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16.彼の悩みについて(Hパート)
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昨日の事が頭にこびりついて離れない。
あれだけ出したというのに夢精をした。朝食を用意する如月さんに我慢出来ずダイニングテーブルでセックスをした。出る時間を三十分ずらしてフェラで抜いてもらった。新幹線に乗って窓をぼんやり眺めているだけでも如月さんの痴態が浮かんできて、また勃起してしまう。
溜まったときはお好きにお使いください。
昨日の自分は少しどうかしていた。
だけど如月さんをいじめたい、という欲望が偽物だなんて言い張るつもりはなかった。
確かに、如月さんに気を使っていたところはある。もっと激しくしたい、もっと淫らな事をしたい、という妄想を抱えながら、それを実際にお願いできずにいた。一番に如月さんに嫌われたくないから、二番目に自分自身のプライドのために。
如月さんは、理想的な女性だと思う。
誰の目から見ても。
だからこそ、自分もそれに見合う男性になりたい。
『見合う男性』とやらが具体的には何かが分からない。だけどそれは、朝から襲ったり、ふとした何もない時間に彼女を犯す妄想をする人間ではないはずだ。
だけど如月さん自身がそれを望んでいるのなら。色々と話は変わってくる。
「はぁ」
と僕は頭を抱え込む。
贅沢な悩みだと思う。それでも悩みには違いない。本当にこれで良いのだろうか。如月さんを世間一般でイメージするところの『幸せな女性』にしたいという気持ちとともに、ただただひたすら性欲のままに犯し尽くしたい、彼女が言っていたところの『道具』のように扱いたいという欲望もある。
考えれば、如月さんと付き合う前ーー如月さんが酔っ払ったあの日から、たまにそういう感情を抱いていた。だけどその度に理性で……たまにそういう動画を買って、なんとか上司と部下という関係を保ってきた、つもりだ。それが恋人になり、婚約者になり、男女の線を超えてからその欲望が少しずつむき出しになっていった。夜も徐々に激しくなり、ついこの間は仕事中にも関わらず如月さんにいたずらをした。
如月さんは優しく、それに賢い人だから、僕のそんな気持ちを汲み取ってああ言ってくれたのでは。
そんな事も考えてしまう。
だけどその度に昨日の如月さんの顔や、服従の言葉が頭によぎる。あれが演技や、僕に気遣ったものだとは到底思えなかった。泣き出しそうな程に歪ませた快楽の顔や、震える声でたどたどしくつないだあの言葉は、如月さんの『女』としての奥底から溢れた本心、そうとしか考えられなかった。
気を紛らわせるためにスマホを開く。適当にインストールしたパズルゲームをするが、結局如月さんの痴態が頭に浮かび、集中できなかった。代わりに開いたアマゾンのアプリから購入履歴を開く。
正直に言うと、僕も彼女に着て欲しい服があった。
だけどそれはもう少し先、お互いについて十分に分かり合ってからだと思っていた。だけど昨日のあれで、いわばお互いの性癖をさらけ出し、これを我慢する理由もなくなってしまった。新幹線で持て余した時間に開いたこのアプリで、僕はほぼ無意識に、欲しい物リストからそれをポチった。
だから、明日にはそれが届く。
「はぁ」
と僕はまたため息をつく。彼女とどう夫婦として付き合うか、まだ答えは出ない。
:::
会場の見学、と言っても自主的なものだから一人で回るだけだ。イベントが予定されている県営のイベントホールはそれなりの規模で、だけど実際そのホールの一室である会場は思っていたよりずっと小規模なものだった。ホールの中にいくつもあるフロアの中でも、比較的小さい所で行うらしい。おそらく予算の関係だろう。
搬入口や駐車場なども見て回ったが特に何かが問題となるような箇所はなかった。会場の規模がそれならトラックだって小さいもので済む。あとは明日、担当者と挨拶してプレゼンして予定通りに終わり。
如月さんは今頃何をしているだろう。
駅の中にあるラーメン屋で塩スープをすすりながらふと思うお昼はもう食べただろうか? テレビを見ているか、本でも読んでいるか。
お腹いっぱいになったおかげか性欲はすこし遠のいている。だからただ純粋に、如月さんに会いたくなった。
スマホが震える。
誰だろう、と取り出すと如月さんの名前が表示されていた。タイミングの良さに驚いて、次にこの時間にかけてくるという事は何かが起きたのだろうかという心配が浮かぶ。僕は着信にスライドさせ、
「もしもし?」
「あ、もしもし、私です」
「うん、どうした? なにかあった?」
「いえ、すみません。その、特に何があったというわけではないのですが」
如月さんは言い淀む。電波越しに、息を飲むのが分かった。
「すみません、仕事中だとは分かっていたのですが、その、やっぱり少し寂しくて」
ぽかんとした間の後、僕は思わず吹き出す。
「そんな笑わなくとも」
「いや、ごめんごめん。でもまだ離れて六時間ぐらいしかたってないよ?」
「それでも、今夜は一人だと思うと、無性に……」
如月さんは少しトーンを落とし、また「すみません」とつぶやいた。
「これまでずっと恋人なんていなかったので、自分は一人でも大丈夫だと思っていました。だけど、あなたとお付き合いしてからは、ダメみたいです。今日も、ずっとあなたのことを考えていました」
「ーー僕もずっとそんな感じ。時間が空いたら、つい如月さんの事を考えてしまう。特に、昨日の姿が頭にこびりついて、どうも離れそうにない」
「離れそうにない、と言いますと……」
「もちろん、魅力的な女性として」
如月さんは吐息とともに「そう、ですか」と言った。安堵の声だった。
「如月さん」
「はい?」
「昨日、言ってくれたことはそのまま受け取って良いのかな?」
「……はい。一時の興奮ではなく、私の本心として、受け取っていただければ」
「一人の女性の、欲望として?」
「もう、何度も言わせないでください」
と怒る如月さんもまた愛おしく、僕はまた笑った。
「ねぇ、やっぱり明日は、遅くなってもそっちに戻ろうと思う」
「本当ですか?」
ぱぁ、っと華やいだ声が耳元にあふれた。僕の何気ない言葉にこれほど感情の色を変えてくれる人が、すぐ隣にいるなんて。こういうのを幸せと呼ぶのではと、僕は心底そう思う。
「それで、一つだけお願いがあるんだけど」
「はい」
僕は声を潜めて、
「明日、荷物が届くんだ」
「荷物?」
「それを着て、出迎えて欲しい」
一瞬、如月さんは黙り込む。僕はスマホを強く押し付け、その息遣いも漏らすまいと耳を凝らす。
「着て、お出迎えするだけでよろしいのでしょうか?」
「あぁ、それだけで」
「もし嫌ではなければ、また色々とさせていただければと思うのですが」
その魅力的な提案に、僕は「いや」と首を横に振る。
「次は、俺の番だから」
「番なんて、そんな」
「如月さんは嫌?」
如月さんは即座に「いいえそんな」と口にする。
「それが愛情であれ欲望であれ、あなたに可愛がっていただけるのであれば、それは幸せです」
「なら、ね?」
「わかりました」
如月さんは、少し照れくさそうに笑って、
「お命じのままに、お待ちしております」
と言った。
:::
