せめて 抱きしめて

璃鵺〜RIYA〜

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せめて 抱きしめて〜転〜

せめて 抱きしめて〜転〜 32

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ボクは、前を歩く剛さんの広い背中を追いながら、なかなか追いつけない早さで歩く剛さんへと手を伸ばした。

「剛さん・・・待ってくだ」

ぱあんっ・・・と手を弾かれた。

手に鈍い痛みを感じて、熱が生まれる。
剛さんは立ち止まって、ボクの手を叩き落として、顔を背けたまま言った。

「もう、ここには来るな」

ボクがあの人達にされたことを考えたら、当然の言葉だと思った。
それでもボクは、剛さんと少しでも一緒にいたかった。

「ごめんなさい。これからは注意するから・・・」
「そうじゃない」
「剛さん?」

首を傾げたボクを、剛さんは冷たい蔑んだ瞳で見た。

「お前の顔は見たくない」

「・・・・・・・・・っ・・・・・!」

声が出なかった。

何を言われたのか、理解するのに時間がかかった。
何でそんなことを言うのか、わからなかった。

剛さんが嘲笑うように口唇を歪めて、ボクを睨みつける。

「楽しかったか?何も知らないで、お前に惚れたオレを見てて」
「・・・え?」
「賭けには勝ったんだろう。だったらもう、オレに用はないだろ。抱いてくれる男なんて腐るほどいるんだから」
「剛さん・・?」

「もういいだろう!二度とそのツラ見せんな!」

風が吹き抜けた。

残暑の湿気と、秋の気配を感じさせる、少し涼しい風。

剛さんが怒ったような泣いているような表情をして、顔を背けた。
ボクは剛さんが言った言葉を一生懸命、解読して、理解する。

ああ・・・この人はさっきの話しを聞いて、あの言葉だけを信じている?

「待って・・・ねえ、ボクの話し」
「何も聞きたくない」

どうして?
ねえ、どうしてボクの話しは聞いてくれないの?
あの人達と同じ。

どうして聞いてくれないの?
信じてるって、言ってくれたのに・・・。
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