Bites 〜有名人が同じマンションに〜

shuga

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Two Bite

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予想は的中した。


寝ぼけたまま窓を見ると、カーテンの隙間からオレンジ色の夕日が見える。




あの後、帰宅してすぐにシャワーを浴び夢の世界に飛び込んだ。仕事の疲れからか、いつも当直の後は夜の8時頃に目が覚める。

しかし、スマホを見ると時間はまだ17時を過ぎた頃だった。




私が目を覚ました原因は、隣の部屋から微かに聞こえてくる音楽だ。


このマンションは多少の防音性はあるものの、全ての電子機器を消してしまえば少しの生活音は聞こえて来る。


その度を越して、聞こえて来るロックサウンドは私の睡眠の邪魔をした。







「最悪...」


確かに、まだ夕方なのだから隣の近所を気にする時間でもない。しかし、仕事柄この時間に寝ることも多い私にとっては迷惑な話だ。



「まぁ、引っ越してきたばかりだし。あの人達も仕事があるだろうし...」



隣から聞こえる音楽に比例するかのように独り言は大きく、部屋にこだまし恥ずかしくなった。




少しして、ようやく頭がスッキリし始めた頃私な途端に落ち込んだ。

女の人はともかく、あの見た目の男が普通の仕事をしてると思えなくて考えられるのは夜の仕事だったからだ。


もしかして、昼はずっとこの状況だったりして...





「あー、もう最悪。」


今日この言葉を使うのは何度目だろうか。


そんなことを考えながらもテレビをつければ、あまり隣の音が気にならなくなった。





















「あれ、あの人...」


お隣さんが、引っ越してきて1週間が経とうとしていた。

昼が仕事の時は特に気にならないが、休みの日はこの間と同じく隣から音漏れはしている。


しかし、夜中まで音漏れが続くことはなく私の考えすぎだったのかもしれない。そう思うようにして生活をすれば、段々気にならなくなっていた。



仕事が終わって里香と飲んでから帰っている途中、最寄駅に着き改札へ向かうエスカレーターを降りていると、目線の先にあの男が居ることに気付いた。



派手な金髪に、夜にも関わらずサングラスをしている姿はあの男だと遠目からでも分かる。




しかし、隣に居るのは派手な見た目の女。あの日、隣の家で挨拶をしたショートカットの女とは違う。

男の腕に女は抱きついていて、いかにも仲良さげな雰囲気。






「あの人、浮気してるの...?」



他人ではあるが、見てはいけないような気持ちになって脈が早くなる。




その場で立ち止まりたいが、後ろからの人の流れに逆らえず男がいる改札へと近付く。

その時、最悪なことに男と目が合ってしまった。





すぐに逸らして、男の横を通り過ぎれば自然と会話が聞こえて来る。



「じゃあ、明日も早いから帰るわ。」

「えー、急すぎ!もう少し一緒に居ようよ!」



「じゃ、また呼ぶわ。」



会話が聞こえたことが何故か気になり振り返れば、男は嫌々と駄々を捏ねる女を少し強引にタクシーに乗せていた。


やっぱり、浮気している所を見られたくなかったんだと思う。これ以上関わりたくないと思い、私は足早にその場を立ち去ろうとした。







「おい、お前。」



しかし、呆気なく失敗した。後ろから、先程まで派手な女を相手にしていた男の声で呼び止められた。




「あ、えっと...何も見てないので、大丈夫です。」


その声に、思わず訳の分からない嘘をつく。
冷静に考えれば、あれだけ綺麗に目があったのに何も見てない訳がない。




「お前、何言ってんの?」


「あ、いや...確かに見ましたけど、別にバラしたりはしないので安心してください!」




男の言葉に、更に焦って返事をしてしまう。
私の言葉は予想以上に大きかったようで、周囲に居た人達の視線が集まるのがわかる。





「めんどくせぇ...」

「え?」



その途端、男は私の腕を掴んで走る。振り払おうとしたが、男の手に余計に力が入り私の腕を離さなかった。








ようやく男の手が私から離れたのは、少しだけ駅から離れ人気がなくなった頃だった。


「なんなんですか...!」

「いや、お前が悪いだろ。」


息を整える私に対して、男は一切呼吸が乱れていない。



「私は、何もしてません。」

「あんな所で大きな声出されたら、めんどくせぇだろ。」



男は面倒くさそうに、ため息をついた。




「そもそも、あなたが私に声をかけなければ!」



あそこで声をかけてきた理由がわからない。
別にお隣さんに関わりたくないし、面倒ごとに巻き込まれたくない。

あの時、この人が私をほったらかしてくれたらお互いに都合が良かったのに。



私は男を睨みながら、続きを口にした。



「別に、あなたが浮気していても私には何の関係もありません。」


「...は?」




私の言葉に男は一瞬きょとんとしたかと思えば、その後で笑い始める。私は、その男の様子が気に食わなくて更に睨む。



「何がおかしいんですか。」


「お前が面白い勘違いしてるからさ。」





男は笑いながら、私の頭にぽんっと掌を置いた。

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