ラーメン屋を出て、少し早いけど宿泊先のホテルに向かう。グーグルマップに記された最短ルートは、駅の裏手の飲み屋が連なる『夜の街』で、まだ夕方だというのにちらほらと飲み交わす人や、キャッチ、既に酔っぱらって道端をふらふら歩く人が行きかっていた。僕は横を向いて一軒一軒に目を凝らしながら歩き、ふと、その中でも一際高いビルの前で立ち止まる。
全国の大概の都市にある、アダルト系のグッズが売られているお店だった。一応、一階は普通の本屋だが、二階以上に映像メディアや、そういうおもちゃがたくさんある。何度も冷やかしに入ったことはあるけれど、実際に物を買ったことはない。
「……」
僕は先程の会話を思い出しながら、中へ脚を踏み入れた。
:::
次の日。
プレゼンは予想以上にスムーズに進んだ。事前にやり取りを進めていたというのもあるけれど、それ以上に役所の担当者がやり手で、各所との調整をあらかた終わらせてくれていたおかげだ。質問や疑問も少なく、午後の打ち合わせも大した問題点も上がらず、とりあえずこちらからより詳しい資料を送ることで終わりとなった。
僕はホテルに預けていた荷物を受け取り、そのまま一番早い新幹線に乗り込んだ。席につき、一段落してからスマホを見ると如月さんからラインがきていた。
『荷物、届きました。帰りをお待ちしています』
その文章だけで落ち着いていた性欲が湧き上がってくる。僕は概ねの帰る時間だけを知らせて、あとはゆっくり眠ることにした。移動時間がもどかしい。今すぐにでも家に帰りたかった。
:::
早く終わったとはいえ、家にたどり着く頃にはすでに辺りは薄暗くなっていた。明かりは一階の、商品が置いてあるショールームだけが灯っており、僕が車から降りる頃には次いで玄関前の廊下が明るくなった。
生唾を飲み込む。
ドアを開ける。
「あ」
扉に手をかけたまま、如月さんが固まる。
僕が扉を開けたのと同じタイミングで如月さんもドアを開けようとしていたらしく、ノブに手を伸ばした姿勢で固まっていた。
「お、おかえりなさい」
僕はその姿に目を奪われる。
如月さんが着ているのは全身シースルーのメイド服だった。ワンピースも、その上のエプロンドレスもどちらも透けて如月さんの肌が見える。下着は白猫をモチーフとしたデザインで、トップもショーツもタイツにも、猫の耳があしらわれている。腰に巻かれたガーターベルトはフリルに溢れていて、可愛らしくもセクシーで、いやらしい。
如月さんは僕の視線に気づき、恥ずかしそうに胸元を隠した。
「あの、ドアを閉めていただければ」
「あ、あぁ」
僕はふっと我に返り、ドアを閉める。
「ごめん、見惚れてた」
「似合ってる、でしょうか?」
「とても。すごく、可愛くて、ヤらしい。なのに品がある」
如月さんは笑いながら「もう」と言った。そして胸を隠す手を外し、ロングスカートの裾をつまんで、頭を深々と下げる。
「おかえりなさいませ、ご主人様。ご帰宅を心よりお待ちしていました。また、このような衣装を頂き、誠に感謝しております」
そして頭を少し上げ、上目づかいでをこちらを見ながら、
「こんな感じ、でしょうか?」
頬を真っ赤にしてそう言った。僕はカバンを床に置き、そんな如月さんを力強く抱き寄せた。意外に肌触りのいいメイド服越しに、如月さんの細い腰に手を回す。
「あ、ちょ」
唇を重ねる。驚きで体を縮こませていた如月さんもすぐに慣れたようで、腕を僕に巻きつけて、むしろ積極的に僕を求めてくる。先に舌を入れてきたのは如月さんで、僕も直ぐに入れ返し、如月さんの口の中に舌を這わせる。
体を密着させているから反り立つペニスが如月さんの股に当たる。位置を調整して秘部に押し付けると、その瞬間に如月さんの体がビクンと震えた。
僕は唇を離して、如月さんを見つめる。潤んだ瞳は、一心に僕を見つめている。
「結衣」
僕はその名を呼ぶと、如月さん……いや、結衣の顔に官能的な色が灯る。吐息も目も顔色も、全てが突然しおらしくなり僕の言葉に耳を傾けている。
「この間は、僕をさんざん弄んだよね」
「そんなつもりは」
僕は結衣のお尻を摘み上げる。手のひら全体で肉を掴み、強く引っ張った。痛みはほとんどないはずだけど、結衣は「あっ……!」と言って体を震わせた。
「弄んだよね?」
同じ質問を繰り返す。結衣は僕の胸に息を吐き出しながら、
「はい……」
「しかも、今それを隠そうとした」
「申し訳ございません」
「お仕置きが必要だよね」
「お仕置き、ですか?」
「そう」
僕は耳元でささやく。
「選ばせてあげる。優しいお仕置きか、キツイお仕置きか。もちろん僕はどちらでもいい。結衣がどちらを選んでもそれを責めないし、もちろん嫌いになったりもしない。で、どっちがいい?」
結衣はより一層体を密着させ、ズボンを押し上げるペニスを撫でた。愛撫と呼ぶには弱々しいその仕草は、欲しいお菓子を持って親の袖を引っ張る子供のようにも思えた。結衣は額を僕の胸に押し付けたまま、
「私は今、嘘もついてしまいましたので、その分も合わせて、とびっきりのキツイお仕置きを受けるべきだと思います」
僕は赤い結衣の耳を撫で、そのまま顎に指を滑らせ無理やり顔を上げさせた。潤んだ瞳を見た途端に昨日の悩みが吹き飛んでしまう。愛している、大事にしたい、という気持ちと同じくらい、いじめたい、メチャクチャにしたい、という想いが大きくなる。その欲望は理性そのものに浸透し、今、目の前にいる可愛くて従順な女性の、哀れで卑猥な数分先の未来ばかり考えている。
「ベッドに」
僕はそう言って、結衣の腰に手を回したまま二階の寝室に向かった。
:::
部屋に入ってすぐ、ドアの前で結衣を床に座らせた。
行儀よく正座で座る結衣に「脚を崩して、お尻と両手を床についた座り方で」と命じる。結衣は少し迷った後、脚をハの字に広げたいわゆる『女の子座り』をし、少し体を前に屈めて両手を床についた。
「こう、でしょうか?」
僕は結衣の前に屈み、バッグから首輪を取り出す。黒い合成樹脂のベルト。等間隔に空いた穴に銀色のフックをとめるタイプで、見た目の嗜虐感を高めるためか、その幅は犬用のそれより広めに作られている。結衣はその首輪を何も言わず、ただじっと見つめていた。
「顔を上げて」
結衣の首に僕はその首輪を巻く。首輪には赤いリードがついていて、持ち手は輪っかになっている。僕はそれに手を入れて立ち上がる。
「ベッドまで」
「はい……」
直後、僕は紐を一瞬だけ強く引っ張る。咽頭部への刺激は苦痛であるはずなのに、口から漏れた「あ」という吐息は、すでに生暖かい熱がこもっていた。
「しっかりとした言葉で。それに、返事にはご主人様を」
「申し訳ありません……。かしこまりました、ご主人様」
「良い子」
僕は結衣の頭を撫で、ベッドまでの数メートルを歩く。一歩遅れて歩くその姿はたどたどしく、スカートを踏まないようにしているせいか脚の動きは特にぎこちない。そんな彼女を見下ろす事自体が背徳的で、誰かを支配することの快感に背中がぞくぞくと震える。
外はすでに薄暗いけれど部屋の明かりは消えたままで、窓から差し込むオレンジ色の夕焼けだけが唯一の光源だ。ベッドに腰掛け、夕日に照らされながら四つん這いで進む結衣を見ていると、まるで世界がここだけで完結しているような錯覚を覚える。
僕の足元にたどり着いた結衣の顎を撫でる。結衣は猫のように、目を細めて僕の手のひらに顔を委ねた。
「膝立ちになって、スカートをめくって」
「分かりました、ご主人様」
