せめて 抱きしめて

璃鵺〜RIYA〜

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せめて 抱きしめて〜結〜

せめて 抱きしめて〜結〜 5

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母は頭を抱え込んで、ぶつぶつと呟く。

「貴方さえいなければ・・・生まれて来なければ・・・こんなことにはならなかったのに・・・どうして・・・どうして・・・」

自分のせいなのに、ボクに責任転嫁する・・・。

女という生き物は恐ろしい。
でも、きっと、この人の言う通りなんだろう。
ボクが生まれなければ、きっと、二人は仲睦まじい夫婦でいられたんだろうな。

「うん・・・そうだね・・・」

思わずボクも呟いていた。
母が驚いたように顔を上げて、目を見開いている。
ボクは、そんな母に微笑みかけた。

「ボクもそう思うよ。ごめんね」

母の瞳から、涙が溢れ落ちた。

「生まれて来て、ごめんなさい」

ボクがそう言うと、母はいきなり立ち上がり、荷物を掴んで走って行ってしまった。
誰もいなくなった。
暖房もついていない冷気が、体を冷やしていることに、今気が付いた。

誰も、誰もいない。

「・・・本当に、一人ぼっちになっちゃった・・・」

もう、涙も出なかった。
全部、失くなった。
笑っちゃうくらい、なんにもない。

生きる意味も。
生きる価値も。

命の意味も。
命の価値も。

ううん・・・きっと、ボクは、最初から何も持っていなかったんだ。
普通に誰もが持っているものを、ボクは持っていない。
いつの間にか真っ暗になった部屋の中で、ボクは目を閉じた。

闇だけが、ボクに寄り添っていた。
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