せめて 抱きしめて

璃鵺〜RIYA〜

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せめて 抱きしめて〜転〜

せめて 抱きしめて〜転〜 25

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ボクの家の事情を知ってから、剛さんはなるべくボクと一緒にいようと思ったらしく、家に泊まってくれる頻度も増えていた。
週に2~3日は泊まってくれて、一緒にご飯を食べたり、お風呂に入ったり、セックスをして寝た。

夢みたいな日々だった。
誰かとこんなに多くの時間を共有することがなかったから、少しくずぐったくて、でも嬉しい。

何も話したくない時は、ただ黙って傍にいてくれる。
抱きしめて欲しい時は、抱きしめてくれる。
我が儘ばかり言うと嫌われるかも。
そう思っていても、剛さんは大体の我が儘をきいてくれるので、申し訳ないとも思う。

剛さんは真面目なので、柔道のことと学生生活のことには厳しかった。
だから、ボクにもちゃんと真面目に学校へ行き、勉強するように言ってくれた。
勉強して損にはならないからと。
将来の職業選択の時に、勉強している人としていない人とでは、選択肢に格段に差が出ること。
かと言って勉強ばかりしててもダメだから、ちゃんと友達も作って遊んだりすることも大事だと。

今まで誰も言ってくれなかったことを、剛さんはボクに教えてくれる。
何だか保護者みたいだけど、剛さんに色々教えてもらうことは、好きだった。

その日もボクはいつもの通り、学校が終わったら私服に着替えてT大へ向かった。

最初は誰かに呼び止められないかとビクビクしていたけど、考えてみれば大学って色んな年代の人が、ものすごく一杯出入りしているから、みんな知り合いじゃなくても気にしないみたいだ。

ボクは通り慣れた道を歩き、柔道場に向かう。
いつもは開けられている道場の扉が、今日は開いていなかった。

まだ誰も来てないのかな・・・。

どうしようかとウロウロしていると、後ろから、

「千都星ちゃん。今日は早いね」

と声をかけられた。
振り向くと、柔道部員でたしか剛さんと同じ学年の田中さんだった。
田中さんも今来たところらしく、まだ着替えていなくて、道着を入れているらしい鞄を提げていた。

「あ・・・ごめんなさい」

思わず謝ったボクに田中さんは、くすくす笑うと、

「部長も今来たみたいで更衣室で着替えてると思うから、一緒に行こうか」

と言ってくれた。
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