言われたとおりに膝立ちになり透けたスカートを両手で持ち上げる。僕はガーターベルトが巻かれた腰と、薄い白のタイツに包まれた太ももを撫でる。
「僕がいない間にオナニーは?」
僕は片手をカバンに入れて中を探る。目をまっすぐに見据えたまま問いかけると、結衣は瞼を伏せ視線を落とす。僕が再び紐を引っ張ると、はっとした表情を見せて、
「いえ、そのような事はしておりません」
「本当に?」
「ご主人様にしていただけると思って、我慢しておりました」
カバンに入れていた手が目当てのものを探り当てる。僕は結衣の目を見ながらそれを取り出し、「していただけるって、こういう事?」と訊ねながらショーツに手を入れ、既に濡れていた割れ目に無線式のバイブを挿入した。
「あ、ん、うぅぅぅ…………!」
柔らかいシリコン製でペニスを模した細長い形。根本は二股に別れていて、短い突起はクリトリスに振動が伝わるようになっている。ずらしたショーツを元通りにすると、充電池やリモコンの受信部が入った突起部が丸く膨れあがった。
「ご、ご主人様、これは?」
僕は結衣の質問には応えず、手元のリモコンでスイッチを入れ、丸いレバーを右一杯にひねる。結衣の股間から振動音が漏れ、それを覆うように喘ぎ声が部屋に響く。
「え、ちょ、あ、あ、だめ、あ、いやぁぁぁぁぁ……!」
「いいよ、スカート下ろしても」
結衣はスカートの裾から手を放し、そのまま四つん這いになる。やがて手をまっすぐ伸ばすこともつらくなってきたのか肘を突き、お尻を持ち上げ、何度も大きく腰を震わしながら悲鳴にも近い喘ぎ声を発し続ける。
「いくときはちゃんと『いく』って言えるよね?」
「あ、い、言えます、あぅぅぅぅ、け、ど……」
「けど?」
「し、しげきが、強すぎて……あ、う……すぐ、もう、だめ、あ、あ、いく、いっちゃいます……」
結衣は頬をぺたりと床につけ、高く上げたお尻を小刻みに揺らしている。
「もう?」
「……き、きのうから、妄想ばかり、だった、の、で、」
「どんな妄想?」
「ご、ご主人、さまに、おちんちんを、入れていただく、妄想です……!」
「偽物だけど、いってもいいの?」
「だ、だめ、です。……あ、あ、でも、いや、いく、いく……!」
僕はバイブのスイッチをオフにした。唐突に振動が止まり、結衣の腰の震えもビクつきながらゆっくり落ち着いていく。荒い吐息が徐々に浅いものに移り変わっていくのを見つめながら、僕は再びスイッチを入れた。
「あ、や……ん、うぅぅぅう……」
今度は震度を最弱で設定する。腰の動きに先程のような激しさや鋭さはない。トイレを我慢しているように太ももを締めてもぞもぞと動くその仕草は快感をこらえるものではなく、むしろ気持ちよさを欲している動きだ。
「偽物ではいきたくないんだよね?」
「は、い……でも、ん、あ……そろそろ、ご主人様も、私で気持ちよく、なられたいかと」
僕はゆっくりと振動を強くする。十段階ある強弱の五を超えた辺りから結衣の体は電気が走ったかのように震えだし、七で止めると物欲しそうな目で僕を見上げた。
「ねぇ、今、結衣は何をしているんだっけ?」
「わ、私は、今、ご主人様に、お仕置きをうけています」
「僕に意見を言える立場かな?」
「あ、そ、そういう訳では、」
バイブを十にする。「あ、うぅぅぅぅ」と喘ぐ結衣の首輪を引っ張って体を引き上げる。ベッドに座る僕の太ももに上半身を預けた結衣は、頬を膝に押し付け、指先でぐるぐる強弱を変える僕の手を見つめていた。
「結衣は良い子だから、ちゃんとごめんなさい、できるよね」
「は、い……あ、や、ご、ご主人様の、お仕置き、に……! あ、うぅ、意見、して、申し訳、ありません……」
僕はスイッチをベッドの上に投げ出し、両手で結衣の胸を鷲掴みにする。メイド服の上から手のひら全体を使って回すように揉み、指先で乳首を押し込む。結衣は「あ、う、あぁぁぁ」と腰をびくつかせて、僕の腰にまで体を寄せる。
ふと、結衣の顔が徐々に僕の股間に近づいているのに気がついた。半端にあいた口の端からは涎が垂れ、僕のスラックスにシミを作りながら、鼻先をズボンを盛り上げるペニスにこすり付けている。喘ぐ合間の細く長い鼻からの呼吸が、耳にひどくざらついた。
「何してるの?」
「え、あ、その……」
僕は乳首を強くつまみあげる。「あぅぅぅぅ」と声を上げた結衣は、
「ご主人様の、おちんちんの香りを、嗅でいました」
「どうして?」
「嗅いでいると、頭がくらくらとして、とても、幸せな気持ちに、なります。お、おまんこに、今、お仕置きいただいているバイブが、ご主人様のおちんちんであればと、妄想しているところです」
先程のお叱りを守ってか、結衣から直接的に何かを懇願してくることはない。離している間も呼吸を深く吸って布越しのペニスを嗅ぐことに余念がなかった。普段美しく、凛とした立ち居振る舞いの結衣が、ただペニスだけを求めて言葉や行動を選んでいる。ぞわっと鳥肌が立つ。哀れさすら感じる性欲への隷属が、精神的な絶頂とも言える快感に変わっていくのを体中で感じる。
「そんなにほしいのなら入れてあげようか?」
「い、いいのですか?」
「ベッドに腕をのせて、腰を突き出して」
僕は『ここにおいで』とベッドを叩く。そこに結衣は上半身を預けて、お尻を高く突き上げる。スカートをめくり、ショーツを脱がせて右の太ももに引っ掛ける。振動するバイブの根本を掴んで、ゆっくりと引き出し、後少しで完全に抜けるという所で再び奥まで押し込んだ。
「あぅぅぅ、ご主人様、それは、ちがいます……!」
「入れてあげるよ。でもその前に、これでいかなかったらね」
「そんな、あ、うぅぅぅ」
バイブそのものが振動しているから激しく動かさなくても様々な角度に当たるのだろう。単調なピストン運動に結衣は腰をくねらせ、快感に耐えている。
「ご主人様、おちんちんを……」
「耐えなさい。命令」
「で、も、もう、いきそうで」
僕はその言葉の後、三回ゆっくり出し入れし、四回目で引き抜く。振動を止め、バイブからタレ落ちる愛液を結衣のお尻で拭い、その先端をお尻からクリトリスまで何往復も這わせる。偽物だと分かっているはずなのに、割れ目の、膣への入り口に差し掛かると決まって大きく震え、おねだりのつもりか生理反応か、お尻を騎乗位のように小さく前後に振る。それを数分間、絶頂が遠ざかったと思える間繰り返して、再びスイッチをオンにし、割れ目に差し込む。
それを何度も何度も繰返す。
夕焼けは夜に変わり、部屋の明かりは月明かりのみとなった。初めのうちは聞こえていた懇願もやがてなくなり、何時まで経っても終わらない寸止めに荒い息を繰返すだけになった。太ももの筋肉は痙攣していて、きっと結衣一人では立つこともできないだろう。何度目かもわからないバイブの引き抜きを終えた後、スイッチを切ってベッドの枕元に放り投げた。そして後背位の体勢で体中震えている結衣を、その太ももに手をかけて持ち上げる。
「あ、うぅ……」
普段なら抵抗するはずの卑猥な格好に、結衣はただ呆然と言葉を漏らして、体重を僕に預ける。その格好のままベッドの上に座る。膝を立てた僕の脚に、結衣の広げた脚を引っ掛けるように下ろす。結衣の背中が僕に預けられ、秘部は夜闇の中で顕になっている。
カバンから手枷とアイマスクを取り出す。右手首、左手首の順番に黒革の手枷を取り付け、それぞれについているチェーンのフックを互いに取り付ける。手が拘束された結衣の目に、アイマスクをかぶせる。
