれていた。私はそれを手に取り、鼻いっぱいに吸い込む。微かに残った彼の匂いが肺いっぱいに広がって、少しだけ心が落ち着く。画面を見ると、ご主人様が鎖を引っ張って「もっと」と命じていた。女性は熱い吐息を吐き出しながら「かしこまりました……」と言い、更に激しく胸を上下に動かしている。
私は背もたれに体を深く預ける。脚をだらしなく広げ、彼の指を思い出しながら割れ目に沈み込ませる。人差し指と中指を深く根本まで差し込み、愛液の中を泳ぐようにばたつかさせる。私の指では奥まで届かず、それがもどかしい。
どこに出してほしい?
動画のご主人様が問いかける。私がその言葉を彼の言葉に置き換えているように、彼もまた、動画の女性を私に重ねながら見ていてほしい。私に首輪と卑猥な言葉、それに従順さを試すための奉仕の機会を与えてほしい。ご主人様の問いかけに、メイドは答える。
お好きなところにかけてください。
動きが激しくなる。胸の両側から手を力強く押し付け、ご主人様のペニスをより激しくしごきあげる。大きな胸にペニスの殆どは埋まり、上下するたびにその先端が胸から飛び出ている。私は空いている手でクリトリスをいじる。皮を剥き、指でこねくり回す。腰が震え、口が寂しくパジャマの袖を噛んだ。
いく。
とご主人様が言う。女性の頭を押さえつけ、その顔に向けて真っ白い精子を何度も何度も放出する。私はそれを見ながら指先の動きを強めた。絶頂は思いの外にすぐに来て、だけどそれは微かな丘を登ってすぐに去っていった。体がぴくんと震え、背筋を痺れが走り、ただそれだけ。指を引き抜くと愛液でべっとりと濡れていた。
体を起こし、動画を見る。すでに画面は移り変わり、ベッドの上で、先程とは違うメイド服を着た女性がマッサージをしていた。私は動画のスクロールバーを再生し始めた時の時間に戻し、プレイヤーを閉じる。履歴を消して、クロームのアカウントも元に戻し、パソコンも落とす。スマホを見るとすでに一時を回っていた。
流石に寝ないと。
そう思ってはいるけれど、頭の中にはちょっとした彼への不満が未だに渦巻いている。どうしてこの動画のようなことをしてくれないのだろう。私がいるのにこんなのを買わなくたって。
誘えばいいのよ。
ーー
私はスマホでブラウザを開き、検索ワードを打ち込んだ。
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