僕は結衣の体を擦る。左右同時に、ふくらはぎ、膝の裏、太もも。スカートをまくりあげながらガーターベルトに包まれた腰、お腹、そして胸の周りはその膨らみの裾野にそって手のひら全体で撫で、次に胸を下からゆっくり揉み上げる。ただ触れただけの弱い刺激に、結衣の体はビクビクと跳ね回る。僕の手のひらから電気を感じ取るように、触れた所を中心に体中の筋肉が緊張と弛緩を繰り返している。
耳の複雑な形にそって舌を這わせる。最後に、ふっ、と息を吹き込み、
「よく耐えたね」
静かな夜でなければ隠れてしまいそうな小さく、結衣は「……はい」と呟いた。
「結衣は、誰のもの?」
「ご主人様の、おもちゃ、です」
「結衣が今一番ほしいものは?」
「おちんちん、です。ご主人様の……大きくて、硬い」
「今からそれをあげる。だけど今から言う言いつけを、しっかりとききなさい」
結衣の喉が大きく上下した。
部屋に音はなく、ただ窓の外の風の音が遠く聞こえてくるだけだ。これまでの刺激を加えられながら、まだ一度もイっていないという体験は、結衣にとって初めてのはずだ。一昨日、僕が受けた一時間の寸止め。あれだけでもかなり意識が朦朧として、愛おしいはずの結衣をただ性欲のはけ口としてしか見ることができなかった。今、それ以上のお預けをくらい続けた結衣の頭には、きっと僕の言葉が何の抵抗もなく入っていくはずだ。それは欲望の奥底にまで入り込み、深いレベルで意識への命令となる。暗闇の中、僕はいわば結衣の精神そのものと対峙している。
「今から結衣の中に入ってくるおちんちんは、結衣にとって一生忘れない物になる。奥まで突かれる度に結衣は絶頂を迎える。一度の快感は普段の何倍にもなる。今以上におちんちんの事以外考えられなくなる」
結衣の顎先が小さく縦に動く。
「もう一度聞くよ。今、結衣が一番欲しいものは?」
「結衣は、ご主人様のおちんちんが、ほしいです」
小さくか細い声に甘さがまとわりつく。この一瞬で十年も年が若返ったように思えた。
僕は結衣の耳元で、
「良い子」
と囁き、ベッドの上に横たえる。手枷で拘束された結衣の手は、胸元で祈るようで指を絡ませていた。僕は服を脱ぎ捨て、結衣の上に覆い被さり、脚を広げ、亀頭を割れ目に押し付けた。
「あああぁぁぁぁっぁぁぁっっぁぁぁぁぁ」
体の芯から響く結衣の叫びが部屋に充満した。入れた途端に膣の収縮が始まり、奥を突いた時にはもうその絶頂はピークを超え治まりかけていた。だけどそれはまだ一度目だ。深く腰を押し付け、結衣の膣に僕のペニスの形を覚えさせた後、僕はゆっくりとピストンを始める。
「かっ……あ、…………はっ……………………っ!」
声はすでに形となっていなかった。それでも口の形は叫びのそれで、僕の耳には聞こえない喘ぎ声をそこから漏らしているように思えた。膣の締付けは一向に緩まず、これ以上の早さで腰を動かしたらきっと一瞬で射精をしてしまうだろ。
僕は肘をベッドに突き、結衣の顔にかかっていた前髪を横に払った。ぎゅっ、前髪を払った手に結衣の両手がすがる。その手の平は火傷しそうなほどに熱く、そして華奢な腕からは想像もできないほど力強い。僕はペニスを奥に押し付けたまま結衣を抱き寄せる。肩を抱いて体を胸に押し付ける。
「ご主人様」
ん? と喉を鳴らす。
「こんなに、気持ちいいのは、初めて、です」
「僕もだよ。すぐにでも出してしまいそう」
「だして、ください。たくさん、注いで、あふれるほどに。赤ちゃんを、ご主人様の子供が、ほしいです。ご主人様がくださる愛を形にしたいのです」
子供を孕ませる。セックスの役割を今更ながらに思い出し、これまでとは違う征服感が込み上がる。今、自分の支配下にいる女性が、自分の子供を欲している。生き物としての欲求は血の流れに乗って体中をめぐり、今、膣の中ではちきれそうなほどに膨らむペニスへと集まってくるようだった。
「もっと、おねだりしてごらん」
「精子を、私の中に。一滴残らず注いでください。ご主人様の赤ちゃんが、欲しくて欲しくて、たまりません。子宮が、おまんこが、そううずいているのです。だからお願いします、私の一番奥まで突いて、赤ちゃんの素を、全て私にください。お願いします、ご主人様」
結衣の脚が僕の腰に絡みつく。手錠をされ、目隠しをされ、着ている服は透けて中のいやらしい下着が丸見えになっているきれいな女性の懇願が僕の本能を刺激する。ゆっくりと動かし始めた腰はあっという間に速度を上げて、あっけないほど簡単に射精が近づいてくる。先日の何度もこみ上げた射精感とは違い、生成された精子すべてを一気に放出するほどの絶頂が、すぐそこまで近づいている。
「結衣、出すぞ、いく、いく……」
「ください、ご主人様、あ、あ、あぁぁぁぁ」
突き出し、結衣の子宮へと押し付けた亀頭から一気に精子が放出される。体中の熱や欲望、それに結衣への愛をまるごと煮詰めたような濃厚さと暑さ、これまでの人生で体験した中で一番長くつづく射精に、途中で気を失ってしまいそうになる。長く続く精子の放出が、気持ちよさなのか痛みなのか、そもそもまだ本当に射精が続いているかどうかすらもわからなくなっていく。
長い時間がほんの一瞬で過ぎた。
僕は長い間射精の余韻にひたっていた。自分の体も支えきれなくなり、僕は結衣とぴったり体を重ねて横たわる。硬さを失ったペニスが膣から滑り落ちる。
「あ……」
と結衣が呟く。
「せいし、でてる」
一瞬なんのことか分からなかった。回らない頭が、子宮に収まりきれなかった精子が溢れていることだと気づく。
「いっぱい、出ましたね」
僕は結衣のアイマスクを額に持ち上げる。切れ長の大きな瞳が僕を見つめ、子供のような素直さで笑った。つられて僕も笑みを浮かべる。
「本当に、とびっきりのお仕置き、ですね」
「僕も、こんなのになるとは」
「でも、とっても幸せな時間でした」
「お預けの間も?」
「あれは、ちょっと意地悪すぎます」
ぷくっと膨らませた頬を突っつく。また二人同時に笑い、
「あの、目を見て、名前を呼んでください」
僕は両肘を結衣の頭の隣に突いて。
「結衣」
「もっと」
「結衣」
「もっと、もっともっと」
「結衣、結衣、結衣、結衣」
抱きつこうとしたのだろうか、広げようとした結衣の腕はチェーンに阻まれる。フックを外してやると、僕の背中に手を回し、ぎゅっと顔を寄せた。
「あぁ、もう。愛しています、本当に」
「僕もだよ、結衣」
「赤ちゃん、名前はどうしましょう?」
「早くない?」
と言って僕は笑う。
「早いにこしたことはありません」
「それにしても、早すぎるよ。ちゃんとできているかもわからないし」
「それなら、これから毎日、注いでください」
「それは、体力、保つかな」
「毎日はともかく、ゴムは禁止です。捨てておきます」
えー、と言う僕も悪い気はしなかった。これから先の、そう遠くない未来を思い浮かべる。子供が生まれる頃にはもしかしたらこの家を離れてもう少し便利の良い場所に越しているかもしれない。ここよりずっと狭く、物に溢れ、子供と結衣が迎えてくれる家。幸せを絵に描いたような光景はまだイメージでしかないけれど、それはきっと、結衣が隣にいてくれさえくれれば叶う未来だ。
「ご主人様」
「ん?」
結衣は首に手を回して、僕の顔を抱き寄せる。長いキスの後、今まで見た中で一番の笑みで、
「愛しています」
「僕も、愛している」
そう返した直後、二人のお腹が、ほとんど同じタイミングで鳴った。少しの沈黙の後、二人は同時に吹き出す。
「ごはん、食べようか」
「そうですね」
と言って僕たちはベッドから起き上がった。
あれだけ出したというのに夢精をした。朝食を用意する如月さんに我慢出来ずダイニングテーブルでセックスをした。出る時間を三十分ずらしてフェラで抜いてもらった。新幹線に乗って窓をぼんやり眺めているだけでも如月さんの痴態が浮かんできて、また勃起してしまう。
溜まったときはお好きにお使いください。
昨日の自分は少しどうかしていた。
だけど如月さんをいじめたい、という欲望が偽物だなんて言い張るつもりはなかった。
確かに、如月さんに気を使っていたところはある。もっと激しくしたい、もっと淫らな事をしたい、という妄想を抱えながら、それを実際にお願いできずにいた。一番に如月さんに嫌われたくないから、二番目に自分自身のプライドのために。
如月さんは、理想的な女性だと思う。
誰の目から見ても。
だからこそ、自分もそれに見合う男性になりたい。
『見合う男性』とやらが具体的には何かが分からない。だけどそれは、朝から襲ったり、ふとした何もない時間に彼女を犯す妄想をする人間ではないはずだ。
だけど如月さん自身がそれを望んでいるのなら。色々と話は変わってくる。
「はぁ」
と僕は頭を抱え込む。
贅沢な悩みだと思う。それでも悩みには違いない。本当にこれで良いのだろうか。如月さんを世間一般でイメージするところの『幸せな女性』にしたいという気持ちとともに、ただただひたすら性欲のままに犯し尽くしたい、彼女が言っていたところの『道具』のように扱いたいという欲望もある。
考えれば、如月さんと付き合う前ーー如月さんが酔っ払ったあの日から、たまにそういう感情を抱いていた。だけどその度に理性で……たまにそういう動画を買って、なんとか上司と部下という関係を保ってきた、つもりだ。それが恋人になり、婚約者になり、男女の線を超えてからその欲望が少しずつむき出しになっていった。夜も徐々に激しくなり、ついこの間は仕事中にも関わらず如月さんにいたずらをした。
如月さんは優しく、それに賢い人だから、僕のそんな気持ちを汲み取ってああ言ってくれたのでは。
そんな事も考えてしまう。
だけどその度に昨日の如月さんの顔や、服従の言葉が頭によぎる。あれが演技や、僕に気遣ったものだとは到底思えなかった。泣き出しそうな程に歪ませた快楽の顔や、震える声でたどたどしくつないだあの言葉は、如月さんの『女』としての奥底から溢れた本心、そうとしか考えられなかった。
気を紛らわせるためにスマホを開く。適当にインストールしたパズルゲームをするが、結局如月さんの痴態が頭に浮かび、集中できなかった。代わりに開いたアマゾンのアプリから購入履歴を開く。
正直に言うと、僕も彼女に着て欲しい服があった。
だけどそれはもう少し先、お互いについて十分に分かり合ってからだと思っていた。だけど昨日のあれで、いわばお互いの性癖をさらけ出し、これを我慢する理由もなくなってしまった。新幹線で持て余した時間に開いたこのアプリで、僕はほぼ無意識に、欲しい物リストからそれをポチった。
だから、明日にはそれが届く。
「はぁ」
と僕はまたため息をつく。彼女とどう夫婦として付き合うか、まだ答えは出ない。
:::
会場の見学、と言っても自主的なものだから一人で回るだけだ。イベントが予定されている県営のイベントホールはそれなりの規模で、だけど実際そのホールの一室である会場は思っていたよりずっと小規模なものだった。ホールの中にいくつもあるフロアの中でも、比較的小さい所で行うらしい。おそらく予算の関係だろう。
搬入口や駐車場なども見て回ったが特に何かが問題となるような箇所はなかった。会場の規模がそれならトラックだって小さいもので済む。あとは明日、担当者と挨拶してプレゼンして予定通りに終わり。
如月さんは今頃何をしているだろう。
駅の中にあるラーメン屋で塩スープをすすりながらふと思うお昼はもう食べただろうか? テレビを見ているか、本でも読んでいるか。
お腹いっぱいになったおかげか性欲はすこし遠のいている。だからただ純粋に、如月さんに会いたくなった。
スマホが震える。
誰だろう、と取り出すと如月さんの名前が表示されていた。タイミングの良さに驚いて、次にこの時間にかけてくるという事は何かが起きたのだろうかという心配が浮かぶ。僕は着信にスライドさせ、
「もしもし?」
「あ、もしもし、私です」
「うん、どうした? なにかあった?」
「いえ、すみません。その、特に何があったというわけではないのですが」
如月さんは言い淀む。電波越しに、息を飲むのが分かった。
「すみません、仕事中だとは分かっていたのですが、その、やっぱり少し寂しくて」
ぽかんとした間の後、僕は思わず吹き出す。
「そんな笑わなくとも」
「いや、ごめんごめん。でもまだ離れて六時間ぐらいしかたってないよ?」
「それでも、今夜は一人だと思うと、無性に……」
如月さんは少しトーンを落とし、また「すみません」とつぶやいた。
「これまでずっと恋人なんていなかったので、自分は一人でも大丈夫だと思っていました。だけど、あなたとお付き合いしてからは、ダメみたいです。今日も、ずっとあなたのことを考えていました」
「ーー僕もずっとそんな感じ。時間が空いたら、つい如月さんの事を考えてしまう。特に、昨日の姿が頭にこびりついて、どうも離れそうにない」
「離れそうにない、と言いますと……」
「もちろん、魅力的な女性として」
如月さんは吐息とともに「そう、ですか」と言った。安堵の声だった。
「如月さん」
「はい?」
「昨日、言ってくれたことはそのまま受け取って良いのかな?」
「……はい。一時の興奮ではなく、私の本心として、受け取っていただければ」
「一人の女性の、欲望として?」
「もう、何度も言わせないでください」
と怒る如月さんもまた愛おしく、僕はまた笑った。
「ねぇ、やっぱり明日は、遅くなってもそっちに戻ろうと思う」
「本当ですか?」
ぱぁ、っと華やいだ声が耳元にあふれた。僕の何気ない言葉にこれほど感情の色を変えてくれる人が、すぐ隣にいるなんて。こういうのを幸せと呼ぶのではと、僕は心底そう思う。
「それで、一つだけお願いがあるんだけど」
「はい」
僕は声を潜めて、
「明日、荷物が届くんだ」
「荷物?」
「それを着て、出迎えて欲しい」
一瞬、如月さんは黙り込む。僕はスマホを強く押し付け、その息遣いも漏らすまいと耳を凝らす。
「着て、お出迎えするだけでよろしいのでしょうか?」
「あぁ、それだけで」
「もし嫌ではなければ、また色々とさせていただければと思うのですが」
その魅力的な提案に、僕は「いや」と首を横に振る。
「次は、俺の番だから」
「番なんて、そんな」
「如月さんは嫌?」
如月さんは即座に「いいえそんな」と口にする。
「それが愛情であれ欲望であれ、あなたに可愛がっていただけるのであれば、それは幸せです」
「なら、ね?」
「わかりました」
如月さんは、少し照れくさそうに笑って、
「お命じのままに、お待ちしております」
と言った。
:::
ラーメン屋を出て、少し早いけど宿泊先のホテルに向かう。グーグルマップに記された最短ルートは、駅の裏手の飲み屋が連なる『夜の街』で、まだ夕方だというのにちらほらと飲み交わす人や、キャッチ、既に酔っぱらって道端をふらふら歩く人が行きかっていた。僕は横を向いて一軒一軒に目を凝らしながら歩き、ふと、その中でも一際高いビルの前で立ち止まる。
全国の大概の都市にある、アダルト系のグッズが売られているお店だった。一応、一階は普通の本屋だが、二階以上に映像メディアや、そういうおもちゃがたくさんある。何度も冷やかしに入ったことはあるけれど、実際に物を買ったことはない。
「……」
僕は先程の会話を思い出しながら、中へ脚を踏み入れた。
:::
次の日。
プレゼンは予想以上にスムーズに進んだ。事前にやり取りを進めていたというのもあるけれど、それ以上に役所の担当者がやり手で、各所との調整をあらかた終わらせてくれていたおかげだ。質問や疑問も少なく、午後の打ち合わせも大した問題点も上がらず、とりあえずこちらからより詳しい資料を送ることで終わりとなった。
僕はホテルに預けていた荷物を受け取り、そのまま一番早い新幹線に乗り込んだ。席につき、一段落してからスマホを見ると如月さんからラインがきていた。
『荷物、届きました。帰りをお待ちしています』
その文章だけで落ち着いていた性欲が湧き上がってくる。僕は概ねの帰る時間だけを知らせて、あとはゆっくり眠ることにした。移動時間がもどかしい。今すぐにでも家に帰りたかった。
:::
早く終わったとはいえ、家にたどり着く頃にはすでに辺りは薄暗くなっていた。明かりは一階の、商品が置いてあるショールームだけが灯っており、僕が車から降りる頃には次いで玄関前の廊下が明るくなった。
生唾を飲み込む。
ドアを開ける。
「あ」
扉に手をかけたまま、如月さんが固まる。
僕が扉を開けたのと同じタイミングで如月さんもドアを開けようとしていたらしく、ノブに手を伸ばした姿勢で固まっていた。
「お、おかえりなさい」
僕はその姿に目を奪われる。
如月さんが着ているのは全身シースルーのメイド服だった。ワンピースも、その上のエプロンドレスもどちらも透けて如月さんの肌が見える。下着は白猫をモチーフとしたデザインで、トップもショーツもタイツにも、猫の耳があしらわれている。腰に巻かれたガーターベルトはフリルに溢れていて、可愛らしくもセクシーで、いやらしい。
如月さんは僕の視線に気づき、恥ずかしそうに胸元を隠した。
「あの、ドアを閉めていただければ」
「あ、あぁ」
僕はふっと我に返り、ドアを閉める。
「ごめん、見惚れてた」
「似合ってる、でしょうか?」
「とても。すごく、可愛くて、ヤらしい。なのに品がある」
如月さんは笑いながら「もう」と言った。そして胸を隠す手を外し、ロングスカートの裾をつまんで、頭を深々と下げる。
「おかえりなさいませ、ご主人様。ご帰宅を心よりお待ちしていました。また、このような衣装を頂き、誠に感謝しております」
そして頭を少し上げ、上目づかいでをこちらを見ながら、
「こんな感じ、でしょうか?」
頬を真っ赤にしてそう言った。僕はカバンを床に置き、そんな如月さんを力強く抱き寄せた。意外に肌触りのいいメイド服越しに、如月さんの細い腰に手を回す。
「あ、ちょ」
唇を重ねる。驚きで体を縮こませていた如月さんもすぐに慣れたようで、腕を僕に巻きつけて、むしろ積極的に僕を求めてくる。先に舌を入れてきたのは如月さんで、僕も直ぐに入れ返し、如月さんの口の中に舌を這わせる。
体を密着させているから反り立つペニスが如月さんの股に当たる。位置を調整して秘部に押し付けると、その瞬間に如月さんの体がビクンと震えた。
僕は唇を離して、如月さんを見つめる。潤んだ瞳は、一心に僕を見つめている。
「結衣」
僕はその名を呼ぶと、如月さん……いや、結衣の顔に官能的な色が灯る。吐息も目も顔色も、全てが突然しおらしくなり僕の言葉に耳を傾けている。
「この間は、僕をさんざん弄んだよね」
「そんなつもりは」
僕は結衣のお尻を摘み上げる。手のひら全体で肉を掴み、強く引っ張った。痛みはほとんどないはずだけど、結衣は「あっ……!」と言って体を震わせた。
「弄んだよね?」
同じ質問を繰り返す。結衣は僕の胸に息を吐き出しながら、
「はい……」
「しかも、今それを隠そうとした」
「申し訳ございません」
「お仕置きが必要だよね」
「お仕置き、ですか?」
「そう」
僕は耳元でささやく。
「選ばせてあげる。優しいお仕置きか、キツイお仕置きか。もちろん僕はどちらでもいい。結衣がどちらを選んでもそれを責めないし、もちろん嫌いになったりもしない。で、どっちがいい?」
結衣はより一層体を密着させ、ズボンを押し上げるペニスを撫でた。愛撫と呼ぶには弱々しいその仕草は、欲しいお菓子を持って親の袖を引っ張る子供のようにも思えた。結衣は額を僕の胸に押し付けたまま、
「私は今、嘘もついてしまいましたので、その分も合わせて、とびっきりのキツイお仕置きを受けるべきだと思います」
僕は赤い結衣の耳を撫で、そのまま顎に指を滑らせ無理やり顔を上げさせた。潤んだ瞳を見た途端に昨日の悩みが吹き飛んでしまう。愛している、大事にしたい、という気持ちと同じくらい、いじめたい、メチャクチャにしたい、という想いが大きくなる。その欲望は理性そのものに浸透し、今、目の前にいる可愛くて従順な女性の、哀れで卑猥な数分先の未来ばかり考えている。
「ベッドに」
僕はそう言って、結衣の腰に手を回したまま二階の寝室に向かった。
:::
部屋に入ってすぐ、ドアの前で結衣を床に座らせた。
行儀よく正座で座る結衣に「脚を崩して、お尻と両手を床についた座り方で」と命じる。結衣は少し迷った後、脚をハの字に広げたいわゆる『女の子座り』をし、少し体を前に屈めて両手を床についた。
「こう、でしょうか?」
僕は結衣の前に屈み、バッグから首輪を取り出す。黒い合成樹脂のベルト。等間隔に空いた穴に銀色のフックをとめるタイプで、見た目の嗜虐感を高めるためか、その幅は犬用のそれより広めに作られている。結衣はその首輪を何も言わず、ただじっと見つめていた。
「顔を上げて」
結衣の首に僕はその首輪を巻く。首輪には赤いリードがついていて、持ち手は輪っかになっている。僕はそれに手を入れて立ち上がる。
「ベッドまで」
「はい……」
直後、僕は紐を一瞬だけ強く引っ張る。咽頭部への刺激は苦痛であるはずなのに、口から漏れた「あ」という吐息は、すでに生暖かい熱がこもっていた。
「しっかりとした言葉で。それに、返事にはご主人様を」
「申し訳ありません……。かしこまりました、ご主人様」
「良い子」
僕は結衣の頭を撫で、ベッドまでの数メートルを歩く。一歩遅れて歩くその姿はたどたどしく、スカートを踏まないようにしているせいか脚の動きは特にぎこちない。そんな彼女を見下ろす事自体が背徳的で、誰かを支配することの快感に背中がぞくぞくと震える。
外はすでに薄暗いけれど部屋の明かりは消えたままで、窓から差し込むオレンジ色の夕焼けだけが唯一の光源だ。ベッドに腰掛け、夕日に照らされながら四つん這いで進む結衣を見ていると、まるで世界がここだけで完結しているような錯覚を覚える。
僕の足元にたどり着いた結衣の顎を撫でる。結衣は猫のように、目を細めて僕の手のひらに顔を委ねた。
「膝立ちになって、スカートをめくって」
「分かりました、ご主人様」
言われたとおりに膝立ちになり透けたスカートを両手で持ち上げる。僕はガーターベルトが巻かれた腰と、薄い白のタイツに包まれた太ももを撫でる。
「僕がいない間にオナニーは?」
僕は片手をカバンに入れて中を探る。目をまっすぐに見据えたまま問いかけると、結衣は瞼を伏せ視線を落とす。僕が再び紐を引っ張ると、はっとした表情を見せて、
「いえ、そのような事はしておりません」
「本当に?」
「ご主人様にしていただけると思って、我慢しておりました」
カバンに入れていた手が目当てのものを探り当てる。僕は結衣の目を見ながらそれを取り出し、「していただけるって、こういう事?」と訊ねながらショーツに手を入れ、既に濡れていた割れ目に無線式のバイブを挿入した。
「あ、ん、うぅぅぅ…………!」
柔らかいシリコン製でペニスを模した細長い形。根本は二股に別れていて、短い突起はクリトリスに振動が伝わるようになっている。ずらしたショーツを元通りにすると、充電池やリモコンの受信部が入った突起部が丸く膨れあがった。
「ご、ご主人様、これは?」
僕は結衣の質問には応えず、手元のリモコンでスイッチを入れ、丸いレバーを右一杯にひねる。結衣の股間から振動音が漏れ、それを覆うように喘ぎ声が部屋に響く。
「え、ちょ、あ、あ、だめ、あ、いやぁぁぁぁぁ……!」
「いいよ、スカート下ろしても」
結衣はスカートの裾から手を放し、そのまま四つん這いになる。やがて手をまっすぐ伸ばすこともつらくなってきたのか肘を突き、お尻を持ち上げ、何度も大きく腰を震わしながら悲鳴にも近い喘ぎ声を発し続ける。
「いくときはちゃんと『いく』って言えるよね?」
「あ、い、言えます、あぅぅぅぅ、け、ど……」
「けど?」
「し、しげきが、強すぎて……あ、う……すぐ、もう、だめ、あ、あ、いく、いっちゃいます……」
結衣は頬をぺたりと床につけ、高く上げたお尻を小刻みに揺らしている。
「もう?」
「……き、きのうから、妄想ばかり、だった、の、で、」
「どんな妄想?」
「ご、ご主人、さまに、おちんちんを、入れていただく、妄想です……!」
「偽物だけど、いってもいいの?」
「だ、だめ、です。……あ、あ、でも、いや、いく、いく……!」
僕はバイブのスイッチをオフにした。唐突に振動が止まり、結衣の腰の震えもビクつきながらゆっくり落ち着いていく。荒い吐息が徐々に浅いものに移り変わっていくのを見つめながら、僕は再びスイッチを入れた。
「あ、や……ん、うぅぅぅう……」
今度は震度を最弱で設定する。腰の動きに先程のような激しさや鋭さはない。トイレを我慢しているように太ももを締めてもぞもぞと動くその仕草は快感をこらえるものではなく、むしろ気持ちよさを欲している動きだ。
「偽物ではいきたくないんだよね?」
「は、い……でも、ん、あ……そろそろ、ご主人様も、私で気持ちよく、なられたいかと」
僕はゆっくりと振動を強くする。十段階ある強弱の五を超えた辺りから結衣の体は電気が走ったかのように震えだし、七で止めると物欲しそうな目で僕を見上げた。
「ねぇ、今、結衣は何をしているんだっけ?」
「わ、私は、今、ご主人様に、お仕置きをうけています」
「僕に意見を言える立場かな?」
「あ、そ、そういう訳では、」
バイブを十にする。「あ、うぅぅぅぅ」と喘ぐ結衣の首輪を引っ張って体を引き上げる。ベッドに座る僕の太ももに上半身を預けた結衣は、頬を膝に押し付け、指先でぐるぐる強弱を変える僕の手を見つめていた。
「結衣は良い子だから、ちゃんとごめんなさい、できるよね」
「は、い……あ、や、ご、ご主人様の、お仕置き、に……! あ、うぅ、意見、して、申し訳、ありません……」
僕はスイッチをベッドの上に投げ出し、両手で結衣の胸を鷲掴みにする。メイド服の上から手のひら全体を使って回すように揉み、指先で乳首を押し込む。結衣は「あ、う、あぁぁぁ」と腰をびくつかせて、僕の腰にまで体を寄せる。
ふと、結衣の顔が徐々に僕の股間に近づいているのに気がついた。半端にあいた口の端からは涎が垂れ、僕のスラックスにシミを作りながら、鼻先をズボンを盛り上げるペニスにこすり付けている。喘ぐ合間の細く長い鼻からの呼吸が、耳にひどくざらついた。
「何してるの?」
「え、あ、その……」
僕は乳首を強くつまみあげる。「あぅぅぅぅ」と声を上げた結衣は、
「ご主人様の、おちんちんの香りを、嗅でいました」
「どうして?」
「嗅いでいると、頭がくらくらとして、とても、幸せな気持ちに、なります。お、おまんこに、今、お仕置きいただいているバイブが、ご主人様のおちんちんであればと、妄想しているところです」
先程のお叱りを守ってか、結衣から直接的に何かを懇願してくることはない。離している間も呼吸を深く吸って布越しのペニスを嗅ぐことに余念がなかった。普段美しく、凛とした立ち居振る舞いの結衣が、ただペニスだけを求めて言葉や行動を選んでいる。ぞわっと鳥肌が立つ。哀れさすら感じる性欲への隷属が、精神的な絶頂とも言える快感に変わっていくのを体中で感じる。
「そんなにほしいのなら入れてあげようか?」
「い、いいのですか?」
「ベッドに腕をのせて、腰を突き出して」
僕は『ここにおいで』とベッドを叩く。そこに結衣は上半身を預けて、お尻を高く突き上げる。スカートをめくり、ショーツを脱がせて右の太ももに引っ掛ける。振動するバイブの根本を掴んで、ゆっくりと引き出し、後少しで完全に抜けるという所で再び奥まで押し込んだ。
「あぅぅぅ、ご主人様、それは、ちがいます……!」
「入れてあげるよ。でもその前に、これでいかなかったらね」
「そんな、あ、うぅぅぅ」
バイブそのものが振動しているから激しく動かさなくても様々な角度に当たるのだろう。単調なピストン運動に結衣は腰をくねらせ、快感に耐えている。
「ご主人様、おちんちんを……」
「耐えなさい。命令」
「で、も、もう、いきそうで」
僕はその言葉の後、三回ゆっくり出し入れし、四回目で引き抜く。振動を止め、バイブからタレ落ちる愛液を結衣のお尻で拭い、その先端をお尻からクリトリスまで何往復も這わせる。偽物だと分かっているはずなのに、割れ目の、膣への入り口に差し掛かると決まって大きく震え、おねだりのつもりか生理反応か、お尻を騎乗位のように小さく前後に振る。それを数分間、絶頂が遠ざかったと思える間繰り返して、再びスイッチをオンにし、割れ目に差し込む。
それを何度も何度も繰返す。
夕焼けは夜に変わり、部屋の明かりは月明かりのみとなった。初めのうちは聞こえていた懇願もやがてなくなり、何時まで経っても終わらない寸止めに荒い息を繰返すだけになった。太ももの筋肉は痙攣していて、きっと結衣一人では立つこともできないだろう。何度目かもわからないバイブの引き抜きを終えた後、スイッチを切ってベッドの枕元に放り投げた。そして後背位の体勢で体中震えている結衣を、その太ももに手をかけて持ち上げる。
「あ、うぅ……」
普段なら抵抗するはずの卑猥な格好に、結衣はただ呆然と言葉を漏らして、体重を僕に預ける。その格好のままベッドの上に座る。膝を立てた僕の脚に、結衣の広げた脚を引っ掛けるように下ろす。結衣の背中が僕に預けられ、秘部は夜闇の中で顕になっている。
カバンから手枷とアイマスクを取り出す。右手首、左手首の順番に黒革の手枷を取り付け、それぞれについているチェーンのフックを互いに取り付ける。手が拘束された結衣の目に、アイマスクをかぶせる。
僕は結衣の体を擦る。左右同時に、ふくらはぎ、膝の裏、太もも。スカートをまくりあげながらガーターベルトに包まれた腰、お腹、そして胸の周りはその膨らみの裾野にそって手のひら全体で撫で、次に胸を下からゆっくり揉み上げる。ただ触れただけの弱い刺激に、結衣の体はビクビクと跳ね回る。僕の手のひらから電気を感じ取るように、触れた所を中心に体中の筋肉が緊張と弛緩を繰り返している。
耳の複雑な形にそって舌を這わせる。最後に、ふっ、と息を吹き込み、
「よく耐えたね」
静かな夜でなければ隠れてしまいそうな小さく、結衣は「……はい」と呟いた。
「結衣は、誰のもの?」
「ご主人様の、おもちゃ、です」
「結衣が今一番ほしいものは?」
「おちんちん、です。ご主人様の……大きくて、硬い」
「今からそれをあげる。だけど今から言う言いつけを、しっかりとききなさい」
結衣の喉が大きく上下した。
部屋に音はなく、ただ窓の外の風の音が遠く聞こえてくるだけだ。これまでの刺激を加えられながら、まだ一度もイっていないという体験は、結衣にとって初めてのはずだ。一昨日、僕が受けた一時間の寸止め。あれだけでもかなり意識が朦朧として、愛おしいはずの結衣をただ性欲のはけ口としてしか見ることができなかった。今、それ以上のお預けをくらい続けた結衣の頭には、きっと僕の言葉が何の抵抗もなく入っていくはずだ。それは欲望の奥底にまで入り込み、深いレベルで意識への命令となる。暗闇の中、僕はいわば結衣の精神そのものと対峙している。
「今から結衣の中に入ってくるおちんちんは、結衣にとって一生忘れない物になる。奥まで突かれる度に結衣は絶頂を迎える。一度の快感は普段の何倍にもなる。今以上におちんちんの事以外考えられなくなる」
結衣の顎先が小さく縦に動く。
「もう一度聞くよ。今、結衣が一番欲しいものは?」
「結衣は、ご主人様のおちんちんが、ほしいです」
小さくか細い声に甘さがまとわりつく。この一瞬で十年も年が若返ったように思えた。
僕は結衣の耳元で、
「良い子」
と囁き、ベッドの上に横たえる。手枷で拘束された結衣の手は、胸元で祈るようで指を絡ませていた。僕は服を脱ぎ捨て、結衣の上に覆い被さり、脚を広げ、亀頭を割れ目に押し付けた。
「あああぁぁぁぁっぁぁぁっっぁぁぁぁぁ」
体の芯から響く結衣の叫びが部屋に充満した。入れた途端に膣の収縮が始まり、奥を突いた時にはもうその絶頂はピークを超え治まりかけていた。だけどそれはまだ一度目だ。深く腰を押し付け、結衣の膣に僕のペニスの形を覚えさせた後、僕はゆっくりとピストンを始める。
「かっ……あ、…………はっ……………………っ!」
声はすでに形となっていなかった。それでも口の形は叫びのそれで、僕の耳には聞こえない喘ぎ声をそこから漏らしているように思えた。膣の締付けは一向に緩まず、これ以上の早さで腰を動かしたらきっと一瞬で射精をしてしまうだろ。
僕は肘をベッドに突き、結衣の顔にかかっていた前髪を横に払った。ぎゅっ、前髪を払った手に結衣の両手がすがる。その手の平は火傷しそうなほどに熱く、そして華奢な腕からは想像もできないほど力強い。僕はペニスを奥に押し付けたまま結衣を抱き寄せる。肩を抱いて体を胸に押し付ける。
「ご主人様」
ん? と喉を鳴らす。
「こんなに、気持ちいいのは、初めて、です」
「僕もだよ。すぐにでも出してしまいそう」
「だして、ください。たくさん、注いで、あふれるほどに。赤ちゃんを、ご主人様の子供が、ほしいです。ご主人様がくださる愛を形にしたいのです」
子供を孕ませる。セックスの役割を今更ながらに思い出し、これまでとは違う征服感が込み上がる。今、自分の支配下にいる女性が、自分の子供を欲している。生き物としての欲求は血の流れに乗って体中をめぐり、今、膣の中ではちきれそうなほどに膨らむペニスへと集まってくるようだった。
「もっと、おねだりしてごらん」
「精子を、私の中に。一滴残らず注いでください。ご主人様の赤ちゃんが、欲しくて欲しくて、たまりません。子宮が、おまんこが、そううずいているのです。だからお願いします、私の一番奥まで突いて、赤ちゃんの素を、全て私にください。お願いします、ご主人様」
結衣の脚が僕の腰に絡みつく。手錠をされ、目隠しをされ、着ている服は透けて中のいやらしい下着が丸見えになっているきれいな女性の懇願が僕の本能を刺激する。ゆっくりと動かし始めた腰はあっという間に速度を上げて、あっけないほど簡単に射精が近づいてくる。先日の何度もこみ上げた射精感とは違い、生成された精子すべてを一気に放出するほどの絶頂が、すぐそこまで近づいている。
「結衣、出すぞ、いく、いく……」
「ください、ご主人様、あ、あ、あぁぁぁぁ」
突き出し、結衣の子宮へと押し付けた亀頭から一気に精子が放出される。体中の熱や欲望、それに結衣への愛をまるごと煮詰めたような濃厚さと暑さ、これまでの人生で体験した中で一番長くつづく射精に、途中で気を失ってしまいそうになる。長く続く精子の放出が、気持ちよさなのか痛みなのか、そもそもまだ本当に射精が続いているかどうかすらもわからなくなっていく。
長い時間がほんの一瞬で過ぎた。
僕は長い間射精の余韻にひたっていた。自分の体も支えきれなくなり、僕は結衣とぴったり体を重ねて横たわる。硬さを失ったペニスが膣から滑り落ちる。
「あ……」
と結衣が呟く。
「せいし、でてる」
一瞬なんのことか分からなかった。回らない頭が、子宮に収まりきれなかった精子が溢れていることだと気づく。
「いっぱい、出ましたね」
僕は結衣のアイマスクを額に持ち上げる。切れ長の大きな瞳が僕を見つめ、子供のような素直さで笑った。つられて僕も笑みを浮かべる。
「本当に、とびっきりのお仕置き、ですね」
「僕も、こんなのになるとは」
「でも、とっても幸せな時間でした」
「お預けの間も?」
「あれは、ちょっと意地悪すぎます」
ぷくっと膨らませた頬を突っつく。また二人同時に笑い、
「あの、目を見て、名前を呼んでください」
僕は両肘を結衣の頭の隣に突いて。
「結衣」
「もっと」
「結衣」
「もっと、もっともっと」
「結衣、結衣、結衣、結衣」
抱きつこうとしたのだろうか、広げようとした結衣の腕はチェーンに阻まれる。フックを外してやると、僕の背中に手を回し、ぎゅっと顔を寄せた。
「あぁ、もう。愛しています、本当に」
「僕もだよ、結衣」
「赤ちゃん、名前はどうしましょう?」
「早くない?」
と言って僕は笑う。
「早いにこしたことはありません」
「それにしても、早すぎるよ。ちゃんとできているかもわからないし」
「それなら、これから毎日、注いでください」
「それは、体力、保つかな」
「毎日はともかく、ゴムは禁止です。捨てておきます」
えー、と言う僕も悪い気はしなかった。これから先の、そう遠くない未来を思い浮かべる。子供が生まれる頃にはもしかしたらこの家を離れてもう少し便利の良い場所に越しているかもしれない。ここよりずっと狭く、物に溢れ、子供と結衣が迎えてくれる家。幸せを絵に描いたような光景はまだイメージでしかないけれど、それはきっと、結衣が隣にいてくれさえくれれば叶う未来だ。
「ご主人様」
「ん?」
結衣は首に手を回して、僕の顔を抱き寄せる。長いキスの後、今まで見た中で一番の笑みで、
「愛しています」
「僕も、愛している」
そう返した直後、二人のお腹が、ほとんど同じタイミングで鳴った。少しの沈黙の後、二人は同時に吹き出す。
「ごはん、食べようか」
「そうですね」
と言って僕たちはベッドから起き上がった。
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